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沿ドニエストルに緊張再燃 ロシアは何を仕掛けるのか

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東欧
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ロシア安全保障会議書記のショイグ氏か。これまた厄介な人物が出てきたものだ。

モルドバ親ロ地域でロシア人が脅威に直面、あらゆる措置検討=ショイグ氏

2026年4月22日午前 9:05

ロシアのショイグ安全保障会議書記は21日、モルドバの分離独立地域である沿ドニエストル(トランスニストリア)でロシア人の安全が‌脅威にさらされているとし、ロシアはあらゆる保護措置を講じると表明した。ロシア紙コムソモリスカヤ・プラウダのインタビューに応じた。

ロイターより

ショイグ氏といえば、故プリゴジンの「魂の叫び」で一気に知名度を上げた印象が強いが、プーチン氏の右腕として長年重用されてきた人物でもある。

欧州のパワーゲーム

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ワグネルの反乱

プリゴジンの話に触れたので、先に少しだけワグネルの反乱(2023年6月23日)について振り返っておこう。

エフゲニー・プリゴジンはワグネルグループの創始者で、ウクライナ侵略の初期にロシア軍前線を支えた人物でもある。2023年8月23日に暗殺されてしまったが。

彼のよく知られる功績は複数あるが、2014年のウクライナ侵攻の際にも、ドンバス戦争に戦闘員を派遣するためにワグネルグループを設立したことと、2022年のウクライナ侵攻の際に、ワグネルグループから戦闘員を派遣すると共に自らも前線に赴いたこと。ロシアの囚人を前線に送り込んだことなど、ウクライナ侵略の立役者といっても過言ではない人物だ。

しかし、2023年5月頃に、クライナ侵攻でのバフムート攻防戦を巡り、ロシア軍との確執が深刻化。動画を通じてショイグ氏やゲラシモフ氏を公然と非難。前線での弾薬不足を訴えた後、反乱を起こすに至る。

2023年6月23日、プリゴジンは、ロシア国防省指導部への報復を宣言し、ロストフ州への進軍、更にモスクワを目指してロストフ・ナ・ドヌを掌握。翌日、ヴォロネジでの戦いを経て、モスクワ直前まで迫るも、「ロシア人の血が流れることに対する責任を自覚し、われわれは、部隊を方向転換させている」として撤退した。

この辺りの話は以前、触れてはいるが、あまりまとまってはいないな。

プリゴジン・クーデター始まり、そして唐突に終わる
うーん、マジか。ワグネルの創始者プリゴジン氏が、ロシアで武装蜂起した!という速報が。注:記事を書き始めたときには「クーデターが始まる!」と思ったのだけれど、結果を見る限りは未遂で終わった。「反乱」か、或いは単に「乱」くらいが正しいのかもしれ…
プリゴジン氏を巡る騒動
ちょっと、岸田政権ネタは頭が冷えるまで触りたくないので、ロシアネタで行きたいと思う。といっても、大した話ではない。プリゴジン氏に近い将軍拘束か 反乱を事前把握―ロシア報道2023年06月29日08時19分ロシア紙モスクワ・タイムズ(電子版)…

分かりやすいのはこちらだろうか。

そのままの勢いであれば、内戦に至った可能性は高そうだ。だが、そうはならなかった。

沿ドニエストルの成り立ち

ちょっと脱線してしまったが、話を戻そう。

プリゴジンは前線の惨状を背景にモスクワを糾弾した。そして、その作戦の中枢にいたのがショイグ氏とゲラシモフ氏である。杜撰な作戦によって前線兵士を危機に晒した――これがプリゴジンの主張だった。

そのショイグ氏が、今回はまた「あらゆる手段を講じる用意」などと言い出した。

ショイグ氏は、ウクライナと国境を接する同地域に住むロシア国民を守るため、あらゆる手段を講じる用意があると表明。「トランスニストリアには22万人以上のロシア国民が居住していることを忘れてはならない。ウクライナ‌とモ⁠ルドバによる軽率で無責任な行動により、彼らの利益と安全が現在脅かされている」と語った。

「いかなる可能性も排除すべきではなく、われわれは最も起こりそうにないシナリオを含め、⁠あらゆる可能性を検討している」と述べた。

ロイター「モルドバ親ロ地域でロシア人が脅威に直面~」より

要するに、「在外ロシア人の保護」を名目とした圧力であるが、この話の根拠が結構怪しい。

地理と構図

多くの人には、「そもそもモルドバって何処?」ということになるので、地図に示しておく。

地図的にはウクライナとルーマニアに挟まれた国家なんだが、じゃあ、沿ドニエストル(トランスニストリア)って何?というと、ちょっとややこしい地域なのである。

Ukraine east

ウクライナとモルドバの間に挟まった細長い地域が「トランスニストリア」(沿ドニエストル共和国)と表記される地域。共和国を名乗ってはいるが、国際的にはモルドバの一部という整理だ。

