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【追記】南鳥島沖の試掘開始――なぜ「今」動かせるのか(中編)

環境技術
この記事は約9分で読めます。

さて、前編に続いて中編なのだが、ここからは一気に政治の話に踏み込んでいくことになる。ただし、後編に関しては恐らく投票後にする予定である。

日米欧、レアアース安定供給へ「貿易圏」 最低価格制で中国製を排除

2026年2月5日 6:23

トランプ米政権は4日、日本や欧州連合(EU)各国などとレアアース(希土類)の安定供給に関する閣僚級協議を開催した。出席したバンス米副大統領は、各国と連携して「強制力のある最低価格制度によって、外部から守られた重要鉱物貿易圏をつくる」と提案した。

日本経済新聞より

トランプ政権から、再びレアアースに関する明確なメッセージが出された。しかも今回は、日本だけでなくEUも射程に入れた内容である。

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日米欧レアアース貿易圏

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米豪は既に関係者

先ずは、前回の記事へのリンクを貼っておこう。

前回は、主に戦略性と採算面に焦点をあてた話であった。ミステリーで言うところの「死体発見」「事件に巻き込まれちゃった」という序盤展開にあたるのだが、今回はその続編で、関係者への聞き込みをして推理の材料を揃えるシーンとなる。

先ずは、冒頭に示したようにアメリカからのメッセージを紹介した。

既にお伝えしたように、日本とアメリカとは南鳥島でのレアアース採掘には協力体制にある。

日本と米国、南鳥島周辺でのレアアース掘削で協力-中国依存低減へ

2025年11月7日 at 13:28 JST

日本と米国は、日本の最東端に位置する南鳥島の周辺海域でレアアース(希土類)の採掘に共同で取り組むことで合意した。この重要鉱物における中国への依存を減らす狙いがある。

Bloombergより

また、アメリカにとってはレアアースの問題はかなり重要視しているため、オーストラリアにも開発話を持ちかけている。

米豪がレアアース共同開発で合意…トランプ氏「1年後には大量入手できるようになる」

2025/10/21 13:19

米国のトランプ大統領は20日、オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相とホワイトハウスで会談し、レアアース(希土類)の共同開発に向けた合意文書に署名した。ホワイトハウスによると、両政府は今後半年以内に30億ドル(約4500億円)を投資し、530億ドル(約8兆円)規模の資源を開発する。詳細は不明だが、日本も関与するという。

讀賣新聞より

この記事ではアメリカとオーストラリアとの共同開発合意となっていて、日本の関与は「詳細不明」としているが、既に日本はオーストラリアに共同開発を持ちかけて、進めている話は言及した通り。

双日、オーストラリア産レアアース初輸入 中国依存脱却へ一歩

2025年10月30日 5:00

双日は30日までにオーストラリア産の希少レアアース(希土類)を初輸入した。電気自動車(EV)や風力発電機向けモーターなどに必要で希少性が高い「重希土類」を中国以外から輸入するのは日本で初めて。今後、国内需要の3割程度を調達する。中国がレアアースの輸出管理を強める中、中国外の資源確保は日本の経済安全保障に直結する。

日本経済新聞より

この件、JOGMECも噛んでいて、マウント・ウェルド鉱山の開発には双日と共に2011年に約200億円の出資、2022年に約13億円の追加融資を行っている。この点でも、日本は既に当事者の一角と言えよう。

そしてEUは

また、G7での話題を書いたのだが、この時に既に財務大臣の片山さつき氏が重要鉱物に関する閣僚級協議で主導的な立ち回りをしたと説明した通り、EUでも関心事項となっている。

その結果、イタリア首相のメローニ氏が来日した折には、重要鉱物の供給網などで連携強化で合意している。

イギリス首相のスターマー氏との会談でも、重要鉱物確保へ連携という報道が出ていた。よって、イタリア、イギリスはいずれも重要鉱物分野で日本との連携を明確にしたと整理できる。

日英、重要鉱物確保へ連携 「ドンロー主義」意識し安保・経済で協調

2026年1月31日 18:00(2026年1月31日 23:15更新)

高市早苗首相は31日夜、英国のスターマー首相と首相官邸で会談した。重要鉱物のサプライチェーン(供給網)確保に向けた協力を確認した。中国によるレアアース(希土類)の日本への輸出規制強化が念頭にある。サイバーや宇宙の分野で連携を深めることでも一致した。

