このニュース、「消費の改善の流れ」にスポットを当ててはいるが、僕が注目したのは別のところである。
韓国経済「消費改善の流れ」 半導体の供給制約で製造業生産が減少=政府系シンクタンク
2026.02.09 14:54
韓国政府系シンクタンクの韓国開発研究院(KDI)は9日に公表した「経済動向2月号」で、韓国経済について「消費の改善によりサービス業を中心に緩やかな生産増加傾向を維持している」とし、消費は改善の流れを示していると分析した。
聯合ニュースより
国内消費が増えて経済の下支えになっているのであれば、本来は喜ぶべき話なのだけれど。
シリコンサイクルよりも在庫払底への恐怖
供給のボトルネック:シリコンウエハーの物理的限界
冒頭の記事で、気になった部分はここ。
ただ、輸出量の増加傾向はやや鈍化したが、半導体価格が高騰しているため金額面では大きな増加傾向を示していると説明した。
聯合ニュース「韓国経済「消費改善の流れ」~」より
貿易統計的には半導体価格の高騰で、「金額面では大きな増加傾向」とする一方でこちら。
鉱工業生産は前年同月比で0.3%減少。半導体(0.3%減)、自動車(2.5%減)など主要業種を中心に小幅減少した。
好調が続く半導体は需要に供給が追い付かず、輸出物価が39.9%上昇し、在庫(35.5%減)は大幅に減少した。
聯合ニュース「韓国経済「消費改善の流れ」~」より
半導体製造が前年同月比0.3%減少。在庫35.5%減と衝撃的だ。これが単なる循環調整ではなく、素材供給の制約に起因するものであれば、話は全く別次元になる。
一般的に言われるシリコンサイクルは、半導体業界において投資と販売のバランスが定期的に変動するための波のことをいうのだが、この数字は別のことを意味する可能性が高い。
実際、信越化学やSUMCOなどの日本企業は、AI需要(HBM等)の爆発によりフル稼働だが、増産には半年〜1年のリードタイムと、次世代素材(ガラス基板、SiC等)への移行リスクが壁となり、安易なライン増強ができない。
だから、これが素材供給が需要に追いつかず「売るものがなくなり始めている」危険なサインだとすると、極めて深刻な意味を持つ。
支那の台頭:レガシー市場の破壊
韓国の半導体企業であるサムスンやSKハイニクス社は、米マイクロン社がDDRメモリの製造から撤退したことで、PC用の安価なメモリを供給する仕事もしている。
ところがこの分野で、支那の企業が供給すると報じられた。
中国CXMT、HBM3の本格量産に乗り出すと報じられる
2026年2月11日
世界のAI開発競争が加速する中、その心臓部とも言えるAIアクセラレータの性能を左右する「高帯域幅メモリ(HBM)」を巡り、新たな動きが起きている。中国最大のDRAMメーカーであるChangXin Memory Technologies(以下、CXMT)が、第4世代のHBM製品である「HBM3」の本格的な量産体制に乗り出したと言うのだ。
Xeno Spectrumより
このニュースそのものに余り驚きはないんだけど、CXMTの製品はとにかく安いのが特徴で、それ以外の特徴はあまり……。信頼性は低いかな。
ともあれ、こうした競合が出てきて安価なメモリの提供を続けると、市場が破壊されてしまう。
韓国企業としてはDDR5が価格高騰したために、割安なDDR4の供給が増えている状況は喜ぶべきことかもしれない。ただDDR4は安価で多売薄利になるため、CXMTのような価格破壊をしてくる競合が出てくると困るのだ。
日米台連合の完成:高市政権とCPTPPの衝撃
もう1つ韓国を驚かせたであろうニュースがこちら。
TSMC熊本第2工場で国内初3ナノ半導体製造へ 政府、補助増額も
2026/2/5 18:07(最終更新 2/5 18:24)
