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反政府デモ続いたネパール、女性暫定首相就任へ

アジア
この記事は約10分で読めます。

反政府デモから首相が辞任したネパールだが、暫定首相として女性が就任したようだ。

反政府デモ続いたネパール、暫定首相に元最高裁長官が就任 初の女性首相

2025年9月13日

反汚職デモが続き政権が崩壊したネパールで12日、スシラ・カルキ元最高裁判所長官(73)が暫定首相に就任した。反政府抗議の指導者らとラム・チャンドラ・ポーデル大統領の協議を経て、カルキ氏は簡素な式典で宣誓し、貧困に苦しむネパールで初の女性首相となった。

BBCより

分かり易いアイコンのような差配だが、ネパールも随分と混乱しているから「イメージ戦略」的にはアリかなぁ?ネパール人の感覚は良く分からないので、本当に効果があるのかは分からないけれども。

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貧国の悲哀

ネパールの基本情報

さて、ネパールの話はこのブログではあまり取り扱わないので、基本的なところを少し抑えておく。

インドと支那に挟まれた山岳地域の一部がネパールという国で、首都はカトマンズ。多民族・多宗教・多言語国家であり、後発発展途上国と分類された世界でも貧しい国家の1つである。

GDPの世界ランキングは162/190であり、主たる産業は農業、その次が観光業である。経済的には強くインドに依存してきたが、最近はそのインド依存から抜け出して支那に軸足を移しつつある。

一帯一路の餌食に

さて、支那からバングラデシュのチゴッタンとインドのコルカタ辺りに抜けていくためには、ネパール攻略はやっておいて損のないカードである。

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NHKニュースより

支那が予定している「海のシルクロード」に使う予定の港はこんな感じで、これらの多くの港の使用権を獲得できている。必ずしも上手くいっていないところもあるが、遠大な計画になっているのでそのうち攻略可能となるかもしれない。

支那の資金力が怪しいという話はあるけれど、スケジュールには乗っている状況。破綻するまでは突き進むのだろう。

ネパール、「一帯一路」で中国と大筋合意 債務懸念も

2024年12月5日午後 1:48 GMT+92024年12月5日更新

ネパール政府は4日、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」参画に向け、中国政府との間で大筋合意する文書に署名した。両国は7年前に最初の合意を交わしたものの、その後は進展がなかった。今回の大筋合意により、各種プロジェクト協力に道を開くことになった。ネパール外務省が同日発表した。

ロイターより

その一環となっているのが、ネパール攻略である。

杜撰な計画

ただまあ、コレがかなり酷い計画らしく、既に計画が破綻しているところも出てきている。

このブログで取り上げたのは、ネパール中部の観光地ポカラに建設した国際空港の話だ。

この時の記事では、「支那の計画がクソだから」という話を書いたのだけれど、遠大な計画過ぎて直ぐに成果が出ないという意味で、クソなのであって、支那としては想定通りなのかもしれない。

中国は、ネパールの第2の都市ポカラに国際空港を建設するため、ネパールに2億1600万ドルを融資した。建設を担ったのは中国で、空港は昨年開港した。中国政府は一帯一路の成功の象徴だと賞賛したが、インドが領空の航空機通過を拒否。このため同空港は国際便不足などの問題に直面している。

ロイター「ネパール、「一帯一路」で中国と大筋合意~」より

記事ではインド側の問題で赤字になったみたいな記載があるが、これは正確ではない。そもそもこの国際空港の建設は、当面黒字化する見込みのない話なのだ。

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支那の計画ではチベットの首都ラサから第2都市シガツェまで繋がる鉄道を、更にネパールまで延伸する計画がある。

赤字鉄道

青蔵鉄道と呼ばれるこの鉄道だが、かなりの赤字を垂れ流している状態である。

チベット鉄道、年間180億円の赤字―中国

2008年8月20日 04:54

2008年8月18日、第一財政経済日報によれば、チベット鉄道(青蔵鉄道)ゴルムド―ラサ線が開通して2年、同路線は多額の赤字を出しているものの、国は路線の拡充を計画している。東方網が伝えた。

鉄道部によると、同路線は運営開始以来、2年間での輸送旅客数は556万人、輸送貨物量は405トン。青海省の鉄道貨物輸送量の増加率は28%で、全国1位。

~~略~~

しかし、建設当初から予測されていたものの、同路線は年間12億元(約180億円)もの赤字を出しており、青海鉄道公司は国からの補助金などで運営を維持している。

レコードチャイナより

それでも、ずっと拡張工事が進められていて、現在は更なる拡張工事が行われている。

鉄道網の整備加速するチベット 経済発展で社会「安定化」目指す―中国

2025年03月31日06時55分配信

平均標高が4000メートルを超え、「世界の屋根」といわれる中国チベット自治区で、鉄道網の整備が加速している。総延長は既に1200キロ近いが、さらなる延伸計画も進む。政府は立ち遅れた地域経済の発展を図り、住民の所得向上を実現することで、社会の「安定化」を目指す考えだ。

