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EV大国を目指すブラジル、支那からの売り込みに苦慮

南米ニュース
この記事は約11分で読めます。

どこに売り付けるつもりかと思ったら、ブラジルかぁ。

China floods Brazil with cheap EVs triggering backlash

June 19, 20257:02 PM

  • China’s BYD Shenzhen, the world’s largest car-carrying ship, made its maiden voyage to Brazil
  • Brazil has become a top target for Chinese EV exports, according to shipping data
  • Industry groups want Brazil to raise tariffs to protect its auto industry
  • Chinese automakers have pledged to build local factories in Brazil
ロイターより

コメントを貰って少し調べて見たんだけれど、支那は随分本腰を入れてEVの販売を考えているようだ。その辺にちょっと触れておきたい。

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輸入過剰が問題になりつつある

ブラジルにEV販売攻勢

どうしてブラジルなのか?という点に疑問を持ったのだけれど、どうやらブラジルなりの事情があるらしい。

おっと、その前に引用をしておこう。

BYD中国最大の電気自動車およびプラグインハイブリッド車メーカーであるBYDは、グリーンカー運動がまだ初期段階にあるブラジル市場において、ブラジルの自動車購入者に比較的低価格の選択肢を提供している。ブラジルの自動車業界関係者や労働組合のリーダーたちは、BYDをはじめとする中国メーカーの自動車が大量に流入することで、国内の自動車生産が停滞し、雇用が損なわれることを懸念している。

ロイター「China floods Brazil with cheap EVs triggering backlash」より

BYDがブラジルでのEV販売に力を入れているというのが冒頭引用のニュースである。

こちらの記事に頂いたコメントで紹介いただいた。

EV販売過剰が深刻化しているので、売れそうなところに力を入れたということらしい。

電気自動車とプラグインハイブリッド車の世界トップメーカーであるBYDは、ブラジルでの成長を狙う複数の中国ブランドの中で最大のメーカーです。ブラジルの主要自動車協会によると、中国製自動車の輸入台数は今年、約40%増加し、約20万台に達すると予想されています。これは、軽自動車登録台数全体の約8%を占めることになります。

ロイター「China floods Brazil with cheap EVs triggering backlash」より

凄いな。

ブラジルの事情

で、ブラジルが何故そんなターゲットになったかというと、1つはブラジルが支那からの輸入に対して規制をかけなかったこと。もう1つはブラジル政府が導入に力を入れているらしいことだ。

ブラジルでもEV普及が本格化?~BYDの台頭でプラグイン車の新車販売シェアが急上昇

2024年1月31日

EVシフトの流れが南米のブラジルにも波及しています。2023年12月のデータではBEVの新車販売シェアが日本を超えたことなどの最新動向とともに、EV関連の税制措置の変更内容や、フレックス燃料車を含めた次世代車事情について、EVネイティブ氏のレポートです。

EVsmartBlogより

どうやら、ブラジルはガソリン車にネガティブなイメージがあるようだ。

ブラジルの自動車市場において非常に特徴的なのが、純粋なガソリン車が少ないという点です。2022年シーズンにおけるガソリン車の販売シェア率は2.3%と低く、ガソリンとバイオエタノールをミックスさせた「フレックス燃料車」のシェア率は77.6%と、ディーゼル車の17.7%というシェア率と比較して圧倒的な人気となっています。

バイオエタノールに関しては、ブラジルで多く取れるサトウキビ由来のものが一般的です。産油国でないブラジルとしては、経済安全保障の観点でも、石油を海外から購入する量を減らすために、自国で取れるサトウキビを使ってフレックス燃料とすることで、経済安全保障と脱炭素の両面を推し進めようとしているわけです。

EVsmartBlog「ブラジルでもEV普及が本格化?」より

そこで、ガソリンとバイオエタノールをミックスさせたフレックス燃料車の売り上げを増やしているらしいのだが、そんなに良いものか?フレックス燃料って。

他方で、すでに電力構成の85%が再生可能エネルギーで賄われているという点もブラジルの特筆すべき点です。よって、再エネ由来の電力を使用することで、中長期で考えた脱炭素を強力に推進可能として、GMなどのメーカーは「EVを中心にしていきたい」という姿勢を示しています。

EVsmartBlog「ブラジルでもEV普及が本格化?」より

ブラジルがバイオエタノールの生産に力を入れていたのは知っていたが、そのお陰か安く手に入るらしい。

やっぱり価格か。

ガソリンより4割安い? 南米・バイオ燃料に熱視線

2023年10月6日

日本でも高値が続くガソリン価格。政府の補助金が拡充され、値下がり傾向ではあるもののレギュラーガソリンの小売価格は1リットルあたり179.3円(10月2日時点:全国平均)で、ドライバーへの負担がのしかかります。

