驚きの金額を日本経済新聞が報じていたのだが、ネットで「別に驚かない」という書き込みが溢れているようだ。このことに、やや違和感を覚えた。
中国の地方債務2900兆円に膨張 25年の債券発行最大、デフレを助長
2025年12月2日 5:00
中国の地方政府の債務膨張が止まらない。不動産不況で土地が売れないなか債務依存を強めており、今年の地方債発行額は過去最大となった。政府系企業「融資平台」が抱える債務を加えると債務残高は2900兆円にのぼる。低金利で危機を封じながら債務を増やして問題を先送りする手法は、デフレを長引かせるリスクを伴う。
日本経済新聞より
そもそも日本経済新聞の立ち位置としては、以前ほどではないが支那への経済進出を推奨する立場にある。間違っても「支那経済危機」ということを大声で言うメディアではなかった。
支那からのメッセージ
巨額ゆえの違和感
最近では、日本経済新聞も「そろそろ危ない」という記事をチョコチョコ出して、「リスクは分散しろ」というメッセージを出していた。
それでも2,900兆円という驚愕の数字を出すのには違和感を禁じ得ないのである。多すぎてピンと来ないが、支那の2024年の国家予算は8兆926億元(約178兆7,500億円)、アメリカの国家予算は7兆2,660億ドル(約1,068兆円)である。
支那の地方政府の債務はアメリカでも支えきれない額で、容易に支那経済破綻を誘発しかねない債務の額だということになる。
こんな巨額の債務があるなんて日本の報道機関が報道して、支那にとって都合が悪ければ真っ先に支那外交部が口出ししてくるハズなんだけど……。今のところ沈黙しているんだな。
2年前の数字との齟齬
2023年には「隠れ債務1100兆円」などと報じていた日本経済新聞だが、今回の報道はちょっと巨額にすぎる。
中国、地方政府の「隠れ債務」1100兆円 深まる財政難
2023年6月14日 20:30
中国の地方財政が厳しさを増している。地方政府傘下の投資会社、融資平台が抱える「隠れ債務」の残高は2022年末に1100兆円を超えた。新型コロナウイルス流行前の19年から5割増えた。過剰な借金でインフラ開発などを進めてきたことが要因となる。
日本経済新聞より
このタイトルだけ見ると、一体2年で何があったんだ?!と言いたくなるよ。
残念ながら、2023年の記事も2025年の記事も日本経済新聞が出してきた数字の根拠は、会員限定記事だということもあって良く分からない。
だが、2つの記事に共通するのは、市場に動揺を与えそうな数字ではあるが、実際には市場は殆ど動揺していないし、支那の指導部も異を唱えない。
中国、地方政府に巨額債務
2025/12/3付
中国の地方政府の債務膨張が止まらない。不動産不況で土地が売れないなか債務依存を強めており、今年の地方債発行額は過去最大となった。政府系企業「融資平台」が抱える債務を加えると債務残高は2900兆円にのぼる。低金利で危機を封じながら債務を増やして問題を先送りする手法は、デフレを長引かせるリスクを伴う。
日本経済新聞より
今朝の朝刊の記事にも同じ数字を使っていたので、これは指導部に近いところから出てきている数字なんだろうね。
支那から出てくる数字
そういえば、最近の記事でいうとBloombergの記事があって、未払い金1兆ドル超という関係者の見立てを紹介していた。
中国が地方政府の債務処理検討、未払い金1兆ドル超-関係者
2025年9月11日 15:17 JST 更新日時 2025年9月11日 15:49 JST
中国の地方政府が民間企業に対して抱える巨額の債務を処理しようと、中央政府が動き出している。事情に詳しい関係者が明らかにした。そうした未払い金は1兆ドル(約148兆円)を超えるとの推計もある。
Bloombergより
巨額の負債のうち未払い金の規模も膨らんでいて、支那市場の流動性が悪化しているということは先ず間違いなく、支那経済は間違いなく痛んでいる。
だが、1,100兆円の債務のうち148兆円が焦げ付いているというより、2,900兆円の債務のうち148兆円が、という方が「安全そうに見える」とね。
それと、もう一つ二つ気になるニュースが。
中国外貨準備高、10月は予想外に増加
2025年11月7日午後 5:26
中国人民銀行(中央銀行)が7日発表した10月の外貨準備高は3兆3430億ドルで9月(3兆3390億ドル)から47億ドル増加した。
ロイターより
貿易の不調から考えると支那の外貨準備高は減っていてもおかしくないのだが、10月は「予想外に増加」したという。
中国人民銀行、10カ月連続で金保有増やす-外貨準備資産を分散化
2025年9月7日 13:33 JST
中国人民銀行(中央銀行)は8月に金の保有量を増やした。ドルから外貨準備資産の分散を図る動きを進めており、金保有の増加は10カ月連続となった。
Bloombergより
もう1つが金の保有量を増やしているという話があり、何れも支那人民銀行からの情報である。
これらのメッセージが何れも支那指導部から許容される数字だという事実を組み合わせると、対外的に「支那経済は不調だけれど、崩壊はしませんよ」というメッセージになると思われる。