「国家統一を守り、辺境の安定を強化し、経済や社会の発展を推進するために重大な意義がある」。国営新華社通信によると、習近平国家主席は2020年11月、自治区の区都ラサと四川省の省都成都を結ぶ「川蔵鉄道」の整備加速に向け、政府や建設業者らにハッパを掛けた。

時事通信より

習近平氏の肝煎り政策のようで、政治的・軍事的側面の強い計画であると言われている。

ネパールに建設した国際空港は、この鉄道が開通した後には「支那にとってそれなりに意味がある」という空港となる。

一方、ネパールにとっては殆ど意味のない空港である。何故なら、首都カトマンズからポカラまでは200km程度の距離があり、陸路だと5時間40分程度の時間を要するが、空路だと30分程度の距離となる。

つまり、ネパールにとって国内を移動する為であれば、バカでかい国際空港をポカラに作る理由は無く、実際にポカラにあった古い空港は小さくて遊覧飛行目的程度にしか使われていなかった。

しかし支那からの鉄道が開通するとこうなる。

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NNA ASIAより

ここまで繋がって初めて国際空港の意味が出てくるのである。当然ながら、ネパールに鉄道建設のノウハウはないし資金もない。

だから、ひたすら支那の言い分を聞くことになるわけだ。

弾圧に失敗

宮殿炎上

ただ、ネパール側としても収益化の難しい計画を受け入れるわけである。自分の懐が痛まない話だとしても、住民の生活には影響が出る。そこを飲み込むためには、それなりのメリットを享受できなければ首を縦には振れない。

で、ここで出てくるのが支那の得意技である。

ネパールの政治は汚職が広がり、貧富の差が拡大していくことになる。

そもそも、ネパールの民主化は1990年代に入ってからだが、その頃から政治腐敗が問題視はされていた。が、支那の影響が広がった結果、毛沢東主義派の浸透である。

こちらの記事は、インドのニュースではあるがネパールの空港の話題にも触れている。

この時にも「ネパールの毛沢東主義は、現在のネパール与党であるネパール共産党(統一社会主義)に受け継がれている。」と説明したんだけど、汚職の蔓延の遠因に、こうした影響が浸透したことも関係しているのだ。

で、こういった情報共有がSNSを通じて行われ、大規模デモに発展していく。

ネパールがSNS禁止令撤回、19人死亡のデモ受け 外出禁止に抗議続く

2025年9月9日午後 3:46 GMT+92025年9月9日更新

ネパール政府は9日、19人の死者が出た抗議デモを受け、SNS(交流サイト)禁止令を解除したと明らかにした。一方、首都カトマンズには無期限の外出禁止令が発令されたが、一部の市民は国会前などで反政府デモを強行した。

カトマンズでは8日、政府によるソーシャルメディアの使用禁止や汚職に抗議する大規模デモが起き、警官隊との衝突で19人が死亡、100人以上が負傷した。

ロイターより

9月4日にSNS禁止措置を行ったネパール政府は、9日には禁止令解除をせざるを得なくなった。

それでもデモは収まらずに、デモは暴徒化。

白い壁に赤い屋根のシンハ・ダルバール宮殿の中で、オレンジ色の炎が上がっている。門には大勢が集まっている

9日には怒る群衆が首都カトマンズの国会議事堂や政府庁舎に火を放つ事態に発展。

汚職撲滅を合い言葉に

こういった暴動そのものを賛美は出来ないのだが、今回のデモは若者中心であったことと、2008年に王政が廃止されたにも関わらず、一部の政治家が王様の如き振る舞いを見せていたことが怒りを助長したようだ。

裕福な政治家とその子供たちへの批判をきっかけに、混乱が続いたネパールでは、軍司令官の仲介で大統領と抗議指導者たちが協議を重ねてたどりついた合意の結果、カルキ暫定首相が就任することになった。

