興味深いニュースがあったので、触れておこうと思う。
【写真】ロシア国内で、軍の要人の車が次々に爆発…「電子戦システム」開発の中心人物も「暗殺」される
2025年5月4日(日)06時58分
ウクライナメディアのRBCウクライナはウクライナ軍から得た情報として、ウクライナとの国境に近いロシアのブリャンスク市で電気機械工場の責任者を務めていたエフゲニー・リティコフが死亡したと報じた。
Newsweekより
これはウクライナ侵略戦争絡みの話で、ロシア国内で起きた事件のことを取り扱ったニュースである。
複数の爆破事件
犯人はウクライナ工作員?
内容的には、ロシア軍の要人が暗殺されたということなので、ロシアでは然程珍しい話ではないのだが、記事の内容を読む限りはロシア政府はウクライナ側の犯行であると臭わせている感じである。
Newsweekには詳しい言及が無く、Xのポストが紹介されているのみ。このポストに寄れば、「ロシア政府は、ブリャンスク電気機械工場の設計局長で「クラスーハ」電子戦システムの主要開発者であるエフゲニー・ルィトニコフ氏の死亡を確認した。4月18日、彼の乗っていた車がウクライナ国境付近でIED(即席爆発装置)によって爆破された。ルィトニコフ氏と同僚が車内に入った際に、破片が詰まったIEDが爆発し、2人とも即死した。」とされている。
この話通りであれば、ウクライナの工作員がIEDを使って車ごとロシア要人を殺害したということになるのだが、ウクライナ国境近くであるとは言えそんな簡単に犯行が実現できるんだろうか?という疑問は湧く。

ブリャンスクは、モスクワから380km、ウクライナ国境からは100km弱という位置にある都市で、鉄鋼業・金属工業の中心地である。ウクライナからのドローンによる攻撃に曝されており、郊外のパイプライン輸送施設が被害を受けるなど戦火の降りかかる地域ではある。

犯行状況を考えても、ウクライナの関与を疑われるのは自然だとは思う。
要人殺害
この他にも、ロシア軍の要人がウクライナによって攻撃される事例が幾つも報じられている。
ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲…「ピンポイント攻撃」で殺害の瞬間を公開
2025年1月10日(金)18時18分
ウクライナ国防省情報総局(GUR)は、同国南東部ザポリージャ州で無人機(ドローン)を使用した「待ち伏せ」作戦を実行し、ロシア軍の高官を殺害したと発表した。「攻撃」実施の瞬間はドローンに搭載されたカメラで撮影されており、そこには高官を乗せた自動車が空中のドローンに襲撃される生々しい様子が残されている。
Newsweekより
こちらのニュースは、ザポリージャ州でのロシア軍高官殺害のニュースであり、ウクライナ側の戦果として報じられている。
ロシア軍は1年前からウクライナ東部で着実に進軍を遂げ、ウクライナは軍事的にも経済的にも厳しい状況に直面してきた。そうしたなかで、ロシア軍の高級指揮官をピンポイントで標的にするという手法はウクライナにとって重要な戦略となっている。
Newsweek「ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲」より
ドローンを使ったピンポイントの要人暗殺をやったということで、これもウクライナ工作員がロシアに浸透しているからこそ、やれるという戦術の1つなんだろうね。
浸透しているからこそIDEを用いた殺害もやれるという風に解釈はできるんだけど、それにしても、そんなに浸透されて大丈夫なのだろうか?或いは、ウクライナ側に協力するロシアの反政府勢力という可能性もある。確か、ウクライナ側に呼応する反政府勢力が幾つかあったという話があったハズだ。今、現存するかは知らないが。
パトリオットの供与
さて、ちょっと脇道に逸れるが、こんなニュースがあった。
トランプ氏がウクライナに強力な援軍か 地対空誘導弾パトリオット、新たに2基供与承認へ
2025/5/5 15:21
