原子力潜水艦の検討!キタよ。あくまでも原子力駆動力も検討しろって話ではあるんだけど。
防衛省が原子力潜水艦の保有を検討へ 防衛力強化で有識者会議提言、戦略改定前倒し見据え
2025/9/19 12:37
防衛省が設置した防衛力の抜本的強化に関する有識者会議(座長・榊原定征元経団連会長)は19日、原子力推進型を念頭に現在より航続距離の長い潜水艦の保有検討などを提言した。
産経新聞より
アリだとは思うけど、防衛省がとうとう原子力潜水艦の話を持ち出してきたか。国内でかなり批判は出そうだけど、多分、反対するのは一部の活動家だけなんだよね。
- 法律的ハードルは解釈次第で「原子力の平和利用」として可能になる
- 技術的ハードルは日本においてさほど問題にはならないが、運用コストは高くなるので、本当に必要かは検証が必要
- 国際協調を前提に開発を進めるのであれば、AUKUSにも貢献できることになる
先ずは技術開発を
非核三原則とその解釈
色々文句を言う人はいると思うけれど、「非核三原則」はあくまで政治的スローガンであって法律化された話ではない。
<非核三原則>
- 核を持たず:日本国内で核兵器を保有しない。
- 作らず:核兵器を製造しない。
- 持ち込ませず:日本に核兵器を通過させたり、持ち込んだりすることを認めない。
また、懸念のある原子力基本法の第2条に規定される「原子力利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に、自主的にこれを行う」というところに、原子炉を使った駆動力が抵触するという議論はあるだろう。
こんな感じで、憲法第9条や、原子力基本法、そして非核三原則が原子力潜水艦の保有の足枷になる可能性は、残念ながらある。
だが、何れも国際情勢を鑑みて、政治的決断を行って柔軟な解釈をすることで乗り越えることは可能だ。
例えば、非核三原則なんてそもそも法律じゃないから、「あれはミサイルに使っちゃダメって意味だ」と解釈する。防衛力を持つこと自体は憲法も禁止していないという解釈をしているのだから、ソレくらいは大丈夫だろう。原子力利用の「平和の目的」は「防衛を含む」という解釈とかね。
なお余談ではあるが、これについてcopilot君とChat GPT君に議論をふっかけたんだけれども、面白いことにChat GPT君の方が柔軟な答えを返してきて、ちょっと面白かった。
政治的コストは高い
だが、そういった政治的決断を行うには、高い政治的コストを支払う必要がある。
提言では、「抑止力の大幅な強化につながる」として、潜水艦に長射程ミサイルを発射できる垂直発射装置(VLS)の搭載に言及した。長距離・長期間の移動や潜航を行えるよう「従来の例にとらわれることなく、次世代の動力を活用すること」の検討を求めた。
産経新聞「防衛省が原子力潜水艦の保有を検討へ~」より
今のところは、「長距離・長期間の移動や航行を行える」能力の獲得を原子力駆動機関の開発に直結するような言及はしていない。
でも、原子力推進機関の獲得は、考慮に値するとは思うんだよ。政治的コストが高いのは事実だけど、まずは研究開発はやっておくべきだと思う。
原子力潜水艦建造のハードル
さて、政治的コストの話はともかく、実際に技術的にはどうなんだろう?という話なんだが、日本には以下のような技術的蓄積がある。
- 原子力船「むつ」の建造実績(1968年)があり、運用実績がある。
- 豊富な原子炉の建設実績があり、自国で開発した原子炉のノウハウを保有している。
- 小型モジュール炉(SMR)の研究開発を三菱重工、日立製作所、東芝などが行っている。
- ロシアの退役原潜解体事業に関わっている
現在、原子力潜水艦を運用できている国は数えるほどしかないが、可能か不可能かでいえば日本は上述した理由により、おそらく建造は可能。
