無事に「生贄の羊」が仕立て上げられたようだ。
中国恒大創業者に無期懲役判決、全財産を没収 「社会主義市場経済の秩序を深刻に破壊」
2026/8/20 14:48
中国広東省深圳市の中級人民法院(地裁)は20日、巨額の負債を抱えた不動産大手、中国恒大集団の創業者、許家印被告に無期懲役を言い渡した。
産経新聞より
何とも哀れな話ではあるが、恒大集団の創業者である許家印氏は、無期懲役になってしまった。なお、最初にお断りしておくが、許家印氏は無罪であるというつもりはサラサラない。それを論じる意味もないし材料も足りない。
ここでは構造的に支那の不動産業が不況になっているということと、それの切り替えを図りたいという中央政府の狙いに言及していくつもりである。
不動産不況が改善するわけではない
犯人捜しと「三道紅線」
このブログでは何度も恒大集団の話は言及してきた。

元々は、支那の政策変更がこの事態を引き起こした。
中国不動産市場における「三本のレッドライン」と「三本の矢」
2024.01.08
中国では住宅価格の高騰と住宅投資の過熱を抑制するために,2020年8月に「三本のレッドライン」(契約金や預り金を除いた総資産に対する資産負債比率は70%以下;自己資本に対する純負債比率は100%以下;保有現金の短期債務比率は1以上)が設けられた。また,不動産開発企業を債務状況に基づき,「四グループ」(三本のレッドラインともクリアした企業を緑色,二本クリアした企業を黄色,一本クリアした企業をオレンジ色,一本もクリアしていない企業を赤色)に分類し,緑色は年有利子債務の増加率は15%以下,黄色は10%以下,オレンジ色は5%以下,赤色は0%とする不動産開発企業の債務健全化政策が打出され,2021年1月から実施された。
World Economicより
簡単に整理しておくと、政策的に不動産投資を推進していた支那だったが、余りに不動産バブルが膨らみすぎて、その処理の仕方に困った。
挙げ句、三道紅線(三本のレッドライン)という政策を打ち出して、無茶な不動産開発を取り締まる方針に舵を切った。
- 政府が求めた爆発的成長: 2016年〜2019年の間、中国政府は地方財政の維持とGDP目標達成のために、不動産開発を強力に後押しした。
- 業界の「標準仕様」だったグレーな手法: 負債を帳簿外に隠す(オフバランス)手法や、未完成の物件の販売代金を次の土地購入に流用する自転車操業は、当時の中国の不動産大手が競って行っていた業界の公然の秘密だった。
- 突如として変えられたルール: 当時は「愛国的なカリスマ経営者」として称賛されていた不動産開発企業の社長達は、2020年8月の「三道紅線」によって、ハシゴを外される。昨日までの「成長のセオリー」が、突然「国家を揺るがす違法行為」へと反転した。
犯人を仕立てろ
当然ながら、その政策の失敗の責めを負う対象が必要となる。そこで、槍玉に挙がったのが、不動産大手の経営者達だ。
許家印氏は、まさにそのうちの1人だ。
違法な資金調達などの罪で起訴されていた。政治的権利の終身剥奪と、個人財産の全額没収も言い渡した。恒大集団には88億2000万元(約2100億円)、同社子会社の恒大地産集団には70億元の罰金をそれぞれ科した。
産経新聞「中国恒大創業者に無期懲役判決~」より
「生贄の羊」としては許家印氏のカリスマ性は都合が良かったのだ。
中国一の大富豪、資産額5兆円に迫る
2017年10月19日 6:30
胡潤研究院はこのほど2017年の中国富豪番付をまとめ、不動産大手・中国恒大集団の許家印氏が首位になった。不動産会社の経営者がトップになるのは3年連続。騰訊の馬化騰氏、アリババ集団の馬雲氏が続き、不動産と情報技術(IT)関連が上位を占める構図は変わらない。宅配大手、順豊の王衛氏が6位に入るなど新顔も相次ぎ登場している。
日本経済新聞より
騰訊の馬化騰氏は未だ生き残っているが、アリババ集団の馬雲氏は既に失脚済み。今回は不動産の許家印氏。
2017年に5兆円に迫るといわれた個人資産は全て取り上げられてしまうことに。尤も、幾ら残っているのか怪しいものだが。
ジェット機や豪邸失ったが「焼け石に水」 恒大集団、トップの苦境
2021年11月19日 10時00分
「中国恒大集団の許家印氏が巨額の個人資産を次々手放している」――。
~~略~~
