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【追記】何故、イスラエル軍は隣国レバノンに――人道危機が深刻化

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中東
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レバノンでの混乱は広がっているようだが、報道の在り方を見るとモヤモヤする部分もある。

レバノン人道危機が深刻化、子ども84人死亡・66万人超が避難

2026年3月10日午後 11:27

中東紛争の拡大を受け、レバノンの人道危機が深刻化している。国連2機関によると、子ども84人が死‌亡、66万7000人以上が避難を余儀なくされるなど、同国内で大規模な混乱が生じている。

ロイターより

確かに、レバノンは人道危機状況にあるといえるのだろう。だが、イスラエルが侵攻したことだけをクローズアップするのはどうかと思う。

せめて、何故イスラエルがレバノンに軍事行動を起こしたのかくらいは、語るべきではないだろうか。

レバノンへの侵攻

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その時、レバノン軍は

アメリカとイスラエルがイランを攻撃したことで、レバノンでの混乱が広がった。これは一面の事実を示してはいると思う。

イスラエルがレバノンに地上侵攻したというのだから、そりゃ、大きな問題ではあるのだ。

だが、何故イスラエルがその選択をしたかといえば、テロ組織ヒズボラを壊滅するためである。

そして、いつも不思議に思うのは、この場面に一度も見かけないレバノン軍である。他国から侵攻されたのだから、当然、軍隊を動かすのがレバノン政府のハズなのだ。

陸軍を主力に7万人規模の組織を持っているハズなのだが、その肝心のレバノン軍は何処に行っちゃったの??

さいきょうの武装組織

実は、レバノンで一番強いのはテロ組織ヒズボラなのだ。

「最強の武装組織」ヒズボラ、ミサイル最大20万発保有

2024年9月28日 22:08(2024年9月28日 22:17更新)

イスラエル軍がレバノンのイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラの指導者、ナスララ師を殺害した。報復は必至で全面衝突の懸念が高まる。パレスチナ自治区ガザに続き収拾が困難な「第2の紛争」の戦線が開かれた。

地域大国イランの支援を受けるヒズボラは世界最強の非国家武装組織といわれる。

米戦略国際問題研究所(CSIS)によると12万〜20万発のミサイルやロケットを保有する。

日本経済新聞より

そして、レバノンの軍事組織の肩代わりをしている部分があるというのが、テロ組織ヒズボラの実情である。レバノン政府はヒズボラを解体することも、武装を取り上げることもできていない。結果として、ヒズボラは国家の中に存在する「もう一つの軍隊」のような存在になっている。

この状況を踏まえれば、レバノンは事実上ヒズボラの存在を容認し、その活動を許し、部分的に利用すらしている国家であり、そうするとレバノンはほぼテロ支援国家といっても過言ではない。

ここのところ経済は好調だったらしいんだけど。

レバノン10年ぶり高成長 経済貿易相 金融ハブ復帰に自信 - 日本経済新聞
【カイロ=岐部秀光】レバノンのビサト経済貿易相は首都ベイルートで日本経済新聞の取材に答え、2025年の実質国内総生産(GDP)が前年比で5%増と、およそ10年ぶりの高成長を達成したと明かした。「金融、司法、通信、社会保障などの分野で改革を進...

が、基本的にはレバノン経済は破綻して、そこから回復できていない状況である。

焦点:「戦争」に消極的なヒズボラ、レバノンの経済破綻が重荷

2023年10月31日午後 4:36

イスラエルと敵対するイスラム教シーア派組織ヒズボラを抱えるレバノンは、4年前の金融危機以来、経済が破綻し、国家が崩壊状態に陥っている。このためヒズボラとイスラエルが戦争状態に陥れば、持ちこたえることは不可能だ。

関係筋によると、イランの影響下にあるヒズボラはこうしたレバノンの危機的状況を承知しており、この点を念頭に置きつつ、対イスラエル戦における次の一手を練っている。

ロイターより

ところが、テロ組織ヒズボラはイランの革命防衛隊経由で潤沢な資金提供があって、これがイスラエルを攻撃する資金として使われている。

これを放置しているのがレバノン政府という構図になっている。何とかしたいけど、国軍よりもヒズボラの方が強いので、対処が難しいのである。見方を変えればレバノンの軍事的な主権はとうの昔に失われている。

レバノン政府の武器国家独占策は「重大な罪」、ヒズボラが非難

2025年8月7日午後 2:01

レバノン政府が武器の保有を正式な治安機関に限定する方針を打ち出したことを巡り、同国のイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラは6日、政府が武器の国家独占を確立するよう軍に命じたのは「重大な罪」だとする声明を発表した。