BBC「反政府デモ続いたネパール~」より

そもそも、ネパールは王政から大統領制に移行したとはいえ、大統領の権限は殆どなく直接選挙から選ばれるわけでもない良く分からない存在になってしまっている。

よって、首相は辞任したが大統領はそのままその職に留まり続けている。

オリ氏はポーデル大統領に宛てた辞表で、「国内の困難な状況を鑑み、問題の解決を促進し、憲法に従って政治的解決を図るために本日付けで辞任した」と表明した。

ポーデル氏の側近はロイターに対し、辞表は受理され大統領は「新たな指導者(選出)のための手続きと協議」を開始したと語った。

軍はオリ氏の辞任を受け、Xへの投稿で国民に「自制」を呼びかけた。

ロイターより

首相の退任と選出には関与するようだが、国家の動乱にあたって出てくる幕のない大統領というのは実に不思議な存在だ。

SNS規制禁止は若者の怒りに火を点ける

ともあれ、首相が怒りを買った原因はSNS禁止で、腐敗撲滅運動が広がるネパールの若者の逆鱗に触れたのだが、日本でSNSが禁止されたところでここまで混乱するか?というと、そうはならない気はする。

NHKニュースなどはやや的外れな解説を行っていて、「SNSは不可欠な通信インフラだから、遮断されて生活に支障が出た」などと言っているが、山岳部の多いネパールでは4G通信が主流であり、SNSを使った無料通話が重要だという分析はやや甘い気がする。海外との連絡にSNSが便利だったことは間違いないだろうが、それだけで怒りに火がつくかというと、ね。

実は、主力だったWhatsAppやViber、Messengerなどインターネット経由のメッセージアプリが遮断されたことは、特に都市部の学生を中心とした層を直撃したことが一番の問題であった。

都市部の学生中心にSNSで政治の在り方などの討議が盛んに行われていて、海外の政治制度などを参考にしてネパールの政治の腐敗などが問題視されていた。当然、政府側もそれを把握していて苦々しく思っていたから、これを直接打撃。

それで、「情報統制だ」「自由の剥奪だ」という感情の導火線に火を付けた格好になった。背景には腐敗撲滅運動があって、直接対峙という格好になったんだよね。

路上の声に応える!

とまあ、そんな事態だったので首相辞任で、新たに暫定首相を担ぎ上げたのだが。

ネパール8政党、下院解散の撤回要求 首相「私は路上の声に応える」

2025年9月14日 19時49分

ネパールでZ世代の若者らによる反政府デモの末に前政権が倒れ、ポーデル大統領がカルキ暫定首相を任命し、連邦議会下院を解散したことについて、議席をもっていた8政党が13日夜、共同声明を出した。「解散は憲法の規定に反する」として、撤回を要求した。

朝日新聞より

今回の暫定首相となったスシラ・カルキ氏は元最高裁長官で、初の女性首相ということもインパクトは大きいと思うが、SNS規制に反対する若者たちの運動によって指名されたという背景も手伝って、一定の支持は得ているようだ。

ただ……、本当にそれは公正な選定だったのか?も含めて、懐疑的な意見もある。

中国、カルキ氏のネパール暫定首相就任に祝意

2025-09-14 16:24:53

中国外交部の報道官は14日、ネパールの暫定首相に元最高裁判所長官のスシラ・カルキ氏が就任したことに祝意を表し、次のように述べた。

中国とネパールの伝統的友好は長い歴史があり、中国は一貫してネパールの人々が自ら発展の道を選ぶことを尊重してきた。ネパールと共に努力し、平和共存5原則を発揚し、各分野での交流・協力を進め、両国関係が絶えず前向きに発展するよう推進していきたい。

新華網より

支那からも歓迎の声が挙がっている。

政党側の共同声明は、カルキ氏が率いる暫定政権について「憲法に基づく良い統治を求めた(若者らの)運動の精神に反し、路上からつくられた」と批判。下院は「民意によって選ばれた」と強調し、若者らの要求を「調整する環境をつくるため」として、議会を直ちに開くよう求めた。

朝日新聞「ネパール8政党、下院解散の撤回要求~」より

ついでに、議会も歓迎しているんだよね。

えぇ……。

まあ、そのうち選挙のやり直しという話に繋がっていくのだろうから、冷静に見守っていけば良いと思うのだが、実情を考えるとまだまだデモは収まらないかも知れない。

コメント

  1. 砂漠の男 より:

    インド、ニンマリで早速新政権に接近しているようです。いまこそネパールへの支那の影響力を削ぐチャンスでしょう。
    親支那派の”赤い貴族たち”は逃げ出したそうなので、ネパールの大きな変革に繋がるかもしれません。新首相が、民衆に寄り添う姿勢を示していることも良材料です。

    下の記事に拠ると、ネパールの人口は約3千万人で、半分くらいの国民がSNSアカウントを持っているそうです。
    観光業が主要産業のネパールで、SNSを使えないことは観光業の死活問題でしょうね。
    https://shorturl.at/sFDBh