このブログで過去に扱った話で、潜水艇タイタンの話があった。先日、調査報告が出てきたので、軽く触れておくことに。
潜水艇タイタンの船体破損と爆縮
2023年6月18日カナダ、ニューファンドランド・ラブラドール州セントジョンズの南東約600キロの北大西洋で、豪華客船タイタニック号の残骸への潜航中に、潜水艇タイタンの耐圧殻が破損し、船体が内破しました。乗船していた5人全員が死亡しました。タイタンは全損し、2023年の税関申告書によると、潜水艇とその発進・回収システムを含めた価値は560万カナダドル(約420万米ドル)と推定されました。
ntsbより
軽く読んだが、割と酷かった。
ガッカリ報告
簡単な経緯
さてさて、先ず、リンクを。
ザックリまとめると、到達深度を考えるとあんな円筒形状を選択したことが先ず信じられないことと、材質に炭素繊維強化プラスチックを選んだ理由が分からない、ってな話を書いた。
だから、ロシアンルーレットだったんじゃないの?という結論に至っている。
ああ、何年か前の話なので、経緯だけもう一度整理しておこう。
- 発生日:2023年6月18日
- 場所:カナダ・ニューファンドランド・ラブラドール州セントジョンズの南東約600km、北大西洋上
- 対象:民間潜水艇「タイタン(Titan)」
- 目的:豪華客船「タイタニック号」(水深3800m)の残骸への潜航・探査
- 事故概要:潜航中に耐圧殻が破損し、船体が圧壊
- 被害:乗員5名全員が死亡
- 運用会社:オーシャンゲート社
- その後の経過:連絡途絶後に破片が発見され、全損が確認
- 推定価値:潜水艇および発進・回収システムを含めて約560万カナダドル
海底に沈んでいるタイタニック号を見に行って、そのまま海の藻屑になったという悲しい事件である。
レポート
さて、ナニが起こったのか?という話なんだけど。
タイタンの圧力容器は、潜水80回終了後に浮上した後、1つ以上の層間剥離という形で損傷を受け、圧力容器の強度が低下した可能性が高いことが判明しました。また、潜水82回後には、タイタンは(原因不明の)さらなる損傷を受け、圧力容器の劣化と強度低下をさらに促進したことが判明しました。潜水82回から事故潜水(潜水88回)までの間に圧力容器の状態を悪化させた既存の層間剥離とさらなる損傷は、局所的な座屈破壊を引き起こし、タイタンの内破につながりました。
オーシャンゲート社によるタイタン号の設計プロセスは不十分であり、その結果、複数の欠陥を含む炭素繊維複合材製圧力容器が製造され、必要な強度と耐久性の要件を満たさなかったことが判明しました。
ntsb「潜水艇タイタンの船体破損と爆縮~」より
大きく3つの問題として整理できる。
- 設計プロセスの問題:
- オーシャンゲート社による「タイタン」号の設計プロセスは不十分だった。
- 結果として、複数の欠陥を含む炭素繊維複合材製の圧力容器が製造された。
- この圧力容器は、必要な強度および耐久性の要件を満たしていなかった。
- 試験・評価の欠如:
- 同社はタイタン号の適切な試験を実施していなかった。
- そのため、圧力容器の実際の強度や耐久性(おそらく設計目標を大幅に下回る)を把握していなかった。
- また、保管条件や曳航などの運用上の変更が圧力容器や船体全体の安全性に及ぼす影響を理解していなかった。
- 監視・運用判断の欠陥:
- タイタン号の圧力容器のリアルタイム監視データの分析にも不備があった。
- その結果、タイタン号に損傷が生じていたことを把握できず、 80回目の潜航後に運用を停止すべき状態であったにもかかわらず、運用を続行してしまった。
まあ、概ね分かっていたことではあったんだけど。でも、定期点検がしっかりやられていなかったのは残念だった。
起きるべくして起きた
結論から言うと、やっぱり「ロシアンルーレットだった」というしかない。
潜水艇タイタンの船体破損と内破の原因は、オーシャンゲート社の不適切なエンジニアリングプロセスにあると結論付けました。このプロセスでは、タイタン圧力容器の実際の強度と耐久性を検証できず、結果として同社は炭素繊維複合材製の船を運航していましたが、この船は層間剥離損傷を受け、さらに原因不明の損傷が加わり、内部構造の損傷が悪化し、圧力容器の局部座屈破損に至りました。
ntsb「潜水艇タイタンの船体破損と爆縮~」より
これが調査報告の原因としてまとめられる内容だが、もう分かっていた話というべきか。それが確認できたというべきか。
似たような商売をやっている方々もいらっしゃるようなんだけど、皆さんもイベントに参加する時には、しっかりリスク検証をした方が良いだろう。
コメント
せめて繊維強化金属ならひずみゲージの使用や非破壊検査が出来た
MRJも炭素繊維強化プラスチックを胴体部分に使う予定から金属製(アルミリチウム合金?)に変更した理由
航空機なら炭素繊維をという話もあるんでしょうけれど。
潜水艦にはちょっと怖いですね。