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日米関税交渉合意と懸念事項

外交
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何とも、面倒な人だな、トランプ氏は。

日米関税交渉、1%ごとに見返り要求たたみかけ…トランプ氏70分後「ディールだ」

2025/07/23 22:31

トランプ米政権が日本に通告した25%の関税発動まで約1週間に迫った22日(日本時間23日)、日米交渉は合意に達した。日本は「相互関税」だけでなく、最優先だった自動車関税の引き下げにも成功し、最悪の事態は避けられた。

讀賣新聞より

現時点で分かっていることは実は多くなくって、大々的に発表されていることは、「とにかく日米で合意が成った」と、それだけである。いや、合意内容自体はアメリカからも出されているから、大枠は分かっているんだけど。

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懸念事項もあるが

最大の目的は何?

トランプ氏にしてみれば、日米合意成立が最大の目標であったので、それはまあ当然なのかも知れない。8月1日までに色々な国との合意を纏めなければならないので、日本との交渉に時間を使っている場合ではないのだ。そして、貿易相手国として大きな日本、対日赤字が積み上がっている状況で、日本から大きな利益を引き出したというインパクトを与える意味では、かなり意味がある。他国との交渉カードにも使えるしね。

が、日本としては中身が重要であり、方向性が定まった程度で、詳細についてはまだ不透明な部分が多い印象だ。

「1%下げるから、代わりにこれをくれないか」「コメの輸入はもっと増やせるはずだ」「半導体への投資、支援額も増やせるだろう」

日米交渉筋によると、トランプ氏は関税率を1%下げるたびに見返りを求めるディール(取引)をたたみかけた。

讀賣新聞「日米関税交渉、1%ごとに見返り要求たたみかけ~」より

いや、そもそも最初に関税引き上げたのはトランプ氏ではないか。それなのに1%引き下げる毎に見返りを要求って、アホなのかな。

ちなみに、「交渉成立」と大々的にニュースになったが、この有様である。

トランプ大統領、不満なら関税25%に逆戻り 合意実行で四半期ごとに精査 米財務長官

2025/7/24 11:10

ベセント米財務長官は23日、日米関税合意について、トランプ大統領が日本の実行状況に不満であれば、関税率は自動車も含めて25%に逆戻りすると説明した。日本が合意を順守しているかどうか四半期ごとに精査する方針も示した。具体的な基準には言及しなかった。

産経新聞より

未だ、合意の詳細すら公表されていない状況で、「不満なら25%に」って、本当に面倒な。

投資の9割はアメリカ取り

なお、メディアによってはこんなことも言及している。

トランプ大統領、日本との「大規模」貿易協定を発表

2025年7月23日

ドナルド・トランプ米大統領は、数カ月に及ぶ困難な交渉の末、日本と「大規模な」貿易協定を締結したと発表した。

トランプ大統領は、火曜日に発表された協定に基づき、米国は日本の輸出品に15%の関税を課し、日本は米国に5500億ドルを投資すると述べた。

~~略~~

「私の指示により、日本は米国に5500億ドルを投資し、米国はその利益の90%を受け取ることになる。」

トランプ大統領は、日本は米国からの自動車、米、一部の農産物の輸出も受け入れると述べ、この協定により「数十万人の雇用」が創出されると付け加えた。

ALJAZEERAより

どうしてアラブ系のメディアからこんな報道が出たのかは良く分からないが、これは本当だろうか。

Remember, Japan is, for the first time ever, OPENING ITS MAKET TO THE USA, even to cars, SUV’s, Trucks, -and everything else, even agriculture and RICE, which was always a complete NO, NO. The Open Market Japan may be as big a profit factor as the Tariffs themselves, but was only gotten because of the Tariff Power. They also agreed to buy BILLIONS OF DOLLARS WORTH OF MILITARY AND OTHER EQUIPMENT, and give us 90% of 550 BILLION DOLLARS – AND MORE!!! MAGA!!!

