MASGAは案外やべーな。
退職した韓国人技術者迎え入れるMASGA、バラカ原発輸出にヒント得る
2025.08.05 06:51
「定年後も私の技術で現場仕事ができるのが誇らしい」。
最近米フィラデルフィアのハンファフィリー造船所で第2の人生を始めたイさんはこのように話した。彼は30年以上慶尚南道巨済の造船所で働いていたが5カ月前からフィリー造船所に仕事場を移した。
中央日報より
なかなか素晴らしい判断だと言えばいいのか、大きな落とし穴があると言えばいいのか。それは、韓国にとってなのかアメリカにとってなのか。
読者の皆さんには記事を読んで判断頂きたいと思う。
- 韓国は対米関税交渉の切り札として造船業支援を提案
- 米側は人材確保や整備受注で一定の成果を評価する一方、労組文化や対中技術流出への懸念も強い。
- この協力関係が継続・発展するかは、安全保障と政治的リスク管理に左右されそうだ。
多数の課題が見える造船協力
切り札だった造船業
この話は、対米関税交渉に関わりのある話で、対米関税交渉の悲哀の話はこの辺りに触れている。
で、韓国側が切り札として差し出したのが、「造船」である。実際、交渉前からアメリカ国内への工場設置や、米軍艦艇の整備事業受注など、布石は打たれていた。
韓国造船業が世界2位のシェアを誇っていることは、知られた話だ。
技術者が1ミリメートルの誤差もなく設計図面通りに鋼材を精密に溶接し組み立てるよう管理する精度管理エンジニアリングのノウハウを米国人スタッフに伝授している。ここではイさんのほかにも韓国でリタイアした溶接工や塗装工など技術工程の専門家が米国人教育生を訓練中だ。
~~略~~
MASGAプロジェクトに韓国のリタイア者を活用する案は、2009年にアラブ首長国連邦(UAE)バラカ原発輸出の際に韓国水力原子力が退職者を活用したことからアイデアを得たという。
中央日報「退職した韓国人技術者迎え入れるMASGA~」より
技術力がそんなにあるのか?という点はやや疑問で、造船業のレベルで「1mmの誤差もなく」って、ちょっと常識を疑いたくなる誇張表現だと思うが、まあいいや。
整備事業は韓国内でできるのか
アメリカ海軍の艦艇整備事業について、韓国企業が実際に受注したとの報道も出てきている。これは交渉前に既に決まっていた話だと思うが。
韓国のHD現代、「MASGA合意」以後、米軍艦艇の整備事業を初受注
登録:2025-08-07 06:45 修正:2025-08-07 10:15
韓国のHD現代重工業は6日、韓国と米国政府の造船業協力プロジェクト「MASGA」(「Make American Shipbuilding Great Again:米国造船業を再び偉大に」)の合意後初めて米国海軍艦艇の維持・補修・整備(MRO)事業を受注したと発表した。
ハンギョレより
HD現代重工業は、第7艦隊所属の補給艦「アラン・シェパード」の整備を韓国内の施設で行うという。
HD現代重工業は、米海軍第7艦隊の4万1千トン級軍需補給艦「アラン・シェパード」の定期整備を担当し、HD現代の尾浦付近の岸壁で作業を行った後、11月に米軍側に引き渡す予定だと明らかにした。今回の受注はHD現代重工業のこの分野初の受注でもある。HD現代は今年初め、米国海軍のMRO事業に進出すると宣言したが、ハンファオーシャンが3隻を受注する間、成果がなかった。
ハンギョレより
補給艦ということで、特別な兵装が取りつけられているわけではない。実績づくりとしては妥当なスタートかもしれない。
ただ、これが続くかどうかは別問題。 将来的には、米国内で整備拠点を作るよう求められていて、韓国国内での造船事業拡張に繋がるかは怪しい。
米海軍艦艇のMRO事業は、政府と造船業界が米国現地への投資および米国の造船人材育成と共に強調する分野だ。HD現代重工業のチュ・ウォンホ特殊船事業代表は「今回の受注は政府が韓米造船協力プロジェクトである『MASGA』を提案してから実現した初の受注で、意味が大きい」と語った。HD現代は4月に米国最大の防衛産業造船会社「ハンティントン・インガルス・インダストリーズ」、6月には米国造船グループ会社「エジソン・シュースト・オフショア」と軍艦と商船分野の技術協力と共同建造のためのパートナーシップを結んだ。
ハンギョレより
つまり、今のところ「韓国製の整備」でOKでも、いずれ「米国産」に切り替えるよう圧力がかかる可能性は高い。
