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トランプ関税が違憲?判断の行方

北米ニュース
この記事は約9分で読めます。

噂はあったけど、そういう判断になったか。

トランプ関税の大半は違法、米控訴裁判所が判決

2025年8月30日午後10時49分 

ニューヨーク、8月29日(ロイター) – 米連邦控訴裁判所は29日、ドナルド・トランプ大統領の関税の大半は違法だとの判断を示し、共和党大統領が関税を主要な国際経済政策手段として利用していることを否定した。

裁判所は、トランプ政権に米国最高裁判所に控訴する機会を与えるため、10月14日まで関税を維持することを認めた。

ロイターより

今のところは、上告が可能なので決定が下った訳ではないが、前から「ちょっとね」と言われていたのだけれど。

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判決はアメリカ経済に大きく影響

大統領権限は何処まで認められるのか

以前紹介した記事をまず紹介しておこう。

この記事で、関税交渉は国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づくもので、通常の手続きに基づかないものだから、合意文書が出せないよ、という内容を紹介した。

が、元々、無理筋の手段ではあったので、法的な判断がされるというのは健全だとは言える。

トランプ大統領は、裁判所の決定を「極めて党派的」だと非難し、トゥルース・ソーシャルに「もしこれらの関税が撤廃されれば、国にとって完全なる災難となるだろう」と投稿した。それでも彼は判決が覆ることを予測し、「最高裁の助けを借りて」関税が国に利益をもたらすと予想していると述べた。

ロイター「トランプ関税の大半は違法~」より

結局のところ、IEEPAを根拠とした関税交渉が認められるのか否かという話。

今回の判決の要旨

で、現時点では米控訴裁判所が判決を出した段階で、次は最高裁の判断が早くて今年末にあるので、そこで方針が決まることになる。

控訴裁判所の判断の論旨はこんな内容だ。

1. 憲法上の大原則

  • 米国憲法第1条第8節は、「関税や通商の規制を含む課税権限」を連邦議会に付与している。
  • 大統領には直接「関税を課す権限」は与えられていない。

2. 例外と大統領への委任

しかし現実には、議会は通商拡大法(Trade Expansion Act of 1962)や通商法(Trade Act of 1974)などの法律で、大統領に 一定の条件下で関税を調整する権限 を委任している。

  • 代表例:通商拡大法232条(国家安全保障を理由に関税を発動できる)
  • 代表例:通商法301条(不公正貿易に対抗するための関税)

この委任があるため、トランプ前大統領が2018年以降に発動した鉄鋼・アルミへの追加関税(いわゆる「トランプ関税」)は「大統領専権」ではなく、「議会からの委任に基づく行為」という形を取っている。

3. 違憲性が争われた事例

実際、トランプ関税は企業や業界団体から違憲性を訴えられた。主張は、

  • 議会が本来持つ権限を過度に大統領に委任している(非委任原則違反)
  • 関税権限の行使が憲法上の分立原則を逸脱している
    といったもの。

しかし、米国連邦裁判所(例:American Institute for International Steel v. United States, 2019)は、「232条による権限委任は合憲」と判断し、最高裁も上告を受け入れなかった。つまり現状では「違憲ではない」とされている。

4. まとめ

  • 理論的には:関税は議会権限なので、大統領が独断で課せば違憲。
  • 実務的には:議会が制定した法律に基づき委任された権限を使っているので、トランプ関税は違憲ではない。
  • 今後の可能性:もし新たな「大統領裁量による一律関税」などが導入された場合、議会権限の過剰な侵害として違憲訴訟に発展する可能性はある。

今後の展開

原則論から言えば、恐らくは最高裁は違法性を認める可能性が高く、そうすると一部の関税交渉を除いて各国との交渉は無効になる。

元商務省高官で現在は戦略国際問題研究所(CSIS)に所属するウィリアム・ラインシュ氏は、トランプ政権はこの判決に備えていたと述べた。「政権がこの判決結果を予想し、おそらく他の法令によって関税を維持するプランBを準備していることは周知の事実だ」

ロイター「トランプ関税の大半は違法~」より

最高裁が何処までを違法とするかは分からないのだが、全てが駄目ということにはならないだろう。

記事にもあるようにトランプ政権も判決に対応できるように他の法令による関税維持を図る可能性が高いため、どのような判断になるにせよ、ある程度の関税率は維持される。

一方で、少なからず関税率が引き下げられる為に、「違法分」は各国に返還される必要があり、関税で得られた税収で政策を行っている部分の補填を何らかの手段で行わねばならず、アメリカ政府の資金がショートする可能性もある。