政府は5日、軍に命じて年内に国内の武器保有を正式な治安機関6つに限定する計画を策定させることを決めた。

ロイターより

去年もこんなニュースがあったが……、何の意味もなかったね。レバノン経済が弱いので、政府には求心力がない。軍事も治安維持もままならないガッカリな状態なのである。

ゲリラ戦術に移行

ともあれ、イスラエルは地上戦でレバノンにおけるヒズボラ掃討作戦に突入した。レバノン政府がやらないなら、俺がやるというわけだ。

ヒズボラ、南レバノンでゲリラ戦術に回帰 紛争の長期化に備え

2026年3月11日午前 4:02

イラン支援下にあるレバノンの武装組織ヒズボラが、南レバノンでのゲリラ戦という原点に回帰しつつある。イスラエルによる全面侵‌攻と紛争の長期化の可能性に備えるためという。レバノンの関係筋4人が明らかにした。

ヒズボラの軍事活動に詳しい関係筋によると、同組織の戦闘員らは小規模な部隊で活動しており、イスラエルに盗聴される恐れのあ⁠る通信機器の使用を避け、イスラエル軍と交戦する際には対戦車ロケット弾の使用を控えているという。

ロイターより

ただ、一筋縄ではいかないらしい。

レバノンがなぜここまで不安定なのか。その背景には、この国が長年「各国の介入の舞台」になってきた歴史がある。

  • 1920年 – 1943年:フランス(委任統治)
    • 第一次世界大戦後、レバノンを統治。現在の国家の枠組みや政治制度の基礎を作る。
  • 1958年:アメリカ(レバノン危機)
    • 親米政権を支えるため、アイゼンハワー大統領が海兵隊を派遣。
  • 1970年代 – 1982年:PLO(実効支配)
    • ヨルダンを追われたパレスチナ解放機構が拠点を移し、南部を事実上支配。
  • 1975年 – 1990年:レバノン内戦(多国籍の介入)
    • 国内の宗教・政治勢力が激突。シリア、イスラエルなどが次々と介入。
  • 1976年 – 2005年:シリア(長期的進駐)
    • 内戦介入を機に軍を駐留。約30年にわたりレバノン政治を実質的に支配。
  • 1978年:イスラエル(リタニ作戦)
    • パレスチナ武装勢力の掃討を目的に、南部へ初めて大規模な地上侵攻。
  • 1982年 – 1984年:アメリカ・イギリス・フランス・イタリア(多国籍軍)
    • イスラエルの侵攻を受け、治安維持のため派遣。爆破テロを機に撤退。
  • 1982年 – 2000年:イスラエル(第一次レバノン戦争・南部占領)
    • PLO追放のためベイルートまで進撃。その後、南部を2000年まで占領。
  • 2006年:イスラエル(第二次レバノン戦争)
    • ヒズボラによる兵士拉致を機に勃発。34日間に及ぶ激しい戦闘。
  • 2024年 – 現在:イスラエル(地上侵攻)
    • ヒズボラの拠点破壊を目的とした軍事行動。現在も緊張が続く。

近年の事象だけでも、ざっとこの程度の事態に巻き込まれている。

つまりレバノンは、長い間「主権国家でありながら、完全な主権を持てない国」だったのである。しかもレバノン国内は宗教対立でも政治が混乱しており、それもまた国家の統治を難しくしている。

フランス軍の介入

なお、この件ではフランスも動いているとのこと。

ちょっと前もこんなことを言っていたしね。

フランスはレバノンへの支援を呼びかけ、停戦合意の成果は依然として脆弱だと警告

2026年2月7日午前7時31分

フランスは6日、レバノンの停戦と政権移行後の明るい兆候にもかかわらず、同国の復興は依然として不安定だとし、同国が改革を継続するのであれば同国を支援する用意があると述べた。

ロイターより

そして、今回も動き始めた。

仏、レバノン軍支援を強化 マクロン氏「戦闘拡大阻止」呼びかけ

2026年3月6日午前 6:08

フランスのマクロン大統領は5日、中東の武力攻撃の応酬‌がレバノンにも拡大する中、フランスはレバノン軍との協力を強化し、装甲輸送車両⁠を派遣するほか、後方支援などを提供すると発表した。

ロイターより

ただし、こうした支援はあくまでレバノン政府軍への後方支援という位置づけであり、レバノン国内で影響力を持つヒズボラの武装そのものに踏み込む話ではない。

フランスとしても国内のテロ対策に手一杯な部分はあるが、表現の自由を声高に叫ぶ国としては強硬な手段も採りにくいという状況。国内にもヒズボラを支援する層がいるため、無理をすると内乱を招くというジレンマを抱えている。

まとめ

レバノンが一方的に侵攻された被害者かのような報道は、どうにも度し難い。

イスラエルを擁護するつもりはない。だが、レバノン国内にイスラエルを攻撃する強力な武装組織が存在し、それを国家が抑え込めていないという現実もまた、無視されるべきではないだろう。

少なくとも、今回の事態は「単純な侵略」という一言で片付けられるような問題ではない。

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