さて、宿題にしていた韓国の原子力潜水艦開発についてなんだけど。
トランプ氏、韓国の原子力潜水艦建造を承認 米フィラデルフィアで
2025年10月30日午前 9:51
訪韓中のトランプ米大統領は30日、韓国による原子力潜水艦の建造を承認したと発表した。韓国企業が投資を拡大している米東部ペンシルベニア州フィラデルフィアの造船所で建造されるという。
ロイターより
とうとう韓国が原子力潜水艦を?!と、危機感を抱くのも事実なんだけど……、ちょっと怪しい部分もあるね。
原子力潜水艦の建造を阻む条約
外交的勝利
先ずはこちら。
韓国の原潜建造容認 トランプ氏が表明
2025年10月30日09時37分
訪韓中のトランプ米大統領は30日、韓国が原子力潜水艦を建造することを認めるとSNSへの投稿で明らかにした。29日の米韓首脳会談で、李在明大統領が原潜への燃料供給を許可するよう求めており、これに応じた形。トランプ氏は「われわれの軍事同盟はかつてなく強固だ」と強調した。
時事通信より
韓国の外交的勝利の1つとして大々的に宣伝されたニュースではあるが、これは韓国大統領の李在明氏(ミョンミョン)が「原子力潜水艦を建造させてくれ」とお願いした結果、それに応えてトランプ氏が「OK」としたってことになっている。
フィラデルフィアで
だが、これについてはちょっと不思議なニュースが流れていた。
トランプ氏は自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で、「私は彼らに原子力潜水艦の建造を承認した。彼らが現在保有する旧式の、はるかに機動性に欠けるディーゼルエンジン搭載潜水艦ではなく(原潜だ)」と述べた。
韓国産業通商資源省は、フィラデルフィアでの潜水艦建造に関する詳細な議論には関与していないと述べた。
韓国には高度な造船産業があるが、トランプ氏は現在ごく少数の国しか保有していない原潜の推進技術をどこから採用するかについては明言しなかった。
ロイター「トランプ氏、韓国の原子力潜水艦建造を承認~」より
まず1つが、「フィラデルフィアで造る」という話。
これはフィラデルフィア造船所で造るという意味であるらしく、もっと言えば「そこに投資しろ」という意味でもある。(追記で説明するがどうやら、フィラデルフィアにあるフィリー造船所ということらしい)
トランプ氏は投稿で、「我々の軍事同盟はかつてないほど強力で、彼らが現在持っているディーゼル潜水艦ではなく、原子力潜水艦を建造することを承認した」と表明した。別の投稿では、「韓国は自分たちの原潜をフィラデルフィアの造船所で建造するだろう」とし、「我が国に『古き良きアメリカの造船業』が間もなく大きな復活を果たす」とアピールした。
讀賣新聞より
トランプ氏もこのように説明しており、投資ありきなんだよね。きっと。
そして、「建造することを承認」とある点。建造が承認されただけで、実際に韓国海軍が原子力潜水艦を取得できるかはまた別の話である。
冷戦終結後に閉鎖
フィラデルフィア造船所は1995年に閉鎖されているので、今はフィラデルフィアに造船設備はない。
一応、敷地がアケル・ソリューションズというノルウェーのエンジニアリング会社にレンタルされている他、フィラデルフィア海軍支援活動隊の拠点として利用されているらしいが、産業としては微妙。
トランプ氏としては、韓国造船業による投資というラインから、「フィラデルフィアで造船業を復活させろ」「原子力潜水艦はそこで造って良い」という導線を引いているように思われる。
両国は首脳会談後、米造船セクターへの1500億ドル(約22兆9000億円)規模の投資を含む貿易合意に達した。
Bloombergより
トランプ氏は、29日の李氏との首脳会談で両国の関税交渉が妥結したことを踏まえ、「韓国は米国に3500億ドル(約53兆円)を支払うことに合意した」と強調し、米国産の石油や天然ガスを「大量に購入することに同意した」とも指摘。韓国による対米投資額は6000億ドル(約91兆円)を超えるとしており、韓国の原潜建造の承認は、対米投資などの見返りとの見方も出ている。
讀賣新聞より
複数のメディアがこのように報じているので、おそらくこの理解はそれほど外れてはいないだろう。
造船技術は持ち出せない
また、ロイターはこのような指摘をしている。
また、このような潜水艦は通常、高濃縮ウランの使用を伴い、核拡散防止条約(NPT)の履行において重要な役割を担っている国際原子力機関(IAEA)による「非常に複雑な保障措置の新体制を必要とする」とし、「使用済み核燃料から兵器用プルトニウムを抽出する技術や、核兵器製造にも使用できるウラン濃縮能力を韓国が獲得することは、技術的にも軍事的にも不必要だ」と指摘。
ロイター「トランプ氏、韓国の原子力潜水艦建造を承認~」より