何れにせよ、現状の税率は2025年末、或いは2026年の中盤までくらいは維持されるだろうから、そのような立ち回りを各国は求められるということになる。

そして、アメリカ経済にはかなり大きな影響を与えることになる。合憲判決、違憲判決何れの場合にもインフレ圧力が高まる展開が予想されるからね。

追記

コメントを頂いたこともあって、2つほど整理しておきたいと思う。

覚書の話

まずは、石破政権で唯一の成果と思っている、アメリカとの交渉担当を赤澤氏に任命した件。これは、石破氏の成果というにはやや違う気もするので成果とはカウントしていないが。

赤沢再生相、対米投資5500億ドルで覚書 自動車関税引き下げ2週間以内

2025年9月5日午前 10:16 GMT+92025年9月5日更新

訪米中の赤沢亮正経済再生担当相は現地時間4日、自動車関税などを見直す米大統領令の発出後に会見し、7月22日に合意した5500億ドルの対米投融資に関する覚書に署名したことを明らかにした。自動車関税は今後2週間以内に引き下げられるとの見通しも示した。

赤沢氏は覚書について、日米の共通理解を確認するためのものだとし、「5500億ドルを上限として投資・融資・融資保証を提供するとの(7月22日の)日米合意内容は変わっていない」と説明。「日本にもメリットがあるものを国際協力銀行と日本貿易保険が支援する」とした。

ロイターより

コレに関して、大統領令が出ている。

中身を読んでいただければ良いのだが、コレが結構長いので、要約しておく。

主な法的・行政的内容

  1. 関税引き下げ
    • 日本からの自動車輸入に対する関税を 27.5% → 15% に引き下げ。
    • 発効は署名後 7日以内
    • 過去に課された関税も15%に調整される。
  2. 関税の適用範囲
    • 関税引き下げは、自動車輸入に限定。
    • 特定の品目(商用航空機やその部品)は新たな関税対象外。
  3. 日米協定の実施義務
    • 大統領は米通商法に基づき、日米協定に沿った措置を実施。
    • 必要に応じて関税調整や報告義務を発動できる。
  4. 施行に関する指示
    • 関税率変更のために必要な規則や命令を、関連省庁(商務省、財務省など)に実施させる権限を大統領が明示。
    • 協定履行のための行政手続や報告書作成の指示も含む。

日本政府が米国に5,500億ドルの投資を行うことに合意した

ただし、文中には「日本政府が米国に5,500億ドルの投資を行うことに合意したこと」について言及されていて、これが日本円で80兆円相当であって、巨額だという批判を受けている格好だ。

行政的に実施する内容ではなく、日本が約束したよというふわっとした内容を文章に固定した形になっている。「これらの投資は米国政府によって選定される」という文言が書かれているので、このあたりが「日本に選択権がない」としてかなり問題視されてはいるんだけど。

今後の流れ

大統領令には出てきていない合意文書の話はNHKが解説していたのでこちらを引用しておこう。

今回、日本とアメリカは2つの文書をとりかわしました。1つ目が、ことし7月22日の日米合意の内容を文書化した「共同声明」です。

この中では、▽日本がアメリカ産のコメの調達をミニマムアクセスと呼ばれる枠組みの中で、75%増やすことや、▽大豆やトウモロコシ、肥料、バイオエタノールといったアメリカの農産品などを年間80億ドル規模、日本円にしておよそ1兆1800億円分、購入することが盛り込まれています。

また、▽LNG=液化天然ガスを含むアメリカ産のエネルギーについて、年間70億ドル規模、日本円にして1兆円あまりの規模で安定的かつ長期的に購入するとし、今後アラスカで産出されるLNGについても契約の可能性に言及しています。

加えて、▽100機のボーイング製の航空機を購入すること、▽防衛力整備計画に基づくアメリカ製の防衛装備品や半導体の年間調達額を数十億ドル規模で増やすこと、▽アメリカで製造され、安全が認証された乗用車について、追加の試験なしで日本国内で販売できるようにすることなどが記載されています。

NHKニュースより

ザックリいうとアメリカと日本とで商売をしようぜ、という話である。

トランプ大統領が自動車への関税を15%に引き下げることなどを盛り込んだ大統領令に署名したことについて、自動車メーカーの関係者からは「15%に落ち着いたことでまずは安どしている」とか、「関税によって日々、損失が生じている状況だったが、先般の合意がようやく動き出し、安どしている」といった声が聞かれました。

~~略~~

このため、自動車メーカーの幹部からは「依然として高い関税率で、これまでの自由貿易の前提は変わってしまった。価格戦略やサプライチェーンの見直しを含めた原価低減の努力など新しい前提のもとで、どのように競争力を維持していくか対策を急ぐ必要がある」として危機感を示す声が聞かれました。

