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経済不調鮮明に――デジタル人民元に「利息」の危うさ

中華人民共和国ニュース
この記事は約9分で読めます。

1月1日からデジタル人民元に利息が付与できるようになった。そんなニュースを見かけたが、これ、よくよく考えてみるとかなり危ない話である。

中国、デジタル人民元に利息付与 越境決済で「非ドル」拡大狙う

2026年2月2日 2:00

中国人民銀行(中央銀行)は1月から中央銀行デジタル通貨(CBDC)の「デジタル人民元」に利息を付与する制度を始めた。商業銀行が預金と同様に保有残高に利息を払う。企業の越境決済での利用を促し、非ドル決済網の拡大を狙う。

日本経済新聞より

この動きは、単なる「人民元のデジタル化」ではない。

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戦略的というべきか、苦し紛れと言うべきか

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2026年「利息付与」の真の狙い

デジタル人民元の普及

デジタル人民元は2019年から実証実験が始まり、現在は一部地域で現金(M0)の代替として位置づけられている。

着々と拡大するデジタル人民元経済圏

2023年03月22日

中国の中央銀行である中国人民銀行が発行している「法定デジタル通貨」の「デジタル人民元」は、世界の中でも先んじて実証実験段階に入っており、国内外から大きく注目されている。2019年末から、順次中国の指定都市で実証実験を行い、2022年4月からは、第三ラウンドに入っている。第一ラウンドは、深圳、蘇州、雄安、成都と北京冬季オリンピック会場、第二ラウンドは、上海など10都市に拡大、第三ラウンドは、さらに天津等の都市と浙江省のアジア大会開催予定地に拡大した。直近では深センにおいて、ゼロコロナ政策廃止後、香港との往来の再開を祝うため2月11日より深セン住民の香港在住の家族や親戚、または、深センに来る香港住民を対象に、1回の決済で200元から最高999元までの1000万元のデジタル人民元を配布するキャンペーンを打ち出した。

野村総研のサイトより

重要なのは、1人民元=1デジタル人民元という完全ペッグであり、発行額は既存通貨で裏付けられている点だ。

このため、制度設計上は以下の特徴を持つとされている。

  • 現金同様に使える「即時決済性」
  • 電気やネットワークがなくてもいつでも・どこでも使えるという、「利便性」
  • 高齢者などのデジタル弱者も含めて、誰でも使える「汎用性」
  • 誰でも安心して使える「安全性」
  • 利用者のプライバシーの保護も配慮する「コントロール可能な匿名性」

……と、建前上は非常に優等生な設計である。

ICカードやウェアラブル端末による「ハード・ウォレット」も用意され、現金に近い使用感を目指している点も特徴だ。

導入当初は、今まで決済市場で大きなシェアを獲得しているアリペイやウィ―チャットペイにとって、多面的なデータの取得が難しくなり、ビジネスモデルの見直しを余儀なくされると言われていた。

だが、2026年1月の段階でもその利用は全国普及にまでは踏み切っていない状態にある。

その先駆けとして、デジタル人民元を「現金(M0)」から「利息のつく預金(M1)」へ格上げがなされたというのが、冒頭のニュースである。

普及促進と信頼性向上

通貨なのに利息の付く預金(M1)というのがユニークだが、位置づけ的には通貨でありながらいつでも預け入れ・引き出しが自由にできる(流動性が高い)預金口座という形になる。

通貨でありながら預金の扱いになるので、実は所有権は銀行にある形になる。

中国のデジタル人民元、26年から利子付きに 国営放送が報道

2025年12月30日午前 1:14 GMT+92025年12月30日更新

中国が中央銀行デジタル通貨(CBDC)の利用促進に向けた取り組みを強化する中、新たな枠組みの下でデジタル人民元(e─CNY)が2026年から利子収入を生むことになる。中国国営中央テレビ(CCTV)が29日に報じた。

CCTVによると、26年1月1日からウォレットに保管されたe─CNYは預金金利に基づき利子が付き、世界で初めて利子付きの中央銀行デジタル通貨となる。e─CNYは「デジタル現金」から「デジタル預金」の時代へ進むと説明した。

デジタル人民元は現在、一部の政府機関や国有企業に限定されている。中国で普及しているデジタル決済プラットフォーム「アリペイ(支付宝)」や「ウィーチャットペイ(微信支付)」を通じた取引の大半は、デジタル人民元に関わっていない。