おそらくは、トランプ氏のフィラデルフィア造船所を復活させてそこで造れという話は、このようなIAEAの判断とも関係していると思う。(注:追記するフィリー造船所で建造する場合でも条件はほぼ同じである)
つまり、韓国が原子力潜水艦を建造するためには、高濃縮ウランを手に入れる必要があるし、NPTの履行に反しないような措置をとる必要がある。
更に、原子力潜水艦の建造技術に関しても、通常動力潜水艦とはかなり異なるノウハウを要することになるので、アメリカから指南してもらわねばならない。が、それは容易にアメリカの外に持ち出せない。
そうすると、韓国はアメリカで造ってアメリカでメンテナンスする原子力潜水艦を保有するという話になりかねないんだよね。それは韓国海軍が原子力潜水艦を保有しているという事になるのか?という疑問が出てくる話でもある。
この辺りの記事でも説明したのだけれど、現在、韓国では「張保皐Ⅲ バッチ2」という大型潜水艦の建造が進められている。こののちに開発予定のバッチ3が原子力潜水艦になると言われていたので、韓国としてはどうしても自国建造に拘りたいのだろうと思う。
ただ、現実的にはNPTなどの条約が足枷になるだろうと言われていて、原子力潜水艦開発にはネックになるのだろう。
原子力潜水艦の建造を視野に入れた日本
なお、こうした動きが活発化した背景には、日本が原子力潜水艦の建造を示唆したことが関係していると思われる。
潜水艦の次世代動力、原子力含め「あらゆる選択肢排除せず」=小泉防衛相
2025年10月22日午後 8:21
小泉進次郎防衛相は22日の就任会見で、次世代動力を活用した潜水艦の保有に向けた政策を推進するとした自民党と日本維新の会の合意について、原子力を含め「あらゆる選択肢を排除しない」と語った。「公党間の約束は重いと思っている」と述べた。
ロイターより
過去にも言及したが、日本としても原子力潜水艦の建造のメリットは一応ある。但し、国際連携が必須であるし、アメリカからの了解を貰うことは不可欠。当然にNPTの問題もついて回る。
したがって、「メリットがあるか」を検討し始めようという段階に来ている。正直、原子力潜水艦を持つ場合には、報復措置としての「長い槍」を持たねばならず、全面的に賛同できる話とも言い難い。
が、検討の意義はあるという話なんだよね。
まとめ
というわけで、韓国が「OKもらったよ」と大喜びをしてはいるが、実際にはそれなりに条件付きだし喜んでいて良いのか?という案件に見えるという事だ。
そして、「日本よりも早く」という焦りも感じるわけだが、正直、日本と競ってどうする?という気持ちはある。ハッキリ言っておくが、敵を間違えているぞ。
ただ、韓国が原子力潜水艦を持つとなった場合には、日本としても戦略を大きく変えねばならない部分もある。注意深く見守っていく必要があるね。
追記
コメントいただいていたのだが、メディアでも報じられていたので。
トランプ大統領「韓国に原潜建造を承認…フィリー造船所で作るだろう」
2025.10.30 08:22
トランプ米大統領は、韓国が関税引き下げを条件に米国に3500億ドル(約53兆円)を支払うことにし、韓国企業の対米投資が6000億ドルを超えるだろうと明らかにした。また、韓国に原子力潜水艦建造を承認し、米フィリー造船所で建造されるとした。
~~略~~
フィラデルフィアにあるフィリー造船所は韓米MASGAプロジェクトの象徴的な場所だ。ハンファオーシャンがやや古い施設のフィリー造船所を昨年1億ドルで買収した後、ここを中心に米国内で船舶建造能力を拡大するという計画を立てた。トランプ大統領は29日に慶州で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の最高経営責任者(CEO)サミットでの特別演説で「フィラデルフィア造船所を買収した方(ハンファ)がいるが、世界で最も成功的な造船所になるだろう」とした。
中央日報より
トランプ氏の表現が「フィラデルフィアの造船所」ということだったので、てっきり閉鎖した方の造船所かと勘違いしていたが、ハンファが買収したフィリー造船所での製造ということらしい。
米フィリー造船増強に50億ドル投資
2025年8月28日
韓国ハンファグループは26日、米国造船所ハンファ・フィリー・シップヤードに50億ドル(7400億円)を投資すると発表した。新造ドック2基の建設をはじめ設備を増強するとともに、グループを通じてLNG船とタンカーの新造船を大量発注し、造船所の建造能力を大幅に引き上げる。 韓米の関税交渉で韓国が対米造船協力として示した1500億ドル投資計画の一環。両国首脳会談に合わせて発表した。
海事プレスより
このフィラデルフィアにあるフィリー造船所は、既に韓国ハンファグループによる50億ドル規模の投資が決定しているので、確かに矛盾した話ではない。
