この時期になると、報道されるねぇ。
日航機墜落事故から40年 慰霊登山に続き追悼慰霊式 祈りの一日
2025年8月12日 19時41分
520人が犠牲になった日航ジャンボ機の墜落事故から8月12日で40年です。墜落現場となった群馬県上野村では、遺族や関係者による慰霊の登山が行われました。現場のふもとにある追悼施設「慰霊の園」では追悼慰霊式が行われ、墜落時刻の午後6時56分に黙とうをして、犠牲者を追悼しました。
NHKニュースより
そして、陰謀論もまた盛り上がると。
- 520人が犠牲になった日航機事故から40年
- 解明されていない点もあるが、事故原因は概ね判明している
- 陰謀論にはご注意
事実は一体何処に?
基本的な部分のおさらい
改めて、日航機事故に関して基本的なところを整理しておこう。
基本情報
- 発生日:1985年8月12日
- 便名:日本航空123便(JAL123)
- 機種:ボーイング747SR-46(機体記号:JA8119)
- 出発地:東京国際空港(羽田)
- 目的地:大阪国際空港(伊丹)
- 乗員・乗客数:524名(乗員15名、乗客509名)
- 死者:520名(単独航空機事故として世界最多の犠牲者数)
- 生存者:4名(全員女性、尾部付近座席)
- 事故場所:群馬県多野郡上野村・御巣鷹の尾根
事故の経緯(時系列)
- 18:12 羽田空港を離陸
- 18:24 後部圧力隔壁破壊 → 垂直尾翼大部分喪失 → 全油圧系統喪失
- 18:24〜18:56
- 操縦不能状態で機体は上下・左右に不規則な動きを繰り返す
- 乗員は無線で緊急事態を通報し、復旧を試みる
- 18:56 群馬県御巣鷹山の山中に墜落
- 翌日早朝 捜索隊が現場到着、生存者4名を救出
原因(公式調査報告)
- 直接原因:後部圧力隔壁の金属疲労による破壊
- 根本原因:1978年の尾部損傷修理の不適切な施工(設計と異なる二枚継ぎの補強板使用+リベット不足)
- 破壊により急減圧が発生、垂直尾翼と油圧系統が損壊 → 操縦不能に
現状、この悲惨な事故は事故調査委員会によって明らかにされたところによると、後部圧力隔壁の修理が不十分であることで引き起こされた事故であるということがわかっている。

後部にある圧力隔壁は、修理されていたがこの修理が不適切であったというのだ。
修理ミスの原因
慰霊日に先立って米ボーイング社への聞き取りの内容が報じられている。
<独自>日航機墜落事故40年 米ボーイング、修理ミスの理由説明「設置困難で部品切断」
2025/8/6 22:00
12日で発生から40年になる日航機墜落事故を巡り、米ボーイング社は産経新聞の取材に応じ、事故原因とされる接合板(スプライス・プレート)を2枚使用した機体の修理ミスが起きた理由について「設置することが構造上困難だったため」と明らかにした。当時の旧運輸省航空事故調査委員会の調査や、警察の捜査では担当者への聞き取りができず、2枚のプレートを使用した修理ミスが起きた理由は判明していなかった。
産経新聞より
圧力隔壁の修理は、リベットを用いて修理がなされていて、本来であればこのような修理が行われる必要があったとのこと。

どうしてこのような修理が行われたか、について産経新聞の調査で明らかになったという。
このとき、接合部にあてるプレートが指示書では1枚だったのに対し、2枚に切断されたものが使用された。隔壁はプレートを挟む形で鋲留めされたが、本来の仕様より強度が7割に落ち込み、最終的に墜落事故につながったと事故調の報告書で結論付けている。
だが、2枚のプレートを使用した理由は長く判明していなかった。ボーイングは取材に「プレートを所定の位置に設置するのが難しく、2つに切り分けて設置しやすくした」と説明した。
ボーイングは昨年9月、日航機墜落事故に関するページを公開し、この内容を示していた。米連邦航空局(FAA)も、公式サイトで「隣接する構造物との複合的な湾曲のため設置が困難だった」と記載している。
産経新聞「<独自>日航機墜落事故40年~」より
色々書いてあるが、要約すると「修理しにくかったから、手抜きしちゃった」という意味になる。公式サイトには「隣接する構造物との~」と言い訳が書かれているが、しかしコレは不自然な言い分である。なぜなら、製造する時にも同じ構造であったはず。
