先日の話になるが、韓国の工場で火災が発生し14人が亡くなってしまった。ご冥福をお祈りします。
しかし、この事故は単なる不運では片付けられない。
【社説】14人が亡くなった韓国の工場火災、なぜ惨事が繰り返されるのか
登録:2026-03-23 02:11 修正:2026-03-23 08:11
今月20日、大田の自動車部品メーカーの工場で火災が発生し、14人が死亡、60人が負傷するという惨事が起きた。真夜中でもなく昼間に起きた火災で、どうしてこれほど多くの人命被害が出たのか。当惑するばかりだ。
ハンギョレより
何故この件を取り上げたのか?といえば、工場の名前が「安全工業」だったのに、安全に欠片も配慮している様子が無かった、とかそういう理由ではない。
問題は、この事故を受けて行政が全国点検を始めた点にある。
今回もまた安全点検
安全配慮義務は何処へ?
先ずは、事件の概要から。
「床の油のせいで膝が痛い」韓国・大田の火災工場、4年前から「危険警報」
2026.03.23 09:23
大規模火災が発生した大田市大徳区文坪洞の安全工業株式会社(以下、安全工業)工場で、死亡者10人が一度に発見された2階の休憩スペースが、従業員の仮眠場所として主に使われていたとの主張が出ている。また、工場内部の各所に切削油などの油分が広がり、健康悪化への懸念が強かったとの証言も数年前から指摘されていた。
中央日報より
ニュースで報じられる内容から、火災の概要をまとめるとこんな感じである。
火災の概要
- 発生日時: 2026年3月20日 午後1時17分ごろ
- 場所: 韓国 大田広域市 大徳区 文坪洞の安全工業工場
- 鎮火時間: 発生から約10時間30分後の午後11時48分ごろに鎮圧
- 被害規模: 14名死亡、25名重傷、35名軽傷
工場の概要
- 主力製品: 吸気・排気用エンジンバルブ
- 生産能力: 年間約7,000万個以上
- 主な供給先: 現代自動車(ヒョンデ)や起亜(キア)といった大手自動車メーカー
現時点でハッキリした出火原因は分かっていないが、工場内の油汚れ(金属加工に使用する切削油のミストや油かす)が壁・床・天井に張り付いていたため、加工時に発生する火花が引火した可能性が指摘されている。
この他、金属ナトリウムが法令基準の20倍(約200kg)も保管されており、これが初期消火を妨げた疑いがあるようだ。ナトリウムは水と激しく反応し発火・爆発するため、水による消火ができないんだよね。
これで「安全工業」という社名は、流石に皮肉としか。
違法建築
そして、韓国ではよくありがちな違法建築の話が。
この休憩スペースは最も多くの死亡者が出た場所で、空きスペースを利用して2014年12月に違法に増築されたものだ。消防当局は、この空間には正面に窓が設けられておらず、煙が外にうまく排出されず被害が拡大したとみている。また、この休憩スペースに窓が設置されたのは2015年7月から2016年1月の間とみられている。安全工業株式会社の工場は1996年の竣工以降、2010年・2011年・2014年の3回にわたり増築を行った。
中央日報「「床の油のせいで膝が痛い」韓国・大田~」より
セウォル号事件(2014年4月16日)の教訓は、ここでは活かされていなかったようだ。
1回だけではなく、1996年の竣工以降、2010年・2011年・2014年の3回にわたり増築を行っていたとか。
これが消防法に準拠した構造でなかったのは、いつものパターンである。
すなわち、「違法増築 → 避難経路の欠如 → 煙滞留による被害拡大」という構図だ。
2024年6月のリチウム電池の製造工場火災の時も、結構問題視されていたことなんだけど、違法建築で避難が妨げられるケースは少なくない。消火活動も難しかっただろうと思われる。
安全不感症
韓国では割と問題にされやすい話として、「安全不感症」というものがある。
安全対策が二の次になるという話は韓国に限った話ではないのだが、韓国では殊更こうした問題が放置されがちである。
従業員に対する安全教育も形式的なものだったという。定期的に安全管理教育を受けたという文書には署名していたものの、実際に教育を受けたことはなく、安全装備は軍手と使い捨てマスクだけだったという。さらに、休憩室には消火器もなかったという。この工場にはナトリウムをはじめとする多くの危険物質があった。ナトリウム火災は水では消火できないため、消火器が必要不可欠だ。火災が起きたら一体どうするつもりだったのか。
ハンギョレ「14人が亡くなった韓国の工場火災~」より
とにかく、徹底的に安全対策から目を背けていた印象が強い。
問題は「対策が不十分」ではなく、「対策する意思そのものが欠落している」点にある。
安全管理が形骸化するということはそれなりにある話なのではあるが、ここまでのレベルとなるとなかなかである。
報道をめぐり役職員に暴言…15年間で7回火災発生…油汚れ·粉塵の危険を知りながら放置
入力 : 2026-03-24 23:33:32 修正 : 2026-03-24 23:36:54
火災で死傷者74人が発生した大田安全工業で過去15年間、計7件の火災が発生したことが明らかになった。 また、ソン·ジュファン安全工業代表理事は役職員会議で犠牲者と遺族に言及し、暴言を吐いたと知られた。
毎日経済より
何しろ、過去にも7度も小さな火災が発生しており、消防当局は繰り返しその問題を指摘してきたというのだ。恐らくは、消防当局からの指摘も形骸化していたのだろうね。
緊急点検が全国で
流石に大統領もこれを無視するわけにはいかなかったようで、安全点検をしろということにしたらしい。
安全工業火災受け消防庁が金属加工2865カ所緊急点検
2026.03.25. 10:00
テジョンの自動車部品メーカーである安全工業で火災により74人の死傷者が出たことを受け、消防庁が全国の金属加工事業場などを対象に「関係機関合同の緊急安全点検」に乗り出すと25日に明らかにした。
朝鮮日報より
あー、はいはい、2024年の火災の時にもやってなかった?安全点検。
何の反省もなかったと言うこと?
今回の安全点検は30日から翌月17日まで実施する。全国の自動車部品製造業など26の類似業種、1万4000余りの事業場のうち、切断や鍛造、熱処理など火災リスクのある工程を抱える2865カ所をサンプルとして選定し、集中的に点検する。
朝鮮日報「安全工業火災受け消防庁が~」より
今回は自動車部品製造業を重点的にやるらしいのだが、点検して指導したところで、解決するとは……。何しろ、この手の点検の多くは、事業所への自己申告形式で行われる。
つまり「問題があるかどうか」を、問題を抱える側に確認しているに過ぎない。
対策にはならんでしょうな。
まとめ
韓国ではこの種の事故は決して珍しくない。だが、今回は、自動車産業という韓国経済を支える中核分野のサプライチェーンで起きたため、大きな問題となっている。
しかし内情は、違法増築、危険物の不適切管理、形骸化した安全教育、そして繰り返される火災の放置――いずれも「偶発的な事故」ではなく、構造的に積み上がった「いつもの問題」であった。
「これからはEVだ」という議論もあるが、現実には世界的にEV一辺倒からの揺り戻しが起きている。つまり、エンジン関連産業を支えるこうした中小工場は、当面の間は不可欠な存在であり続ける。
だからこそ、安全管理の基盤が極めて脆弱なまま放置されていることは、深刻な問題なのだ。
点検を繰り返すだけでこの構造が変わるのか。今回の事故は、その限界を改めて示したと言えるだろう。



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