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韓国でスパイ防止法改正が進まない理由

大韓民国ニュース
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タイムリーというべきだろうか。朝鮮日報にもスパイ防止法関連の社説が出ていて、日本との温度差が実に興味深い。

[社説]スパイ法、今度は関係ない「法歪曲罪」に足を引っ張られた

2026.02.03 00:10

スパイ罪の範囲を「敵国」から「外国」に広げるスパイ法(刑法98条)改正案の処理が遅れている。現行法は北朝鮮のための行為だけスパイ処罰対象であるが、これを「外国」に拡大するのがこの法案の核心である。李在明大統領も早急な改正を望むという。ところが数ヶ月目の処理ができていない。民主党がスパイ罪と「法歪曲罪」が同じ刑法に属する条項だとした改正案に縛られてしまったからだ。

朝鮮日報より

韓国のスパイ防止法は刑法98条として整備されており、別個の特別法が存在するわけではない。とはいえ、日本のようにスパイ防止法の整備自体を怠ってきた国家ではない。

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成立しない改正法

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韓国のスパイ防止法

先ずは、前の記事のリンクを。

朝日新聞の社説では、例によって「スパイ防止法は危険だ」という整理がなされている。

だが、アメリカにもスパイ防止法はあるし、韓国にも簡易ではあるが整備されている。

第98条 (間諜) 敵国のために間諜し、又は敵国の間諜を幇助した者は、死刑又は無期若しくは7年以上の懲役に処する。

② 軍事上の機密を敵国に漏泄した者も、前項と同様とする。

韓国の刑法より

で、朝鮮日報の社説は、「直ちに改正すべきだ」と明確に主張している。

スパイ罪の処理は緊急の問題だ。中国人たちは自分たちがスパイ罪の対象ではないという事実を利用して韓国軍部隊と武器体系を無断で撮影している。毎年約10件を超えるが「趣味活動」と解放されている。海外技術流出もほとんど中国人が犯人だ。スパイ行為は明らかだが、北朝鮮ではなく中国のために働いたためスパイの疑いを適用することはできない。中国はすでに2023年半スパイ法を改正し、半導体関連情報を韓国に流出した韓国国民をスパイ容疑で拘束した。 OECD 38国のうちスパイ罪を敵国に限定した国は私たちだけだ。

朝鮮日報「スパイ法、今度は~」より

あまりに真っ当な主張で、目眩がするな。

もっとも、「OECD38か国のうち〜」という嘆きは、「日本にはスパイ防止法そのものが存在しない」という現実に比べれば、まだ贅沢な悩みだよ。

「敵国」が問題

社説の最大の論点は、刑法98条が想定する射程の狭さだ。

すなわち、「敵国のために間諜」「敵国の間諜を幇助」という文言により、「敵国」と明示された相手に限定されている点である。

この悩みは真っ当だ。

韓国の敵国といえば北朝鮮である。だが、構図的に北朝鮮は「国」ではなく「地域だ」という反論も出来てしまうだけに、さらに深刻である。

そして、言及されるように支那のスパイは大きな問題となっている。

韓国、北朝鮮や中国などのために働く人々を処罰するためスパイ法を改正へ

2024年11月14日午後4時38分

対立政党、北朝鮮だけでなく全ての外国を対象とする法改正で合意

韓国は、北朝鮮だけでなく「全ての外国」のためにスパイ活動を行った個人を処罰するために、スパイ法を改正する予定だ。これは、韓国の機密安全保障情報が中国に漏洩したとされる一連の事件を受けての措置である。

The Korea Timesより

ところが、法改正案の提出のタイミングが悪かった。2024年末といえば、前大統領の尹錫悦氏(ユンユン)が非常戒厳の宣言を出す直前のタイミングである。

現在、同法は北朝鮮を唯一の敵国と規定しており、北朝鮮のために活動する個人はスパイ法の適用対象となっている。しかし、中国などの他国のために活動する個人や団体は、韓国に対するスパイ行為で処罰されることはない。

第21代国会では法改正に向けた動きがありましたが、法制司法委員会を通過できませんでした。しかし、第22代国会では初めて与野党が一致団結して法案を支持し、11月28日の本会議で可決される予定です。

The Korea Timesより

極めて重要な法案だという認識だったのに、この後、12月3日に非常戒厳の宣言が出されてしまう。

先の提出案が通らなかった理由

少し脱線するが、ユンユンが非常戒厳の宣言を出してしまった2024年12月3日は、個人的には「韓国の滅亡」を感じた日でもあった。

同年4月に韓国の当時与党だった「国民の力」は総選挙に敗北して、少数与党に転落。

その結果、野党の「共に民主党」から政府官僚の弾劾訴追が22件も発議されるという、前代未聞の状態で議会が度々止まる始末であった。

弾劾訴追が進行すると、その対象となった閣僚の職務は停止される。つまり、多数派野党だった共に民主党は、実質的な審議妨害をずっと続けてきたのである。

そしてユンユンが繰り出したのが、スパイ防止法改正だ。このスパイ防止法の改正は以前から議論されていて、国民の理解も進んでいた。

韓国、スパイ罪の対象を「敵国」から「外国」に拡大…国会法司委の小委員会を通過

2024-11-15 08:05

国会法制司法委員会(法司委)法案審査第1小委員会は13日、スパイ罪の適用対象を「敵国」から「外国」へと拡大する内容が盛り込まれたスパイ法(刑法98条)改正案を可決した。

~~略~~

同氏はこの日午前にも「外国の産業スパイが大韓民国の先端技術を盗む害悪を防ぐためには、絶対に必要な法改正」だと強調している。

ハンギョレより

ところが、2024年11月に可決するハズだったこの法案は、野党だった「共に民主党」の要求で「法歪曲罪」との抱き合わせでなければ審議しない、という条件が付けられた。

