なかなか続報も混乱しているようで、詳細な状況は不明である。
ただ、断片的に伝わってくる情報を並べるだけでも、イラン国内の混乱がすでに「抗議活動」や「弾圧」という言葉では収まらず、半ば内戦状態に陥っていることは理解できる。
イラン当局が抗議者の遺体返還に高額要求と 複数遺族がBBCに話す
2026/1/16
イランで反体制デモに参加し殺害された人々の家族と関係者は、当局が遺体返還の条件として遺族に高額の金銭を要求しているとBBCペルシャ語に話した。
BBCより
このニュースが象徴的だ。
国家が人を殺し、遺体を押さえ、金を払わなければ返さない。統治機構が混乱していることは明らかだ。革命防衛隊が増長していると言い換えても良いだろう。 革命防衛隊は治安組織というより、宗教体制を物理力で支える独立した暴力装置だから。
吹き荒れる弾圧と秩序なきイラン
混乱が常態化するイラン
この記事は、以下の記事の続報である。
年明け早々からイラン国内の混乱っぷりに拍車がかかっており、ついに暴動が発生して鎮圧(弾圧)するところにまで至ってしまったのが現状。
イラン当局がインターネットを遮断している影響なのか、死者は少なく見積もっても2,500人超となったという話と、やっぱり1万人以上になるという話が伝わっている。また、混乱は沈静化の方向に向かっているという話と、継続・拡大しているという複数の情報が錯綜する感じになっている。
イラン抗議デモ、死者3428人に 人権団体
2026年1月15日 3:16
ノルウェーを拠点とする人権団体は14日、イランで続く反政府デモを巡り、治安部隊との衝突で少なくとも3428人の抗議者が死亡し、1万人以上が逮捕されたと発表した。
AFPより
どの情報が信頼がおけるのかは分からないが、日を追う毎に死者数が増えていることは間違いないので、間違い無く混乱は続いているのだろう。
弾圧する側の革命防衛隊にも被害は出ているようだが、圧倒的にデモ側の被害は大きいようで、未だに暴力による鎮圧を試みている状態が続いていると推測される。
遺体返還という名の異常事態
その中で、こんな酷い話が。
BBCの報道によれば、治安部隊は殺害された抗議者の遺体を病院や遺体安置所に留め置き、遺族に高額な金銭を要求しているという。
複数の消息筋はBBCペルシア語に対して、遺体は遺体安置所や病院に留め置かれており、遺族が金銭を渡さない限り、治安部隊は遺体を引き渡さないと話した。
イランでは昨年末から国内各地で抗議活動が続き、これまでに少なくとも2435人が殺害されている。
北部ラシュトに住む家族は、身内の遺体の返還について、治安部隊から7億トマン(約80万円)を要求されたとBBCに話した。
BBC「イラン当局が抗議者の遺体返還に高額要求~」より
複数の地域・複数の証言が出ている以上、作り話とは考えにくい。
他方、テヘランでは、クルド人の季節労働者の家族が遺体を受け取りに行ったところ、引き渡しには10億トマン(約110万円)を払うよう告げられたという。
BBC「イラン当局が抗議者の遺体返還に高額要求~」より
革命防衛隊には強い裁量権が与えられていて、宗教指導者の命令を遂行するにあたって独自の判断で動くことが可能だといわれている。だが、遺体返却にあたって金を取るなどという状況は異常だ。
統治機構が機能していれば、こんな酷いことにはなるまい。
遺体奪還に動く遺族たち
さらにこういった状況が、遺体安置所の襲撃にも繋がっているのだとか。
テヘランではこのほか、消息筋がBBCペルシア語に、当局に遺体を奪われることを恐れた複数の家族が遺体安置所に押し入り、遺体を取り戻したと話した。
「複数の家族は、当局が遺体を保持したり、遺族に知らせずに埋葬したりすることを恐れ、遺体安置所の扉をこじ開け、救急車から遺体を引き出した」と消息筋はBBCに述べた。
消息筋によると、複数の遺族はその後、遺体が運び去られるのを防ぐため、病院の中庭の地面で数時間にわたり遺体を守り、搬送するための民間の救急車が見つかるまで待ったのだという。
BBC「イラン当局が抗議者の遺体返還に高額要求~」より
もうメチャクチャである。
この間、逮捕は全国で続いている。治安部隊と革命防衛隊の情報部門は、活動家、弁護士、一般市民を拘束している。
BBC「イラン当局が抗議者の遺体返還に高額要求~」より
遺体を当局に奪われることを恐れ、安置所に押し入り、救急車から遺体を引きずり出し、病院の中庭で数時間守り続けたという話まで出ている。
