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【支那経済】鉄鋼の輸出管理強化で許可制に

中華人民共和国ニュース
この記事は約7分で読めます。

これまたちょっと驚きのニュースである。

中国、鉄鋼の輸出管理強化で許可制に 日米などの「過剰生産」批判に対応狙いか

2025/12/12 21:20

中国商務省は12日、2026年1月から一部の鉄鋼製品に関し国外への輸出を許可制とすると発表した。輸出管理を強化し、鉄鋼製品の過剰な生産と輸出に対する日本や米国など国際的な批判に対応する狙いがあるとみられる。

産経新聞より

これまで、やれ「ダンピングだ」とか「関税を引き上げてやる」とか、散々問題視された支那の鉄鋼製品の過剰生産と輸出だったが、ここへ来て手を打ってきた格好だ。

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経済的な混乱は必至

長きにわたる鉄鋼業界の混乱

余りに唐突な話なので、昨今の日本との関係があるか?と考えてみたが、切り離して考えたほうが良さそうだ。

というのも、中国の鉄鋼業界は、少なくとも昨年の時点で、すでに相当深刻な状況にあった。

中国の鉄鋼過剰、世界揺るがす-業界全体が窮地に陥る恐れ

2024年8月19日 at 11:06 JST

上海で建設鋼材の鋼管杭を販売するユィ・ヨンチャン氏の年間売り上げは、数年のうちに4分の3余り減った。「トンネルの先に光が見えない」ほどのひどい市況だという。

Bloombergより

これは去年の記事だが、この時点ですでにかなり酷い。振り返れば、2011年頃から兆候は見え始め、2015年頃には完全に大混乱に陥っていた。

2015年と16年に起きた前回の鉄鋼危機は、欧州と米国で大問題となった。16年の米大統領選を制したトランプ前大統領は選挙戦の大半で安価な中国からの輸入品から米国を守ることを公約に掲げた。

Bloomberg「中国の鉄鋼過剰、世界揺るがす~」より

こういうことがあって、アメリカの鉄鋼業界も疲弊に拍車がかかり、USスチール買収みたいな流れになるんだよね。

正直、全世界からのヘイトを随分買っていたハズなんだよ。じゃあ、何故このタイミングなんだ?とはみんな考えるよね。

トランプ関税の影響

要因の一つとして考えられるのが、やはり関税問題だろう。

中国、「鉄鋼業の安定的成長に関する作業方案(2025-2026年)」発表、付加価値額の年4%増へ

2025年09月26日

中国の工業情報化部、自然資源部など5部門は9月22日、「鉄鋼業の安定的成長に関する作業方案(2025-2026年)」を発表し、2025年から2026年にかけて鉄鋼業の付加価値額を年平均約4%増加するとの目標を掲げた。同方案では、同期間の鉄鋼業の安定的成長の主要目標として、市場の需給バランスがより安定し、産業構造がさらに最適化されることを挙げた。

JETROより

この資料を見る限り、支那当局自身も鉄鋼業界の低迷と収益悪化を公式に認めている。2024年の利益が前年比42.6%減という数字は、もはや「構造問題」と言っていい水準だ。

加えて、対外環境も厳しさを増している。

EU、鉄鋼関税50%に引き上げ 無税枠も半減、中国産抑制へ

2025年10月08日06時03分

欧州連合(EU)欧州委員会は7日、無関税の輸入枠を超過した鉄鋼に対する関税率を現行の25%から50%に引き上げる方針を発表した。無関税枠も2024年比で半減させる。米国と同水準の関税率とすることで、安価な中国産鉄鋼の流入を抑え、低迷する欧州鉄鋼業の立て直しを図る。実施には加盟国と欧州議会の承認が必要となる。