NHKニュースより

そして、関税率が15%に決まったということで、商売の見通しが立つようになったことと、これまでのやり方は続けられないことがわかった。

関税の還付について

また、取りすぎた関税については還付される。

(d)本条の(a)項に定める関税は、2025年8月7日午前0時1分(東部夏時間)以降に消費のために輸入された、または消費のために倉庫から引き出された日本産製品に遡及して適用される。払い戻しは、適用法およびCBPの標準手順に従って処理されるものとする。

大統領令より

関税の仕組みとしては、こんな感じの説明図があると分かりやすいだろうか。この図は日本に入ってきた時に関税がかかることを説明する図なので、アメリカに輸入される場合はちょっと違うのだけれど。

関税の図解

日本からアメリカに自動車が輸出された場合、アメリカの関税で商品価格に対して15%課税される。このため、日本の自動車会社が課税分を支払うことになる。これは税金なのでアメリカ政府のお財布に入ることに。

通常は自動車販売額に価格転嫁されることで日本企業が課税分を回収するんだけど、ココのところの課税分は直ぐに価格転嫁して反映してはいないようで、赤字として処理されているっぽい。徐々に値上げするんだろうけどね。

で、課税額が「間違っていた」ことを認めたことで、取りすぎたアメリカ政府は返金する流れになるのだ。

関税分をアメリカ国民が支払うことになるという理解は間違いではないんだけど、それは自動車(他の物品でも同じ)に価格転嫁された場合なんだよね。

だから、違法性が認められた場合には巨額の還付金を支払うことになるよー、という話となる。「違法だから、適切な税額分との差額を返さなければ」ということだね。

コメント

  1. BOOK より:

    もう遅いんじゃ?

    第1
    アカザワが80兆円貢ぐ文書化した。 80兆円、日本の国家予算115兆円の約70%
    少なくとも財務真理教が今のままなら、資金循環、日本国債増発 米国債売却などまともな解決策はとらず「財源 増税」と言うでしょう。
    80兆円をTACO任期中、あと3年 80/3≒26.7兆円/年
    2025年の消費税収 24.9兆円

    消費税を21%に増税

    すれば大凡つじつま合う ように見える

    がこんな税率でしかも国内還元なし。な税だし大不況で税収減るでしょうね 日本財政がギリシャ並み、イシバの言は予言であったか(苦笑)

    第2
    例え来年最高裁でTACO関税に違憲判決出て、遡及返済が必要になったとして

    >「違法分」は各国に返還される必要があり

    これは違うのでは?

    関税払ってるのは米国の人達なので、

    返す相手も米国の人達

    日本等に来る訳じゃない。
    それまでに世界中の対米輸出産業は大打撃で弱ってるし、そこで米国内へは

    臨時 大ボーナス

    既に日本からの80兆円を含み世界中から超巨額投資をもぎ取ってる上に
    関税還元

    臨時大ボーナスで米国民ウハウハ

    TACO一派は、これからも米国牛耳る可能性高し。
    米国政府は大赤字になるだろうけど、別に元に戻るだけ。ドル札沢山刷れば良い。

    少なくとも財務真理教を解体して マトモな蓄え使う

    場合によっては 違法なTACO関税に基づく 合意は無効だと
    突っぱねるか
    世界標準?踏み倒し、ぐらいのコト出来るようにならないと日本に未来は無い気がする

    • 木霊 木霊 より:

      遅いのですが、それは誰に対して遅いのか?という話にも関わってきますね。

      1つめのお話は、説明がやや複雑になりそうだったので、実際の大統領令を紹介しつつ追記に。
      結局のところ、日本からの輸出品は値上がりすることになるから、打撃は避けられないという構図にはなりますね。

      2つめのお話は、追記で整理していますのでそちらを参考に。日本企業が負担した分は、返ってきますよ。

      日本の財務省解体論は支持しますが、どう分割するかで結構揉めそうですね。

  2. 匿名 より:

    日本と1番最初に協定妥結しているのは絶対に逆らってこず、1番良い条件で協定結べるのがわかっているからです。ですからトランプ政権は日本と結んだ書面を盾に他国と交渉します。
    対して、韓国は農産品などの分野や細かい条件でまだ揉めています。そしてEUは本日グーグルに巨大な課徴金を課しました。インドは一切妥協しませんでした。
    日本はトランプ政権にとって好条件を呑んでくれる1番都合の良い相手なのです。

    • 木霊 木霊 より:

      ご指摘のような側面は確かにあるんでしょう。
      自国の利益を守るためにアメリカと揉めて見せる気概は持って欲しいとは思いますが、一方で、戦略的に立ち回るのであれば今回のように無理を飲むのもありだと思っています。…残念ながら、石破政権にその大切な戦略性は無いんですけどね。