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イスラエル軍が実戦で「レーザーで空中目標撃墜」

安全保障
この記事は約8分で読めます。

面白そうなコメントを頂いたので、少し調べてみることに。世界初の実績なんだそうな。

世界初! 実戦で「レーザーを使い空中目標を撃墜」もはや創作物の戦い「アイアンビーム」がついに動きだす

2025.06.06

イスラエルの国営企業ラファエル・アドバンスト・ディフェンス・システムズは、2025年5月29日、同社が開発した高出力レーザーシステムが、実戦において空中脅威の撃墜に世界で初めて成功したと発表しました。

乗り物ニュースより

アイアンドームのビーム版に関しては、以前から開発が進んでいるという話ではあったが、初めて実戦投入して成果がでたというニュースである。

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発展途上の兵器

アイアンビームの能力

成果は、UAV撃墜ということのようだ。

実戦で投入されたのは、イスラエル国防省と共同開発したレーザー迎撃システム「アイアンビーム」で、レバノンの武装組織ヒズボラの無人航空機を撃墜したと報告されています。

「アイアンビーム」は、100kW級の高出力レーザーを数キロメートル先の標的に照射し、機体の翼や内部の精密機器を破壊することで無力化する仕組みです。

乗り物ニュース「世界初! 実戦で「レーザーを使い空中目標を撃墜」」より

このアイアンビームの能力については、別の記事の方が詳しいだろう。

イスラエル、ミサイル迎撃にレーザー兵器「アイアンビーム」の使用を計画

2024.11.02 Sat posted at 12:22 JST

イスラエルは「アイアンビーム」と称するレーザー防衛システムを1年以内に稼働させるとみられる。「戦争の新時代」をもたらす兵器だとしている。現在イスラエルはイラン及びその提携勢力とドローン(無人機)やミサイルによる戦争を繰り広げている。

~~略~~

地上に設置した高出力レーザーを使用するアイアンビームの射程は数百メートルから数キロ。レーザーが標的の外殻の脆弱な箇所を熱することで、飛翔体そのものが破壊される。エンジンや弾頭の部分がそうした箇所に該当する。

アイアンドームと比較すると、レーザーによる防衛は安価で迅速、しかもより効果的だと専門家らは指摘する。

~~略~~

レーザーシステムは曇りや雨、靄のかかった天候ではうまく機能しないとみられる。そうした気象条件により、大気を貫通して標的に到達するレーザーの能力が低減するからだという。またシステムの稼働には膨大な量の電力も必要になる。

CNNより

アニメなどで表現されるレーザービームは、物理的な破壊を伴うような表現が多いが、現実は光なので物理的な破壊を伴うためには加熱が必要である。

つまり、レーザーが照射されると照射部分が過熱して機械的な故障を伴う。発煙や発火という現象が起きるのはあくまでその後の話である。

レーザーの出力が高ければ発火するまでの時間が短くなるが、相手を捕捉し、照射する手順を踏む必要がある。

注目すべきはそのコストで、無人機1機の迎撃にかかる費用は、1回の照射あたり約3.5ドル(約500円)とされています。これに対し、イスラエル軍が近距離のミサイル及び航空機迎撃のために使用しているアイアンドームは1発6万ドル(約850万円)ということで比較にならないほどの安価です。そのため、同社は「事実上、コストゼロで無力化した」と今回の成果を強調しています。

乗り物ニュース「世界初! 実戦で「レーザーを使い空中目標を撃墜」」より

コストが安いのは魅力的だが、現実的な部分で大電力を消費するという部分がネックではある。

日本国内でも研究は進んでいる

なお、過去扱ったことはあるが、日本国内でも幾つか研究しているところがある。

この映像は結構早く墜落しているように見えるが、どうやら等速ではないようなので余り参考にならないかも知れない。

こちらの動画の方が分かり易いかな。

アメリカの実用化した兵器について触れられているんだけど、CGばかりではなく実際に撃墜した動画も含まれている。

何れも照射時間を必要としている様子が分かるだろう。

アイアンビームは”指向性エネルギー兵器システム”に分類され、100kW級の高出力ビームを数km先の標的に照射し、起爆又は内部の電子機器を破壊することで脅威を無効化する。これまでの試験において、ドローン、迫撃砲、ロケット弾、ミサイルといった空中脅威の迎撃に成功している。アイアンビームの最大の特徴は、レーザーという物理的制約のないものを使用する点にある。

ミリレポより

数秒間照射して発火を伴う破壊というような動画が多いが、レーダーで飛翔体の位置を把握し続けることができるのであれば、レーザービームを当て続けること自体は容易である。原理は同じなので、兵器としては数秒間の照射に必要な電力だけが「コスト」となり、ローコストでの運用が可能になるという理屈になる。

img

ただ、この手のシステムの実際的な運用がイマイチ進まない理由は、結構デリケートな機械だということが理由の1つとして挙げられる。

光学兵器であるため、レンズの損傷は即性能に影響するし、おそらくは温度上昇によるトラブルというのも考えられるので、連続照射が可能かどうかはちょっと分からない。冷却性能が重要になるという意味だね。

イスラエルのアイアンビームは、実戦投入していることを考えても、そのあたりの問題は恐らくクリアしていると思うのだけれど、詳細は不明。ただ、濃霧や雨天での使用が出来るかどうか、レンズが水に濡れるような状態での使用は原理的に怪しいことを考えれば、何かに組み合わせて使うというのが正解のような気がする。

ゴールデンドーム計画

さて、そういう意味でアメリカが推進しようとしているゴールデンドーム計画はちょっとだけ興味がある。

米国がゴールデン・ドーム計画発表、イスラエルのアイアン・ドームとは何がどう違うのか

2025.5.22(木)

