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水産庁が行った支那漁船拿捕の背景と課題

安全保障
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このニュースは、意外に皆さん疑問に思うところがあると思うし、誤解をしている気がする。

中国漁船を拿捕、水産庁が船長を逮捕-長崎県沖で命令従わず逃走疑い

2026年2月13日 at 8:23 JST

水産庁九州漁業調整事務所は12日、長崎県沖の排他的経済水域(EEZ)で停船命令に従わずに逃走したとして、中国漁船を拿捕し、中国籍の船長を漁業主権法違反の疑いで現行犯逮捕した。同事務所が13日発表した。

Bloombergより

まず、多くの人が疑問に思うのは「どうして水産庁が?」という点だろう。

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毅然とした対応が必要

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密漁の摘発は水産庁の仕事

水産庁のサイトに説明があるように、密漁の摘発は水産庁の重要な任務である。

令和5年の全国の海上保安部、都道府県警察及び都道府県における漁業関係法令違反(密漁)の検挙件数は、1,653件(うち漁業者125件、漁業者以外1,491件)でした。 近年では、漁業者による違反操業が減少している一方、漁業者以外による密漁が増加傾向にあります。

水産庁のサイトより

違反者区分別の検挙件数の推移を見ると、漁業者以外の密漁が増えていることがよく分かる。

違反者区分別の検挙件数の推移(海面)(令和5年)

このグラフを見るに当たって気をつけるべきは、「検挙件数」であるという点だ。漁業者による密漁が減っている一方で、漁業者以外による密漁が増えている。

海水浴客らが安易に「密漁」、県内で昨年110人摘発…外国人実習生も 

2025/02/01 15:00

敦賀海上保安部は昨年1年間に福井県内の沿岸で110人、151件の密漁を摘発したと発表した。海水浴客らが安易な気持ちでサザエやアワビといった海産物を取り、バーベキューなどの食用にする事例が目立つという。同保安部は「遊び半分でも、サザエなどを取れば犯罪になる。厳正に取り締まる」としている。

讀賣新聞より

水産庁は、特定条件下で警察権を行使できるため、密漁取り締まりには海上保安庁と連携しつつ、前線で動くことがある。陸上での密漁は通常警察の管轄である。

海上民兵への対処

ただし、冒頭触れたニュースは、ちょっと困った面も含んでいる。

日本の水産庁、中国漁船を拿捕 日中の緊張高まる中

2026年2月13日

日本の水産庁は13日、長崎県沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内で中国漁船を拿捕したと発表した。停船命令に従わず逃げたという。これにより、日中間の緊張関係がいっそう悪化する可能性がある。

BBCより

実際には、漁業主権法違反の疑いで立ち入り検査を行おうとしたところ、逃走されたというのが経緯だ。拿捕後に船内を調べても、魚種だけでは直ちに密漁の証拠とはならない。このため、漁の真っ最中に押さえるタイミングが重要になる。

Fishing Vessel Seized

拿捕したために、船の中をあらためても魚種を見ただけでは直ちに密漁の証拠になりにくい。漁の真っ最中に拿捕できれば問題ないのだが、なかなかそういうタイミングでの拿捕は難しいのである。

そして、今回は「虎網漁船」だったため悪質である。日本近海では虎網を用いた操業をするとEEZ内では直ちに逮捕案件なので、場合によっては証拠が出てくる可能性が高いが。

一方で、これが支那共産党から支持を受けた海上民兵の工作であった可能性もあって、そうすると水産庁に対するリスクが跳ね上がってしまう。実際、水産庁は取り締まり用の官船は8隻しか保有しておらず、老朽化してしまっている。更に、民間借り上げした用船(37隻)では危険な任務につくわけには行かない。

用船には放水銃くらいしか備えられておらず、武装した相手には対処が難しい。海上保安庁は専用の訓練を受けているが、やはり武装集団の相手となると装備が貧弱である。

メディア報道と政治的ノイズ

なお、引用したBBCのニュースにも、余計なノイズが入っている。

今回の事案は、日中関係が悪化する中で起きた。高市早苗首相は昨年11月に、中国が武力で台湾を奪取しようとした場合、日本が自衛隊で対応できる可能性について言及。中国の怒りを買ったことが発端だった。

