これは想像以上に深刻だ。
イランの水危機:国家安全保障上の必須事項 ― 分析
2026年2月17日
イランは前例のない水危機に直面している。何世紀にもわたって居住地や農業を支えてきた河川は干上がり、地下水は自然涵養量をはるかに超える量の汲み上げが進んでいる 。
eurasia reviewより
イランが経済的危機に瀕しているという認識はあった。だが、水そのものが国家存立を揺るがす水準まで失われているとは、正直想定外である。
気候変動?いいえ政策の失敗です
水不足は深刻
1月の記事でも、イランが深刻な渇水状態にあることには触れている。
この記事では、テヘランが燃やされているけど、消火に使う水がない。大丈夫なの?というような視点を提供した。
だが、去年12月末には、「イラン首都テヘランは水が完全に枯渇する恐怖」と表現されたのだが、この時期にはもう深刻な渇水に見舞われているという理解ではあった。だが、僕の認識では、一時的な干魃の影響だったという理解だったんだよね。
で、こちらの記事で渇水に関するコメントを頂いたのだが、
「今年は大変みたい」というポイントのずれた返答をしてしまった。
しかし、調べてみると事態はもうちょっと深刻であった。
干ばつではなく「保水能力の喪失」
こちらは去年末のニュースなのだが。
イランを襲う極限の水不足と人類存続の選択肢/世界は何らかの形で「共産主義」的なメカニズムが必要になる
2025/12/29 6:20
今日の世界で人類の普遍的な難局を1点に体現する場所はどこか。それはガザでもなければ、ウクライナでも、スーダンでも、ミャンマー国境地帯の特殊犯罪拠点でもない。イランの首都テヘランだ。
~~略~~
危機の背景にはいくつかの要因がある。直接的な原因は6年にわたる深刻な干ばつだ。
イランでは雨期でも雨がまったくといっていいほど降らなくなっている。さらに、水を大量に使う農業や、水とエネルギーに対する補助金によって帯水層が酷使され、地下水の供給も劣化した。
地下水の喪失はあまりにひどく、テヘランの各所で地盤沈下を引き起こしているほどだ。仮に雨が降ったとしても、帯水層の物理的なスペースが縮小してしまった以上、蓄えられる地下水の量は昔ほど多くない。
東洋経済より
問題は「干魃」だけではない。
地下水の水の汲み上げをやりすぎて、地盤沈下を招き、そのせいでテヘランの水道・下水システムが壊滅状態にある。
なんなら、大統領のマスウード・ペゼシュキアン氏は首都移転を口にするようになったとか。
イランの指導部は何十年も前から問題を認識していながら、真剣な対策を先送りし続けてきた。
それどころか、水危機が極限状態となる中でイラン革命防衛隊は「水マフィア」と化し、何千年と生き残ってきた湖や河川をカネと引き換えに干上がらせている。
東洋経済より
統治者として、問題解決を放棄して移転の提案だと?!
