未だにF-15が活躍する世界線なのだが、性能は旧タイプと別物でありちょっと羨ましい。
最新型のF15EX戦闘機 米軍嘉手納基地に初めて飛来
07月12日 14時23分
12日、アメリカ軍嘉手納基地に最新型のF15EX戦闘機が初めて飛来したのが確認されました。 アメリカ軍は、この戦闘機を来年(2026年)春に嘉手納基地へ配備する予定で、今回は一時的な飛来だと説明しています。
NHKニュースより
F-15はマクドネル・ダグラス社が開発した戦闘機で、登場した当時は非常に高価な戦闘機だといわれていた。今やボーイング社による製造販売(1997年にボーイング社に吸収合併された)なのだが、ボーイング社は経営不振と技術力不足で大変な状況なんだよね。
理由をしっかり伝えないマスコミ
マスゴミ本領発揮
と、ボーイング社への不満はさておき、先ずはニュースについて突っ込みを。
NHKニュースを読んで、こんな記事で一体誰が何を理解できるんだと唖然としたが、ニュースというモノはこんなモノなのだろうか?
嘉手納基地では、退役するF15戦闘機48機を来年春に最新型のF15EX戦闘機36機に置き換える予定で、飛来が確認されたのは初めてです。
NHKニュース「最新型のF15EX戦闘機」より
伝えている事実はF-15戦闘機の更新ということだけなのだが、じゃあもう1行だけで良いのでは?
流石にそれだけではちょっとあんまりなので、もう少し丁寧に事実を整理しておこう。
- F-15EXは初飛来
- アメリカ軍は2026年春に、48機の旧型(F-15C/D)を36機の新型(F-15EX)に入れ替え予定嘉手納基地へ配備する予定
- 騒音の最大値が従来のF15戦闘機の104デシベルから109デシベルに増加
伝えている内容は実質上これだけ(旧型がF-15C/Dという情報は含まれていない)で、NHKとしては「五月蠅くなる」とでも言いたいのだろうか。
地元自治体は、配備後に目視調査をするなど、今後の動きを注視したいとしています。
NHKニュース「最新型のF15EX戦闘機」より
スパイ行為もします、と。え?違う?
老朽化したF-15C/D
さて、今回のこのF-15EXの配備に関してなのだが、第一の理由として挙げられるのは老朽化である。
F-15C/Dは、生産第4040号機以降となるPEP2000(Production Eagle Package 2000)適用機であり、日本の自衛隊も採用した機体である。原型となったF-15A「イーグル」が登場したのが1972年で、改良されたF-15Cが登場したのは1979年以降。
日本でイーグルドライバーといえば、最高峰のパイロットを意味する程で、最強の戦闘機だと言われた時代が長く続いた。

この後に出てくるのがF-15Eというタイプで、構造強化のためにチタンの比率を上げて機体の60%を再設計して投入された。愛称は「ストライクイーグル」である。実のところ、F-15C/DとF-15Eはもはやコンセプトからして別物で、F-15Aの系譜は制空戦闘をメインに設計されているが、F-15Eからは戦闘爆撃機と呼ばれるように、対地攻撃に特化させている。
だから、F-15戦闘機と一括りにしても、F-15E以降の系譜は使用目的の異なる戦闘機と評価して良い。
では、今回のニュースになっているF-15EXはどうかというと、愛称を「イーグルII」とされ、F-15Eを原型として設計されているが、戦闘爆撃機ではなくて多用途戦闘機というカテゴリーである。最近はマルチロール機という位置づけの戦闘機が多く、簡単に言うと制空戦闘も偵察も爆撃もやりますよというスタイルである。
つまり、F-15C/DとF-15EXでは役割が違うってことが重要であり、それが嘉手納基地に配備されているということの意味くらいは伝えて欲しい。
単純な更新という訳ではないんだよね。
エンジンの騒音
で、些末事ではあるが、エンジンの話。