日本経済新聞より

と言うわけで、イタリア、イギリスについては既定路線で、他のEU各国がどのようなスタンスかは不透明な部分もあるが、特に否定的な話は聞かれない。

したがって、日米欧のレアアース貿易圏形成というのは、トランプ氏のふかしではなく事実ベースの動きと理解した方が良さそうである。

なぜ南鳥島開発なのか

世界のレアース泥の分布

さて、前回の記事では南鳥島沖の開発の有用性について、資源の面から光を当てたのだが、今回は別の角度から光を当てよう。

img

こちらが国交省の資料で、レアアース泥の分布に関して示している。レアアース泥の分布はある程度調査で判明しているが、それによると中央海嶺(海底火山の大山脈)に沿った発生分布が示唆されていることと、コレが海流に載って西に移動したために南鳥島沖に比較的高濃度に堆積したのだと推測されている。

つまり、この様な移動をしたという推論である。

img

この調査結果によれば、海洋資源開発はかなり重要であることが理解できると思う。そして、割とアメリカの領海内にも分布している可能性が高いことが分かっている。

そして南鳥島沖に

南鳥島沖の海底に発見されたレアアース泥は、1億年かけて日本近海まで移動してきたのだという驚くべき話ではあるのだが、それが正しいかどうかはさておき、幸いにも日本の領海内にそのレアアース泥が存在することが重要である。

そして、幸いなことに日本には海洋調査技術があり、レアアース泥を吸い上げることのできる技術があり、そしてそれを実証して見せた。

今回のニュースは、そうした一連の技術的蓄積を背景にした動きと位置づけられる。

前回、議論したように採算面での不安はあるものの、勝算も多少はあるので、全く議論にならないほど高額なレアアースになるということにはおそらくならない。

そして、戦略物資的な位置づけである点を考えれば、開発をやらない理由はないだろうと、思うわけである。

高市政権の狙った陣容

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閣僚に配置された人材

さて、既に衆議院は解散して選挙戦に突入してしまったが、高市政権発足時には引けなかった補助線を、今になって感じる人材配置がある。それがコレ。

  • 首相:高市早苗
  • 防衛大臣:小泉進次郎
  • 財務大臣:片山さつき
  • 経済安全保障担当大臣:小野田紀美
  • 環境副大臣:青山繁晴

今回の高市内閣は何れ劣らぬくせ者揃いではあったが、レアアース開発という側面から見た場合に、この布陣は「かなり揃っている」と言っていい。

首相

先ずは、高市氏。ご存じの通り、経済安全保障担当大臣を経験しており、エネルギー・資源政策に明るく、軍事力の強化と経済安全保障を一体のものとして捉える姿勢を明確にしてきた。

経経済安全保障を通商政策の延長ではなく、国家存立に関わる政策領域として扱っている点が特徴である。

経済安全保障担当大臣

その文脈で、小野田紀美氏を経済安全保障担当の特命大臣に据えた。この分野は調整型の人材よりも、腰を据えて踏み込める政治家が必要になるし、前回、彼女のレアアース泥の件に関しての発言を紹介したが、見据えている方向は首相と同じであろうことは明らかだ。

小野田経済安保相、レアアース泥採取で高コスト許容 南鳥島近海 | 毎日新聞
地球深部探査船「ちきゅう」が南鳥島(東京都小笠原村)近海の水深約5600メートルの深海底からレアアース(希土類)を含む泥の採取に成功した件を巡り、小野田紀美経済安全保障担当相は3日の閣議後記者会見で、「コストは重要だが、国家を守るための視点...

ここまで明確な発言が出てくる背景には、本人のキャラクターもあるのだろう。

防衛大臣

また、防衛大臣が小泉進次郎氏である点も軽視できない。

彼はアメリカとの関係構築において極めて良好なポジションを持ち、加えて前職が環境大臣であることから、資源開発と環境規制の両面を理解している。

国防のための資源開発という文脈でも、日米合同での開発を防衛するという文脈でも日米共同での資源開発や、その防衛という文脈において両分野を横断的に理解している点は無視できない。

財務大臣

そして、冒頭で紹介したように財務大臣である片山さつき氏が、G7において資源外交をリードしたことはあまり報道では重視されていないものの特筆すべき点である。

外務大臣という立場ではなく、財務大臣という立場で資源外交を行って、その重要性を説ける貴重な人材である。その上、選挙前に高市氏が明言した政府予算の複数年度化の話を理解し、実現できる人材である。

レアアース開発に必要な南鳥島の港湾設備開発は、多額の予算を必要とする。だから単年度処理ではそうとう厳しいのだが、5年くらいのスパンで考えるのであれば、将来性もある重要投資であるとできる。複数年度化はそういう意味でも極めて大きな意味を持つ。

環境副大臣

最後に、環境副大臣の青山繁晴氏。何故、「副大臣か」ということも含めて、重要である。彼の専門分野は安全保障の分野であり、配偶者がメタンハイドレート関連の研究者であることも含めて、海洋資源開発にも明るい。