ただし、簡単な話かというとそうではないようだ。
フィラデルフィアにあるハンファフィリー造船所は商船建造が中心であり、原子力潜水艦を建造する設備はない。原子力潜水艦は一般潜水艦とは異なりほとんどが地上組立方式で製作され、原子炉搭載のための専用設備や放射線遮蔽構造物などインフラを追加で構築する必要がある。
中央日報より
フィリー造船所の設備は、商用建造中心で軍事目的の艦艇を作る機能はない。特に原子力関連の施設は皆無。
とはいえ、フィラデルフィア造船所の方も艦艇の建造は久しくないので(最後の新規艦艇は1970年に建造された揚陸指揮艦「ブルーリッジ」)、どちらであったとしても巨額の投資は避けられないようなんだけどね。

 
 



コメント
韓国が原子力潜水艦建造するにはまず通常潜水艦をまともに稼働する事が先ではないですかね
このニュース見て頭がポカーンとなりました
韓国が原潜持ったら怖く仕方ないですね
通常動力潜水艦、特に214型はあまり上手くやれていないようですね。
その次の3000t級(張保皐3・バッチ1)に関してはさっぱり情報が分からないのですが、多分、改善されているっぽい。
3600t級(張保皐3・バッチ2)は1隻目が進水した状況で、テストはこれからですね。上手くいくと良いなーとは思っていますが、よく分からないですよね。
そこへ来て「原子力潜水艦」ですから、気が早いにも程があります。
日本が原潜を持つメリットって何やろ?
日本近海の哨戒
島嶼防衛を主務とする艦隊護衛
だとしたら、現行通常動力型潜水艦の定数増の方がいいと思うんだけど。
核を装備した戦略原潜なら話は違うけど。
・日本近海の哨戒
潜伏型の運用であれば、原子力潜水艦は不要ですね。
・島嶼防衛を主務とする艦隊護衛
こちらは、「速度が出る」という意味では原子力推進機関にメリットを感じますが、コストに見合わないだろうと思われます。
メリットが出るとすれば、多分、シーレーン防衛のために護衛艦が出張する時に、水中で随行するケースでしょう。長期間潜航できますから。
ただ、「戦略原潜であれば」という評価の議論の前提って、原子力潜水艦がうるさいという話があると思います。現在はかなり静粛性が高くなったようなので、コストと運用のバランスが取れるのであれば、核装備はなくても使い物になるのではないでしょうかね。
>フィラデルフィアで造る
2024年にHanwha OceanがAker Solutionsから買収したフィリー造船所のことでしょう
https://en.wikipedia.org/wiki/Hanwha_Philly_Shipyard
>核拡散防止条約(NPT)の履行において重要な役割を担っている国際原子力機関(IAEA)による「非常に複雑な保障措置の新体制
トランプ氏の意向は今や 米国法や議会、国際法等あらゆる権威を上回りますからねぇ。
すなわち韓国が日本を核恫喝する準備の最大の障壁だったものが いともカンタンンに破れてしまいました。日本にとって由々しき緊急事態です。
シンゾーがドナルドに、文を信用してはならないと警告したように、サナエは、李を信用してはならないことをドナルドに伝えるべきでした。痛恨のボーンヘッド。
どうやれば巻き返せるか?
核武装をドナルドに認めさせるしか、、ドナルド-サナエなら何とかなる? (大統領変わったら、ほぼありえない。今の内)
ご指摘通り、フィリー造船所の話であったようですね。
情報感謝。
トランプ氏の外交方針によって、日本も随分と苦戦させられそうですね。
今回の外交は「大成功」という評価もあるのですが、手放しで喜んで良いのかどうかは悩ましいですね。なかなか、トランプ氏相手の外交はシンドイと、アメリカと支那との会談を見て思った次第。
こんにちは。
この話。
・原潜保有を許可する代わり、レッドチーム入りしたら分かってるよな?の脅し
・原潜は許すが核兵器は搭載させない(許可は別)、絵に描いた餅的な「関税のおまけ」
・周辺国全てに原潜を持たせることで、なし崩し的に日本が原潜保有することのハードルを下げる長い目の戦略
のどれかかなと思ってましたが、なるほど、地元造船業への投資確約という見方もアリですね。
原潜は空母と同じかそれ以上の金食い虫、しかも、「使わないで済むことが一番」な兵器の筆頭ですから、運用コストが見合うのかな……
※日本の場合、長期待ち伏せにも追跡にも利用出来るから戦術的にも欲しい所ですが。
こんにちは。
まあ「投資ありき」の話にはなりそうですね。
投資してくれたら、検討してやるくらいの話だと思っています。その上で、本当に原子力潜水艦欲しいのか?という疑問はありまして。
原潜建造前に韓国がデフォルトからのハイパーインフレに成りそうなのが笑える
韓国経済はかなり厳し上に、年間200億ドル現金投資とか約束しちゃいましたからね。