人手不足は韓国でも
MASGAの柱となる「リタイア人材の再活用」は、華々しい話ではあるが、裏を返せば韓国国内でも人手が足りていないことを意味している。
人手不足の韓国造船会社、今年の新規採用の86%が外国人労働者
登録:2023-11-08 06:27 修正:2023-11-08 08:45
人手不足に直面している韓国造船業界に今年新規採用された生産人材の86%は、外国人労働者であることが分かった。
産業通商資源部は7日、今年に入ってから第3四半期まで、韓国人と技能人材(E-7)または低熟練人材(E-9)ビザを持つ外国人を含む計1万4359人が国内の造船業界に新規参入したことを明らかにした。これは、今年末まで韓国造船業界で不足すると見込まれた1万4000人を超える人数だと政府は説明した。
今年、造船会社に新規就職した生産人材の86%は外国人労働者だ。
ハンギョレより
こんな状態なので、当然、労働者をアメリカに送るというのは現実的ではなく、リタイア組を送ったというのはある意味当然というか。
フィリー造船所に退職者を含め50人を派遣したハンファオーシャン関係者は「数カ月運営したが韓国人専門家の技術伝授に対する米国スタッフの満足度は高い。退職した熟練人材の米国派遣を拡大できるよう韓国政府と協議する予定」と話した。
中央日報より
おそらく、初期はそれなりの人材を送ることが可能で、喜ばれると思われる。
問題は、「今後どうなるか」だよね。韓国の労組に深くかかわってきた人々が造船業に関わることをアメリカ側も懸念しているらしいという話はちらっと聞いた。
支那との関わりも懸念
アメリカ側としては、他にも心配事があるようだ。
「トランプ関税」の合意の一等功労者と言われたが…3つの障害に阻まれて揺らぐ韓米船舶協力
2025.8.6. 19:51
△米国造船業の復活のためには、造船分野の熟練労働力を支援することが重要だが、韓国は50~60代の熟練工を派遣する計画を持っている一方、米国は強硬な労働組合の傾向が米国造船業に波及するのを懸念している点が第一の要因だ。 △米国政府は、国内造船企業の最大の関心事である米国戦闘艦・支援艦などの軍艦建造を、韓国造船所ではなく米国国内の造船所で実施することを希望している。 △韓国造船会社が年間数千億ウォンに上る船舶用エンジンを中国に輸出している点も問題視されている。
毎日経済より
こちらの記事の方が詳しくて、人材の心配に関して、韓国側の懸念にも言及されている。
造船業界の関係者は「米国では造船エンジニアをほとんど輩出できていないが、国内では20校以上の大学で若年層のエンジニアを輩出している」と述べ、「彼らは韓国よりも給与が高い米国に進出することを望む可能性もある」と語った。
毎日経済より
あー、なるほどね。ヘルコリアよりもアメリカへ!と。そりゃ勝ち組になれる可能性があるので、韓国が逆に人材流出の懸念はしなくてはならない可能性はある。
そしてこの部分、支那に情報漏洩が起きるのではないか?という懸念だ。
米国は、事実上中国に後れを取っていると判断される造船業と海軍艦艇の近代化が重要である。これは、韓国が生産した先端船舶エンジンを中国に輸出することが目的と一致しないためである。この情報筋は「米国は、韓国が中国に輸出する船舶用エンジンが中国軍艦などに利用されることを懸念している」と伝えた。
韓国貿易協会とKOTRAなどによると、韓国の対中船舶エンジン輸出は2022年の1億3,100万ドルから昨年は2億9,500万ドルまで2倍以上急増した。今年1~5月にも1億2,700万ドル相当の船舶エンジンを中国に輸出した。中国の船舶エンジン輸入において、韓国はシェア1位を占めている。
毎日経済より
韓国から支那に船舶エンジンが輸出されているそうだが、実のところそんなことが問題ではない。アメリカの軍事技術が整備を通じて支那に漏れる可能性について懸念をしているのだと思う。
そうすると、アメリカは韓国からの造船に関わる技術支援を歓迎するけれども、スパイはお断りという話になりそうで、セキュリティクリアランスにも気を遣う必要性がある。
だとすると、韓国が描いているようなバラ色の展開になるのか、疑問に思える。
日本も造船業の話題は出していたが、流石に慎重だった話は紹介した。そう簡単な話ではないのだよね。
追記
宿題をいただいたので、分かっている範囲での韓国造船業の強みを洗い出してみよう。
日本と比較した韓国造船業の強みまとめ
