コメント欄を見ていて、少し引っかかる点があった。なので今回は、やや丁寧に整理して書いておくことにする。なお、構成の段階で長くなりそうだったので(前編)としている。
【レアアース関連注目6銘柄】東洋エンジ、三井海洋…南鳥島沖採掘に向けた動きが本格化!
2026年2月4日 4:35
2026年1月、日本国内でのレアアース(希土類)生産を目指す取り組みが本格的に始まった。政府が主導する計画で、小笠原諸島の南鳥島沖でレアアースを含む泥を採掘する探査船「ちきゅう」が、静岡県の清水港を出港した。
レアアースとはレアメタルの中のイットリウム、ルテチウムなど17種類の金属元素で構成される。電気自動車などの小型モーター磁石、燃料電池用固体電解質、自動車排ガス処理触媒などに欠かせない素材が含まれる。
DIAMOND onlineより
引用元の記事自体は、正直なところ「試掘が始まった」という事実確認に留まっている。だが、重要なのはその背後にある事情だ。
レアアース採掘にまつわる事情
レアアース泥の組成
先ずは前の記事の引用を。
当時の記事は「試掘が始まった」という点のみを簡潔に書いたが、正直に言えば、少し省略しすぎた点を反省している。
現在、レアアースの供給は支那が圧倒的なシェアを握っており、経済安全保障上のカードとして使われているのは周知の事実だ。
現状、中国が圧倒的なシェアを占めており、経済安全保障の道具にも使われるレアアースだが、実は南鳥島周辺のEEZ(排他的経済水域)内にはレアアースを豊富に含んだ「レアアース泥」やマンガンノジュール(海底に堆積した金属の塊、コバルトやニッケルなどを豊富に含む)が大量に存在するといわれている。EEZは沿岸国が資源開発や漁業などの権利を占有できる水域のことである。
DIAMOND online【レアアース関連注目6銘柄】より
そして、南鳥島沖の海底に眠っているレアアース泥の中には、ジスプロシウム、サマリウムなどの中・重レアアースと呼ばれる分類のレアアースが含まれていることが判明している。

ジスプロシウム(Dy)やサマリウム(Sm)は、現在、圧倒的なシェアを支那で占められいる。つまり、支那の戦略物資なのである。
使われる分野としてはこんな感じ。

あくまでイメージであるが。
含有量の密度と特徴
そして、特筆すべきはその濃度だ。
調査結果によれば、南鳥島周辺のレアアース泥は6,600ppm以上の含有量が確認されている。支那の陸上鉱床での含有量は 500 ppmだとされているから、10倍以上の濃度だ。
もちろん、この高濃度の泥が海域全体に均一に分布しているわけではない。それでも、確認されている範囲だけで資源量は1,600万トン超と報告されている。
そして、もう一つ重要な違いがある。
陸上のレアアース鉱石には、トリウム232やウラン同位体といった放射性物質が含まれることが多い。
また、レアアース鉱石は多くの場合、トリウム232やウラン同位体などの放射性物質を含有しており、その採掘や製錬の過程で放射性廃棄物が大量に発生します。
そのため、廃棄物の厳重な管理が必須で、放射能汚染のリスクも常に付きまといます[*5]。
中国のある地区では、レアアースの採掘に伴って以下のような環境汚染が発生していたと報告されています。
HATCHより
- 地下水に臭気があり、茶褐色の沈殿物が見られる
- 農産物の収穫量が通常の6〜7割に留まっている
- 家畜に奇形などが多発している
- 空気中の化学物質が反応を起こし、毎日窓ガラスに模様を形成する
そのため、採掘・製錬過程で放射性廃棄物が発生し、厳重な管理と高いコストが不可避となる。