「スパイ法改正を巨大野党が妨害」 尹前大統領が主張した戒厳令宣布理由の一つだった

2025/05/10 20:15

尹錫悦前大統領は昨年12月3日に非常戒厳令を宣布した理由の一つとして「スパイ法改正保留問題」に言及した。「外国人がスパイ行為をしても現行法では処罰が不可能で、そのため法改正に取り組んだが、共に民主党がこれを妨害し国の安全保障に大きな害をもたらしている」と主張したのだ。

~~略~~

共に民主党は戒厳令前日の昨年12月2日、国会法制司法委員会全体会議でスパイ法改正の通過に反対した。

朝鮮日報より

ユンユンも、この時のスパイ法改正保留問題が、非常戒厳の宣言の遠因になったと指摘している。一方的な主張を鵜呑みにすることは出来ないが、当時の野党であった「共に民主党」が法案を通すのを妨害していたのは間違いなさそうだ。

抱き合わせにする質の悪い法案

法歪曲罪

問題の法歪曲罪について、朝鮮日報は次のように指摘している。

民主党は別に議論された二つの法案を法師委で一つにまとめた。ところがスパイ罪と法歪曲罪は性格が全く違う。法歪曲罪は民主党政権の気に入らない捜査や裁判をする判事・検査を処罰するという法だ。スパイ罪は与野党間に異見がなく、法歪曲罪は与野党間の意見が先鋭である。

朝鮮日報「スパイ法~」より

控えめに言っても意味が分からない法案で、これに関してはこちらの記事で解説している。

簡単に言うと、裁判で裁判官が法解釈を曲げて判決を出したと政府側の審査官(詳細は不明)が判断(判断基準も不明)した場合、裁判官が罪に問われる法律である。この場合、有罪が確定した裁判官は資格停止となる。

当該裁判は誤った判断がなされたとして停止され、裁判官が有罪になれば失職した上で、前科がついてしまうために将来的に司法関係の仕事をすることは絶望的である。

司法の独立を制度的に破壊する法律と言っていい。

法案を通さないという意志

このような致命的な法案と抱き合わせ審議させることで、スパイ防止法は事実上の廃案に持ち込まれる可能性が高い。

2月中にスパイ罪の法案が処理されなければ、6月の地方選挙に押され、約束なしに延期される可能性もあるという。民主党は二つの法を分離し、異見のないスパイ罪を先に処理することを望む。

朝鮮日報「スパイ法~」より

そのことを朝鮮日報は社説で嘆いていて、「別々に審議しろよ」と、結んでいる。

そもそも抱き合わせ審議というのは、内容的に密接な関連がある場合に行うものだ。スパイ防止法と法歪曲罪という性質も目的も全く異なる法律を一緒に扱う合理性は見当たらない。

支那に対する警戒

前大統領のユンユンは、当時既に韓国唯一の黒字産業となっていた半導体業界を守りたいという意志を示し、そのためのスパイ防止法に相当する刑法98条改正の発議を行ったのだと考えるのが自然だ。

それ故に多くの国民の理解を得られたのだ。

先端半導体技術を中国へ流出したサムスン元幹部らを起訴 被害額は数兆円=韓国検察

2025/12/23 21:44

韓国のソウル中央地検は23日、中国の半導体会社に国内企業の中核技術を流出させたとして、サムスン電子の元幹部ら5人を不正競争防止法違反や産業技術保護法違反の罪で起訴したと明らかにした。

~~略~~

検察によると、CXMTは2016年の設立後、サムスン電子の元部長を開発室長に起用した。元部長はサムスン電子独自の技術だった10ナノ(ナノは10億分の1)台のDRAM(半導体メモリー)工程技術を入手するため、サムスン電子の中核人材のヘッドハンティングに乗り出した。サムスン電子の研究員はDRAM工程の重要情報を持ち出してCXMTに転職。CXMTは当時、世界唯一の技術だった10ナノ台DRAM工程技術を確保した。

朝鮮日報より

CXMTってそんな会社あったっけ?

いや、最近、何処かで見たような……。

中国製DRAM、販売価格は韓国製の4分の1…世界シェア延ばす可能性も

登録:2026-02-04 06:44 修正:2026-02-04 08:03

ソウル市陽川区に住む会社員Kさん(37)は最近、アリエクスプレスを通じて「キングバンク」というブランドの中国製DRAMを購入した。Kさんは「コスパの良さで知られるDRAMを購入したが、韓国の製品の3分の1の価格」だとし、「簡単なゲームや事務用プログラムを使うだけなので、一時的な使用には問題なさそうだ」と語った。

~~略~~

2016年に設立された長鑫存儲技術(CXMT)が代表的だ。中国版ナスダックと呼ばれる「科創板」への上場を3月に控えた同社は、2020年にDRAM4、2024年にDRAM5の量産にそれぞれ成功し、メモリー分野で急成長を遂げている。NAND型フラッシュメモリーを製造する長江存儲科技(YMTC)も、最近の価格上昇に後押しされ注目を集めている。

ハンギョレより

あ、これか。

なるほど、スパイ防止法が都合が悪いわけだよね。

まとめ

そんなわけで、日本の朝日新聞の社説とは違うテイストの朝鮮日報の社説を紹介した。

朝日新聞とは全く異なるトーンで、朝鮮日報はスパイ防止法改正の必要性を真正面から論じている。その主張は極めて妥当であり、この社説によって日本のメディアの凋落ぶりが浮き彫りにされた気分である。

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