今、イランへの限定攻撃が週末にも、という噂がまことしやかに流れている。
トランプ氏、イランへの「限定的軍事攻撃」を検討と 核合意迫る
2026/02/21
アメリカのドナルド・トランプ大統領は20日、イランの核開発を制限するための合意をイラン側に迫るため、限定的な軍事攻撃を検討していると述べた。
BBC NEWSより
マッドマンセオリーかな。
作戦目標は何?
衝突前夜か
先日こんな記事を書いた。
アメリカとイランとは、今、軍事衝突寸前の状態にある。
疲弊したイランに対して、核合意を迫るアメリカ。一見するとアメリカの利益は一体どこにあるのかと考えてしまう構図だが、実態としてはこれは単純な「世界の警察」的正義の発露ではない。
イスラエルやサウジアラビアといったアメリカと関係の深い国々とは同盟関係にあって、その安全保障上の責任は依然として重い。イランがそれらに対し軍事的・間接的圧力をかけ続ける状況を、アメリカが放置できるとは考えにくい。
イラン側は否定しているが、核開発をしているのはほぼ確実である。放置すれば核弾頭を手に入れるのは時間の問題なのだろう。
大規模紛争へのリスク
ただし、今回のアメリカの作戦目標は、イランが呑めるものではない。多くの専門家は大規模な紛争に発展するリスクを警告している。
トランプ氏の対イラン攻撃示唆、核合意迫る戦略が裏目に出る恐れ
2026年2月21日 at 23:50 JST
トランプ米大統領は、イランに新たな核合意への署名を迫るべく限定的な軍事攻撃を検討していると述べた。ただ攻撃が逆効果となり、中東で新たな不安定化を招く紛争につながる恐れもある。
Bloombergより
イランの行動原理は体制維持だが、宗教国家の在り方は大体においてそんなものだ。宗教の教義を守るということは程度の差こそあれ保守的になりがちだ(偏見)。イスラームの国家であれば、コーランの内容を解釈し直すことはあれど、そこから逸脱することは凡そ許されることではない。
前の記事でも説明したのだが、イラン大統領がアフマディネジャド氏の時代(2005年〜2013年)に、反米路線で国家の体制を中央集権的に塗り替えている。「民営化」の名のもとに主要な国家事業を次々と革命防衛隊へ払い下げたことで、国家の権益の約1/3が革命防衛隊の手中に収められたと言われている。
革命防衛隊はイランの国軍とは違って、国家に従う軍隊ではない。イランの宗教指導者の直属組織である。
誤解を恐れず言えば、アメリカの要求はこの権力構造の中に手を突っ込む行為である。
アメリカの狙い
アメリカの狙いはおそらく体制崩壊ではなく、中東からの撤退とテロのリスクの低減である。
泥沼のイラン・イラク戦争で体験したような関与を、再び望んでいるとはとても思えないし、かといって、革命防衛隊の更なる権益強化は嬉しくない。革命防衛隊が域外で武装勢力を支援し続ける限り、安全保障体制にはマイナスの効果を生み出し続ける。ヒズボラやイラク民兵への関与、紅海情勢への影響――それらは地域問題にとどまらない。
2001年9月11日以降、「遠い中東の不安定が本土に直結する」という記憶は、アメリカの政策決定層に深く刻み込まれている。
今回の作戦は、革命防衛隊の対外活動を抑え込むことが第一目標であり、それは即ち現体制の弱体化に繋がるのだろう。その様に理解するのが一番分かりやすいと思う。
最後の皇太子の呼びかけ
1月始めのことになるが、去年末からのデモが過激化したことを受け、亡命中の最後の皇子からのメッセージが世界に向けて発信された。
イランのパーレビ元皇太子、2日間の全国スト呼びかけ 最後の国王の息子
2026.01.10 Sat posted at 18:35 JST
イランで10日以上にわたって反政府デモが続く中、1979年のイスラム革命で失脚したイラン最後の国王の息子、レザ・パーレビ元皇太子が2日間の全国ストライキを呼びかけた。
亡命中の反体制派指導者であるパーレビ氏はX(旧ツイッター)に、デモ隊に語りかけたものとみられる動画を投稿。「経済の主要部門、特に運輸や石油・ガス、エネルギー部門の労働者と従業員は(土曜日から)全国ストライキを開始する」よう呼び掛けた。イランでは土曜日から1週間の仕事が始まる。
CNNより
イラン国内でどの程度の支持があるかは不明だが、この呼びかけはそれなりの影響力があったようだ。パーレビ氏はアメリカに亡命していて、当然ながらこの呼びかけにはアメリカが関与しているのだろう。
イラン弾圧で抗議、独で20万人規模デモ 米で亡命の元皇太子レザ・パーレビ氏も登壇
2026/2/15 23:04
ドイツ南部ミュンヘンで14日、イラン当局による反政府デモ弾圧への大規模な抗議デモが実施された。各国の首脳や閣僚が集まったミュンヘン安全保障会議に合わせて呼びかけられ、欧州メディアによると、約20万人が参加。1979年のイラン革命前の王制で皇太子を務めたレザ・パーレビ氏(65)も登壇し、民主化を訴えた。
産経新聞より
パーレビ氏は、イランの体制転換を訴えており、それが直ちに民主化することに繋がるかは不明だが、少なくとも現体制の崩壊に繋がる動きではあるのだろう。
実際、前の記事で指摘したように乾いたイランの実情は、気候変動が主要因というわけではない。寧ろ、政策失敗の色が濃く、それ故の国民の怒りなのだ。
明確な要求ではない
現在、アメリカとイランとの間で何が話し合われているのかは、必ずしも明らかではない。もちろん、核兵器開発の放棄が求められていることには間違いないのだろう。
だが、本当にそれだけが争点になっているのかはちょっと疑わしい。
だが、イランとの新たな合意で何を求めているのかを巡り、トランプ氏や政権当局者の説明は一貫していない。イラン問題の専門家は、交渉の最中に空爆すれば合意に向けた動きは頓挫しかねず、致命的な報復の連鎖を招く可能性があると指摘する。
中東地域の政府高官は匿名を条件に、米国が攻撃に踏み切ればイランは協議参加を停止する可能性が高いと述べた。
Bloomberg「トランプ氏の対イラン攻撃示唆~」より
アメリカは中東に大規模な兵力を展開しつつある。

これだけのコストを支払って文字通り喉元に銃口を突きつけて「交渉しよう」と言っているのだから、「交渉の意味」とは何だったのか考えてしまうのだが、外交なんて程度の差こそあれこんなものである。
ただ、願わくば紛争に突入する前に事態が収束して欲しいものである。
まとめ
アメリカとイランとの対立の構図になりつつある中東問題だが、その焦点はイランからの核兵器の除去だけにある訳ではなかろう。
本質的にはアメリカが弱体化させたいのは、テロの輸出機関になっている革命防衛隊そのものである。しかしそれはイランの権力構造の力の源泉となっているため、イラン側はこれを容易に呑むことができない。中東でのテロの連鎖が断ち切られれば、アメリカの軍事力を中東から撤退させられる。莫大な軍事費を浪費する状態の継続こそが、トランプ氏の望まない形であるのだから、革命防衛隊の弱体化こそが狙いと読む方が説得力がある。
そうすると限定攻撃だけでそれが実現できるとは思えない。
アメリカとて無限のリソースを持っている訳ではなく、特に国内問題に注力したい。だからこそ、今回の強い圧力という構図なのではないだろうか。今日もまた、トランプ氏のマッドマンセオリーが世界を騒がせる構図だが、明確な目標はあるのだと思う。






コメント