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日米で豪州にガリウムの生産設備の整備に乗り出す

科学技術
この記事は約10分で読めます。

野心的な連携で何よりである。

中国が生産の96%握るガリウム、日米で豪州に生産設備…レアメタル安定調達で経済安保強化

2025/08/03 05:00

政府は、中国への依存度が高いレアメタル(希少金属)「ガリウム」の調達網の整備に乗り出す。日米の企業と連携して豪州に生産設備を設け、日本に輸出する。ガリウムは半導体などの生産に欠かせない重要鉱物だが、世界生産をほぼ独占する中国が輸出管理を強化し、安定調達が難しくなっている。独自の調達体制を構築し、経済安全保障の強化につなげる。

読売新聞より

経済産業省所管のエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が、資源開発を細々と続けていたのは知っていたが、こういう動きもできるんだと少し感心した。

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経済安全保障に関わる事案

なぜ、オーストラリアを選んだのか

タイムリーな話題というわけではないんだけど、ちょっと慎重になっていたこともあって記事としては取り上げないでいた。情報の確度、という点で少し疑問点があったんだよね。

それはさておき、ガリウムについて。

◆ ガリウム =レアメタルの一種で、主にアルミ製錬の副産物として生産される。電気自動車(EV)に欠かせないパワー半導体やLED(発光ダイオード)、レーダーなど幅広い製品に使われる。リサイクルを除く世界生産の96%を占める中国の輸出管理強化により調達しにくくなっている。

読売新聞より

ガリウムという金属は、支那が生産量の96%を占める独占状態にあり、これが輸出管理強化によって入手しにくくなっている。

で、今後のことを考えると自前で調達可能な状態にしたいという思惑が日米で一致したので、オーストラリアを巻き込んじゃったという話。なぜオーストラリアなのか?といえば、資源大国だからである。そして、アルミニウムの生産量がかなりある。

以下は、USGSデータおよび複数情報源に基づいた2024〜2025年の主要生産国ランキング。

  1. 中国 – 約43 Mt(世界最大の生産国)
  2. インド – 約4.1 Mt(第2位)
  3. ロシア – 約3.8 Mt(第3位)
  4. カナダ – 約3.0 Mt(第4位)
  5. アラブ首長国連邦(UAE) – 約2.7 Mt(第5位)
  6. バーレーン – 約1.6 Mt(第6位)
  7. オーストラリア – 約1.5 Mt(第7位)

ランキングでは面倒な国が並んでいるので、オーストラリアを選んだのは慧眼というべきだし、何より対支那という観点と、技術力という観点から言うとよくぞ選んだという印象である。そして、ガリウムの生産はアルミニウム精錬の副産物として得られるのである。

経済産業省所管のエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と大手商社の双日、米アルミ大手アルコアが豪州に合弁会社を設立し、2026年から生産を始める。アルコアは豪州にアルミ原料の製錬所をすでに持つ。ガリウムはアルミの製錬過程で抽出できるため、合弁会社が新たな生産設備を整備する。28年には日本が中国から輸入する量に相当する年55トン以上の生産を目指す。

読売新聞より

で、日本の技術力でなんとかしちゃおうという発想になったらしい。

リサイクルには限界がある

なお、現状はリサイクルによってガリウムの回収を行って、凌いでいるらしい。

中国が23年8月にガリウムの輸出管理を強化してからは、日本への輸出は8~9割減の10トン前後にとどまる。ガリウムを使う部品会社などはリサイクルや在庫によって何とか生産をつないでいるのが実態だ。

読売新聞より

ただし、流石にリサイクルにも限界があるので、なんとか調達したいってことになったわけだね。

気になるのは、日本経済新聞の反応がイマイチだってことだ。

双日、オーストラリアでガリウム生産へ共同調査 25年中に投資判断

2025年8月4日 18:45

双日は4日、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、米アルミ大手のアルコアと共同で、オーストラリアでレアメタル(希少金属)のガリウム生産に向けた共同調査を始めると発表した。アルコアが豪州に持つ精錬所内に生産設備を設けることを検討する。双日として2025年末までに最終投資判断する。