技術的な裏付けはある程度保有しており、実物を見たこともある。恐らくは船体構造から原子炉の格納様式まで、データを取っているんだろう。
マイクロ炉と呼ばれる程度の原子炉の小型化と、潜水艦という閉鎖空間に搭載しても問題ない程度の高い安全性を要するが、時間の問題だろう。
開発意義
なお、こうした問題を潜り抜けてでも、原子力潜水艦の建造を模索する意味はある。
最新の「たいげい型潜水艦」がリチウムイオン電池搭載型になって静粛性を更に向上でき、短時間であれば高速航行も可能になったとはいえ、まだ課題もある。
日本のシーレーン防衛まで範囲を拡張するには、高速航行・長距離潜航が必要で、リチウムイオン電池ではまだ不足がある。そこで全固体電池を搭載するという話も出てはいるのだが、これも課題を多く抱えており腹案が欲しいところ。そういう意味では、ある程度技術的目処の立っている原子力機関の開発はそれなりに高いメリットがあるのだ。
現在日本で研究開発が進んでいる第4世代原子炉の一系統である高温ガス炉や超臨界圧軽水炉辺りは、安全性も高められていて採用への近道となるかも知れない。
国際連携を考慮すれば可能
AUKAS参加という選択肢
さて、では政治的コストの高さをどうクリアするのか?なのだが、これが意外なヒントが最近のニュースにある。
日本、AUKUS第2の柱の「有力な参加国」-米国務省が前向きな評価
2025年9月18日 9:44 JST
米国務省が日本について、米英豪の安保枠組み「AUKUS(オーカス)」の「有力な参加国」になり得ると評価していることが分かった。高度な防衛システムへの投資、産業基盤の拡充、サイバーセキュリティープロトコル(手続き)整備を進めていることを理由に挙げた。
Bloombergより
このニュースは、日本が第2の柱に関連した話なので、第1の柱(原子力潜水艦建造)に直接関わるというわけではない。
米議会に提出した未公開の報告書の中で、国務省は「長距離対潜水艦戦と自律型無人機プラットフォーム」を含む技術共有に重点を置くオーカスの「第2の柱(Pillar II)」に関連し、進行中のさまざまなプロジェクトに日本が「関心を示している」と言及した。ブルームバーグ・ニュースが報告書を入手した。
~~略~~
日本の防衛省の報道官は今年7月、国際軍事情報のジェーンズに対し、第2の柱への関与を深めることに関心を持っていると述べた。オーカスの取り組みには、豪州の原子力潜水艦戦力の支援も含まれる。
Bloombergより
ただし全く無関係というわけでもないんだよね。記事にもあるように「豪州の原子力潜水艦戦力の支援も含まれる」とあり、含みが持たされている。
無人機実験には正式参加
実際に7月にはこんなニュースがあった。
AUKUSの無人機実験、日本が正式参加 水中音波通信で
2025年7月23日 16:00
防衛省は23日、米国、英国、オーストラリアの防衛協力枠組み「AUKUS(オーカス)」が実施した水中無人機の実験演習に初めて正式参加したと発表した。これまではオブザーバー参加にとどまっていた。4カ国間の連携により音波を用いた水中での通信を確認した。
~~略~~
AUKUSは24年に先端技術の研究・開発で日本と協力する方針を表明した。まずは日本の海洋無人機システムとの相互運用性の向上に重点を置くと合意していた。同年10月には防衛装備庁の職員や自衛官が演習にオブザーバー参加した。
日本経済新聞より
この分野では日本は強みを持っている技術分野もあって、結果的に「第2の柱」で日本との協力を検討する段階にある。そして、記事にもあるが、もがみ型護衛艦の受注の件もある。
日豪の防衛力強化は間違いなく進んでいて、もがみ型護衛艦は現地生産をする前提で工場の用地獲得にも乗り出している。
アメリカの原子力潜水艦建造能力
その一方で、アメリカの造船業の弱体化がやや懸念点として出ている。
新型空母や潜水艦「年単位で建造に遅れ」アメリカ軍で深刻な事態が起きる 原因は?