問題を整理すると、以下のように整理できる。
- 地下水の過剰汲み上げ
- 帯水層の物理的縮小
- 地盤沈下
- ダム湖底の劣化
- 地表流出の増加
- 土壌の保水力低下
仮に降水量が例年並みに戻った年も、水不足が指摘されていたことを鑑みても、水を溜める構造が破綻している疑いが強い。
これは一時的な水不足ではなく、 水循環システムそのものの劣化である。
政策要因は無視できない
もちろん、世界的な気候変動や、二酸化炭素排出量の増加の影響もあるだろう。
だが、イランの水不足はそんな理由では説明できないようだ。
過去20年間で、イランの再生可能な水資源は3分の1以上減少し、イランは絶対的な水不足の瀬戸際に立たされている。
eurasia reviewより
背景として指摘されているのは、以下の政策的要因だ。
- 乾燥地であるにも関わらず、米、小麦、テンサイなど大量の水を必要とする作物の作付け奨励
- 水道料金の補助金と低価格のエネルギーは過剰な灌漑を促し、河川や帯水層の枯渇を招く
- 数十万もの井戸が適切な監視を受けずに認可されているため、地下水の汲み上げが自然涵養速度をはるかに超える速度で加速
- イランは世界第2位の天然ガス埋蔵量を擁しているにもかかわらず、インフラの老朽化と投資不足により天然ガス不足に直面
- クリーンな燃料を供給できないことで、発電所や産業において、硫黄分を多く含む低品質の重質燃料油であるマズットの燃焼で代替
こんな状態なのに、政策的に水資源の確保に向かうことはなく、「西側諸国からの経済制裁が水不足に繋がっている」というプロパガンダを広める始末。
これらは自然現象ではなく、政策判断の結果だ。
技術による解決方法として、海水濾過による水の獲得という方針を打ち出しているようだが、イラン高原まで水を引き上げる為には莫大な電力が必要で、しかし水がないために発電が出来ずに停電しているという。
革命防衛隊と経済構造
なお、革命防衛隊はこの水資源を握っているらしく、水利権を使って国民を脅して私腹を肥やしているという指摘もある。
前の記事で指摘したように、マフムード・アフマディネジャド政権は革命防衛隊に経済的利権を売り渡したことで、その支持を広めた。
その結果、革命防衛隊の権益はイラン経済の20~40%を占めるとも指摘される巨大経済主体となって、ダム建設やインフラ事業にも深く関与してきた。革命防衛隊傘下の巨大建設会社(セパサドなど)は、環境評価を無視して数百ものダムを乱造したとされている。
この構造の下では、水資源管理は純粋な公共政策ではなく、政治的・経済的利害と結びつく。
その結果、水不足に陥って、イランが長年目指してきた農業自給の実現を根本的に阻むどころか、広大な農地を安定的に灌漑できなくなったのである。それ故に、幾つもの農村が廃村になり、人々は都市に押し寄せるために、更に水の供給を圧迫する結果になった。
イランのデモは、水危機に起因する部分もあるのだ。国内の供給が不足している小麦は1年で200%の値上がりを記録するなど、インフレにも深刻な影響を及ぼしている。
水不足は、都市の中間層と地方の貧困層を「怒り」で結びつけたのである。
人工降雨は解決になり得るか
そんな中でこんなニュースが報じられていた。
イランで歴史的な干ばつ、水不足対策で「人工降雨」を実施
2025.11.17 Mon posted at 17:05 JST
イランが直面する深刻な水危機に対応するため、「人工降雨」の運用に乗り出した。国営イラン通信(IRNA)が伝えた。
イランの気象当局は15日、国内の降水量が長期平均と比べて約89%減少し、過去50年で最も乾燥した秋になったと発表した。
CNNより
思わず、呆れてものも言えなくなった。
この技術は支那で実用化に漕ぎ着けているらしく、イランにも技術輸出されたのだろうから、実際に降雨を誘発できる可能性はある。だが、帯水層が損傷し、保水能力が低下しているなら、根本的解決にはならない。
問題は「雨が降るか」ではなく、「降った水を保持できる構造が残っているか」である。
まとめ
経済制裁、エネルギー不足、農業政策の歪み、そして水資源の枯渇。
イランは「乾いている」のは経済だけではない。国家の基盤そのものが干上がりつつある。都市の中間層と地方の農民が、同じ水問題で不満を抱く。これは体制にとって無視できないリスクだ。
核協議をめぐる外交報道は多い。しかし、国内で進行する水危機という視点からイランを論じる報道は、日本ではほとんど見かけない。
イラン国民は生存をかけてデモを行い、革命防衛隊に押さえつけられているという状況なのだけれど。この問題は、単なる環境ニュースではなく、国家安全保障の問題である。そして、それは体制の持続可能性そのものに直結する問題となる。そうすると、表面上の外交努力でこれらの問題が解決するとは、とても思えないんだよね。




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