実際、F-15EXは、F-15C/DのF100-PW-220よりも、出力を強化したF110-GE-129Eというエンジンを搭載したタイプである。このエンジンはF-15E以降採用されたもので、約4,000lbf(17.8kN)出力が高められている。
F15EX戦闘機をめぐっては、沖縄防衛局が地元自治体に対し、エンジンの出力が大きくなるため、騒音の最大値が従来のF15戦闘機の104デシベルから109デシベルに増加すると説明しています。
NHKニュース「最新型のF15EX戦闘機」より
その結果、騒音の最大値も上がっちゃったということなんだけど、5デシベルの上昇はどんな効果をもたらすのかというと、実際に航空機の騒音については飛行状況、測定の機材、気象条件など要因が左右するために、「うるさくなる可能性があるね」くらいの話である。

実際には色々なモデルを立てて検証した上で、実測値と比較してどうか?ということになってくるので、本当に「うるさくなる可能性があるよ」くらいの話。ここに注目する意味は殆どない。
何のための配備か
どちらかというと、「何故、F-15EXなのか」ということを考えるべきである。現状、戦闘機の更新で考え得る選択肢は3つだ。
- F-16V戦闘機
- F-15EX戦闘機
- F-35A戦闘機
在日米軍が選ぶとすればこの3つだが、今回はF-15EX戦闘機を選んだというところをどう考えれば良いかというと、こちらの分析が参考になる。
嘉手納から退役した米F15戦闘機、米国の真意はどこにあるのか
2022.12.24 08:30
沖縄県・米空軍嘉手納基地に配備されたF15戦闘機の老朽化に伴う退役が、12月1日から始まった。
~~略~~
米国内には、台湾有事が近々発生する可能性はないという見方も強い。だが、少なくとも在日米軍が、万が一の事態に備えようと焦っていることだけは、間違いのない事実のようだ。政府は12月16日の閣議で安保関連3文書を改定した。防衛省関係者は「ようやく改定したが、私たちよりもずっと先を米国が走っている。これから、ついて行くのが大変だ」と語った。
Forbesより
この記事は朝日新聞の記者としては珍しい、軍事に明るい牧野氏が書いていて参考になる。
で、2022年にローテーション配備を選んで嘉手納にはF-22戦闘機が14機配備されたという点に言及している。この時はF-15EX戦闘機は、未だ目処が立っていなかったこともあって選択肢には上らなかったのである。
一方で、今、F-22戦闘機が選択肢に上らない理由は何かというと、F-22戦闘機は既に生産をしておらず、順次退役が行われるスケジュールになっていることは関係している(近代化して延命する話もあるんだけど)。
ともあれ、制空戦闘最強のF-22戦闘機を使い続けるのではなく、対地攻撃も可能なF-15EX戦闘機を選んだ理由は、台湾有事を想定しているからに他ならない。
F-16VやF-35Aも優れた戦闘機ではあるし、マルチロール機ではあるんだけど、ペイロードを考えるとF-15EX戦闘機だということになるのは妥当だ。
日本のF-15Jはどうなってるの
ところで、じゃあ航空自衛隊のF-15J戦闘機の近代化改修(F-15JSIへ改修)はどうなっているの?と気になる人もいるのではないだろうか。少なくとも僕は気になった。
日本はF-15戦闘機はアメリカに次いで沢山持っている国家である。
で、保有するF-15J(F-15C/D派生機)は、大幅にアップグレードする話を過去に触れた。
……今読んでみるとかなりマニアックな記事になってしまっている。「初心者に分かり易く」を心掛けているのに、どうしても軍事関係は趣味に走りがちで申し訳ない。
ええと、反省はともかくとして、日本のF-15JはPre-MSIP機(約100機)とJ-MSIP機(約70機)の合計200機(計算が合わないのはご容赦を)で、MISP機の方だけを更にJSI仕様(EX相当)に近代化を図る話が出ていた。