まあ、プロがそういうのだから、「設置が困難だった」ことは間違いないのかもしれないが、それは強度低下させていい理由にはならない。この修理の結果、隔壁の強度は設計時の約7割にまで低下したのだとか。
修理が行われたのが1978年で、事故発生は1985年8月12日。不完全な状態の修理によって部分的に金属疲労が生じて、事故の引き金を引く破壊に繋がったというのが定説である。
陰謀論と根拠の乖離
陰謀論の総本山
というわけで、概ね事故原因は判明していて、謎は残るもののこの事実を覆すほどの話ではないということは分かっている。
分かっているのに、陰謀論が色々出ていて、一番多いのが「自衛隊犯人説」で次に「米軍犯人説」である。……意味がよくわからない。
意味はわからないが、この類型の◯◯犯人説を検討する時に採用してはいけない書物がある。それが青山本と呼ばれる、正体不明の作者による書籍である。



この手の書籍を乱発しているのが青山透子なる人物なのだが、正体は不明。本人曰く、元日本航空の客室乗務員であったとしているが、それが事実かどうかは不明。顔出しNGのノンフィクション作家なのだが、作風はフィクションに満ちている。僕は1冊しか読んでいないけれど、失礼ながら読む価値なしと判断した。
書籍を引用するのもどうかと思うので、インタビュー記事を引用する。
日航機墜落事故・自衛隊関与説の著者「科学的証拠で論証している」
2025/8/9 13:00
12日に発生から40年となる日本航空機123便墜落事故の原因について、自衛隊の関与の可能性を主張している元日航客室乗務員でノンフィクション作家、青山透子氏が産経新聞の取材に応じた。青山氏には事故を題材にした著書が複数ある。産経ニュースが5月1日に青山氏の主張に反論する自衛隊OBらによるシンポジウムなどを報じた際、青山氏は後日取材に応じる意向を示していた。
《青山氏の著書は、123便が相模湾(神奈川県沖)上空中、垂直尾翼がミサイルによって誤射された可能性を指摘する。当時、同湾で護衛艦「まつゆき」がミサイルの実験中だったとして関与を示唆する》
──まつゆきが墜落に関与したのか
「分からない。あくまでも仮説の一つだ」「乗客が機内から外を撮影した風景写真に丸い点のようなものが写り込んでいた。分析すれば、オレンジ色の飛翔体であることが判明した。ミサイルか標的機か、糸の切れたタコみたいにぶつかったのではないか。墜落直前に子供たちが『赤い飛行物体』を見たと証言している」
──まつゆきは事故当時、石川島播磨重工業(現IHI)の所有船舶で、民間人も乗り込んでいたが
「(民間人も含めて)口封じは生半可なものではなかったようだ」
産経新聞より
この青山本の特徴は「仮説の1つ」としつつ、それを事実のように扱って、仮説に仮説を重ねていくスタイルなのだ。「読む価値がない」とはまさにその部分である。
このブログでも仮説を重ねるスタイルはやるが、仮説の上に仮説を重ねると、それはもう陰謀論にほかならない。
困ったことにこの人のスタイルは、もう1つ。都合の良い証言をつなぎ合わせるパターン。
証拠採用は事実とは限らない
幾つか出てきたのが「裁判所に証拠として採用された」という話。
──墜落直前にF4が追尾したという公式記録はない
「記録と目撃証言は別だ。私が発掘した昭和60年10月号の『上毛警友』(群馬県警本部発行)には、陸上自衛隊第12偵察隊(群馬県榛東村・相馬原)の一等陸曹、M・K氏の手記として『午後6時40分頃、実家(吾妻郡東村₌現・東吾妻町)の上空を航空自衛隊のファントム(₌F4)2機が低空飛行していった』と記されている。遺族の情報開示裁判でも証拠採用された」
産経新聞「日航機墜落事故・自衛隊関与説の著者~」より
裁判において、「証拠採用」というのは、その内容が本当かどうかのバロメーターにはならない。なぜなら、形式が整ってさえいれば内容の如何にかかわらず証拠としては採用される。
「子供の証言も過去の飛行機事故をめぐる裁判で採用されている。60年9月30日発行の同県上野村立上野小学校の事故に関する文集には『大きい飛行機と小さいジェット飛行機2機』を目撃したと書いている。こういう子は中学校にも何人もいた。当時の校長に平成26年6月にインタビューしたが、F4と思われるものが飛行する音を聞いていた。追尾の記録が存在しないから『ない』ということにはならない」