BBC「日本の水産庁、中国漁船を拿捕~」より

これが日本のオールドメディアから発せられるノイズである可能性は高く、海外からの報道に弱い日本国民にとっては要注意な情報である。

曰く、

  • 台湾有事における存立危機事態認定発言が発端
  • 支那外交部が高市氏の発言を「甚だしくひどい」と非難
  • 自国民に対する日本への渡航や留学を再考するよう警告
  • 訪日支那人観光客は急減し、日本の観光・小売関連株は下落
  • 支那での公演を予定していた日本人アーティストのイベントの中止
  • 日本の人気映画の支那での公開延期
  • 日本に残っていた最後の2頭のパンダが支那へ返還
  • 緊張関係がいっそう悪化する可能性がある

なんだそうな。

冒頭のBloombergの記事とは随分と温度差がある。

木原稔官房長官は13日午前、閣議後の記者会見で、「現在捜査中だが、外国漁船による違法操業の防止および抑止のため、今後とも毅然とした対応で取り締まり活動に取り組む」と述べた。

昨年11月の国会で、高市首相が台湾有事について日本の集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」になり得ると発言。中国は首相に発言の撤回を求め、対日輸出規制や日本への渡航自粛要請などさまざまな対抗措置を講じている。

Bloomberg「中国漁船を拿捕、水産庁が船長を逮捕~」より

BBCが全く駄目ということではないが、せめて日本政府の主張に関してBloomberg程度には盛り込んで欲しい。完全に、支那側の主張だけ集めた感じになっているのは頂けない。

BBCの報道を受けて、「海外では~」と報じるオールドメディアが目に浮かぶようである。

高市政権の姿勢表明

結局のところ、この話は官房長官の木原稔氏の発言にあるように「今後とも毅然とした対応で取り締まり活動に取り組む」という意見表明が全てである。

今回は、悪質性の高い虎網漁法を行う船であったために、見せしめのような格好で拿捕した可能性が高い。

発表によると、虎網漁法の主な漁獲対象はサバやアジなど。集魚灯で集めた魚群を、「虎網」で囲い込み、捕獲する。通常のまき網漁法より操業人員が少なく押さえられ、操業時間も短い。

他方、虎網は目が1センチ程度と細かく、稚魚や小魚まで根こそぎ取り尽くしてしまうことから「海の掃除機」とも呼ばれ、乱獲を招くと懸念されている。

産経新聞より

支那漁船の拿捕自体は4年ぶりだが、近年は日本近海で悪質な操業を繰り返す船が増えているようだ。

今回、どこまで証拠を抑えられるか分からないが、船体没収までたどり着ければ、1隻数億円から十数億円かかるといわれる漁船を取り上げられるため、犯人達に経済的ダメージを与えることが可能となる。

その辺りまでは厳正な法執行に従ってやって欲しいところ。ハードルは高いようだけれど。

まとめ

近年増えてきている違法操業の取り締まりは、水産庁だけでは手が足りない状況であり、先日お伝えしたように海上保安庁の船も老朽化が著しい。

そうすると、リソースを一本化して効率的な取り締まりが出来るようにしていかねばならない。海上保安庁は海上自衛隊との連携ももちろん大切だが、水産庁の実態も加味するべきである。

水産庁が密漁調査を行うのは、生態系など科学的知見や分析が必要であるためだが、前面に出て逮捕する運用には疑問が大きい。本来は警察権を持つ海上保安庁による執行が望ましいのだ。更に、武器への対応のためには海上自衛隊との連携が必須。データ収集などシームレスな運用を行うためにも、沿岸警備に対する組織とりまとめが必要だと言える。

レアアース泥採取の調査にも、エスコートが必要なのだから、早急に体制を整えるべきだろう。

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