ロイターより

こういったやり方が一体何を目指しているのかと言えば、1つは民間決済アプリ(アリペイ等)やタンス預金を、銀行システムに強制的に呼び戻し、銀行の融資能力を補強する「輸血」の側面である。

アリペイやウィーチャットペイの普及(2025年末でモバイル決済市場の90%以上を占める)が、通貨の流動性を妨げているという意識が支那当局にあるのだろう。

預金保険を付けることで安全性を演出しているが、それは裏を返せば、資金を国家の掌中に収めるための安心材料でもある。

「透明化」という名の究極の監視

そして、それが中央政府が発行するデジタル人民元によって管理されるわけだから、実際には共産党の管理下に1円単位まで管理される管理通貨となり、所有権は実は国家に帰属する形となるのだ。

コラム:「流動性の罠」に陥った中国、脱却には新たな手法が必要か

2024年7月26日午後 12:46 GMT+92024年7月26日更新

中国は資金の流動性が潤沢な一方で成長が鈍っている。習近平政権は景気の長期停滞を回避するため、財政支出を拡大してこの問題に対処する必要がありそうだ。しかし中国の「社会主義市場経済」においてはこの問題に古典的な手立てを講じても効果がないかもしれない。

~~略~~

欧米先進国の多くが高止まりするインフレを抑え込もうとしているのと対照的に、中国の消費者物価指数(CPI)は2023年初頭からゼロ近辺で推移している。かつての日銀と同様に中国人民銀行も金融緩和を進めているが、物価の反応は鈍い。

ロイターより

記事にあるように「流動性の罠」と呼ばれる状態に陥った支那は、金融政策でコントロール出来ない状態で流動性が悪化している。

この辺りの事情はこちらのコラムにも纏めているので、一読いただければ幸いである。

話を戻して、「流動性の罠」の話。これは市場の心理が生む現象だが、通貨の淀みを把握することで、「監視とアルゴリズム」で物理的に突破しようとしているのである。

ただ、監視される以上に、所有権が曖昧になってしまうことが問題だと思われる。デジタル人民元は、いつでも凍結・利用制限・自動徴収が可能な「プログラム可能な通貨」であり、実質的には個人の所有物というより「政府が管理するポイント」に近い性質を持つ。

こうすることで、現金や暗号資産といった「監視の届かない逃げ道」を塞ぎ、国民をデジタルな檻の中に閉じ込めるのである。

その結果、

  • 資金凍結
  • 利用制限
  • 自動徴収

といった操作が、制度上いつでも可能になる。

デジタル人民元は「通貨」というより、政府が管理する高機能ポイントに近い性質を持つ。

現金や暗号資産といった「逃げ道」を塞ぎ、国民を完全に可視化された経済空間に閉じ込める――それが制度の本質だろう。

不良債権問題と「デジタル・エンジン」

このように、不透明な負債をデジタル上で可視化し、スマートコントラクトを用いて資金使途を限定するなど、無理やり負債を圧縮するツールとなるため、中央政府にとってはこれまで以上に金融政策を打ちやすくなる。

一方で、政府が失敗を認められない以上、デジタル技術を駆使して「見かけ上の健全さ」を演出(データ改竄)する「デジタル粉飾」の温床になる懸念も高い。

何しろ、「不良債権問題」は不透明な状態が一番危ない。だから、全てを洗い出して不良債権だけを取り出すことで全体像を把握し、ラベリングして健全な債権を運用できるようになれば、経済的な信用を取り戻すことができる。

……だが、不良債権が可視化されるということは、その不良債権を処理した時に犠牲となる人もいるわけで。ある日、持っていた債権が不良とわかり、価値がゼロになってしまったら?そういった不信感はついて回るからこそ、支那における不良債権処理は進んでいないのである。

明らかになってしまった時に困る人が多く、これを有耶無耶にしたことが不良債権処理を難しくしている。透明化しても、この面は解消できないため、改竄せざるを得ないという判断に繋がるかもしれない。

結局のところ、デジタル人民元の透明性は中央政府側に向けた面だけというのが現実のハーフミラーのようなものなので、可視化を進めるためのエンジンになることは期待されているのだが、本当に「通貨としての信用」を獲得できるかはやや怪しい。

