アメリカで原発建設か。
トランプ大統領 原発増やす大統領令に署名 電力需要拡大見据え
2025年5月24日 14時17分
アメリカのトランプ大統領は、AI=人工知能などの発展に伴う電力需要の拡大を見据え、十分な電力を確保しようと原子力発電を増やすための大統領令に署名しました。
NHKニュースより
これ、他の記事のコメントに頂いたんだけど、結構シンドイ話になると思う。
原子炉の高騰と技術者の払底
原子炉の数は世界最多
先ず、アメリカの原子力発電所の数に関して。
現状、アメリカには93基もの原子炉があり、世界最多を誇っている。2番目がフランスで56基なのだが、恐らく数年以内に支那が抜く(2024年末には57基となり既に抜いている)だろうと言われている。なお、支那は2030年までにアメリカをも抜くだろうと予想されている。
そんなアメリカにおける最新の原子力発電所は、ボーグル原子力発電所3号機で2023年7月31日に商業運転開始した原子炉である。
アメリカで新設原発稼働へ、スリーマイル事故後初…電源喪失でも自動冷却「革新軽水炉」
2023/06/05 05:00
米電力大手サザンが、ジョージア州で建設を進めてきたボーグル原子力発電所3号機(出力111万7000キロ・ワット)が6月中にも営業運転を始める。1979年のスリーマイル島(TMI)原発事故後、米国で新規着工した原発の稼働は初めて。東京電力福島第一原発事故のような電源喪失時でも原子炉を自動で冷却できる「革新軽水炉」というタイプの原発だ。
讀賣新聞より
だが、それより以前はスリーマイル島の呪いによって、1979年から1基も建設が出来ないでいた。実に40年近くも足踏みしたわけだ。
それでも、なんとか今回建設が完了して稼働始めた。頑張って建設したんだねぇ。
AP1000
さて、ボーグル原子力発電所3号機はAP1000と呼ばれるタイプの原子炉で、設計はウエスチングハウス。カテゴリー的には第3世代+の原子炉となる。
この名前を聞いてもしかすると、「あれ?」と思った方もいるとは思う。実は、韓国標準型原子炉といわれるAPR1400の元型になったSystem80+と同系列の原子炉である。また、AP1000そのものも、支那で稼働している。
Fourth Chinese AP1000 connected to grid
Monday, 15 October 2018
The Haiyang 2 AP1000 in China has been connected to the electricity grid. Meanwhile, Sanmen 1 – which last month became the first AP1000 to begin commercial operation – has entered the guarantee period.
~~対訳~~
4基目の中国製AP1000が送電網に接続される
中国の海陽2号AP1000が送電網に接続された。一方、先月商業運転を開始した最初のAP1000となった三門1号は保証期間に入った。
wnnより
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記事にも言及があるが、支那でAP1000を建設したのはウェスティングハウスである。
結局、アメリカ国内で原子炉を建てられないメーカーが挙って支那で原子炉を建設したということであり、アメリカで建設された原子炉は既に外国で実績ありという不思議な構図になっている。
なお、ボーグル原子力発電所には4基目の建設も始まっているのと、VCサマー原発への採用も決まっていた。残念ながら、この計画は中止になってしまったが。
米電力会社、WH原発2基建設を断念 WH再建に痛手
2017年8月1日 8:23
米電力会社スキャナ・コーポレーションは31日、サウスカロライナ州で米原発大手ウエスチングハウス(WH)が建設を担っていた原発2基の建設を断念すると発表した。従来想定より建設コストが大幅に膨らむ見通しとなり、異例の建設途中での中止に踏みきる。WHにとって原発ビジネスの機会損失となり、経営再建に向けての足かせとなりかねない。
~~略~~
断念したのはスキャナがサウスカロライナ州政府が所有する電力会社サンティ・クーパーと共同で運営するVCサマー発電所の原発2号機と3号機の建設。WH製の原子炉「AP-1000」を採用し、WHは建設作業も請け負っていた。13年に着工し、既に建設工事の進捗率は約半分に達していた。
建設断念の理由は建設費用の高騰だ。
スキャナが31日に公表した資料によると、従来計画では2号機の稼働時期は19年8月、3号機は20年8月だったが、WH破綻後に建設工事の詳細な検証を実施した結果、2号機は22年12月、3号機は24年3月と3年以上遅れる見通しとなった。
数千人規模の作業員の追加人件費が膨らむなど、建設費用も合計159億ドル(約1兆8000億円)と計画当初の約98億ドルに比べ2倍近くになる試算となった。
日本経済新聞より
建設コストが嵩みすぎたんだよね。
巨額の損失含みで原子炉稼働に漕ぎ着けたけれども、その損失を誰が被ったのか?それを考えるとモヤモヤしてしまうね。
東芝の失敗
さて、ここで日本のメーカーの話をしよう。
東芝といえば、日本人では知らぬ人はいないほどの家電メーカーだったのだが、今や見る影もない。東芝は原子力発電所建設にも注力していて、一時期は米ウエスチングハウスの買収というところまで力を拡大していた。
が、巨額の損失を出してしまう。
米原発事業で巨額損失:実力以上の賭けに失敗した東芝
2017.02.18