他はF-35A戦闘機に置き換える予定のようだ。
ところがこの話がちっとも前に進まないんだよね。
その理由の1つが冒頭に愚痴を書いたボーイング社の不振にある。日本側の予算に関しても色々問題があるとは言われているが、そもそもF-15EX戦闘機の開発にもかなり時間をかけていたし、空中給油機KC-46Aは未だにバタバタしている。もう、あれの関連ニュースは見たくもないんだが……。
そういえば練習機のT-7も難航していたっけ。
ボーイング社は儲け主義に走りすぎて、現場技術者の育成に失敗したからこんなことになっているのだという話らしいが、詳しいことは不明である。そして、F-15EX戦闘機を作るのにも、部品調達に随分と難儀していたという話が漏れ聞こえてくるよ。
つまり、F-15J戦闘機の近代化改修は遅れそうなんだよね。F-15EX相当の能力を詰め込む予定だったんだけど……。
ボーイングは今年中に5機目、6機目のKC-46Aを日本に納入する予定:幹部
2025年5月21日午前11時56分
日本は今年後半に5機目と6機目のKC-46Aペガサス空中給油機を受け取る予定であると、当地の業界幹部が語り、また数か月前の演習中に既存の艦隊の空中給油機が同盟国の航空機に給油したことも明らかにした。
~~略~~
ボーイングの幹部らはまた、日本が現在進めているF-15イーグル迎撃機群のアップグレード作業にも触れ、蘇鼎氏は記者団に対し、セントルイスにあるボーイングの施設でシステム統合作業が進行中であると語った。
~~略~~
実際の改修作業は三菱重工業(MHI)が日本で実施するが、ボーイング社とMHI社はプログラムの納入スケジュールについて尋ねられると慎重な態度をとり、問い合わせに対しては航空自衛隊に問い合わせるよう伝えた。
Breaking Defenseより
まあ遅れそうだよ。
F-3戦闘機も2030年以降
現状、日本が保有するF-15J戦闘機の近代化改修は遅れ気味で、F-2戦闘機の近代化も2030年以降退役が予定されているためになし。F-35A戦闘機は配備が進んでいるけれども、今のところ39機が納入済みだがソフトウエアの問題がついてまわって万全とは言い難い。
空自の“精強部隊”に配備された「最新鋭ステルス機」が飛んだ! 操縦席から撮影した貴重な映像が公開
2025.07.11
航空自衛隊小松基地(石川県小松市)は2025年7月4日、同基地に配備されたF-35A戦闘機が、能登半島や白山上空を飛行する映像を公開しました。
乗り物ニュースより
一応、配備されて訓練も続けられてはいるんだけど、未だにブロック4は未達。

困ったものである。
そもそもF-35A戦闘機は優秀な機体になるポテンシャルはあるが、致命的な問題もある。作戦遂行にステルス性能を要するケースは良いが、ステルス性能を要しないケースにはミサイル搭載量の問題が露呈してしまう。それ故、対艦攻撃や対地攻撃には限定的な利用に留まることとなり、対艦攻撃に限定すればF-2戦闘機の方が優秀だ。
トランプ氏も流石に「F-35Aは無理」と思ったのか、次期戦闘機の開発に言及してしまった。F-47とは一体……。
ともあれ、日本の航空自衛隊の任務を考える、或いは台湾有事を想定すると、F-15JSIの入手が困難である以上はF-2戦闘機の延命とGCAP(F-2戦闘機の後継に位置づけられるF-3戦闘機)の前倒しは必須である。

GCAPは今年中には詳細設計を終える予定になっているらしいんだけど、予定通りに進むのかどうか。
というわけで、本当にNHKニュースが伝えるべきだったのは、アメリカ軍のF-15EXが嘉手納基地に配備された狙いと日本の対応に関する話題であり、活動家さんが喜ぶような騒音の話ではないんだよね。そんなことすら言及しないから、「マスゴミ」呼ばわりされるのである。
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