法も秩序も信用されていないからこそ、人々は自分の手で「死者を守る」しかなくなっている。
それでも外国が動けない理由
イラン国内がこれほどの事態であれば、外部からの介入があってもおかしくない。
しかし実際には、アメリカもイスラエルも決定的な動きは見せていない。
イスラエル首相、米のイラン攻撃延期をトランプ氏に要請=報道
2026年1月16日午前 6:26
イスラエルのネタニヤフ首相はトランプ米大統領と14日に電話会談し、米軍によるイラン攻撃計画を延期するよう要請した。米紙ニューヨーク・タイムズが15日報じた。
ロイターより
ソースはNYTか……。情報にちょっと信用は置けないが、イスラエルにも色々な事情があるので、即時攻撃というのが不味いという判断はあるのだろう。
アメリカ イラン反政府デモ弾圧で制裁 革命防衛隊幹部ら11人と石油関連企業など対象に
2026年1月16日
アメリカ財務省は15日、イランでの反政府デモへの弾圧に関与したとして、最高安全保障委員会の幹部や革命防衛隊の幹部らに対する制裁を発表しました。
FNNプライムオンラインより
トランプ氏としても経済制裁くらいは行うようだが、それ以上の具体的な作戦を計画しているという噂は聞かない。
アメリカ側に勝算がなければやれないからだろう。
何故なら、アメリカにとってイラン内部に話が出来る相手が存在しないことが致命的だからだ。
ベネズエラでは、内部に協力者がいたようで電撃作戦後に事態を速やかに引き取ったのは副大統領だった。恐らく軍上層部や野党にも調整役を買って出た人物は多かったのだろう。
つまり、作戦後の統治に一定の目処が立っていたという意味だ。
一方、イランの抗議活動は分散的で、明確な旗頭がいない。誰と交渉すれば秩序を引き継げるのかが見えない。統治の「受け皿」が存在しないのである。
宗教体制という構造的な行き詰まり
本来であれば、イラン政府自身が中核となり、段階的に民主化が進むのがアメリカの描く最も望ましい展開だっただろう。しかし現実には、イラン政府は宗教指導者の傀儡に近く、民主化の主体になり得ない。
宗教指導者層は高齢化している一方で、明確な後継者を欠いている状態なので、軍事作戦を展開した後でイラン国内は更に混乱する可能性が高い。
この状態で外から体制を揺さぶれば、改革ではなく権力真空を生みかねないが、アメリカは駐留軍を置いて統治する気はさらさらあるまい。
アメリカにとって外国の統治は失敗の連続で、成功事例は数える程もない。敢えて言えば日本や韓国は事例として挙げても良いかもしれないが、日本には天皇陛下がいたから特例中の特例で参考にならないし、韓国も統治後の混乱を考えると、単純な成功例とは言い難い。ベトナム以降はほぼ失敗の連続である。
実際、指導体制なきまま中東に介入した結果、
- 国家は崩れ
- 民主主義は育たず
- テロ組織だけが量産される
――この光景を、アメリカは嫌というほど見てきた。特に宗教色の強い中東では、テロリストを山程生み出す可能性の方が高かろう。「ジハードの名の下に戦う狂信者」達を多く見てきただけに、その恐怖感は強いと思う。
まとめ
イラン国内では国家による暴力と無秩序が進行しているが、 体制側も反体制側も、民主化の担い手になれない。
外国が動けば状況が好転する保証はなく、むしろ悪化する可能性の方が高い。
結果として、誰も踏み込めず、矢面に立たされているのはイラン国民だけだ。国家は残っているが、救いのない秩序が失われた状態が続いている。






コメント
イランの元王太子が、イスラム体制打倒後に、自身が暫定指導者になる意向を表明したそうです。彼は米軍の軍事侵攻を期待しているようですが、はてさて。
もし米国が本気でイランのイスラム体制を打倒するなら、首都制圧とイスラム指導者たちの拘束は必須ですが、その成功の可能性を考えると、さすがにトランプ大統領も軍事介入には二の足を踏むんじゃないですか。空爆して終わり、なんてことにはなりませんし。
イラン元王太子を担ぎ上げるのは、そんなに良い手だとは思わないんですが、どうなんでしょう。
政治体制を一から構築し直さなければならないコストを考えると、本当はもうちょっと穏便な宗教指導者が出てきて「俺がやる」と言ってくれれば穏当なんですが。
しかし、そうすると革命防衛隊って邪魔になっちゃうんですよ。アレは解体するしかありません。