米国のドナルド・トランプ大統領は5月20日、中国やロシアなどの脅威から米国を守るための大規模な次世代ミサイル防衛システムを構築する計画を発表し、同プロジェクトの主任プログラムマネージャーに米宇宙軍副作戦司令官のマイケル・グートライン大将を任命したと述べた。

~~略~~

ちなみに、イスラエルのいわゆるアイアン・ドームは、ロケット弾、迫撃砲などを迎撃するアイアン・ドームや指向性エネルギー兵器のアイアン・ビーム、ロケット弾などに加えて短距離弾道ミサイルまでを迎撃するダビデスリング、および弾道ミサイルを迎撃する「アロー2・3」などから構成される多層防空システムである。

JB pressより

正直、これがモノになるのかはちょっと怪しいのではないか?とは思っているのだけれども、構成要件の1つに指向性エネルギー兵器が含まれている点が面白い。

アメリカとしても指向性エネルギー兵器=ビームの有効性を認めているという意味だからだ。

ただ、レーザー兵器の運用問題は、結局のところレーザー発射に要する莫大な電力をどうやって生み出すのか?という部分もあって、アメリカではアーレイバーク級ミサイル駆逐艦38番艦のプレブルにヘリオス(HELIOS)と呼ばれるレーザー兵器が正式搭載されているという話である。

2024年までに32回の試験が行われてはいるけれども、今のところ実戦で利用されたという話は聞かない。他の艦に搭載するという判断が下されていない状況を考えれば、未だ実戦投入には至らない段階だと見て良いのではないか。

有効な範囲

結局のところ、レーザー兵器の有効な範囲というのは、ドローンや巡航ミサイルなどまでであると考えられ、メンテナンス的な面まで考えるとゲームチェンジャー的な存在になっているということではないようだ。

ロシアでの航空兵器損壊を見ると、今後はそれなりの意義のある兵器だと判断される可能性はあるけれど。

一方で、超音速の兵器に対しては有効でない可能性は高い。照射時間を確保できない可能性が高いからだ。

レーザーの出力を高めれば照射する時間の短縮は可能かもしれないが、どこまで高出力のレーザーが実現できるかどうかは良く分からない。加工機レベルであればかなりの大出力は可能なのだけれど、あくまで室内かつ短距離だから。

そういう意味では質量兵器の有効性はそれなりにあって、質量を確保できないのであれば速度を上げてやろうというパターン、つまり、レールガンはその点での有用性はあると思う。

……まあ、レールガンの方も開発中なんですが。

電磁砲「レールガン」試作品、洋上で発射実験へ…中国・北朝鮮の「極超音速兵器」迎撃に有効

2025/05/11 05:00

防衛省は、火薬の代わりに電気エネルギーを利用し、高速で弾丸を発射する最新兵器「レールガン(電磁砲)」の大型試作品を用いた発射実験を近く洋上で行う方針を固めた。レールガンは中国や北朝鮮が開発する極超音速兵器の迎撃に有効とされ、「イージス・システム搭載艦」への搭載を視野に実用化を目指す。

~~略~~

艦艇や航空機、ドローンへの攻撃のほか、音速の5倍(マッハ5)以上で低空を変則軌道で飛行する極超音速兵器への迎撃に活用できる可能性があり、戦力バランスを一変させる「ゲームチェンジャー」として期待されている。

讀賣新聞より

記事を読むとすぐにでも登場しそうな雰囲気はあるんだけど、実際のところ砲身の交換など色々な課題が解決出来ていないようなので、日本でレーザー兵器登場とどちらが早いかというのは、良く分からない。

世界ではレーザー兵器の方が先に来たけれども、日本の意地を見せられるのか?という感じだろうか。

コメント

  1. 山童  より:

    木霊様へ。どうもありがとう。
    やはり照射時間の問題で超音速の敵機には無理がありますか。レールガンはレールガンで砲身交換は確かにネック。
    しかし砲身交換を要するなら、加熱で銃身交換する重機関銃と変わらないような。なかなかスター・ウォーズのようにはいかないようですね。

    • 木霊 木霊 より:

      どうしても、投入エネルギーと照射時間のバランスの話があって、大電力を発揮して照射すると今度は冷却問題が付きまとう。
      補助的な使い方にはそれなりの効果はあっても、確実性の意味でそれが主流とはならないと思います。

      レールガンは結構良いところまで行っている印象で、僕自身は期待しています。
      ただ、かけているお金の額がショボいので、余り進んでいませんね。

  2. 七面鳥 より:

    こんにちは。

    照射時間と出力はトレードオフですからね、パワーを上げるとパワープラントが(レーザ発振器も)むやみやたらと巨大化して実用的ではなくなってしまう。
    ※冷却時間も必要。なお、みんな大好きアヴェンジャー@A-10は、10秒連射で10分冷却、と昔のムックで読んだような……

    ビーム兵器も同じ事、レーザも広義ではビーム兵器(荷電粒子や電子ではなく光子を使う)?
    何らかのブレイクスルーが欲しい所ですが、自分が出来る事は相手も出来ると思うのが兵法の常、出来ればこっちに一日の長があるうちに、あっちがバカやってくれる事を祈りますね。
    ※あっち(どことは言わない)がバカやるのが大前提、というか、ペンタゴンあたりは「確実にやらかす」と見てるらしいですが……

    • 木霊 木霊 より:

      こんにちは。
      レーザー発信器的にはパワー上げるのはシンドイですよね。加熱すると出力低下が避けられませんから。
      僕の理解している範囲内だと、まだ実用化、実戦投入には課題があって、使い捨てにするには高コストって感じだと思っています。
      1発あたりのコストが安いというのも、電力だけしか計算していない気がするんですよね。継続性などを考えると、未だ使えない程度に高コストなのではと。