コメントで興味深い指摘をいただいたので、今回はそれを取り上げつつ分析してみたい。
トランプ大統領と電話会談の習近平氏「台湾の中国への返還は、戦後の国際秩序の重要な構成要素だ」
2025/11/24 23:57 (2025/11/25 01:03更新)
中国国営新華社通信によると、米国のトランプ大統領と中国の 習近平国家主席が24日夜、電話会談を行った。
讀賣新聞より
現時点でホワイトハウスから公式発表は出ていないが、トランプ氏自身がSNSで自慢気に書き込んでいることから、アメリカと支那のトップ電話会談は確かにあったと見て良い。
象徴的な政治的な駆け引き
高市政権の閣議決定とアメリカ向け対応
続いてのニュースでは、高市首相がトランプ氏との電話会談を通じてアメリカ向けに緊密さを示したことが報じられている。
日米首脳が電話会談、日中関係の悪化後初めて 高市氏親密さアピール
2025年11月25日午後 6:47
高市早苗首相は25日午前、トランプ米大統領と電話で会談した。日中関係が悪化して以降、駐日米大使などは日本側に立つ発言をしてきたが、トランプ氏自身が関与することはこれまでなかった。中国の習近平国家主席がトランプ氏と電話で首脳会談した翌日の動きで、高市氏は「トランプ氏からは私とは極めて親しい友人であり、いつでも電話をしてきてほしいという話があった」と緊密さをアピールした。
会談後に記者団の取材に応じた高市氏によると、電話会談はトランプ氏から申し出があった。
ロイターより
この電話会談は、以前から指摘されていた「日本と支那の交渉ラインが切れている」という状況の中で、トランプ氏経由で連絡が来るという意外な展開だった。アメリカが事実上の交渉ラインを申し出たわけだ。
さらに、閣議決定に関しても次のような報道がある。
存立危機事態の高市首相答弁「政府見解変更せず」 答弁書を決定
2025年11月25日 12:16 (2025年11月25日 18:39更新)
政府は25日の閣議で「存立危機事態」に関する高市早苗首相の国会答弁について「従来の政府の見解を変更しているものではない」との答弁書を決めた。公明党の斉藤鉄夫代表の質問主意書に答えた。
日本経済新聞より
これらを時系列で整理するとこんな感じである。
- 11月7日 高市氏、岡田氏の質問に答える形で、存立危機事態について言及
- 11月24日夜 習近平氏がトランプ氏に電話会談をもちかける
- 11月25日朝 トランプ氏が高市氏に電話会談をもちかける
- 11月25日午後 公明党の斎藤代表の質問主意書に答える形で、「撤回しない」と閣議決定
スピード感があって良いね。この段階で日本側は、アメリカ向けの安定シグナルを確実に出したことになる。
中国から見た日本の姿勢
一方、中国側からすると状況は異なる。
習氏は統一を目指す台湾について「台湾の中国への返還は、戦後の国際秩序の重要な構成要素だ」と主張した。中国は日本との間で、高市首相の台湾有事を巡る国会答弁をきっかけに対立を深めており、日本をけん制する意図もありそうだ。
~~略~~
習氏はさらに「中米はかつて共にファシズムや軍国主義と闘った。今、さらに第2次世界大戦の勝利の成果を守るために協力すべきだ」とトランプ氏に呼びかけたという。
讀賣新聞「トランプ大統領と電話会談の習近平氏~」より
今回の話での讀賣新聞のスタンスは、支那の意見を肯定する立場寄りで、国内紙の多くと同じ。その分を割り引いて考えても、支那から「日本におけるファシズムの高まりを阻止してくれ」というメッセージをアメリカに出した可能性は高いと見て良い。
しかし、アメリカ頼みというのは支那の対日カードの少なさを物語っている。だって今回のこれ、アメリカにカードを配る行為に他ならないんだよね。
両氏はウクライナ問題についても議論した。習氏は「中国は平和に向けたあらゆる努力を支持する」と述べ、トランプ政権の取り組みを評価した。その上で、「すべての関係国が意見の相違を解消し、公正で永続的かつ拘束力のある和平合意を早期に達成し、危機の根本的解決に努めることを望む」と語った。
讀賣新聞「トランプ大統領と電話会談の習近平氏~」より
支那からはトランプ氏が重視するウクライナ問題にもコミットするよというメッセージを載せつつ、この問題に関しては日本に譲歩を迫ってくれという風に伝えた可能性が高い。
そうすると、閣議決定までの流れは対米回答としては正しくとも、支那向けには不十分であったと言わざるを得ない。
アメリカの立場を考えてみる
ここでアメリカの意向を分析してみた。
トランプ氏は習氏との会談後、自身の交流サイトに「われわれと中国との関係は極めて強固だ!」と書き込んだ。ウクライナ紛争や合成麻薬フェンタニル、大豆やその他の農産品などについて話したとする一方、台湾には言及しなかった。
ロイター「日米首脳が電話会談、日中関係の悪化後初めて~」より
ロイターは、トランプ氏のSNSへの書き込みを紹介しながら、アメリカとしては台湾問題には言及しないという立場を示唆したものとして伝えている。
確かにそういう受け止めも可能だが、事実関係を考えるとアメリカとしても今回のケースは日本寄りの立場に立たざるを得ない。
何故ならば、今回の「存立危機事態発言」というのは、前提が2つある。
- 支那が台湾に武力侵攻をしてアメリカ軍が関与を始めた
- アメリカ軍のサポートをするに当たって「存立危機事態認定」をする、つまり台湾有事に自衛隊が直接武力介入するという意味ではなく、安全保障政策に基づいてアメリカ軍と共に集団自衛権の範囲で行動するという意味である