そして、資源開発と環境規制の話の実働部隊としての副大臣というポジションが、環境大臣経験のある小泉氏との連携を考えても親和性が高い。資源・エネルギー問題にも深く関与してきた人物であるだけに、国家戦略として「環境か、安全保障か」という二項対立ではなく国家戦略として整理できる立場にある。

野党の重要ポジション

更にもう一人、閣外にいる国民民主党所属議員の山田吉彦氏の存在が効いてくる。彼は、東海大教授で海洋安全保障の専門家として知られている。また、片山さつき氏とも親交が深い。

前回の参議院選挙では無名に近い状態で立候補したが、しかしネットでの知名度は相当高い。選挙での得票率は6.2%で、国民民主党の議員としてギリギリの当選ではあったが、防衛と資源という人気のない分野を訴えて当選した意味はかなり大きい。

実際、南鳥島の防衛を巡っては、以前触れた通り、国会の場で防衛大臣としての小泉進次郎氏と、山田氏との間で論戦が交わされた経緯がある。

これは、政策論争の枠を超えて、南鳥島をどのような対象として捉えるかという問題意識が共有されていることを示している。

南鳥島を「地図上の点」ではなく、防衛と資源、そして主権の問題として扱う共通認識が、既に国会内で共有されていることを示している。

また、日本維新の会、国民民主党のいずれも、南鳥島周辺の安全保障強化や、海洋資源の戦略的活用については、基本的に賛成できる立場にある。

つまりこのテーマは、

  • 与党内だけでなく
  • 政権中枢だけでもなく
  • 超党派で合意形成が可能な領域

に位置している。

公明党のいない国土交通省

書くかどうか迷ったが、今のタイミングで港湾開発するにあたって、国土交通省が自民党の手に戻ったことも大きいだろう。

長らく国交省の大臣は指定ポジションだった。

与党にいた時の働きは、評価すべきポイントも大きかったが、一方で国防、資源開発といった分野でブレーキをかけていたのもまた事実。管轄下にある、海上保安庁の強化という意味でも、影響はあるだろう。

え?ああ、今は中革連にいるようだけれど、ともあれ風通しは良くなったのだから、政策は進めやすいよね。

まとめ

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この話の抵抗勢力は、冒頭に示した通り支那である。

そして、海洋資源開発をやる上で南鳥島の開発は必須だけれど、基本的には無人島なので反対してくる人が殆どいない。漁場としてはそれなりの価値はあるようだけれど、ここまで出張してくる猟師さんも希。

つまり、複数の条件が重なった結果として、「今」進められる環境が整っていると整理できる。

コメント

  1. 匿名 より:

    どうもー。
    レアアースの話しをする時には、重レアアースと中、軽レアアースに分けて考える必要がありますな。
    実はネオジムを始めとした軽レアアースは割と世界中で採れるのでそこまで困らない。
    問題なのは重レアアースの方。これ、世界でもほとんど採れなくて一昨年まで中国が世界シェア100%だったんですよね。ちなみにオーストラリアのライナス社が所有するマウントウェルドは軽レアアース中心。(余談だがライナス社は過去に潰れそうになって丸紅とJOGMEGが救済に入り、そのまま日本と独占供給契約を締結したといういきさつあり。そのライナスも環境面でオーストラリアで精製は無理だから鉱石運搬してマレーシアで精製してから日本に輸出してます)。
    しかし、そのマウントウェルド鉱山にもほんのわずかに重レアアースが含まれておりまして昨年になってようやく重レアアースの精製が開始され、なんと中国の世界シェア100%の牙城が崩されました。当時あまり大きく報道されませんでしたが実はかなり大きな変革だったのですね。
    しかし、量も到底日本の需要を賄えるものではなく、価格も中国よりはるかに高いので南鳥島のレアアース泥はそれを補完もしくは完全に置換するものになればいいなと期待しております。
    政治とレアアースの関係について、ここでは細かい言及は避けますが今まで中国に遠慮して本格的にやらなかったという側面もあったりなかったり。

    • 木霊 木霊 より:

      その辺りの下りは前の記事の話ですが、それで資金注入したんですよね。
      が、重レアアースの輸入に漕ぎ着けられたことは喜ばしい。一部報道では必要量の3割ほど賄えるみたいな話でしたが、具体的な種類までは不明。
      そういう意味でも南鳥島沖の開発は結構重要度が高いとは思っております。

      政治の話は、「支那に遠慮して」という部分、ブレーキをかけていた勢力が居たのは事実です。
      高市政権はその暗黙の了解を破壊したと言う意味でも、感慨深いです。それ故に抵抗は凄まじいらしいですが。