越境決済と「中露デジタル同盟」の危うさ

さて、こうした特徴を持つデジタル人民元だが、冒頭の記事にあるように「企業の越境決済での利用を促し、非ドル決済網の拡大を狙う」とされている。

アフリカ諸国にもデジタル人民元の普及を進めているようだが、一番強力に推進しようとしているのはロシアとの関係だろう。

デジタルルーブルの脅威

2024-06-21

ロシアは2025年後半に、デジタルルーブル(CBDC:中央銀行デジタル通貨)でのクロスボーダー決済を計画している。経済制裁を回避しようと、ロシアは開発を急いでいるかにみえる。

ロシア国家議会の金融市場委員会議長、Anatoly Aksakov氏は、「ロシアは中国やベラルーシとCBDC取引が実現する可能性がある」と述べている。

ncblibraryより

ロシアがデジタル・ルーブルを導入しようとしていた話も知られているが、現状どうなっているのかは良く分からない。

一方、BRICSの枠組みでも「新たな国際決済システムの構築」が急がれ、話が大きく広がろうとしている。

BRICS、新たな国際決済システムの構築に着手

2026年1月29日

インドが今年後半にBRICS首脳会議の開催準備を進める中、各国のデジタル通貨を連携させる決済システムが焦点となるだろう。

~~略~~

現在のアプローチは異なる方向へ進んでいます。インドのデジタルルピー、中国のデジタル人民元、ロシアのデジタルルーブルといった既存の各国CBDCを、相互運用可能なインフラを通じて連携させることを目指しています。各通貨は完全な主権を維持しますが、変化するのは、それらの通貨がより効率的に連携できるようにするインフラです。

asiatimes.comより

こうしたBRICSの枠組みでの動きとは別に、ロシアが急いでいるのはSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除された状況を緩和するために、人民元との直接決済である。そして、デジタル人民元が導入された場合にデジタルルーブルとブリッジ接続され、自由な通貨取引ができるようになる。

その後でBRICSの枠組みに拡大する狙いもあるのだろうが、ロシアとしては切実な問題なので可及的速やかに推進したいのである。

ただ、この話が実現すると、自動的に導入国はドルの制裁を逃れる代わりに、決済インフラを中国に握られ、金融主権を北京に明け渡す「デジタル属国化」のリスクを負うことになる。

構図としては最強のUSDに対して頭が上がらない以上に、デジタル人民元にコントロールされることになるのだ。通貨の世界は発行額の多さが強さに直結するが、これをデジタルで支那当局に把握可能になることで、更にそのパワーバランスは支那に有利に傾く。

一方で、お互いに不透明な負債を抱えるロシアと支那とが結ぶことで、一方の危機が光速で波及する運命共同体となるリスクが拡大するという側面もある。

ハードカレンシーとの決定的な違い

こうした新たな経済圏の構築は、ハードカレンシーに対抗する力となりえるのだが、そもそもデジタル人民元は、通貨の本質である「自由な交換性」や「情報の透明性」が、党の統治(介入)と両立できない。

このため、利息を付けてもドルのようなハードカレンシーになれるかというと、かなり疑問である。

もちろん、支那はそういう側面は理解しているのだろう。だから、デジタル人民元の強さの裏付けは、実は支那の巨大な生産力によって担保される。これを人質にすることで、周辺国にデジタル人民元を使わざるを得ない状況(ロックイン)を作ろうとしている。そういう狙いがあるようだね。

まとめ

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デジタル人民元は、単なる「便利な決済手段」ではなく、中国経済の「余裕のなさ」が生んだ「究極の統制インフラ」である。

支那当局は「利息」というアメで不満を抑えつつ、デジタル化というメスで不良債権を無理やり手術し、同時に「監視」という鎖で資本の逃避を防ごうとしている。この巨大な社会実験が、実体経済の「過剰生産」や「膨大な負債」の重みに耐えきれずハードランディングするか、あるいは「デジタル帝国」として完成するのか。2026年以降の世界経済における最大級のリスク要因となると言えるだろう。

……習近平氏の野望が露わになったデジタル人民元だが、習近Payとか、システムの名前を改めたら良いんじゃ無いかな?分かりやすくて良いよ。

コメント

  1. 匿名 より:

    政策に対する人民の対策で金価格が更に上昇する事だけは確定しました