これを曲解したのが支那のやり方なのだが、アメリカにとっては日本の後方支援無しに有事に臨むのは絶望的な結果(つまり作戦失敗)を招きかねない。当然、日本に「発言撤回しろ」とは言えないわけである。
その辺りを改めて確認したのが、日米電話会談の内容だと推察される。
これに対して日本の山崎和之国連大使も24日、グテレス総長に書簡を送付。「武力攻撃が発生していないにもかかわらず日本が自衛権を行使するかの如き中国の主張は誤っている」と反論。「台湾をめぐる問題が、対話により平和的に解決されることを期待するというのが、わが国の従来から一貫した立場であることを改めて表明する」とした。
木原稔官房長官は25日午前の会見で「事実に反する中国側の主張は受け入れられず、日本政府としてしっかりと反論、発信していく必要がある」と述べた。
ロイター「日米首脳が電話会談、日中関係の悪化後初めて~」より
同様の内容は、国連にも日本から説明済みであるし、官房長官からも国民に対して説明済みである。
日米電話会談の内容を考えると、日本はアメリカへの回答が正しくもあり、間違っているともいえる。
支那から見た日本の姿勢
どういうことかというと、支那からの視点が欠けているのだ。
支那にとって、今回の回答は以下のような形になるだろうと思われる。
- 交渉ラインを求めてアメリカを頼ってまで日本との交渉を求めた
- しかし日本の答弁・閣議決定は「可動領域ゼロ」と映る
- 支那は経済的に余裕がなく、外交成果を国内宣伝に使いたい
- 日本が柔軟な譲歩や対話の余地を見せないため、対応が硬直化せざるを得ない
つまり、アメリカ経由で注文を付けたけれども、交渉ルートとしてはあまり成果が得られなかったという意味になる。習近平氏としては、面目を潰された格好になるね。
これで本当にアメリカ側がその回答で満足できたのか?というのは気になるところ。
トランプ氏が会談後に習近平氏を褒めたという話がニュースになっていたが、トランプ氏が相手を褒める時は「分かっているよね」という念押しの時か、思い通りに事が運んだ時だ。
だから、今回のケースでは支那がアメリカに対して交渉カードを配布した形になったのを喜んだと、そのように理解して良い。
高市氏もトランプ氏に褒められていたが、こちらは「余計に事を荒立てるな」という釘差しの意味合いが強い。
今回の閣議決定まではアメリカとの話し合いで合意が取れていたと見て良いと思うが、結果にコミットできたかはちょっと怪しいんだよね。
公明党のパイプ役と自民党のジレンマ
というわけで、今回の「質問主意書」の話に繋がるわけだが、ここも興味深い。
25日の政府答弁書は「見直しや再検討が必要とは考えていない」とも記した。存立危機事態の認定について「個別具体的な状況に即し、政府が持ち得るすべての情報を総合して客観的かつ合理的に判断するもの」と説明した。首相答弁もその趣旨だと強調した。
「台湾海峡の平和と安定は日本の安全保障はもとより国際社会全体の安定にとっても重要だ」との立場を示した。従来からの見解として、対話によって平和的に解決されることを期待しているとの認識を示した。
斉藤氏は25日、答弁書の決定を受け「見解が変わっていないことを粘り強く国際社会に発信していただきたい」と政府に注文した。国会内で記者団の取材に答えた。
悪化する日中関係に関して「誤解に基づく摩擦だ」と指摘した。首相に対し「公明党のパイプは大いに使ってもらいたい」と呼びかけた。
日本経済新聞「存立危機事態の高市首相答弁「政府見解変更せず」~」より
この話、おそらくは公明党は支那から「指令」を受けていたものと考えられる。それ故の質問主意書提出だっただろうし、高市政権の閣議決定もそれを受けてのモノであったと考えるべきだ。
そして、斉藤氏は「従来と何も変わっていないことを伝えてくれ」と注文を付けているが、政府側から「パイプを大いに使って」と返答があった。
実に興味深い流れである。
これを箇条書きにまとめると、こんな形に整理できる。
- 過去には対支那外交の“窓口”として機能した公明党
- 現状では習近平体制の集中化により、北京中枢へのアクセスはほぼ消滅
- 自民党としては「本来ならここを使えれば楽だった」のが現実
- 皮肉ながら、今回のやり取りは自民党の本音を露呈した形とも言える
公明党としては痛し痒しというところだが、自民党としても似たような話になっちゃうんだよね。
まとめ
現状、日本外交は次のような“二重の非対称”に直面している。
- アメリカ向け : 安定志向、満額回答で波立てず
- 支那向け : 可動領域ゼロで硬直化、交渉余地は限定的
自民党としては、公明党のパイプも使えず、アメリカを介したパイプも使えなかった。皮肉にもアメリカが登場したことで外交関係が更にややこしくなった。
高市政権の閣議決定はアメリカ向けには合理的だが、支那との関係改善を同時に実現するには形式や周辺領域での工夫が不可欠である。この二重のジレンマこそ、今回の電話会談と閣議決定が示す日本外交の本質と言えるだろう。
そうすると、高市政権としてはもう一手打ちたいところなんだけど、結局は支那からの別のアクションを待つしかないというのが実情なんだよね。日本外交の現状は、アメリカ向け支那向けで相反する要求に挟まれる“板挟み”であり、高市政権は今後も慎重かつ創意工夫を求められる状況にある。まあ、逆に言えば支那も切るカードがなくて困っている状況ではあるんだけど。


コメント