産経新聞「日航機墜落事故・自衛隊関与説の著者~」より
そして、その証言というのはこの程度の話。
目撃証言を採用しているのだが、事件との関連性は全く不明。どう考えても根拠とするのには弱すぎる。子供の証言が信用できないという意味ではなく、時間が特定できていないので、全く無関係な証言である可能性を排除できないのだ。
都合の悪い証拠は無視する
更にこんな主張も。
──シンポジウムではF4と民間機が直接交信できないと主張されている
「ウソだ。ならば、民間航空機に領空侵犯された場合、自衛隊機はどう呼びかけるのか。昭和58年の大韓航空機撃墜事件でソ連軍が民間機と交信した記録もある。それを傍受したのは自衛隊だ。シンポに参加した自衛隊OBに知識がなく、不都合なところがカットされて主張されている」
産経新聞「日航機墜落事故・自衛隊関与説の著者~」より
「ウソだ」ってあなた……。
当時のF4戦闘機はUHFとVHFの通信可能な機器を積んでいるので、民間航空機が使うVHFの周波数帯を使うことは可能であると考えられる。そういう意味では青山氏の主張には一見、正当性があるように思える。
だが、この話は2つ問題点がある。1つは、出動記録の話。事故当時、123便が緊急信号(スコーク7700)を発信した後、航空自衛隊は百里基地(茨城県)からF-4EJ戦闘機(偵察型)を緊急発進させた。F-4は高高度を飛行し、レーダーや目視で123便の位置を確認する役割を担っていた。123便は操縦不能状態で異常な飛行経路を繰り返しており、F-4が至近距離で追尾するのは危険かつ困難だったと考えられる。ジェット戦闘機は低速飛行はあまり得意じゃないしね。というわけで、通信する必然性がなかったと考えられる。公式にも通信したという記録は残っていない。
もう1つは、軍用機と民間機が異なる通信周波数帯やプロトコルを使用しているため、緊急時に直接交信するように軍用の周波数から民間用の周波数を合わせる必要がある。果たしてその必要性を感じて周波数合わせを行い通信したか?というと、かなり怪しい。そうしないために、管制を介した間接通信を行う手段があるのだが、これも行ったという記録がない。そうすると、交信した話を前提に主張を通すのには無理がある。
その他にも
更にこんな主張もある。
《著書は、墜落現場で「ガソリンとタールの混ざったような臭い」と感じたという消防団員の証言を紹介。「証拠隠滅」のために自衛隊員が火炎放射器で乗客の遺体やミサイルの痕跡を焼却した可能性を主張する》
「機体の残骸も大学で調べた。ベンゼンや硫黄、クロロフォルムまで入っていた。これらは火炎放射器の燃料に含まれる。科学的思考からすれば、湿度70%超の夏の山にほうり出された遺体が完全に炭化するわけがない。カバンやぬいぐるみはそのままの形で残ったが遺体には二度焼きした痕跡も確認された。他の航空機事故の遺体も調べたが、空に面した方は焦げていても、地面に面した方は生焼きだった」
産経新聞「日航機墜落事故・自衛隊関与説の著者~」より
もはや妄想の類である。
なんというか、証拠隠滅のために火炎放射器を持ち出したという話、前提としてF4戦闘機が123便を撃墜したという話がないと成り立たず、この撃墜する理由が「F4戦闘機の誤射を隠すため」というお粗末さ。
いや、なんで撃墜可能なミサイル持ってF4戦闘機が飛行しているのよ。まずそこがわからない。仮に、実弾を持ってF4戦闘機が飛行していたとして、誤射とはいえ民間機にロックオンして発射し、命中させたことになる。流石に無理がある。
CVR・FDRの記録からも、撃墜を示す衝撃波・爆発音などの異常は確認されていないので、「政府が隠蔽した」「自衛隊が隠蔽した」というのはもう、妄言であると断言しても問題あるまい。

他にも、こんな感じで過去の出来事をおもちゃにしている輩がいるが、故人の尊厳を冒涜する行為であり、真相解明には程遠い行為のように映る。
僕の知らない真実が何処かにあるのかもしれないが、少なくとも今まで説得力のある「真実」とやらに出会ったことがないので、現時点では公表されている内容で納得するよりあるまい。
陰謀論の整理