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は4日、米国製地対空誘導弾パトリオット2基が新たにウクライナに供与される見通しだと報じた。主にウクライナ首都キーウの防空が目的。トランプ米大統領が承認して供与されれば、ウクライナのパトリオットは計10基態勢となる。
産経新聞より
今更、パトリオット2基追加なのか?と疑問に思ったのだけれど、そういえばパトリオットの供与に関してはいろいろと報道されていたような。
米国法に基づき、機密性が高い米国製兵器をウクライナに移転するには第三国から供与される場合も米政府の承認が必要。トランプ氏の意向は明らかではないが、同紙は「ロシアの対ウクライナ攻撃が激しくなるのに伴い、トランプ氏の発言もウクライナ寄りになっている」と報じた。
産経新聞「トランプ氏がウクライナに強力な援軍か」より
トランプ氏もウクライナにパトリオットを供与することを決めたということは、ロシア寄りのスタイルを改めたということになるのか。トランプ氏の外交は大半がプロレス込みなので、何が狙いなのか良く分からないが少なくとも正義を求めてはいないんだろう。
ウクライナ軍事支援停止、「パトリオット」の弾薬枯渇か 民間人が弾道ミサイルにさらされる可能性
2025.03.06 Thu posted at 10:53 JST
ウクライナがロシアの強力な弾道ミサイルから自衛する方法はただ一つ、米国製の「パトリオット」防空システムしかない。米国がウクライナ政府への軍事供与を停止した今、パトリオットの弾薬が近く底をつく可能性が出ている。
トランプ米大統領は先週ホワイトハウスでウクライナのゼレンスキー大統領と激しい応酬を繰り広げた後、今月3日にウクライナへの軍事供与を停止した。これを受け、ウクライナ政府や支援国は対応策の検討に追われている。
CNNより
3月頃には、パトリオットの残弾数が怪しいみたいな報道もあって、これはトランプ氏がウクライナ支援の見直しを図るという意図で、ウクライナへの軍事供与を一旦停止していたことの影響のようだ。

結果からいうと、見直しが入ったことで戦局に変化があったという感じになっていて、この判断そのものが不味かったということではなかったかもしれない。ただ、前線の兵士にとって、命に関わる話だったので「トランプ、ふざけんな」ということだったかも知れないが。
ともあれ、これでパトリオットの増強ができ、地対空兵器の確保という意味ではウクライナ側の安心材料が増えたのだと思う。逆に言えば、ロシアにとってはあまり良いニュースではないのだけれど。
そういえば会談直前にも
そうそう、車の爆発といえばロシア郊外でもそんなことがあったようね、先日。
ロシア軍将官、モスクワ郊外の車爆発で死亡 米特使とプーチン氏の会談直前
2025.04.25 Fri posted at 22:12 JST
ロシアの都市バラシハで25日に車が爆発し、当局によると、ロシア軍の有力な将官が死亡した。トランプ米大統領の特使、スティーブ・ウィトコフ氏がロシアの首都モスクワでプーチン大統領と会談する直前だった。
CNNより
この事件もIEDのような爆発物を使った犯行である可能性が高いようだ。

この件は、犯行声明は出されておらず、犯人像の特定もなされていなかった。
犯行声明は出ていない。攻撃の性質はウクライナでの化学兵器使用を主導したとされるロシア軍将官、イーゴリ・キリロフ氏らが暗殺された過去の事件に類似しているように見える。
~~略~~
ライバーはモスカリク氏を「有能で厳格」と評し、「部下に厳しかった」ことから「好かれてはいなかった」としている。
CNN「ロシア軍将官、モスクワ郊外の車爆発で死亡」より
こちらはモスクワに近いこともあって、ウクライナ軍の関与について言及なされてはいない。
が、タイミング的には米特使とプーチン氏の会談を邪魔したい勢力の反抗であると見るのが妥当で、被害者が「部下に厳しい」という情報を追加して怨恨の線を臭わせるのはやや的外れのようにも感じる。
何れにしても詳しい情報は出ていないのだから、憶測しかできないのだが。
国内情勢悪化?