中国の経済系メディア「第一財経」は16日、関係者の話として許氏が7月以降、個人資産を売却したり借金の担保に入れたりして、恒大に70億元(約1200億円)以上の資金を投じたと報じた。社債の利払いや投資商品の償還、社員の給与支払いなどに充てているという。
朝日新聞より
個人資産を全て取り上げても、3,000億ドル(約50兆円相当)もあったとされる恒大集団の負債の穴埋めには足りないんだけどね。
無期懲役は「妥当」なのか
刑量が妥当かどうかはなかなか難しい。が、おそらくは無期懲役になった「理由」はそこではない。中央政府にとっては、犯人さえいればどうでも良いのだろう。
恒大が2016~21年に粉飾決算を行い、巨額の債務を隠したと認定。不動産危機が表面化する引き金となった恒大の経営実態に、初めて厳しい司法判断を下した。
産経新聞「中国恒大創業者に無期懲役判決~」より
2016年から2021年にかけて恒大が行っていた経営手法は、後になって厳しく断罪されることになった。少なくとも恒大が急成長していた時代には、こうした経営手法は問題視されていなかったが、2020年に突如として方針変更した結果、違法行為として可視化されたのだ。
実際のところ、材料が出そろっていないので、許家印氏の関わった取り引きに関わる事案が本当に問題のある行為だったのかすら見当も付かない。
そして、恒大集団以外にも、次々と問題のある企業が明るみに出て、不良債権は雪だるま式に膨らむことになったのはご存じの通りである。恒大集団だけに問題があったとは考えにくい。
尤も、支那当局としてはヘイトをコントロールするために犯人がいれば問題ないのだから、おそらくはそれなりの認定できる行為は存在しているのだろう。
それよりも、許家印氏がもはや表舞台に出てこれない状態になったことの方が重要なのだと思う。
そういう意味での「生贄の羊」なのである。「見せしめ」と言い換えても良いかもしれない。
なお改善の道筋は見えない
さて、この様な状況なのだが、ではこの判決によって、支那経済の回復への道筋が見えるかというと、そうはならないんだろうと思う。
中国新築住宅価格、5月は前月比-0.2%に下げ加速 需要弱く
2026年6月16日
5月の中国新築住宅価格は前月比0.2%下落し、下落ペースがやや加速した。国家統計局が16日発表したデータを基にロイターが算出した。
ロイターより
6月の指標もこの通りだが、7月のデータも芳しくないらしい。
中国新築住宅価格、7月も下落 支援策の効果見えず
2026年8月17日午後 5:53
中国の新築住宅価格は7月も下落した。長期にわたる不動産市場低迷は、経済全体への下押し圧力となっている。各都市が住宅需要回復に向けた対策を打ち出しているものの、目に見える効果は見られない。
国家統計局が発表したデータに基づくロイターの算出で、7月の新築住宅価格は6月と同じく前月比0.1%下落。前年比では3.2%下落した。
ロイターより
当面この様な状況は続きそうではある。
売れ残っているマンションを公的に買い取って、これを安く供給することで市場の活性化を図ろうとしているのだが、これが上手くいっていない。
そもそも不動産開発に不信感が募っていることもあるが、「大丈夫そうな物件を安く買い叩いて、供給する」というやり方を、人民は余り快く思っていないのだろう。
待ったらもっと安く買えるのでは?と思う人も多いだろう。流動性の悪化に伴い、購買欲も削がれている。何より、若年失業率が高くて、購入することができる層がかなり薄い。
新築住宅価格の下落は、そういった事情を反映していると思われる。
支那当局としては、不良債権をフィルタリングして、安全な資産だけでも売って経済を回そうという試みではあるんだけど、消費者心理は改善していないね。
まとめ
アイコン的な「中国恒大創業者」の処分という形で、不動産不況の改善を図るという側面はあったのだろうが、それで、資産として投資した不動産の価値が戻ってくるわけでもない。
売り先がなくなった不動産は、劣化するに任せている状況にある。つまり、放置すればするほど取引された不動産の価値は毀損されていくのである。そんな中で「新しく不動産を買おう!」という機運を高めることは、困難なのだ。
そうすると、不動産開発がGDPの3割を締めていた実情を考えると、経済の回復というのは相当ハードルが高いということになる。


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