一方、日本からみると地球の反対側、ブラジルではなんと4割も安い価格の燃料が手に入ります。それは世界から注目される植物由来のバイオ燃料。その最前線を追いました。

NHKニュースより

どうやら戦略的にバイオエタノールの生産を増やしていて、大規模なバイオエタノール工場が作られているようだ。

食料品にや森林への悪影響が指摘されているが、一応その辺りにも配慮はあるらしい。

それなりにバイオエタノールの課題もあるにはあるけれど、似たことを沖縄辺りなら実現可能なように思う。

EV推進の事情

ともあれ、ブラジルはフレックス燃料車だけではなくEVにも目を向けて、推進しているらしい。その方針はブラジル大統領のルラ氏の考え方に大きく影響を受けているようだ。

ブラジル大統領選挙、ルラ元大統領が当選 左派に回帰

2022年10月31日 8:00 (2022年10月31日 12:49更新)

ブラジルで30日に投開票された大統領選挙の決選投票で、左派のルラ元大統領(77)が当選した。選挙管理当局が発表した。ルラ氏は2023年1月1日に大統領に就任し、通算3期目を務める。任期は4年。低所得層への社会保障を重視する方針が国民の支持を集めた。

日本経済新聞より

ルーラ大統領が訪中、電力通信・EV・建設企業を訪問、BNDESは最大13億ドルを資金調達へ

2023年04月17日

ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領は4月12~15日に中国を公式訪問した。中国は輸出入ともにブラジルの最大の貿易相手国だ。ルーラ大統領は1月の大統領就任後、当初は3月に訪中を予定していたが、自身の体調不良のため延期していた。今回の公式訪問では、ブラジルとビジネスの結びつきが強い中国企業を訪問し、北京で習近平国家主席と会談を行った。

ブラジル大統領府公式サイトによると、ルーラ大統領は13日、ブラジル北東部バイーア州に所在する米国フォードの工場跡地の購入を検討している中国の電気自動車(EV)大手の比亜迪(BYD)を訪問したほか(2023年1月17日記事参照)、華為技術(ファーウェイ)の研究開発センターも訪問した。ファーウェイでは、コネクティビティーやデジタルインクルージョン、教育、健康、再工業化に注目したパートナーシップで、ブラジル市場を長期視点で捉えていると説明した(大統領府公式サイト)。また、バイーア州都サルバドール市と同市近郊のイタパリカ島を結ぶ橋の建設プロジェクト(注1)を有する中国交通建設(CCCC)も訪問した。

~~略~~

同日の習国家主席との会談では、「両国関係を貿易面にとどまらず、深化させていく」と述べており、両国省庁間などで15の覚書などに署名した。具体的には、貿易円滑化や情報通信技術の協力、投資促進や産業協力といった内容に加え、衛星(CBERS-6)の共同開発に関するもの(注2)や、両国の共同テレビ番組制作に関する内容も含まれた。

JETROより

うーん、ブラジル大統領は随分左派的な考えの持ち主のようだが、支那との関係を深めることは利益になるとは限らないんだが。

多分、ルラ氏の方針の変更は当面なさそうだな。2022年に再選しているので2027年までが任期なんだけれど、次期もやるのかな。現時点で79歳なんだが。

ともあれ、大統領の方針としてEV推進が行われていて、税制も相まって過剰生産されたEVが一気にブラジルに集まってきている状況のようだ。

BYDの輸出戦略は、現地当局の抵抗を招くことなく出荷量を拡大し続けられるかどうかにかかっている。しかし、ブラジルの業界関係者は、BYDの国内自動車生産開始計画が延期されていることを懸念し始めている。

ロイター「China floods Brazil with cheap EVs triggering backlash」より

ただ、流石にちょっと無理が出てきているようではある。

2023年、政府当局はBYDがバイーア州にあるフォードの旧工場を買収する計画を歓迎した。これは製造業の雇用創出と、国のグリーン化を促進する手段とみられていた。しかし、建設現場での労働搾取に関する調査の結果、「完全機能」生産開始の予定は2026年12月に延期されたと、地元当局は5月に発表した。

もう一つの中国の自動車メーカー、長城汽車(GWMO.I)、新しいタブが開きますは、メルセデス・ベンツ(MBGn.DE)の旧工場で自動車生産を開始する計画も1年以上延期した。ブラジル政府はこの工場が今年中に稼働を開始すると予想している。