こちらは、今、レアアース泥を採取した場合にどのような手順で精錬するかの計画なのだが、陸上の場合は塩酸抽出の前に、鉱石を砕く作業が入る。厄介なことにここにトリウム232やウラン同位体が含まれるんだよね。当然、抽出作業をすると、その廃液の中にソレが含まれることになる。
だから、適切な処理が必要になる。
なぜ、支那では安く生産できるのか
支那ではこの汚染問題を力技で解決しているらしく、それが支那のレアアースの採掘コストが安い理由でもあるし、他国で開発されにくい理由でもある。
この辺の事情はこちらの記事でも紹介させてもらっている。
また、陸上鉱山開発には鉱滓ダム問題が付き物であり、ザンビアの事例でも書いた通り、環境・社会リスクは決して軽いものではない。
ザンビアで適切な鉱滓処理を行わなかった支那だが、実は国内でも同じような問題を起こしており、その点については朝日新聞などが過去に報じている。

ゴビ砂漠南端には実際に鉱滓を溜めた人工湖が存在し、放置されている。日本では鉱滓ダムが今も幾つか残っていて、長期間にわたる管理が行われているが、そういった予算を割いていないのが支那の実情なのだ。
海底から採取できるレアアース泥には、放射性物質がほとんど含まれないことが分かっている。その点でも優秀なんだよね。
採算がとれない
というわけで、こういった問題とのバランスで採算が採れるかどうかが決まる。
ただし、陸上鉱床よりも有利なポイントも幾つかあるため、一概に勝負にならないと決めつけるのも違うということだけは押さえておくべきポイントだと思っている。
軽レアアースと呼ばれる分類のリチウム(Li)やセリウム(Ce)、ランタン(La)などは、比較的多くの地域で発見されているので代替が可能だが、ジスプロシウム(Dy)やサマリウム(Sm)は採掘地域が限られる上に環境問題などがあって、支那の戦略物質となっている。
したがって、こうした物質の入手先が1つ確保できるだけで、価格が高くとも戦略性が出てくることになる。そりゃ、アメリカも「共同開発しようぜ」と言ってくるわけである。
小野田経済安保相、レアアース泥採取で高コスト許容 南鳥島近海
2026/2/3 13:03(最終更新 2/3 13:03)
地球深部探査船「ちきゅう」が南鳥島(東京都小笠原村)近海の水深約5600メートルの深海底からレアアース(希土類)を含む泥の採取に成功した件を巡り、小野田紀美経済安全保障担当相は3日の閣議後記者会見で、「コストは重要だが、国家を守るための視点を持った行動をしていくべきだ」と述べ、高コストを許容する考えを示した。
毎日新聞より
コレに関して経済安全保障担当の小野田氏は、「コストは重要だが、国家を守るための視点を持った行動をしていくべきだ」とバッサリと異論を切り捨てた。メディアは何故この発言に至ったかをもう少しきちんと説明すべきだと思うよ。
まとめ
海洋資源開発は、採算の面で大きな課題があることは事実である。
したがって、このまま順調にレアアース泥の採取技術を確立できて、生産設備が整ったとしても、コスト面で支那と競うことは恐らく難しい。
ただし、上述したように完全に負け戦かというとそんな話にはならなくて、環境面でのアドバンテージも含めて筋の良い開発になる可能性は高い。
そして、そのこと以上に大切なのは、対支那の戦略上、アメリカまで巻き込んでの開発をするという道筋を付けられたことは非常の大きな意味がある。支那の戦略物資の一角を崩すことができる可能性があるのだ。やらない手は無いのである。






コメント
泥だから薄い酸で処理出来て中和させて廃棄するのも楽
という事は高純度精製出来る
どうなんでしょうか。
僕はそこまで調べきれませんでしたが、その前段階の砕く処理が無くなるのは大きいと感じています。
どうもー
重レアアースの精製で最大の難関となるのがジスプロシウムとテルビウムの分離。
この2者は化学的性質が酷似していて分離するのが大変難しい。
リン酸系の溶液に溶かすと両者を分離出来ることはわかっているのですが1回の反応でほんのわずかしか分離せず。そのプロセスを数百段の反応容器を用いて行って初めて分離出来るというシロモノなのです。
巨大な設備が必要で、しかもリサイクル不可能なとんでもない量の廃液が排出され、これをどうしようという話しなわけです。中国はこれを無理やり土壌に戻してるわけですね。
南鳥島のレアアース泥は放射線物質が含まれていないだけかなりマシではありますが、それでも日本の環境基準はかなりうるさいので結局は海外で精製することになるんじゃないかなーとか思ったりしてます。