このほど双日とJOGMECが調査のための共同出資会社を設立し、アルコアと共同調査する契約を結んだ。事業化する場合、26年の生産開始を目指し、双日が日本を中心とした需要国への販売を担う。

ガリウムはアルミの精錬過程で副産物として分離、回収できる。アルコアは西豪州に複数のアルミ精錬所を持っており、そのいずれかで生産設備を共同開発する計画だ。

日本経済新聞より

記事によると2025年末までに双日が判断するってことになっているのだが、他の報道とは温度差を感じる。ここは双日のサイトも確認しておかないと。

豪州におけるガリウム生産開始に向けた共同調査を開始

2025年8月4日

双日株式会社(以下「双日」)は独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(以下「JOGMEC」)と、豪州におけるガリウム生産に向けた共同調査を行うための合弁会社である Japanジャパン Australiaオーストラリア Galliumガリウム Associatesアソシエイト Pty Ltd を通じて、世界最大級のアルミナ生産者である米国 Alcoaアルコア Corporationコーポレーション 傘下の豪州法人である Alcoaアルコア ofオブ Australiaオーストラリア Limitedリミテッド(以下「Alcoa」)と、西豪州に所在するAlcoaのアルミナ精錬所(稼働中)におけるガリウム生産に関する共同調査(以下「本事業」)契約を締結しました。今後、共同で事業化調査と検証を進め、2025年末までに最終投資判断を行う予定です。事業化する場合、2026年の生産開始と安定供給を目指します。なお、双日は、生産したガリウムを日本を中心とした需要国へ販売していく予定です。

双日のサイトより

確かに、契約はしたけど最終投資判断は後日だって感じになっているね。

JOGMECの方が前のめり

では、他の報道はなぜそんなふうになっているかといえば、おそらくはJOGMECの報道を主体に報道したってことなんだろう。

豪州におけるガリウム生産に向けた共同調査事業への出資
-ガリウムの新たなサプライチェーン構築を目指す―

2025年8月4日

JOGMECは、双日と西豪州に設立したJapan Australia Gallium Associates Pty Ltd(以下「JAGA」)を通じて、アルミナ生産大手である米国Alcoa Corporation傘下の豪州法人であるAlcoa of Australia Limitedの西豪州におけるアルミナ精錬所でのガリウム生産に関する共同調査(以下「本プロジェクト」)に必要な費用を出資することを決定し、2025年7月23日にJAGAに対して初回の出資を実行しました。また、JAGAは、Alcoaと本プロジェクトに関する共同調査契約を締結しました。今後、共同での事業化調査と検証を進め、2026年の生産開始を目指します。

JOGMECのサイトより

書いてある内容はほぼ同じだが、「投資判断」の下りがない。

そうすると、双日のサイトとは印象が随分変わって、やることが前提になっているように見える。多分だが、この姿勢の違いはアメリカが1枚噛んだこと。日本政府としては後に引けなくなった感じがする。

中国が96%を握る理由

まあ、ガリウムは今後、パワー半導体などを作るうえでは必須の金属である。やらないという選択肢はないだろうなぁとは思う。ただ、そもそも支那が世界生産量の96%のシェアを誇っている理由は、単なる資源量の差ではなくて、以下のようなことをやったからこそなのだ。

  • アルミ・亜鉛精錬に副産物回収設備を標準装備
  • 国策として価格破壊的な輸出で競合を駆逐
  • 環境規制の緩さで低コスト生産
  • 国内需要(LED、太陽電池、5G)に応じた備蓄と輸出管理

この組み合わせで世界シェアを独占してきた。

日本が重い腰をあげた理由は、価格高騰しているガリウムの調達コストが見合う可能性が出てきたから、という事なんだろうと思う。まあ、日本政府がやる気になっているのだから、ぜひとも頑張ってほしいと思う。