日本の電機産業をけん引してきた名門企業、東芝が存亡の機に立っている。世界最大の原子力発電機器メーカーを夢見て、米国ウェスチングハウス(WEC)を買収した投資に失敗したからだ。2016年4~12月期連結決算で、米原発事業の損失は7125億円に上る見通しである。
~~略~~
ところが、このS&W買収後、東芝の説明によれば、新たな追加コストの見積もりが必要になった。このためS&W買収額と同社純資産の差額、つまり「のれん」6253億円を計上し、その全額を回収不能と見て減損処理することに決めた。併せて06年のWEC買収に伴う「のれん」残高もすべて処理することにしたため、減損損失は7125億円になったわけである。
Nippon.comより
東芝の失敗した原因は様々だが、ウエスチングハウスの買収は明確な失敗であった。そして、その失敗が明確になったのがボーグル原子力発電所3号機、4号機の建設遅れと、VCサマー発電所2号機、3号機の建設計画中止だ。
厄介なところに手を出したものである。
ただ、2016年の予定だった稼働は遅れた。米メディアは、原発建設の空白期間が長引いた影響で熟練の作業員が不足し、工程管理も不十分だったと指摘する。この結果、建設費も膨らみ、WHは17年に経営破綻し、親会社だった東芝も経営危機に陥った。2基の建設費は予定の2倍以上の計300億ドル(約4兆円)を超えるという。
讀賣新聞「アメリカで新設原発稼働へ」より
あめりかにおいて、新規原発建設は極めてリスキーだ。建設コストが恐ろしいほどかかるのである。
これは日本に於いても同じで、安全率を高く見積もりすぎているので、万が一にも事故が起こせないという高いプレッシャーの元、設計され、建設される。ところが、原子炉の建設自体が半世紀近く行われていなかったアメリカでは、熟練工が見当たらない。その結果、原子炉建設の作業自体もかなり遅延したわけだ。
つまり複雑になった原子炉を建設できる技術者は、どんどん減る一方なので、結果的には莫大な資金を注入する必要があるのだ。
こんなことなら支那や韓国に建設させた方が余程素早く建設を終える。安全性はわからないけれども、そもそも日本やアメリカに新しい原子炉を作ろうとすると、アホほど安全に注力するのでどちらがマシかは良く分からないよね。でも、古い原子炉でも殆どが寿命まで運転を迎えることを考えると、過剰な安全マージンは本当に適正なのだろうか?と。
米国ボーグル原子力発電所3号機の営業運転開始
2023年7月,米国ジョージア州にて,サザンニュークリア社のボーグル原子力発電所3号機(電気出力1,200 MW 級AP1000)が営業運転を開始した。当社はこの発電所3,4号機向けに,蒸気タービンや,タービン発電機(励磁 装置を含む),復水器,湿分分離加熱器などの主要機器の,納入・据付指導・試運転支援を行った。
原子力発電は,エネルギー安全保障とカーボンニュートラルを両立させる手段の一つとして世界的に期待されてい る。米国ではこのボーグル3号機が,実に30年ぶりの新設原子力発電プラントであり,当社は機器供給を通じてプロ ジェクトの価値向上に寄与した。
東芝レビューより
東芝からも主要部品の一部の納入をして、更に運転支援を行っていたので、日本の技術は細々とだが承継している。でも、これもいつまで続けられるかは不明。国内に原子炉を建設しないというのは、そういうことなのである。
建設加速を決意するトランプ氏
しかし、トランプ氏としては積極的に原子炉の建設を行っていきたいらしい。
そして新しい技術を使った原子炉の導入を促すため、規制やコスト面での参入障壁を下げることや原子炉の設計を迅速化することを目指し新興の技術を採用すること、またすでに停止している原発の再稼働を支援することなどで原子力発電を増やそうとしています。
さらには、10年以上かかるケースもある新しい原発建設の許認可について、最終的な決定までの期限を1年半以内に定めるといった大幅な改革もあげています。
NHKニュース「トランプ大統領 原発増やす大統領令に署名」より
それ自体は悪いことではないと思うが、トランプ氏が大統領のウチに新しい原子炉を増やすというのは流石に難しい。
原子力産業に詳しいウィリアム・マーチン元米エネルギー省副長官は「大型原発の建設には人材、企業の技術や経験、部品の供給網など様々なものが必要で、一度失われると影響は大きい。原発建設を長期間経験していない日本にも教訓にすべき点は多い」と語る。
讀賣新聞「アメリカで新設原発稼働へ」より
デカイ設備を作るには多くの人の尽力が必要で、直ぐに結果が出るような話ではない。トランプ氏の決断が、もし実を結ぶようなことがあれば、それは十数年後ということになるだろう。
たからこそ、この手の政策は長いスパンで行われていく必要がある。
先週こんな記事を書いたが、日本も他人事ではないのである。
追記
出てくるとは思っていたけど、韓国がアップし始めたようだ。
米国も脫脱原発、25年内に300機建てる…「韓国にはチャンス」
入力 2025.05.25 20:28
「原発宗主国」米国が2050年の原子力発電量を今の4倍に増やすことにした。 1979年、スリーマイル島原発事故以来、過去46年間でたった2基の原発だけ新規に着工して稼働していた米国が大規模な原発投資計画を出したのだ。早い原発拡大を妨げる各種規制も大幅に緩和することにした。 AI(人工知能)の拡散とエコカー普及などで電力需要が急増すると、無炭素エネルギー源である原発拡大に政策力量を集中することだ。今年初め、韓米両国政府が「原発同盟」を結んだ状況で、米発原発ルネッサンスはK原発に大きな機会になるという期待が出ている。
中央日報より
呼んでない、座ってろ!