1. 大型設備投資に裏打ちされた生産キャパシティとスケールメリット
- 世界最大級の造船所群を保有し、年間数百隻の大型船舶を建造可能な規模感がある。
- これにより大量受注・大量生産が可能で、コスト競争力を発揮している。
2. 効率的で標準化された製造プロセス
- ブロック生産方式の高度な活用、作業の細分化・標準化によって、
- 工数削減や建造期間短縮を実現し、受注拡大に対応。
3. 積極的なデジタル化・スマートヤードの導入
- ICT、リアルタイム進捗管理、ロボットやVR活用による効率化を積極推進。
- 生産管理や品質管理のデジタル技術で先行。
4. 政府の強力な支援による投資環境の整備
- 大型設備投資や技術開発を支えるための財政支援・低利融資体制が充実。
- これが経済的なリスクヘッジとなり、継続的な投資を促進。
要点の抽出
韓国造船業の「技術力」は単に設計力ではなく、大規模設備投資と政府支援を背景に、効率的な製造プロセスとデジタル化で世界市場を席巻している点が最大の強みだと纏められると思う。
これをどのようにアメリカに提案するか?なのだが、結局のところ韓国の強みは最新の造船設備ということになってしまうので、アメリカで新たに最新の造船工場を作らないとという話になりそうだ。しかし韓国造船業は政府支援を背景にした赤字覚悟の受注競争をして、その為に造船設備を交信し続けたところが強みである。
そうすると、1,000億ドル大型投資をして最新の造船工場を作り上げる、というのは韓国の造船業にもないような最新の工場を作るよという前提の金額なんだろうね。
この金額には、以下のような内容が含まれるとされている:
- 造船所の建設・運営支援:韓国の造船企業がアメリカ国内で造船所を新設・運営するための支援。
- 技術移転と人材育成:韓国の先進的な造船技術をアメリカに移転し、現地での技術者の育成を行う。
- 政府主導の金融支援:韓国政府の金融機関(例:韓国輸出入銀行、韓国貿易保険公社)による資金提供や保証を通じて、アメリカでの造船業再建を支援。
1,000億ドル規模で足りるかは知らないが、これを民間に出せと言うにはちょっと無理があるだろう。どう考えても韓国政府が債務ガン積みでやらないと、実現出来ない話。
大統領室の金容範政策室長は7月31日、竜山大統領室で行われた韓米関税交渉を説明するブリーフィングで、「韓米造船協力ファンド1500億ドルは、船舶建造、MRO(維持・修理・整備)、造船用部品など造船業のエコシステム全体を包括しており、韓国企業の需要に基づいて具体的なプロジェクトに投資される予定だ」と明らかにした。続けて、「特に世界最高の設計・建造競争力を持つ韓国の造船企業と、ソフトウェア分野に強みを持つ米国企業が力を合わせれば、自律航行船など未来分野でシナジー(相乗効果)を生み出すことができるだろう」と述べた。
1500億ドルという金額は、7月30日終値基準の韓国造船大手3社の時価総額合計(約88兆ウォン)の2.4倍に相当し、個別企業がこれを負担するのは難しい。このため、ファンドの財源は造船会社の現地直接投資のほか、韓国輸出入銀行や韓国貿易保険公社など政策金融機関の融資・保証が相当部分を占めるとみられる
中央日報より
流石に、それやっちゃうと韓国造船業は生きていけないよ……。
金室長はこの日のブリーフィングで、「交渉の過程で『造船ファンドをもっと拡大できる』と話したが、米国側は『それほど投資先がない』として難色を示した」と説明した。韓国企業の米国進出効果が確実な造船業投資ファンドに対し、韓国政府が積極的だったということだ。
中央日報より
まあ、韓国政府もちょっと1500億ドルの提案には及び腰で、最終的には1000億ドルにしたらしいんだけど、それも足りねぇよ。
一部では、大規模な対米投資によって国内生産の縮小を懸念する声もあるが、企業側は国内投資も継続する方針だ。ハンファオーシャンは2026年までに1兆9760億ウォンを国内に投資し、造船所の近代化を進める。HD韓国造船海洋も今年、製造設備に1兆515億ウォンを投資する予定だ。
中央日報より
巨額の設備投資は、韓国造船業の生命線なんだから。
それこそ、そこが細ったら終了してしまうのでは?大丈夫なんだろうか、この先。
……あ、アメリカに提案するストロングポイントの話だった。ええと、纏めると、韓国のなりふり構わない設備投資こそがポイントじゃないですかね?