~~対訳~~

覚えておいてください。日本は初めて、アメリカに対して市場を開放しています。自動車、SUV、トラック、そして農業や米を含むすべてが対象です。これまでは完全に「ノー」だったものが、今や「イエス」となっています。この「オープンマーケット・ジャパン」は、関税そのものと同じくらい大きな利益要因となる可能性がありますが、これは関税権限があったからこそ実現したものです。彼らはまた、数十億ドル相当の軍事装備品を含む装備品の購入に同意し、5500億ドルの90%を私たちに提供し、さらにそれ以上を約束しました!!!MAGA!!!

TRUTHより

ふーん、「give us 90% of 550 BILLION DOLLARS」と言っているのだから、確かに、アメリカの取り分が9割という主張は成り立つ気はする。

ただ、トランプ氏側からの一方的な主張というのは、気になる。次にこの内容を検証するが、先に結論を言っておくが、事実である。

現時点で分かっていること

現時点で判明している事実は、ホワイトハウスがファクトシートを公開しているようだから、それを引用しておこう。

Fact Sheet: President Donald J. Trump Secures Unprecedented U.S.–Japan Strategic Trade and Investment Agreement

July 23, 2025

日本との歴史的な貿易投資協定:昨日、ドナルド・J・トランプ大統領は、アメリカの最も緊密な同盟国であり、最も重要な貿易相手国の一つである日本との画期的な経済協定を発表しました。

  • この歴史的な合意は、日米関係の強さと、米国が世界で最も魅力的で安全な戦略的投資先であると日本が認識していることを反映しています。
  • この合意は、両国が経済的繁栄、産業におけるリーダーシップ、そして長期的な安全保障という共通のコミットメントを再確認するものです。日米同盟がインド太平洋地域の平和の礎であるだけでなく、世界の成長とイノベーションの原動力でもあるという力強いメッセージを送るものです。
  • この協定は、5,500億ドルを超える新たな日本と米国の投資手段と、米国からの輸出へのアクセスの強化を伴い、二国間協力の新たな章を刻むものであり、今後数十年にわたり、米国経済の潜在能力を最大限に引き出し、重要なサプライチェーンを強化し、米国の労働者、地域社会、企業を支援するものとなるでしょう。

アメリカの産業力の回復:日本はアメリカの中核産業の再建と拡大のため、米国の指示により 5,500 億ドルを投資します。

  • これは、いかなる国もこれまでに確保した単一の外国投資コミットメントとしては最大規模であり、米国で数十万人の雇用を創出し、国内製造業を拡大し、何世代にもわたって米国の繁栄を確保することになるでしょう。
  • トランプ大統領の指示により、これらの資金は、以下を含むアメリカの戦略的産業基盤の活性化に充てられます。
    • LNG、先進燃料、送電網近代化を含むエネルギーインフラと生産。
    • 半導体製造と研究、設計から製造までの米国の能力の再構築。
    • 重要な鉱物の採掘、加工、精製、必須原材料へのアクセスの確保。
    • 医薬品および医療機器の生産、外国製の医薬品および供給品への米国の依存を終わらせる。
    • 新しい造船所および既存施設の近代化を含む、商用および防衛造船
  • 米国はこの投資による利益の90%を留保し、米国の労働者、納税者、地域社会が利益の圧倒的な部分を享受することを保証する。
  • この資本増強は、トランプ大統領のリーダーシップのもとですでに確保されている数兆ドルと相まって、100年に一度の産業復興の重要な要素となるだろう。
ホワイトハウスのサイトより

なるほど、本当っぽい。

これに関してはJETROも似た記事を出していた。

トランプ米政権、日本との関税協議の合意に関するファクトシート公表

2025年07月24日

米国のトランプ政権は米国時間7月23日、日本との関税協議の合意に関する[ファクトシートを公表した。ドナルド・トランプ大統領は22日、日本と合意に至ったと明らかにし、日本政府も日本時間23日、合意を発表していた(2025年7月24日記事参照)。合意が発表されてから、米国政府が関連文書を公表するのは初めてとなる。

ファクトシートでは、日本による5,500億ドルの投資は「外国による過去最大の投資コミットメント」とし、何十万人もの米国人の雇用を創出し、国内製造を拡大すると指摘した。投資分野として、液化天然ガス(LNG)や送電網を含むエネルギーインフラ、半導体製造・研究開発、重要鉱物の採掘・加工・精製、医薬品・医療機器、造船を列挙した。これらの投資から生まれる利益の90%を米国が保持するとした。