時事通信より

アメリカの関税は2025年6月から、EUは10月から。50%関税はかなり強烈だが、その影響もあって、支那の鉄鋼業は収益性が悪化、業界全体が低迷するような状況に。

この状況で無制限に輸出を続けても、収益改善は見込めない。であれば、国内で淘汰を進めるしかない――そういう結論に至った、という説明には一定の説得力はある。

……あるのだが、それでもこのタイミングはやはり不可解だ。

やるなら4中全会のタイミングで明らかになっているほうが不自然ではないと思うんだが。

国内電力事情の悪化

更にもう1つ原因と考えられるのが、電力受給バランスの問題。

中国で記録的な猛暑、電力需要が過去最高に

2025年7月17日午後 3:52

中国各地で記録的な猛暑が続く中、電力需要が過去最高の15億キロワットを超えたと中国国家エネルギー局が16日、明らかにした。

過去最高を記録したのは今月3度目。

ロイターより

再生可能エネルギーの拡大、EV生産の加速、AIサーバー建設――これらが重なり、電力需給バランスは相当逼迫しているようだ。

原発建設のペースは凄まじいが、送電設備の整備が追いついていない。

あ、そういえば日本で良く電線が盗まれるよね……。

失業率の問題

あと、あまり数字そのものは信憑性がないんだけど、失業率は結構悪化しているっぽい。雇用環境の悪化の影響は無視できないよね。

中国の若年失業率18.9%で過去最悪 8月、若者の就職難深刻に

2025年9月17日 18:13

中国国家統計局が17日発表した8月の16〜24歳の失業率は18.9%となり、現役学生を統計の調査対象から外した2023年12月以降で最も高かった。景気低迷で大学を卒業したばかりの若者らの就職難は深刻さを増している。

日本経済新聞より

最新のデータをみると、謎の改善を見せているらしいのだけれど、公式でも若年失業率が20%弱と報じていて、なかなかインパクトのある数字ではある。

これがEV産業が減速して、更に鉄鋼もこの状況というのはなかなか厳しいのでは?という気がしてしまう。そして、今回の政策でインパクトがあるのは、来年1月には輸出を許可制にするという期限の短さだ。見かけ上、鉄鋼産業の準備期間がほとんどない状況。

新たな制度では、鉄鋼の輸出業者は製品の品質に関する証明書を商務省に提出した上で、許可証を取得する必要がある。

産経新聞「中国、鉄鋼の輸出管理強化で許可制に~」より

それも「品質に関する証明書」を要求するということで、中小零細企業は淘汰される流れになる可能性が高いというから、これもEV業界同様に整理縮小する必要があるのだと、指導部は考えているのだろう。でも、そうだとしても過渡期感は必要なんだよね。

というわけで、結構な混乱を招くのではないかと。

まとめ

Bloombergのこの分析では「単なる生産調整だろう」という答えを出していて、その可能性もある。あるが……。

中国商務省、一部鉄鋼製品に輸出許可制度導入へ-2026年から

2025年12月12日 at 18:29 JST

中国商務省は12日の声明で、2026年から一部の鉄鋼製品に輸出許可制度を導入すると発表した。過去最高水準に達している鉄鋼輸出を抑制する狙いがあるとみられる。

Bloombergより

だが、中国の場合、報道に載せる情報は、基本的に国内向けのアナウンスと考えるべきだ。そう考えると、今回の措置は、鉄鋼業界の混乱を抑えるためのアナウンス効果を狙ったものではないか、というのが個人的な見立てである。

それにしては期間が短いのが気になるが、夏頃から水面下で調整が進んでいた可能性はある。

逆に言えば、生産に任せている状態を継続するのには限界が来ていて、生産調整をしなければどうにもならない段階まで追い込まれている――そう見るほうが自然なのかもしれない。

追記

早速の追記なのだが、これがまた面白い。

世界銀行 25年の中国経済成長見通しを上方修正

12:45:46 2025-12-11

世界銀行は12月11日、中国・北京市内で中国経済に関する最新の報告書を発表し、2025年の中国経済成長見通しを前回から0.4ポイント上方修正しました。

世界銀行によると、中国政府のより積極的な財政政策と適度に緩和的な金融政策が国内消費と投資を支えました。同時に、中国の輸出市場がより多元化し、輸出の強靭(きょうじん)性を維持するための下支えとなりました。

CGTNより

良い材料が見当たらないのに支那経済の成長はプラスに評価されたという。本当にぃ?

より積極的な財政政策」が一体何処にあったのかを説明して欲しいのだが、どうやらナニかはあったらしい。ちょろっと債権を積むという話があったが、どちらかというと「痛みを伴う構造改革」という側面が強かった。

冒頭に取り上げた鉄鋼業界への梃入れは、まさに「痛み」の強い政策なのだが、イマイチ構造改革に繋がるのかは不明。質の良い鉄鋼を輸出できるようにという負荷をかけることで輸出量を絞る一方で、積み上がっている不良在庫をどうするのかは不明。

支那国内での鉄鋼消費が増えるとも思えないので、いよいよ中小零細企業の淘汰を制度的に行おうという動機が強く感じられる。

この経済成長見通しは、国内向けには「プラス成長の指標が出ているから、少し厳しい時期はあるけど直ぐに良くなる」というメッセージを出したのでは?という疑いが強い。

コメント

  1. 軍事オタクより より:

    電気自動車と鉄鋼は電力かなり使いますからね
    原発をベースをベース電源にして確か砂漠にかなり太陽光発電してる筈、火力発電を周波数変動を防ぐにな絶えず出力を変える必要が有りますね
    そうしないとブラックアウト(停電)を引き起こします