というわけで、キリのない陰謀論だが、一応類型を纏めたものを作っておく。
日航機事故・陰謀説マップ(概要)
1. 公式説明
- 事故原因:後部圧力隔壁の修理不良 → 再加圧で破断 → 垂直尾翼損傷 → 操縦不能
- 証拠:破壊パターン、残骸の形状、FDR/CVR記録、修理記録
- 評価:技術的・物理的証拠と一致
2.陰謀説①:F-4撃墜説
- 主張:自衛隊F-4が撃墜(誤射or意図的)
- 理由として挙げられるもの:
- 近くを自衛隊機が飛んでいた
- 山中の火災や残骸の一部に「焦げ跡」
- 火炎放射器で現場を焼いたという噂
- 論理的問題点:
- 動機が不明(政治・軍事コスト大)
- ミサイル破片痕や爆発痕が残っていない
- 誤射でも交戦規則や当日の任務と合致せず
- 火炎放射器の使用は確認されていない
3. 陰謀説②:米軍関与説
- 主張:米軍機(F-15やAIM-7)による撃墜
- 理由:
- 当日米軍の訓練があったという話
- 米軍が現場に先行到着したとの噂
- 問題点:
- 米軍訓練は別地域・別高度
- 米軍到着説は証拠なし
- 同様に破片痕が一致しない
4. 陰謀説③:証拠隠滅説
- 主張:現場焼却や残骸回収で真相隠蔽
- 理由:
- 山中の火災映像・現場の焼け跡
- 自衛隊の現場警備
- 問題点:
- 山火事は墜落炎上による自然延焼で説明可能
- 焼却で証拠を完全に消すのは不可能
- 警備は救助活動と遺体保護のため
5. 陰謀説④:米軍救助拒否説
- 主張:米軍が救助可能だったのに命令で中止
- 理由:
- 米軍ヘリが現場近くにいたとの証言
- 問題点:
- 夜間山岳地形での救助は危険
- 日本政府が現場指揮権を持つため命令系統上の制約あり
こんな感じで、だいたい噂や偶然の一致を根拠にして珍説を作っている事が多く、見かけた中で物理的・記録的証拠と整合したものはなかった。
公式の事故調査委員会による発表は、少なくとも構造破壊・残骸の状況・記録データと矛盾しないので、事実として認定して良さそう。
まとめ
結局のところ、大切なのは再発防止である。
日航機墜落事故から40年 “安全確保に取り組む”中野国交相
2025年8月8日 13時57分
520人が犠牲となった日航ジャンボ機墜落事故から今月12日で40年となることを受けて、中野国土交通大臣は8日の閣議のあとの会見で、「さらなる安全を築き上げるため、安全確保に向けて取り組んでまいりたい」と述べ、安全対策の強化を進めていく考えを示しました。
NHKニュースより
国交相が発表したように、安全性の強化を図り、是非とも快適な空の旅ができるように取り組みを強化して欲しい。
陰謀論を楽しむのは勝手にされれば良いが、それを商売の種にして11冊もおかしな本を出版されたり、それを事実であるかのように広めたり、毎年のようにおかしな説を発表するのは是非やめていただきたい。
コメント
他にもミサイルなどの外部要因の根拠として事故調査報告書に記載の「垂直尾翼に11tの異常な外力が加わった」とされている部分を外力の意味も知らずに外力だから内部の圧力隔壁の破壊が原因でなく外部からの影響(ミサイル、衝突?)があったとする珍説も陰謀論ではよく見かけます。
事故調査報告書の意味するところは圧力隔壁の破壊により垂直尾翼が変形したことで高速で飛行中ですから垂直尾翼に大きな力が加わり垂直尾翼の破損につながったということなんですけどね。
陰謀論者や陰謀論信者は外力は変形に伴う想定外の空気・水などの抵抗力、重量物の静荷重、衝突による衝撃荷重など外から作用するであり内力は外力による変形などに抵抗する力だから垂直尾翼の破壊のような事例で外力以外の言葉が使われることはないといことを理解っていないか陰謀論に都合が悪いから理解しようとしないようです。
あー、ありましたね「外力」問題。
理系というか力学の言い回しというか、「内力」「外力」という言葉の使い方をする(外力は物体に外部から作用する力、内力は物体内部で発生する力)のですよね。
何と言うか、日本語の問題でもありますから、主語が何処か?を考えれば、そういう発想にならないと思うんですが、どうにもそういう発想をしたい方々には都合が悪い指摘らしく、垂直尾翼が主語なら外力は機内からの力でも矛盾はないでしょうに……、そう理解いただけないようで。