ちょっと面白かったので、こちらの記事を息抜き程度に紹介したい。
世界最速を更新 中国の磁気浮上式鉄道が発進から5秒で時速800キロを出す
8/16(日) 14:50
中国で実施された磁気浮上式鉄道(マグレブ)の実験結果が、世界中の技術者や安全保障の専門家の目を引きつけている。時速800キロメートルまでわずか5.3秒で急加速し、そこからスムーズに停止することに成功させたのだ。
Yahoo!ニュースより
これは、COURRiER Japonがソースとなったヤフー掲載の記事なのだけれど、ざっと読むと「支那の鉄道技術はスゴイ!」という作りになっている。
で、ネットでも騒ぎになって、「ちょっと怖い」という感想を持った人が多い。
要注意な報道内容
何故か説明された磁気浮上式鉄道の話
だが、個人的には余りに酷すぎて話にならないというのが、正直な感想である。重要なパーツが幾つも欠けているのだ。
磁気浮上式鉄道とは、線路に設置された特殊な磁気コイルが交互に発生させる電磁場を利用し、車体を浮上させて前進させる交通システムだ。車輪と線路の摩擦が存在しないため、従来の鉄道の限界を超えた高速走行が可能となる。
中国や日本、ヨーロッパの一部などでは主要な移動手段として運用されており、時速約320キロメートル以上のスピードで乗客を運んできた。商用化された世界最速の磁気浮上式列車としては、中国の「Fuxing(復興号)」などが知られており、最高時速約350キロメートルを誇る。
Yahoo!ニュースより
記事の前半では、何故か磁気浮上式鉄道の説明がある。もちろん、無関係とは言わないが、ここにはそこはかとない悪意を感じる。
何が言いたいかというと、この説明はまるっきり間違いだとは言わないが、本来の話とは無関係なのである。
磁気浮上式技術
記事に出てくる湖北省の東湖実験室の話は、近年注目されているのは事実である。その内容はScience Portal Chinaにも紹介されていて「支那スゴイ!」と褒め称えている。
Science Portal China自身がそのような報道スタイルの科学技術ニュースを得意としているので、ある意味当然である。
で、これが去年のニュース。
7秒で時速650キロに到達 中国のリニア技術が新たな進展
2025年06月20日
中国湖北省の東湖実験室でこのほど、研究チームが磁気浮上技術と電磁推進方式によって、重さ1.1トンの試験車両を1000メートルの距離内で時速650キロまで加速させることに成功した。中央テレビニュースが伝えた。
時速100キロまで加速するのに1秒もかからず、7秒で最高時速が650キロに達する。その鍵は、完成したばかりの全長1000メートルの高速リニア試験線にある。
~~略~~
強力な電磁加速装置と高精度の速度・位置測定により、この試験線では地面すれすれを飛ぶような走行が実現しただけでなく、200メートル以内での完全停止も可能だ。加速性と制動性を備えた高速リニア試験線は今後、中国において、高速列車などの開発・試験でさらに活用される可能性がある。
Science Portal Chinaより
なかなか興味深いね。
ここの実験が、それなりに成果に繋がっていて、今年1月がこれ。
時速800km! 磁気浮上式技術の記録を再び更新
2026年01月09日
中国の湖北東湖実験室は、磁気浮上技術と電磁推進方式により、重量1110kgの高速鉄道模型車両をわずか5.3秒で時速800kmまで加速させた。同実験室が同種プラットフォームで世界記録を更新するのは、過去6カ月間で3度目となる。科技日報が伝えた。
Science Portal Chinaより
この一連の記事の何に注目するかというと、「重さ1.1トンの試験車両を1000メートルの距離内で」という下りだ。
つまり、小型車両ほどの重量の車両をテスト的に1kmの実験線でテストしているという意味だ。もちろん、人が乗ることは一切考えてはいないだろう。
そして、冒頭に紹介した8月15日付の記事の中身は1月9日に報じられたものということがここから分かる。
技術的意味
では、この技術、人が乗ったらどうなるかをちょっと考察していこう。
800km/hに5.3秒で達するということは、平均加速度は42m/s^2となる。つまり、加速時には平均4.2Gの負荷が搭乗者にかかることを意味する。
この技術そのものはスバラシイのだが、計算するとこの加速に要する距離は590mということになる。1kmの実験線で800km/hに達するのが590m進んだ先で、そこから減速を始めて末端の200m手前で「安全に」停車したとされている。
そうすると、減速時の方が負荷が高いのだが、どの程度の負荷がかかるかを計算すると、残り410m-200mで停車するのだから、12.6Gという恐ろしい負荷が内部で生じることになる。
なお、記事の中では「200メートル以内での完全停止」とされているので、先ほどの計算も大きく外れてはいないと思うが、実際には800km/hに到達した地点から残りの約410mを使って停止したのであれば、減速時の平均加速度は約6Gに達する計算になる。
したがって、先ほど算出した12.6Gという数字は、あくまで「200mで停止した」と仮定した場合の参考値として捉えて欲しい。
12.6Gでも6Gでも、旅客輸送を前提とした加減速としては、かなり非現実的な数字なんだけどね。
ドドンパとの比較
そういえば、日本でこんなアトラクションの話があったな、実際に。
富士急ハイランドの「ド・ドドンパ」営業終了…骨折で6人重傷「リスクの完全除去は困難」
2024/03/13 18:29
山梨県富士吉田市の遊園地「富士急ハイランド」は13日、ジェットコースター「ド・ドドンパ」の営業を終了すると発表した。
ドドンパは「世界一の加速力」を売りに1・56秒で時速180キロ・メートルまで加速する人気アトラクション。2001年の開業以降、930万人が利用したが、一部の利用客が大けがを負ったことがわかり、21年8月から運休している。
讀賣新聞より
こちらも計算しておこう。
加速度とG(重力加速度)の比較
| 項目 | ド・ドドンパ(富士急) | 中国の超高速リニア(実験値) |
|---|---|---|
| 最高速度 | 時速 180 km | 時速 800 km |
| 到達時間 | 1.56 秒 | 5.3 秒 |
| 平均加速度 | 秒速 約32m(32m/s^2) | 秒速 約42m(42m/s^2) |
| かかる重力(G) | 約 3.3 G | 約 4.2 G |
うん、実に殺人的な乗り物だね。
戦闘機乗りやF1ドライバーなども身体に強烈なGがかかると言われているが、その限界は6G程度だとされている。戦闘機のパイロットは9Gの世界にも耐えるといわれているが、これも特殊なスーツを着て、それでも限界のレベルだとされている。
アメリカ空軍の医師ジョン・スタップが1954年に行った実験では、一瞬で46.2Gの負荷が発生した記録が残っているが、彼は失明寸前になり、肋骨を骨折しながらも生還。まさに命がけである。
ここから分かることは、安全のためにガイドバーを備えたドドンパのようなアトラクションであっても、この加速度だと旅客用には適さないということである。
まとめ
というわけで、今年の1月には分かっていた話を、わざわざ今持ち出して、「技術的にスゴイ」「鉄道に利用できる」という報道をしたというのが、冒頭の話。
確かにスゴイのだろうけれど、凡そ乗務員や上客のことを考えていない技術だということを、伝え忘れている(意図的)なのはどうかと思うよ。
この実験そのものには意義があるし、そこを否定するつもりはないのだけれど、「800km/hで人を運べる鉄道」と誤解するような記事の書き方は良くないと思う。


コメント