また、凄いの出してきたな。流石に怒られないか?
韓国鉄鋼業の危機に対応 「Kスチール法」超党派で発議
Write: 2025-08-04 15:14:19/Update: 2025-08-05 00:25:42
アメリカ政府による関税政策により、50%の高い関税が課されることになった韓国の鉄鋼産業を後押しするため、与野党の国会議員が共同で特別法を発議しました。
KBS WORLDより
というわけで、敗戦日に取り扱う話題でもないような気がするのだが、
アメリカに輸出する前提での立法はかなり不味いよ
韓国鉄鋼業界を保護せよ!
韓国鉄鋼業界がアメリカとの関税交渉の結果、苦境に立たされることになったというのは事実である。
今回、アメリカとの関税交渉が妥結したことを受け、韓国からアメリカへの輸入品には15%の相互関税が適用される一方、鉄鋼製品に対しては、6月から導入された50%の関税がそのまま維持されるようになりました。
韓国貿易協会によりますと、韓国は去年の時点で、鉄鋼輸出額332億9000万ドルのうち、およそ13%がアメリカ向けで、韓国にとってアメリカは最大の輸出先となっています。
KBS WORLD「韓国鉄鋼業の危機に対応 「Kスチール法」」より
アメリカ向けの輸出商品の値上げをすれば価格競争力の低下で売上を落とし、値上げをしなければ利益を圧迫する。50%の関税というのはそういう意味では壊滅的ダメージを避けられない。
だから、保護してくれ、という動機は理解できる。
理解できるが……、これは不公正貿易をすると公言するようなものである。輸出先を探すとか、別の手法を模索したほうが良いと思うが、そういう発想にはならないようだ。
WTO規約違反になる可能性
そもそもアメリカの関税は公正なのか?という点はやや疑問なのだが、そこはさておき韓国側はがっつりWTOルール(SCM協定)違反になる可能性が。
1. 補助金の性格が「特定性」+「輸出可能性」を持つ
- WTO補助金・相殺措置協定(SCM協定)では、特定の産業や企業に限定された財政支援は「特定性」があるとされる
- K-スチール法は明確に「鉄鋼産業」に限定され、税制・融資・補助金をセットで提供するため、この特定性は否定できない
2. WTOで違法とされる「輸出補助金」の可能性
- 協定では輸出実績や輸出比率を条件にした補助金は即アウト
- K-スチール法の条文案を見ても、「グリーン鉄鋼」の技術投資支援や設備更新支援が国内外販売を問わず与えられる構造だが、韓国鉄鋼の輸出依存度(過去統計で4割前後)が高いため、事実上、輸出競争力強化に直結する補助金と解釈され易い
- WTOは「実質的効果」も判断基準とするため、形式的に輸出条件を外しても、効果が輸出振興に集中すれば問題となる
3. 「輸入制限」の組み合わせで二重のリスク
- 法案に盛り込まれている「不適合鋼材の輸入制限」や反ダンピング強化は、内国民待遇(GATT第III条)や数量制限禁止(GATT第XI条)に触れる可能性あり
- 輸入規制と国内補助金のセットは、過去のWTO紛争でも「保護主義的政策パッケージ」として厳しく裁定される
4. 過去の韓国事例との相似
- 造船業支援策で日本が韓国をWTO提訴(DS571)したときも、韓国側は「環境対応投資支援」などと説明したが、WTOは「輸出競争力を高める効果」を重視した
- 鉄鋼は造船以上に輸出依存が高いため、論理的にはより危険度が高いといえる
まとめ
というわけで、このまま成立・施行されれば、
- 輸出依存産業への特定的財政支援
- 輸入制限との抱き合わせ
という二段構えで、WTOルールに対する脆弱性が極めて高い法制度になる見込みだ。アメリカは特にそうだろうが、日本やEUの反発が予想され、提訴案件化する可能性は相当高いと見て良いだろう。
米韓FTAの観点からしてもかなりやばい
更に、米韓FTAのルールも無視している可能性が高い。
1. 米韓FTAの基本ルール
米韓FTAには、WTO協定と同様に以下のような規定がある。
- 内国民待遇(National Treatment):輸入品に対して国内品より不利な扱いをしてはいけない。
- 数量制限禁止(Import Restrictions):輸入を制限する数量規制は原則禁止。
- 補助金・国営企業(SOE)規律:補助金は透明性が求められ、特定の産業への輸出促進目的補助は制限対象になり得る。
- 投資とサービス市場アクセス:特定企業に有利な規制や税制は、外資参入障壁として問題視され得る。
米韓FTAはWTOよりも細かい義務規定が多く、アメリカが直接バイラテラルに文句を言える(WTOに持ち込まなくても)構造となっている。
2. K-スチール法で引っかかりそうな点
- 不適合鋼材の輸入規制
アメリカから韓国への鋼材輸出に影響があれば、内国民待遇違反や数量制限禁止違反とされる可能性が高い。現状、アメリカから韓国への鉄鋼関連商品の輸出は殆ないが、USスチール買収以降、日本製鉄の特許技術が使えるようになると、状況が一変する可能性がある。 - 鉄鋼業限定の補助金・税制優遇
米韓FTA第11章(投資)や第17章(競争政策・国営企業)に抵触するおそれがある。アメリカの鉄鋼企業(または韓国内に投資している米資本企業)が「差別を受けた」と主張できる余地がある。 - 透明性義務違反の可能性
米韓FTAでは補助金制度の事前通知や情報公開義務があります。K-スチール法が業界団体・特定企業と事実上の密室調整で運用されると、問題になりがち。
3. 米国の過去の態度から見えること
アメリカは鉄鋼産業に関しては非常に保護主義的で、232条関税(安全保障を理由にした輸入制限)までやった国だ。一方で、米韓FTAのような協定違反は「他国の保護主義」には敏感に反応する。
もし韓国の措置で米国の鉄鋼輸出や投資が不利になれば、
- まず二国間協議(FTA第22章の紛争解決手続)
- 解決しなければ報復関税
という流れを普通にやってくる。
4. WTOと米韓FTAの違い
- WTOは手続きが長く、上級委員会が機能不全のため最終判断まで数年かかることもある。
- 米韓FTAは米韓だけで完結する協定なので、政治決着も圧力も早い。
- つまり、アメリカが本気になればK-スチール法は施行直後からFTA協議入りする可能性がある。
とまあ、整理してみると、韓国は「国内鉄鋼保護 vs アメリカとの貿易関係」の板挟みになる。なるんだけど、韓国が正気で立法措置をすることは少ないので、確実に成立して後から問題になりそうだな。
一方、韓国の鉄鋼メーカーは、高い関税を避けるため、アメリカに生産拠点を設ける動きをみせています。
KBS WORLD「韓国鉄鋼業の危機に対応 「Kスチール法」」より
鉄鋼業界2位の現代製鉄は、アメリカ・ルイジアナ州におよそ58億ドルを投じて、製鉄所を建設しています。この製鉄所には、鉄鋼最大手のポスコ(POSCO)も投資する意向を示しています。
韓国企業のほうがまだ正気を保っているようだけれども、この方法も正解とは言い難いのが辛いところではある。
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