JETROより

確かに、この巨額の投資を一体何処からひねり出すのか?という点に関しては当然の疑問である。それに関するコメントも戴いたしね。

日本の外貨準備

恐らくその原資は外貨準備ということになろう、というのが僕の見解である。海外への投資はドル建て資産で行われる。日本では外為特会というと分かり易いかも。

外貨準備等の状況(令和7年3月末現在) : 財務省

ええと、2025年5月時点で1兆2,981億3,900万ドル保有か。

このお金は日本国内への投資に使うことはできないし、いつまでも持ち続けるのは不自然な資産である。そして、米国債の形で保有している部分が多い。

果たしてこれをアメリカ国内に投資という形で利用出来るのか?というと、実は外貨準備の金利を使ってアメリカへの投資というのは現在も行われている。ちなみに、半分くらい使っても外貨準備としては残りの額で十分であることを考えると、アメリカの市場を圧迫しない形で使うのはアリなんだと思う。

外貨準備が何故日本国内への投資に使えないのか?というのは、今更の話なのだが、日本国内への投資は日本円で行うので、大量のドルを放出して円を買うと通貨市場に悪影響を及ぼす。具体的には激しい円高を招くのだ。そういう意味では、ドル資産をドルで消費した方がマシなのである。今回はその1割が日本への利益に還元されることが確実なので、ナシかアリかで言えば、ありだろう。

それと、個人的には投資の狙いの主導権は得られるはずなので(税法上は、投資者が投資先を決定する)、例えばF-15とかF-16の話が進捗が悪いので、この辺りの投資するか、F-15Jの改修ではなくてF-15EXの購入に切り替えてその購入費用に充てる話にできれば、日本側としては嬉しいのだが。

あと、「既に決定した投資」も恐らく多数含まれているので、見た目より金額は大きくない可能性は高い。

孫正義氏、トランプ氏とそろって会見 米国への15兆円投資を発表 - BBCニュース
アメリカのドナルド・トランプ次期大統領が、ビジネスの場として同国は素晴らしいとアピールするなか、世界中の企業は、その呼びかけにどう応じるべきか考えをめぐらせている。そうした状況で、ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義・会長兼社長が16日、...
日本製鉄、難航したUSスチール買収を完了 トランプ米大統領と協定 - BBCニュース
日本製鉄は18日、長期にわたって難航していたアメリカの鉄鋼大手USスチールの買収を完了した。経営に関して、米政府に異例の権利を認めた。

過去にはこんな話もあったが、恐らくこうした投資も額に含まれている。

関税スタートすればまた混乱が

あと、相互関税は間違いなくスタートするだろうということと、自動車はどうやら15%の税率で決定のようだと言うこと。

相互関税とは別の自動車関税も25%の追加関税は半減させ、既存の関税2・5%と合わせ計15%とする。

産経新聞「トランプ大統領、不満なら関税25%に逆戻り」より

トランプ氏の発信そのものは、割と誇張された内容であることが多い。

急反発の自動車株、次の関門は米国景気-関税合意の喜びつかの間

2025年7月25日 8:35 JST

日本株市場で日米通商合意を受けた自動車株の反発は続かないとの見方が早くも出ている。関税の悪影響が米国景気に表れ始め、日本の自動車メーカーも打撃を受けるとの警戒感が強いためだ。

トランプ米大統領は23日、日本製品に対する関税を当初の警告よりも低い15%にすると発表した。既に25%の関税が課されていた自動車メーカーにとっては実質的な負担軽減となり、東京市場では関連株が急騰。発表後の2日間でトヨタ自動車は2008年以来の大幅高となり、東証株価指数(TOPIX)は過去最高値を更新した。

Bloombergより

市場は割と好意的な受け止めだったようだが、警戒感もなお強い模様。

そりゃまあ、そうだろう。実際に事態が進めば色々と大きな影響を巻き起こす制度変更である。

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