社債償還期限を徒過して債務不履行になるよりはマシなんだろうけど、潰せないということか。
中国万科の社債権者、返済猶予延長承認し不履行回避 償還延期は否決
2025年12月22日午後 8:20
中国の不動産大手、万科企業の社債権者は22日、今月15日に償還期限を迎えた社債20億元について、猶予期間を30営業日に延長する案を承認、土壇場でデフォルト(債務不履行)は回避された。
ロイターより
社債の額は約20億元(440億円程度)なので、巨額負債というほどではない。だから、万科だけなら救うのは簡単だね。
どうにもならない支那経済
優等生故の憂鬱
ではなぜこれが問題なのかと言えば、既に恒大集団や碧桂園などの不始末にも介入しなかった実績があるために手が出せないという構図であることと、万科企業が国有系優良企業であると認定されてきたことにある。
つまり、万科企業ですら駄目なのか、というメッセージ性が問題なのである。
一方、未払い利息を22日に支払うことを盛り込んだ償還を1年延期する案は拒否した。万中国銀行間市場交易商協会(NAFMII)への万科の報告で明らかになった。
承認には90%の賛成が必要で、猶予延長案は90.7%、償還延期案は78.3%の支持を得た。
ロイター「中国万科の社債権者、返済猶予延長承認し不履行回避~」より
恒大集団は、強気の拡大路線により自滅したという整理がなされている。碧桂園に関しては多売薄利で割と手堅い商売が行われていたが、民間故に似たようなレッテルが貼られた。
一方の万科企業は、深圳政府が後ろ盾になった順国有企業で、生き残りのために他企業に先駆けて手を打って財政兼税制を重視した経営を行ってきた。しかし、優等生であったハズの万科企業が、たった20億元の社債すら返済できないほどの窮地であると、印象づけてしまった。
政策転換を余儀なくされる
この結果、支那当局はこれまでの「優良企業」「不良企業」というレッテルでの整理をもう一度やり直さねばならなくなった。
このブログでは散々指摘しているので、「万科企業は優良企業」などといっても、誰も読者は信じないと思うのだが、これまでは支那国内で通用した理論だったのである。だが、それが通用しない。
特に衝撃的なのが、「たった20億元の社債すら返済できない」という事実だ。この程度であれば、銀行に行って融資を受けるべきであり、報道によれば万科企業の総資産額は約3,500億人民元に上ると言われている。手元の現金も2025年4月の時点で755億人民元あったと報じられている。

総資産額は急速に目減りしている様子が伺えるが、「まだ大丈夫」だったハズなのだ。ところが、蓋を開けてみたら違った。手元の現金から20億元の債権を返済する余地すらないという。じゃあ、手元の現金って幾らあるのよ?という話になる。
元々、支那が出してくる数字は信用できないというのは世界共通の理解ではあったが、人民は別。いや別だったハズなんだけど、ここに来てより深い理解を産んだという構図なんだろう。
そして、いよいよ万科企業が駄目ならどこも信用できない(今まで、信用があったと思う方が無理がある印象だけど、少なくとも仮初めの信用はあった)ということになる。優良企業である万科企業すら銀行から20億元規模の借り入れができないってことになるからね。
そして徳政令へ
更に気になるニュースが。
中国、借金滞納の情報をリセット ローン審査、個人消費を後押し
2025/12/22
中国人民銀行(中央銀行)は22日、個人による借り入れの返済遅延データの一部を信用情報上で非表示にすると発表した。新型コロナウイルス禍などで増えた滞納の記録をリセットすることで、自動車や家電などのローン審査に通る人を増やし、消費拡大を後押しする狙いとみられる。
対象は2020年1月~25年末の1万元(約22万円)以下の滞納情報。データベースから記録は消えないが、融資担当者らが参照するデータ上には記載されなくなる。
共同通信より
すげー、徳政令に近いことをやるってことだね。1万元以下限定とはいえ、結構な額の滞納情報が見えなくなる。
そして、韓国などとの違いは借金自体が帳消しになるのではなく、借金したことが分からなくなるという銀行へのストレステスト的な政策だということなんだよね。短期的な滞納を不問にするという政策は、個人消費の需要喚起という側面はあるけれども、そもそも支払いできない人のローンを通りやすくするだけなので、一時的な流動性の改善には繋がるモノの、5年間分の信用情報が参照できなくなるので、最近の経済状態に関わらずローンができることになる。結構ヤバい話である。
それに、最近流行の見せかけ融資(当局の流動性改善のために銀行に融資をしろという圧力をかけ、それを実現できているように貸して直ぐ回収する手法が横行している)を加速させることにもなりかねない。
デフレスパイラルへの食い止め策を
支那経済はここへ来てかなり不安な状態になっている。
改革を求める声が高まる中、中国経済は11月に失速
2025年12月16日午前1時01分
北京 15日 ロイター – 中国の製造業生産の伸びは15カ月ぶりの低水準に鈍化し、小売売上高は同国が厳格な「ゼロコロナ」規制を突然解除して以来最悪の実績となり、2026年に向けて新たな成長の原動力が早急に必要であることを浮き彫りにした。
ロイターより
この失速が続くようだと、国内消費は更に冷え込む可能性が高いのである。まあ、それはそれでいいと思うのだが、そのための一手が「借金滞納の情報のマスキング」というのはどうなのだろうか。
まとめ
冒頭に紹介した万科企業の債務不履行回避は、支那経済の苦境を象徴する出来事であり、徳政令的な「借金滞納の情報のマスキング」も所詮は一時凌ぎの弥縫策に過ぎない。万科企業は、もはや20億元規模の資金繰りすら市場や銀行で解決できない段階にあり、延命はできても再建の道筋は見えない。
この問題の本質は、個別企業ではなく支那の銀行システムそのものの苦境にある。銀行が貸せないから企業は延命措置に頼り、信用情報を隠してまで個人に貸さざるを得ない。その行き着く先は、地方銀行の切り捨てか、あるいはバンクランの発生だろう。
数字を取り繕い、信用を上書きして回してきた支那経済は、いよいよ「成長」ではなく「崩壊の順番」を考えねばならない局面に入ったと言える。次はどんな綻びが見えて、その段階がいつなのか。



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