2024.04.09
アメリカ海軍は2024年4月2日、多くの新型艦艇の就役時期が当初の計画から大きくずれ込むことを明らかにしました。
原因は建造計画に遅れが生じていることで、主な理由は新型コロナウイルスのパンデミックによる影響が長引いたことと熟練工の不足にあるようです。
乗りものニュースより
これ、2024年の記事なのだが、トランプ氏もこの件に関しては頭を悩ましていて、対米関税交渉で韓国がカードとして出して好感触を得ていた程に、早急に対策が必要な分野でもある。
逆に言えば、とてもではないがAUKASの約束通りオーストラリア向けの原子力潜水艦など作っていられないという状況なんだよ。
そうすると、日本が原子力潜水艦を建造する目が出てくる。
戦略的意義
日本が原子力潜水艦の建造技術を保有すれば、長期潜航能力を生かして抑止力は飛躍的に向上する。支那やロシアの原潜と対等に渡り合うためには不可欠な装備であり、同盟国との共同運用にも繋がる。
例えば、日本が独自開発をするのではなく、アメリカやオーストラリアと技術協力を通じて、もがみ型護衛艦の工場などを利用してオーストラリアで原子力潜水艦を建造するなんてシナリオも考えられる。それならば、AUKUSのパート1ではなくパート2の枠組みでも協力が可能だと思われる。
尤も、実際に建造・配備するかどうかは、国内法解釈と国民的合意、そしてアメリカの最終判断に大きく左右される。
果たして日本は、自前の原潜を持つのか、それともAUKUSの一翼として支えるのか。議論はすでに「夢物語」ではなく、現実の政策選択へと近づいている。
コメント
原子力潜水艦って
「長期間遠洋に潜り続けて、敵国から核を撃たれた時に報復として核を撃つための移動式サイロ」
としての「対核抑止力」な役割が第一だと思うのですが、セットの核ミサイルを持たない日本にとってどれだけ意味があるかというのも思うのですよ
通常任務運用だと、静音性に欠けるというデメリットの方が大きくて、
「通常型の数を増やす以外に手段がない」という気がしないでもないのですが
なので、自国で運用するなら核ミサイルも作らなきゃ(もしくは買わなきゃ)あかんだろ的な…
そうでないのなら、同盟国に「箱」を作る変わりに、有事の時に撃ってもらう第二第三の核の傘を増やすというのであればありとも思うのですが
ご指摘の部分は分かるのですが、誤解もあるようですね。
1,対核抑止力
日本の潜水艦運用のドクトリンは、待ち伏せ攻撃でした。これは今でも通常動力型潜水艦の優位性があって、日本の独自技術として発達した優れた部分でもあります。
これを捨て去るというわけではなく、これからも磨いていくべきでしょう。
ただし、原子炉で駆動するというメリットの高速航行・長時間潜航は、シーレーン防衛のためには必要性が高まっていて、核抑止力的な立ち位置だけが原子力潜水艦に求められるものではないと思います。だから、核ミサイルまでは必要ないだろうと思ってはいます。
とはいえ、リソースをどこまで割けるのか?という問題点はありますから、そこはまあ「検討」で留めた理由でもあると思います。
ここではあくまで駆動力として使えるような研究開発をして欲しいという所に留めています。
2,騒音について
静粛性に関しては、今の原子力潜水艦は飛躍的に向上しているようです。少なくとも「ウルサイ」というのは過去の話のようですね。
冷却に関しても最新のS8G(オハイオ級原子力潜水艦に搭載)は、自然循環により最大出力までのかなりの部分で冷却材循環ポンプを使用せずに運転できるよう設計されています。日本がそこまでの静粛性を実現した潜水艦用原子炉を手に入れることができるかは不透明ではありますが、高温ガス炉の技術などはかなり有用っぽい(冷却を考えると本当にそうなのかは疑問もありますが)ので、研究開発まではやって損はないと思います。
中国の新型原潜が静粛性が向上したのはロシアが技術を売った可能性がある
武器輸出の見返りに色々貰ったのでしょうね。
イギリスは原子力潜水艦にお金かけ過ぎてその他の装備がスカスカになったと聞きます。
運用コストは凄まじいですよ
運用コストに関しては参考になる数字を紹介しました。
こんにちは。
誘導尋問気味の回答だとしても。
それを隠れ蓑に、VLS搭載潜水艦の開発と戦力化を粛々と進めてほしいところです。
※韓国に先を越されたのは断腸の思い、韓国にそれが必要か、使い物になるのか云々の議論はさておいて。
こんにちは。
VLS搭載艦は次の次くらいに登場しそうですね。