ロイター「China floods Brazil with cheap EVs triggering backlash」より

あと、ブラジル当局は支那と雇用創出に貢献することを前提に今の政策を進めたらしいのだが、どうにも雲行きが怪しい。

訴訟に発展

最近のニュースだが、こんな話があった。

ブラジル当局が中国BYDを提訴、工場建設で「奴隷のような」労働と

2025年5月28日

ブラジルの検察当局は、中国の電気自動車(EV)大手・比亜迪(BYD)とその請負業者2社を提訴した。人身売買および工場建設現場での「奴隷に似た」労働環境について、各社に責任があるとしている。

北東部バイア州の労働検察庁(MPT)は、匿名の通報を受けて調査を開始し、その結果、220人の中国人建設作業員を現場から救出したとしている。

~~略~~

MPTはまた、建設現場の労働者がパスポートを没収され、「違法な条項を含む雇用契約の下で、過酷な労働時間と週休なしの状態」で働かされていたとみている。

この現場では、労働者の給与の最大70%が差し引かれ、契約を解除する際には高額な費用を請求されていたという。

BBCより

BYDはブラジル工場を作るに当たって、かなり無理な条件を設定していたらしく、それはBYDの経済状況の悪化が影響している可能性がある。

そうだとすると、今後の展開はやや心配な面がある。

中国・広州汽車、ブラジルでEV発売 来年の工場着工も視野

2025年5月26日午後 2:41

中国自動車大手の広州汽車集団(GAC)は23日、ブラジルでハイブリッド車1車種と電気自動車(EV)4車種を24日に発売すると発表した。

ロイターより

方向性としてはEV推進みたいなんだけど、ブラジルでの投資そのものが鈍ってきていて、本当に来年の工場着工が可能かどうかも怪しい。

フレックス燃料車も継続して利用

一方で、EVだけに傾倒するのではなく、フレックス燃料車の利用も続けていく予定らしい。

ルノーと吉利、南米向けフレックス燃料エンジンを拡大

2024.09.09

フランスRenault(ルノー)と中国の浙江吉利控股集団(吉利グループ)の合弁会社である英HORSE Powertrain(ホース・パワートレーン)は、排気量1.3Lのターボ・フレックス燃料4気筒エンジン「HR13」をブラジル市場に投入すると発表した。フレックス燃料とはガソリンや軽油にバイオエタノールなどを混合した燃料のこと。2024年初めに発表した1.0L・3気筒フレックス燃料エンジン「HR10」に続き、バイオエタノールが普及している南米地域での拡販を目指す。

日経XTECHより

フレックス燃料車はインドでも注目が集まっていて、日本国内でも開発が続けられている。が、何れの国でもポイントはコストになるので、今のところソレが改善する見込みは薄い。いや、インドが国策でフレックス燃料を推進したら、可能性はあるかも?

2021年は、HEV20,678台、PHEV11,461台、BEV2,851台で、合計34,990台。2022年は、HEV30,439台、PHEV10,348台、BEV8,458台で、合計49,245台。2023年は、HEV41,568台、PHEV33,049台、BEV19,310台で、合計93,927台。2024年の9月時点での台数は、HEV36,222台、PHEV40,605台、BEV45,721台で、合計122,548台。

まあまあEV販売数が増えているブラジルだが、その国別メーカー割合を見ると中々の数字である。

中国メーカーは85.7%、スウェーデンメーカーは7.3%、フランスメーカーは3.1%、ドイツメーカーは2.5%、その他の国のメーカーは1.5%。

凄いわ。

これに伴って充電ステーションは増えているんだけど、電力消費量も当然増加するので、安定的な発電手段の確保を考えるとなかななかコレから更に増やすのは厳しくなるかも。

ブラジルの電力のウチ、6割以上が水力発電に頼っていて、一部が風力発電(12%)なので、比較的再エネ発電依存度は高い。が、電力需要が増えた結果、火力発電を増やす方向に向かっている。

ブラジルが火力発電強化 干ばつで再エネ路線揺らぐ

2024年12月24日 19:45

ブラジルが火力発電所を相次いで建設する。電力需要が急拡大している上、歴史的な干ばつで電源の6割を占める水力発電の供給が不安定になり、安定性確保が必要になっているためだ。再生可能エネルギー重視路線の足元が揺らぎかねない。

日本経済新聞より

エコはどこへ行ったんだろう……??

まあともあれ、そんなわけでブラジルは絶賛EV推進中で、支那に食い物にされつつあるけれど、「流石にちょっとやり過ぎ」というのがブラジル産業界の反応のようだ。ブラジル大統領のルラ氏がどこまでソレを認識できているのか、あるいは、ソレを容認して突き進んでいるのか?はちょっと良く分からないけれど。

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