危険のシグナル
そもそも、支那経済が好調な時代にも怪しい話はあったのだ。今思い返せば、三道紅線の導入(2020年)などは正にそれだろう。
中国の不動産規制とは 負債比率など3つの指針
2023年8月29日 2:00
▼中国の不動産規制 富裕層による投機の過熱などにより不動産価格が高騰し関連の負債が膨張した中国で、金融当局などが市場の安定をめざして導入した規制のこと。値上がりを前提とした不動産企業の事業モデルに抜本的な転換を迫った。
日本経済新聞より
日本経済新聞の2023年の記事がそれを示していて、かなり象徴的な出来事2つが紹介されている。

3つのレッドライン(三道紅線)と、総量規制は、いずれも経済の過熱を冷ます効果のある政策で、三道紅線政策は多くの不動産開発企業に止めを刺し、総量規制は優良企業の開発速度にブレーキをかけた。
こうした政策を出した背景には、支那経済がこの時期既に相当に悪い状態であるという当局の判断だったのだろう。「共同富裕」というメッセージを習近平氏が出したのは、2021年のこと。
「三道紅線 → 総量規制 → 共同富裕」という政策の導線は、市場経済の破綻を見据えて統制経済に移行するという意思表示でもあったのだ。
Too Big To Fail(巨大すぎて潰せない)
支払い不能ではない
これらのメッセージを整理すると、こんな感じになろうと思う。
中国経済はなぜ崩壊しないのか?「ゾンビ企業」も延命する統制国家に日本が学ぶべきこと
2025年9月18日 4:00
9月11日、ブルームバーグが「中国の中央政府が、政策銀行や国有商業銀行を通じて地方政府に巨額の貸し付けを行い、債務返済や未払いの整理に充てさせる計画を検討している」と、匿名の政府関係者の話として報じた。
Diamond Onlineより
この記事は、記事のロジックは破綻しているように見えるが以下のメッセージを伝えている。
- 支那には地方債務など巨額の負債がある
- だが、深刻な連鎖倒産や大規模な金融危機は発生していない
- 外貨準備と家計貯蓄が十分にあることと、統制経済化が進んでいるから崩壊しない
- 更に製造能力も高く、いつでも経済の回復が可能
- 失業率は高いが製造業を盛り上げれば吸収可能
全体的には「危ないけど、頑張れば回復するよ」という、そういうメッセージだ。だからこそ、今、支那経済に負荷をかけちゃ駄目だよ、という。
ベネズエラ案件と焦り
なお、昨日の記事にもこの話は少し関係しているとの読みである。
アメリカが手を焼いているベネズエラだが、巨額の資金が支那から供給されている。そのおかげでベネズエラ政府の腐敗は更に進んでいるしマフィアは麻薬供給を加速させている。移民問題も放置だ。
しかし、不安定な状態にあるベネズエラをアメリカが攻撃した場合、支那は投資している資産の多くを失うことになる。だから止めろという訳だ。
この辺りの話も、支那国内のコントロールが効いていないことを示唆されるし、市場でもこんな話が出てきていて、思った以上にコントロールが効いていない印象だ。
中国不動産危機、万科の社債急落で再び焦点に-デフォルト懸念広がる
2025.11.26 16:44
(ブルームバーグ):中国の不動産市場は、不動産大手万科の経営危機が深刻化する事態に備えている。明確な政府支援が見通せない中、数カ月以内のデフォルト(債務不履行)回避を巡り、投資家の懸念払拭に苦戦している。
Bloombergより
更に不動産関係の話も燻っている。
今や、支那は外部からの経済的刺激はなんとしてもシャットアウトしたいと躍起になっているのだ。そうすると、やっぱり「地方債務2,900兆円」の伝えるメッセージ性というのは、どうしても違和感があるのだ。
まとめ
というわけで、現在の支那経済は「危ういが、まだ統制下で延命可能」という状態で、海外からの過剰な刺激や圧力は、連鎖的ショックを引き起こす危険性があるから、駄目だよというのが、指導部の出すメッセージなのではないか、と、そのように考えた次第。
報道された2900兆円という数字は、単なる警告ではなく、市場や外交に向けたメッセージ性の強い数字であると整理できる。
ちょっと穿ち過ぎかもしれないが、支那経済は危ういバランスの上に成り立っていて、間違いなく悪化している。それを指導部が一生懸命コントロールしようとしているのが、冒頭の記事にも現れている、と、そのように理解した方が分かりやすいのかもしれない。






コメント
中共の借金まみれの事は高速鉄道といい地下鉄といい高層マンションといい粉飾決算まみれの状態ですね
いつ倒れてもおかしくない状態
指導部がきつく統制しているのでまだ踏ん張ってますがどうなる事やら
中共が倒れたら日本も少なからず被害が被るのが怖いですね
高速鉄道は建設にも維持にもお金がかかります。どうするつもりなのかは興味深く見守りたいところ。
高層マンションは崩してしまえば、「なかったこと」になる可能性はありますが、同時に人民の資産も「なかったこと」になっちゃいますね。
どうなることやら。
だからこそ「潰れるぞ」「助けろ」と、「井戸を掘る人」を探しているのでしょうね。