というか、本文にも書いたんだけど、スピードや建設能力だけなら支那や韓国の方が優れているとは言えると思う。でも、安全面では疑問がつくのも事実なのだ。
UAE原発で随分と味噌がついたのだが、韓国がアメリカで原発を作る為には、ウエスチングハウスの持つ特許を回避するかお金を支払わねばならない。
原発ルネッサンスを迎える米国市場でK原発が新しい機会を見つけることができるという展望が出ている。新規原発建設が数十年間中断され、自国内の原発生態系が崩壊した米国の立場ではパートナーが切実な状況だが、今年初め政府間の「原発同盟」に続き、代表原発企業である韓国水力原子力とウェスティングハウスが協力を約束した韓国こそ最適な相手だということだ。
中央日報より
結構勝手なことを言っているが、そもそもの問題はアメリカ国内に原発建設に携わる技術者が欠けているということなのだ。韓水原が出てきても、その問題は解消しない。
妄想回路がスゴイ勢いでバラ色に輝いているけれども、受注だけしてホルホルしたいのかも知れないが、そもそもの問題を理解できていないような気がしてならない。
コメント
どうしてこうなった?ってやつでしょうか。
振り返ってみれば、造船業、鉄鋼業、電力業など米国の重電工業は、軒並み支那にお株を奪われてしまっています。
で、自分も米国の原発産業復興は可能なりやかを、さらに調べてみたんですが、木霊さんの記事内容以上のコメントが出来そうもありませんw
日本製鉄によるUSスチール買収が前進したことも、造船業が同盟国頼りであることも、原発産業の復興には自助努力では時間とカネがかりすぎることも、米国はよく判っているようです。
でも、MAGAには傍観するという選択肢はないんでしょうね。MAGAをもってしても、短期的に米国の国力低下は避けられそうもありませんが。
支那の真骨頂として技術を盗用して国内で巨大な資本をぶち込み、スケールメリットを活かして安価な製品を輸出するというやり方が実現できる体制を未だに維持しているところが挙げられます。別コメでも書いたのですが、韓国財閥経済はそれを実現できていたわけで、似たことが出来ていました。
ではアメリカは?というと、ホワイトカラーに憧れる国民性が災いして、ブルーカラーが蔑ろにされ、結果的に今の状況を招いています。
それでも成長力のある国家故にMAGAで復活はあり得ますが、それには時間がかかりそうなんですよね。
韓国が、米国の原発建設事業で大儲けできるぞ!とホルホルしているそうですが..
実は、当の韓電(KEPCO)と韓水原(KHNP)が、UAEバラカ原発の建設追加費用を巡って内紛し、
いまもロンドン国際仲裁裁判所で法廷闘争している、とw ロイターもこのニュースを配信。
韓国の国営電力会社と子会社が衝突、原子力輸出にとって脅威(朝鮮日報英語版2/26)
https://tinyurl.com/v769xzcu
で、木霊さんは文中で中央日報記事を引用されていましたが、朝鮮日報も同様のホルホル記事を揚げていました。
トランプ大統領が望む造船と原発、どちらも韓国の手中にある(朝鮮日報社説5/26)
https://tinyurl.com/ef7fkccv
随分鼻息荒いが、キミたち、大丈夫か?
いやほんとにバラ色回路は流石です。
アメリカで作る以上は東芝みたいな失敗は当然織り込まなければらないと思うんですがね。