追記

コメントを戴いていたので、少しJOGMEC関連のニュースで追記。

米関税で関心高まるレアアース、日本も南鳥島沖で試掘へ 自力確保で中国依存脱却目指す

2025/8/10 19:58

長引く米中対立を受け、レアアース(希土類)への関心が高まっている。生産量世界首位の中国が輸出規制を武器に米国から譲歩を引き出し、その余波で日本国内の自動車メーカーが一時生産停止に追い込まれる実害が出た。中国依存からの脱却を目指す政府は2026年1月、日本最東端の南鳥島沖海底に眠るレアアースの試掘に着手する予定だ。

産経新聞より

それなりに試掘の意味はあると思うんだけど、これはまた領有権を巡る話が激化していきそうな雰囲気だな。

2019年の調査で南鳥島沖の海底から採取されたレアアースを含む泥(SIP提供)

こんな感じで掘れたレアアース泥を、利用出来る状態にするまで精錬する必要があるんだけど……。この手のアイテムって海の底から回収しなければならないので、なかなか割に合わない感じ。

採算が採れる程度に高額化してしまうのもまた問題なので、この問題は意外に難しい。

追記2

コメントで、興味深い示唆を貰ったので少し文章として落とし込んでみることに。

実は放射性問題を回避できる海底埋蔵レアアースで、支那産レアアースに対抗できるか?

レアアース(希土類元素)はスマホや電気自動車、再生可能エネルギー技術の核心素材だが、実は、その採掘現場では放射線問題が常に付きまとうという問題がある。

支那では陸上鉱山で盛んに採掘を続けており、レアアースのシェアはトップ。だが、陸上鉱山では、放射性物質であるトリウム(Th)やウラン(U)といった天然の放射性元素が鉱石に含まれ、レアアースと一緒に採掘される。このため採掘や精錬の過程でその処理や廃棄が必要となり、これが環境問題の火種になる。

一方で、日本の注目する海底レアアース資源では、放射線リスクが非常に低い。その理由を技術的に掘り下げていこう。

陸上鉱石の放射線問題:鉱物学的背景と環境リスク

陸上のレアアース鉱石は主にリン酸塩鉱物であるモナザイト(Monazite, 化学式:(Ce,La,Nd,Th)PO4)やバストネサイトに含まれる。支那にはこの鉱山が多数あって、開発が進んでいる。

  • モナザイトはトリウムを多く含む鉱物として有名で、トリウムの含有率は数%に達することも
  • ウランも微量ながら混入することが多い

このため、採掘・粉砕工程で鉱石からトリウム・ウランが遊離し、粉じんや廃水に含まれることになる。

さらに、鉱石からレアアースを取り出した後に残る尾鉱(テーリング)は、放射性物質を濃縮した天然放射性廃棄物となり、適切に管理されないと周辺の土壌や地下水の放射能汚染に繋がる。

事実、支那内陸部の鉱山周辺で問題化し、住民の健康リスクも指摘されている。

海底レアアース泥の特徴と放射線リスクの低さ

一方、日本が資源開発を進める南鳥島周辺などの海底レアアース泥は、マンガン団塊や海底堆積物の一種であり、鉱石とは性質が大きく異なる。

  • 主に酸化物やシリカ質の微粒子にレアアースが吸着した形で分散している
  • トリウムやウランの含有率は陸上鉱石の1/10〜1/100程度と非常に低い
  • 放射線測定で、自然背景放射線にほぼ近いレベルだと確認されている

ご存じの通り、「水」は減速材として優秀で、放射性物質が含まれていたとしても、水自身が放射線の遮蔽物となる。そして、海底は膨大な海水によって希釈されるために、もし微量の放射性物質が溶出しても即座に希釈され、環境中の線量上昇には繋がりにくい特徴がある。

採掘・処理方法の違いも安全性に大きく影響

陸上採掘では大量の鉱石を掘り出し粉砕する。鉱石を粉砕する時には大量の粉塵が発生するため、この粉塵の飛散を抑える為に大量の水が使われる。この結果、粉塵や廃水に放射性物質が含まれる結果となる。また前述した通り尾鉱の管理が大きな課題となる。

一方で、海底採掘は吸引ポンプで泥を吸い上げる方式が主流で、泥状になったレアアースを船の上に引き上げる作業となり、粉じん問題は生じにくい。また、泥内に殆ど放射性物質が含まれないので、船上での作業でも作業員の被爆リスクはさら低い。