コメント
感想と言うより以下、無理難題おねだりになってるかも(^-^;
申し訳ございません>木霊様
韓国の造船業の強みって具体的に何なのでしょう? それが知りたい。
少なくとも 中央日報の精度<1mmのネ申溶接工は、文系記者の創作っぽいですね。ネ申溶接工なら米国にも居ます(ソースは秘密、笑)
話変わって、貨幣経済の宿痾として発展と共にモノ作りは割に合わなりますが
近代 特にニクソンショック後の乱暴に言えばドル本位制は米国のそれを加速し、本話題の造船も加速度的に割に合わなくなった米国産業の一つです。
何が言いたいかと言えば
宿痾と表現したように、造船が割に合わなくなるのは米国ほど早くないだけで日、韓、中も 同じ。
違いはタイミングが後者ほど遅いことだけ
即ち 後者ほど産業衰退前に取り込めた技術が新しく
「米国衰退後に発展させた、取り入れた何か」
があるはず。
それの韓国版が知りたい。
船造る場所が米国なら、働く人間がどこ国籍でも人件費はは米国水準になる訳で、
なら違いはそこに注入出来る「韓国版の何か」
によるはず。
「何か」の推定。この知識が私には決定的に不足してます。私が持ってるのは主に航空万能さんの所の引用ニュース、米やポーランド将軍が韓(や日)の造船所や戦車工場見学して驚いてる感想で
①24h稼働の溶接ロボット
②コンピューター工程管理
で、特に②は船の・工程進行状況・いつ出来るか
をサプライチェーン含め全てリアルタイムで把握出来てる
ことを驚いてる!
失礼ながら如何にも文系官僚?な将軍のガッカリ感想です
( カンバン導入すりゃノーコンで十分)
まあそれでも①は、フォード式流れ作業じゃない戦車ラインの溶接ロボットが24時間稼働
…ならそれは、超多用途、カンバンリンクのロボットだし
②はK民族は偏見でカンバン導入しないので
K独自のサプライチェーンvs実工程リンクのシステムなハズ
わーくにはカンバンが余りに上手く行って倦かいて進歩鈍化してるかも、に対する進化型かもしれない。
K方式は品質は日本に劣るかも知れない。しかし日本の<ppm狙いは明らかに過剰品質でこれが志那に負ける理由とは、以前に木霊様にご教授頂いた情報
K国は死に体ながらわーくにより造船力(数)上なので、その秘密?かもは知りたいですm(_ _)m
オマケ 笹川財団の韓国人の米国造船力跳落の分析、関連にAUKUSも
https://www.spf.org/iina/articles/sanghoe_lee_04.html
また、重めの課題をいただきましたな。
とりあえず、分かっている範囲で追記に纏めてみましょう。もしかしたら、どこかでもっと違う情報があれば更新する可能性もあるので、現段階の暫定版と理解ください。
おねだり追記ありがとうございます。結局韓国造船の強みは、
超大規模・大型・最新技術の工場群と人で、これを世界寡占的な大量生産でペイさせ、逐次更新して最新性を維持する。
毎年数兆円の設備投資をするTSMCやサムスン電子と似た戦略面は似てる
てことですか。造船方面での最新性・技術面が理解できないのが個人的に悔しいですがまたいずれ(笑)
しかし上記を、韓米造船協力ファンド1500億ドル、米国に貢いで、民間だけじゃ不可能だから韓国政府がファンド、、も額だけでも今の韓国政府には不可能な気がするし、ペイ出来る大量需要がないと強みは維持できないので、こちらも現実未がない。
これ実は日米や欧米の交渉と同じ、どうせ来年には無効になるからがホンネの口から出まかせ約束じゃないですかね?
一方、以前からの民間MASGAの動きは、儲けが出ない動きをするわけないし、例えばブロック生産方式のバックエンド工場は韓国の物を使うとかで、だけど関税でおじゃんになってるとかでしょうか?
いえいえ、調べてもこの程度しかわからないんですよね。
何か、「すごい技術があるニダ」的な報道はチラチラ見るんですが、結局それは何?ということに踏み込んでいるのは探せなかったんですよね。
で、調べた限りは力技で今の地位を確立した感じが否めません。
まあ、なにか技術は獲得していると思いますが、きっと、多分。
ただコレ「言ってみただけ」みたいな話だったとすると、アメリカ側も割とブチギレ案件のような。トランプ氏の政策はろくな結果を生み出さないような……。