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海自のP1哨戒機 多くが任務に使えない?!

安全保障
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あちゃぁ。

海自のP1哨戒機 多くが任務に使えない状態 会計検査院

2025年6月27日 17時11分

日本の周辺海域の警戒・監視などのため開発され防衛省が巨費を投じて配備してきた海上自衛隊の「P1哨戒機」がどの程度使われているのか会計検査院が調べたところ、設計ミスや部品不足などのため多くの機体が任務に使えない状態になっていることが分かりました。防衛省は「ほかの哨戒機を含め運用上必要な態勢は確保できており、国防に支障はない」としています。

NHKニュースより

国内メディアが大喜びで取り上げたこのニュース、それなりに深刻な事態なので早急に対策をお願いしたいし、そのための予算も編成して欲しい。

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次期哨戒機導入を検討すべきかも

不出来な哨戒機なのか

この件に関しては、似たようなことをキヨタニが言及していた。引用記事はモンタニのものだが。

率直に言う P-1哨戒機は「失敗作」である――関係者も認めざるを得ない「国産化すべきではなかった」根本理由

2025.5.6

海上自衛隊は哨戒機(味方の艦隊や領空・領海を警戒・保護するための軍用機)更新を進めている。今まで使用していたプロペラ機P-3Cを、国産ジェット機P-1に置き換えようとしている。

しかし、P-1は信頼性や能力が不足している。そのため更新はうまくいっていない。海外派遣では従来のP-3Cを重宝するありさまである。

この問題はどのように対処すべきだろうか。

漫然と進めている改修による解決は不適当である。それよりも別機材への置き換え、今なら米国製P-8Aへの置き換えを図るべきである。

Merkmalより

この記事を読んだ時には心底腹が立ったが、会計検査院の報告を見る限り、全くデタラメと言う訳ではなさそうである。尤も、結論には大きく異論があるが。

特に、P-8A哨戒機への置き換えには反対である。P-8A哨戒機は運用思想から異なる機体なのだから、P-1哨戒機の代替品として置き換えることはできない。

IHIのエンジンにトラブル

記事で言及している問題の1つがIHIが開発したエンジンである。

また、飛行中に空気中の塩分が付着するなどして腐食による不具合が生じたため、ある程度の割合のエンジンが恒常的に使えない状態になっているということで、会計検査院は防衛省と海上幕僚監部、それに防衛装備庁などに改善するよう伝えました。

NHKニュース「海自のP1哨戒機 多くが任務に使えない状態」より

P1哨戒機は4発のエンジンを積んでおり、F7-10ターボファンエンジンと呼ばれるIHI製のエンジンにトラブルがあるようだ。

検査院は原因として、エンジンの腐食による性能低下▽電子機器の不具合▽交換部品の調達の遅れ、の3点を指摘した。エンジンは海上を長時間飛行することで塩分が付着し、素材が腐食していた。継続的に一定数が使えず、飛べない状態になっていた。

装備庁は開発中の試験段階で、同様の不具合の報告を受けていた。だが、エンジン開発を担ったIHIから「不具合は偶発的に発生したもの」などと報告され、特別な処置は不要と判断していた。検査院は当時の判断については「必要な検討を行っていた」としつつ、「今後は分析結果を設計に反映させる余地はある」と指摘した。

朝日新聞より

なるほど。

img

このF-7エンジンだが、防衛省により日本で独自に開発された高バイパス比ターボファンエンジンで、IHIが製造している。これが宜しくないらしい。

開発総額は200億円以上。でも、故障間隔が計画の半分ほどの期間しかなく、これが稼働率の低下を招いている他、頻繁に破損すると想定されていないパーツが破損する、比較的壊れにくいはずの最前段のファンが飛散するなど、設計的に未熟さが散見される状況が続いているようで。頻繁に故障するが故に予備品の確保が十分でなく、それが稼働率の低下を招いているのだとか。

ただし、JAXAとの要素技術研究が実を結んである程度の性能向上の目処が立っている部分もあるようだ。

https://www.jaxa.jp/press/2019/06/files/20190624a.pdf

国産エンジンを積んでいることで稼働率が低下していることはとても残念なことではあるが、こうした開発経験値を積み上げないまま他国のエンジンを採用、或いは他国の機体そのものを採用するという安易な考え方は宜しくない。

IHIを甘やかすなという批判もあるかもしれないが、未だに国産エンジンというのは数えるほどしか存在しないし、JAXAの実証実験も国産エンジンがあってこそ行えるものであるから、安易に撤退することが良いことだとは思えない。

ただし、モンタニの指摘も悔しいが強ち間違いではない部分も。

そもそもF7エンジンの設計は、設計ノウハウのないところから始まっている。そして、開発期間も短かったという事情もある。簡単に手直しというレベルでは、おそらくないのだろう。

それ故にF7エンジンの手直しをして、果たして成功するのか?というとこれまた結構シビアな話にはなる。P3C哨戒機を引退させようという時期にP1哨戒機まで駄目なのはあまりよろしくない。つまり悠長に開発やっている余裕がないのである。優秀な外国エンジンを!という気持ちは分かるし、C-2輸送機は外国製のエンジン使っているという事情もある。

電子機器にも不具合

エンジンの他にも電子機器にも問題があるようだ。

目標の情報収集に使う電子機器や、機体に搭載した武器についても不具合が発生。一部の不具合は、開発時に十分に検討されていなかった可能性があるという。

交換が必要な部品についても、国際情勢の急変や半導体不足などで納品までの期間が長期化し、必要な時期に調達できていなかった。

朝日新聞より

詳しい情報は出ていないが、センサー部品などが問題であるようだ。複数の電子機器が別の問題を抱えていて、それを解決するだけのノウハウがないというのが実情らしい。

なるほど、P1哨戒機の存在は、日本のシーレーン防衛にもかなり重要な位置を占めているだけに、早急に対策したいところだが……。

無人機運用で穴埋めが無難か

というわけで、P1哨戒機の稼働率が低い問題はなかなか深刻な状況のようだ。そしてこの問題は、導入当初から分かっていたことのようだね。

ただ、エンジンの話は開発によって多少改善の見込みはあるだろうし、当面はP1哨戒機を使う必要があるので、改善解決にほど遠くとも開発を続けるべきだとは思う。

「将来性がないから早く変えてしまえ」という意見もわかるのだけれど、アメリカのP8A哨戒機は設計思想が違うことやそもそもボーイング737を改修して作った機体で、民間運用がなされているから修理パーツが潤沢という面は有利だが、そもそもフルスペックのP8A哨戒機は海外輸出されていないという事情もあって、そんなに良い手だとは思わない。採用する国はそれなりにあるんだけどね。

そうすると、MQ-9リーパーやらシーガーディアンやらを増やして運用の穴埋めをしつつ、P-1哨戒機の延命を図ることと、次世代機の開発をしたほうが良いように思う。トルコのTB2あたりはかなり優秀らしいけれど、新しいアイテムを導入するよりはすでに運用しているアイテムを増やしたほうが良いだろう。

ただ、対潜哨戒機の運用は職人技だといわれていて、そのノウハウこそが大切であるため有人の哨戒機をなくすというのは悪手であるように思われる。

防衛費増やせという話もあるので、そういった研究開発にもお金を使って欲しいし、大学の軍事研究もタブーにせずに推進して欲しいなぁ。

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