半導体受託製造世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は5日、熊本県で国内初となる最先端の3ナノメートル(ナノは10億分の1)世代の半導体を量産する計画を政府に伝えた。当初の計画よりも高性能な半導体で、AI(人工知能)サービスやデータセンター向けなどの需要に応え、産業ロボットなどの「フィジカルAI」の国内基盤強化につなげる。政府は7320億円の補助金支出を決めていたが、増額も検討する。
毎日新聞より
一時期は第2工場の建設がストップしたという話も流れただけに、3ナノメートル世代の半導体を量産する計画は、韓国企業の完全なる競合ということになる。
タダでさえ、ラピダスの工場が北海道にできつつあるのに、更なる競合が出てくるというのは心穏やかではないだろう。
そして、高市政権と台湾の距離の近さから、もしかしたら台湾がCPTPPに加盟するのでは?!という点で戦々恐々としている可能性が。
TPP加入で日本の支持期待 米中依存減、供給安定化狙う―韓国専門家
2026年01月11日07時04分
韓国は日本主導の「包括的および先進的な環太平洋連携協定(CPTPP)」加入を目指し、13日に奈良県で行われる李在明大統領と高市早苗首相の首脳会談でも協議したい考えだ。
時事通信より
ここのところ何度もこの手の記事が浮上するようになって、「なんとかCPTPPに入れて欲しい」という韓国側の思惑が伝わってくる。台湾が先に加入してしまえば、日台の「半導体ブロック連携」が法的に完成し、枠組みの外に置かれた韓国への素材供給はさらに後回しにされる(優先順位の低下)リスクが出てくる。アメリカも積極的にこれの後押しをしているのだから、絵空事ではあるまい。
次世代技術へのジレンマ
韓国としてはこの不味い環境をなんとか改善したいと、次世代技術への投資を加速している。サムスン電子は「GAA」や「ガラス基板」の実用化に向けて巨額を投資しているとされている。
必死さ透けるサムスン電子のファウンドリー、話題の技術をてんこ盛り
2024.07.18
韓国Samsung Electronics(サムスン電子)は、GAA(Gate All Around)トランジスタプロセス量産でのリードを守るべく、同プロセスのバリエーションを拡充して、様々な顧客要求に応えようとしている。
日経XTECHより
この分野におけるサムスンの技術革新は目覚ましいものがあるが、一方で、GAAに大手をかけられるのは早くても2027年以降になる。
そのために予算を確保したいのだが、先述したように素材の供給が覚束ない。信越化学やSUMCOなどは生産ラインを増やしたばかりで、更なるライン拡張という訳にもいかない。 次世代のガラス基板技術が進化すれば、ライン拡張による投資回収は10年スパンくらいになるので、とてもではないが博打に乗れないという事情もある。それ以前に、工場の人手が単純に足らないという事情もあるらしいが。
そうすると、0.3%の生産減、在庫35.5%減ということの意味は、かなり恐怖をかき立てる数字だと思う。サムスンが技術開発のために資金を投入すべく、半導体の販売を増やしたくとも、素材の関係で生産量は増やせず、在庫は減る一方ということに。
まとめ
半導体在庫が3割以上減少するというのは、通常の循環調整ではなく、供給制約が生産能力に影響し始めている可能性を示唆する水準だ。仮に現在の在庫減少ペースと供給制約が継続すれば、韓国経済の屋台骨である半導体産業は、2026年後半にも需給逼迫が顕在化しかねない。
在庫払底がなにを意味するのか?を考えると恐ろしくもある。半導体一本打法の韓国貿易は一気に赤字に転落することを意味するからだ。
AIバブルの熱狂の裏側で、素材を日本に、市場を支那に、そして最先端の地位を台湾・日本連合に奪われ、韓国の工場が静かに止まっていくという、産業構造そのものの地盤沈下が現実のシナリオとして見えてしまう。
この在庫払底の恐怖に対して、韓国政府はどのような手を打てるだろうか。


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