まとめ:放射線問題は鉱石の「成分」と「管理」で決まる

  • 鉱石中のトリウム・ウラン含有率が高い陸上鉱山は放射線リスクが大きい。
  • 海底レアアース泥は放射性元素が極めて微量で、海水による希釈効果もあり環境リスクは低い。
  • 採掘や廃棄物管理の方法が適切かどうかも安全性を大きく左右する。

このように、放射線問題は「レアアース採掘=危険」という単純な話ではなく、鉱石の種類・成分と採掘方法、管理体制を総合的に見極めることが重要。そして、このことは海底採掘の手法を確立出来れば、陸上鉱山から採掘されるものとは差別化を図ることが可能だということを意味する。

コメント

  1. 匿名 より:

    ガリウムとゲルマニウムに関して言えば、レアメタル調達の中でも緊急性が低いと言えます。なぜなら、アルミニウムや亜鉛の副産物として出来るのでどこでも生産出来るからです。
    ではなぜガリウムを中国が独占しているかというと需要が少ない、すなわち市場が小さいのでわざわざ他国はコストをかけて生産する必要がないからですね。これは、仮に供給を遮断されてもいくらでも代替生産が可能であることを意味します。そういった意味でも早々に供給過剰になって儲かる見込みが少ないため、各社慎重なのでしょう。
    規制されるとヤバいのはテルビウム、ジスプロシウムとかのレアアースですが、尖閣諸島に端を発した日本への輸出規制で日本企業が代替品を次々と出して依存を減らしてきたので中国は逆にダメージを負いました。日本へのレアアース輸出規制は当面やらないでしょう。
    しかし、アメリカはレアアース供給遮断への備えが全くなっておらず、国内製造業の凋落により金属や素材の開発力も落ちているので耐えられないでしょうね。

    • 木霊 木霊 より:

      ガリウムの生産自体は割と色々なところでできるというのはその通りですが、残念ながら日本もアメリカでも国内採掘が難しいので、何処かにお願いする必要があるのは間違いありません。緊急性が低いのはその通りですが、枯渇してしまうと困るので、早いタイミングで動いておくことは悪いことではないようで。

      海洋資源として生産可能な状態にまでできると良いんですが、なかなか。
      そういう意味では、JOGMECにもっと頑張って貰いたいですね。

      • 匿名 より:

        南鳥島のレアアース泥は期待してます。
        あまり知られてないことですが、海底のレアアース泥は、鉱山から採掘出来るレアアースと違って放射性物質を含まないというのが様々な面で大きなメリットになります(レアアースの成り立ちが違うため)。

  2. 七面鳥 より:

    こんにちは。

    今はどうか知りませんが、十年ほど前かもう少し前か、中古基板からいろんな物回収するのに、マスクなし集塵装置なしで扇風機だけ点けてハンダ槽に基板ジャブジャブして部品剥がしている写真がどこぞの雑誌にありまして(日経メカ系だったかと)。
    レアアースも、副産物として毒性の強いあれやこれやがわんさか掘り出されるわけですが、作業員も周辺環境も一切の配慮なし、そりゃコストで勝てるわけがない。

    井戸を掘れば工業廃水が出る、農家は農薬まみれの自分の畑の野菜は食わない。

    ぶっ倒れる時は、キレイサッパリ消え失せて欲しいですが、そうもいかないのでしょうね……

    で。
    >ランキングでは面倒な国が並んでいる
    カナダもめんどくせーんですよね……オーストコリアの方がまだマシなレベルで。

    • 木霊 木霊 より:

      こんばんは。

      アノ国、環境に配慮せずに人権にも配慮しないところが、ポイントだと思いますよ。
      だからこそ、コスト競争に勝てるわけですから。
      でも、いまデフレが進んでいるんで、その辺りでバランスが取れる可能性が、もしかしたら?

      カナダ、特にトルドー政権がヤバいですね。流石に、交代することになりましたが……、あれはましになったのか?という疑問は残っています。