なかなか衝撃的なニュースではあるが、実際に統合が実現するかどうかは、また別の話だろう。
ルーマニアと統合に賛意、モルドバの親欧米大統領「小国がロシアに対抗するのは困難」
2026/1/13 08:06
欧州南東部の旧ソ連構成国モルドバのサンドゥ大統領は11日配信の英ポッドキャストの番組で、欧州連合(EU)加盟国である隣国ルーマニアとの統合の是非を問う国民投票があれば賛成票を投じると述べた。ロイター通信などが報じた。
産経新聞より
もっとも、この発言を額面通り「統合したい」という話として受け取るのは、やや短絡的かもしれない。
現実を踏まえれば、これはロシアに対抗するためには、国家の枠組みそのものを書き換える覚悟があるという意思表示に近い。
大統領の覚悟
モルドバの憂鬱
まずは、「モルドバってどこ?」という話から整理しておこう。

地図を見て分かる通り、モルドバはウクライナとルーマニアに挟まれた小国だ。
そしてこの国には、地政学的に極めて厄介な「爆弾」を抱えている。

その名を「沿ドニエストル共和国」という。
日本から見た朝鮮半島の北部地域、北朝鮮のような位置づけの地域で、共和国を名乗っているものの一部の地域から承認されるのみの「未承認国家」地域である。
形式上、承認しているのはアブハジア、南オセチア、ナゴルノ・カラバフ共和国などだが、このうちナゴルノ・カラバフは、すでに事実上消滅状態にある。
このブログでも触れてきた、アゼルバイジャン絡みの話だ。
時間の経過とともに、地図が静かに書き換わっていく典型例だろう。
旧ソ連の落とし子
そもそも、これらの未承認国家は旧ソ連の解体が生んだ歪みそのものだ。
(混沌のウクライナと世界2022)第9回 未承認国家 沿ドニエストル共和国――ソ連解体の落し子、ロシア介入の起源
2022年6月
ロシア・ウクライナ戦争の終わりが見えないなかで、ウクライナの隣国モルドバのなかに位置する沿ドニエストル共和国が注目されている。そのきっかけは、ロシア連邦中央軍管区副司令官ミンネカエフ少将の発言にある。彼によると、ウクライナにおける「特別軍事作戦」の第2段階は、同国東部のドンバス地方と南部の掌握であり、そこに沿ドニエストルを加えると、クリミアへと向かう陸の回廊が出来上がる1。それによって、ロシアはウクライナ軍や政府を弱体化させられるというものである(Шустрова 2022)。
JETROより
沿ドニエストルには現在もロシア軍が駐留し、ロシア系住民が多数暮らしている。当然ながら、モスクワからの圧力があれば、呼応する可能性は極めて高い。
これは、
- ウクライナにとっては「背後を突かれるリスク」
- モルドバにとっては「国内紛争の火種」
という、双方にとって厄介極まりない存在だ。
これに対して、沿ドニエストルへのロシア介入の端緒は、ソ連解体直後の1992年にモルドバと沿ドニエストルの対立が深まり発生した沿ドニエストル紛争に求められる。そして、それ以前から同地に駐留していたソ連軍をソ連解体後にロシアが実質的に引き継ぎ、介入することとなった。つまり、ロシアはソ連解体期の成り行きで紛争に介入したのである。その後、沿ドニエストルは未承認国家のまま、ロシア政府の考える望ましい世界への願望を満たすうえでのひとつのリソースになり、現在に至る。
JETRO「未承認国家 沿ドニエストル共和国~」より
要するに、モルドバは独立国家でありながら、国内にロシアの前線基地を抱えているようなものだ。
なぜ「統合」なのか
こうした状況を踏まえれば、サンドゥ大統領の発言の意味は見えてくる。
- 小国単独ではロシアに対抗できない
- NATO加盟には高いハードルがある
- ならば、既にEU・NATO圏にいるルーマニアと一体化するという選択肢
これは理想論というより、生存戦略の話だ。
「国家主権を守るために、国家の形を変える」
矛盾しているようで、現実の国際政治では珍しくない判断でもある。
まとめ
モルドバ大統領の「ルーマニアとの統合」発言は、単なる親欧米アピールでも、感情的なロシア批判でもない。
- 沿ドニエストルという不安定要因
- ロシア軍の実質的駐留
- 小国ゆえの防衛限界
これらを直視した結果としての、極めて冷静な危機認識だろう。
実際に統合が実現するかどうかは別として、モルドバが「現状維持」という選択肢を失いつつあることだけは、確かだ。




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