とまあ、一連のロシア国内における暗殺(一部はウクライナにおけるロシア支配地域だが)事案を挙げた訳なのだけれど、ドローンの一件以外はどうにもウクライナの関与というよりは、ロシア国内の問題のような気がしてならない。
今のところ、根拠らしい根拠はないのだが。
ただ、ロシア国内は原油安の影響もあって、経済的にかなり厳しい状況が続いている。
ロシア、原油安でウクライナ紛争解決へ意欲的に トランプ氏指摘
2025年5月6日午後 3:44
トランプ米大統領は、ロシアとウクライナは紛争を解決したいと考えており、ロシアのプーチン大統領は最近の原油価格の下落を受けて、和平により傾いていると指摘した。大統領執務室で5日、記者団に語った。
「原油価格が下がっている現在、紛争解決に向けて良い状況にあると思う。ロシア、ウクライナの双方が解決を望んでいる」と主張した。
ロシア経済を支える原油の価格は、今年に入ってバレル当たり15ドルほど下落している。
ロイターより
先日言及したが、これトランプ氏のせいだといわれている。
ロシア経済は戦時体制下にあって、高インフレ状態が続いている。政策金利21%というのは正気の沙汰とは思えないが、にもかかわらず3月時点で10%近い消費者金利となっている。
これでは内需に大きな影響があるし、ロシア国民の不満は高まる。
そうすると、上に紹介したような暗殺事件が全てウクライナの仕業だという風に認定するよりも、プーチン政権への不満が高まっているからという可能性の方が高いように思われる。
ウクライナ報道官 “停戦中 ロシア自作自演の破壊活動可能性”
2025年5月6日 17時42分
ウクライナ国防省情報総局の報道官は、ロシアが一方的に発表した今月8日からの3日間の停戦について、ウクライナに責任を負わせるため期間中にロシアが国内で自作自演の破壊活動を行う可能性があるという見方を示しました。
NHKニュースより
このニュースは、ロシア側が提案した停戦期間中に自作自演テロが行われるのでは?というような内容なのだが、テロに見せかけた反抗的な要人の暗殺という可能性もあるわけで。
ウクライナ工作員がそこまで有能とは思えないし、暗殺事件自体はロシアでは日常茶飯事だからねぇ。
コメント
不謹慎を承知で面白い!
ウクライナ側の関与もしくは実行ならば、
ウクライナ特務やるねぇ!
仮にロシア反政府勢力の力を借りる話であったとしても、おそロシアに潜入して手筈やら何やら準備もいる。そういう総合力てすからね暗殺とかのウエットワークは!
もともと「そういうの」はKGBいらいロシアのお家芸なわけでないすか。それだけに奴ら相手にカマすのはキツイ想うす。
なので純粋に第三者的に観てウクライナ特務工作員GJと言えるのではないでせうか?
次いでいえば木霊様の見解に異論。
いま綱紀粛正とか言って内輪揉めしてる場合ではないでしょロシアは。
それが判らんほどプーチンもロシアもアホではないと想う。
唯物論で武装した赤色革命でありながら、ナチスに包囲された時にロシア正教を持ち出した国ですから。プーチンに反対する側の幹部も、今ウクライナで退けば、ロシアが分裂しかねない事は解るはず。この段階でプーチンに反旗を翻す幹部連もいるとは思えない。
外から見ている分には、ご指摘の通りで。
ロシアに内輪もめしている余裕は無いし、勝利のためには団結の一手だと思っています。
ただ、内側にいて同じ風景を見ることが出来るかは甚だ疑問であります。情報は随分と規制されているでしょうし。
そして、ウクライナ工作員がロシアに浸透していることは、ドローン攻撃の成功の一例を考えても間違いはないと思います。
ただ、次々と暗殺を成功させるほど試行出来る余裕があるのか?とか、果たしてそこまでの余力がウクライナに本当にあるのかとか、疑問に思うことは少なくないです。
故に、個人的にはロシアは既に一枚岩ではなく、保身のための内輪揉めをしているのでは?というのが個人的な予想であります。
調べて見るとかなりの数の暗殺成功例があるようで、報道されただけで戦争開始から二桁超え。今年に入って既に把握できているだけで3例ありますから。
ロシアの諜報能力などを加味すると、これはかなり多いのではと。
ウクライナの関与だけだとすると、ロシア国内の協力者がいることはほぼ確定でしょうね。