トランスニストリア戦争(1992年)を経て勝手に独立を宣言(ロシアが宣言させた)して今に至るのだが。

そして窮乏

モルドバの話と言えば、以前こんな記事を書いている。

モルドバがロシアからのガス供給停止に備えて非常事態宣言
そういえば、未だに非常事態宣言の法制度が整っていない我が国は、モルドバのような動きは難しい。それでも、「必要ない」と叫ぶメディアや識者は多いみたいだね。我が国の話はさておき、本日はモルドバの話をしようと思う。モルドバが16日から60日間の非…

ウクライナにしてもモルドバにしても、ロシアとは対立する立ち位置にあって、この沿ドニエストル地地域には、今も約1,500人規模のロシア軍が駐留している。そして、その関係者を含むロシア系住民が22万人程度いる。

当然、潜在的に沿ドニエストル地域はウクライナとモルドバに対立する。

そうすると、前の記事で示した通り、ロシアからウクライナを経由したモルドバへの天然ガス供給が途絶え、急いで脱ロシア化を進めているモルドバからも供給を受けるのは難しい。

モルドバ、電力・エネルギーで「脱ロシア」 欧州と完全統合目指す

2025年9月25日 2:23

旧ソ連のモルドバはエネルギー調達でロシアとの関係を断ち切る。電力では隣国ルーマニアとつなぐ送電インフラを整備し、2027年半ばまでに欧州市場との完全統合を目指す。天然ガスでも26年にアゼルバイジャンからの調達を始める。エネルギーを「外交の武器」とするロシアによる介入を防ぐ。

日本経済新聞より

そうすると、沿ドニエストル地域にはどこからエネルギー供給するの?という話にはなるんだよね。

ロシア当局者によると、モルドバの沿ドニエストル地域に住むロシア人は脅威にさらされているという

2026年4月22日 午前5時15分

モスクワ、4月21日 – モルドバの分離独立地域である沿ドニエストル地域におけるロシア国民の安全は現在脅威にさらされており、モスクワは彼らを守るためにあらゆる措置を講じるだろう、とロシアの強力な安全保障会議のセルゲイ・ショイグ書記が火曜日に述べたと報じられた。

The STRAITSTIMESより

そういう背景があるので、地政学的にはショイグ氏の訴える問題は存在する可能性はある。しかし現時点の報道などには、その発言の根拠になるような情報は出てはいない。

そうすると、ショイグ氏の口先介入的な話という可能性は高かろうと思う。

実際、この地域に兵を送ろうにも、ロシア陸軍は疲弊しきっていて、空軍を送るには制空権が確保できていないので難しい。何より、ショイグ氏が立案するような作戦が、今更実行されるとも考えにくい。

何がしたいのかと言えば、恐らくは沿ドニエストル地域の大統領選挙が2026年末に予定されており、そこに影響力を与えたいのだろう。

現職のクラスノセリスキーが退く予定なので、ここで「ワシら、やっていけないからモルドバに併合される」という主張の人物が大統領になると、ロシアとしてはもはや取り返しがつかない。

そのため、 「脅威がある」という物語を先に作ることで、親露勢力の正当性を補強する意図が透けて見える。

モルドバも

なお、モルドバもなにやら近年動きが活発らしく、一時期はこんなニュースで世間を騒がした。

ルーマニアと統一に「賛成」 モルドバ大統領、ロシアけん制

2026年01月13日19時33分

旧ソ連構成国モルドバのサンドゥ大統領は13日までに、隣接する欧州連合(EU)加盟国ルーマニアとの統一に関する国民投票が仮に行われれば、賛成票を投じると表明した。両国は共にルーマニア語が公用語。英ジャーナリストとの対談で語った。

時事通信より

モルドバは欧州最貧国と言われ、国民が親欧米と親ロシアで二分している状況で、沿ドニエストル地域を抱え込んではいるが、ロシア軍を排除する余裕はない。

一応、モルドバの方針として沿ドニエストル地域を併合して、支配力が及ぶようにして、経済力を高めたいという狙いはあるようだが、経済的基盤は弱い。

だから、場合によっては親露派にひっくり返される可能性も未だあるのだ。

まとめ

ショイグ氏の発言は、ナゴルノ・カラバフ戦争の話も影響しているのだろう。

ナゴルノ・カラバフ戦争が終結
さて、ロシアの話に触れる前に、もう一つ重要なニュースを取り上げねばならない。ナゴルノカラバフ アルメニア系勢力の“共和国” 組織解体へ2023年9月28日 21時55分アゼルバイジャンが隣国アルメニアとの係争地、ナゴルノカラバフで起こした軍…

ロシアがウクライナ侵攻を始めた煽りを受けて、急激に衛星国への軍事的支配力が低下した。もともと、経済的恩恵を配れなかったこともあって、見切りを付けられ始めていたタイミングでウクライナ侵攻を始めてしまった。プーチン氏の失策ともいえる。

尤も、ロシア自身が追い詰められたからこそ、プーチン氏は豊かなウクライナを手中に収め、経済力の回復を図って偉大なロシア帝国に返り咲きたいという欲望があったのだろう。

実力行使に至る可能性は低いとしても、局地的な緊張の増幅や政治的混乱は十分に起こり得る。

今回のショイグ氏の発言は、その予兆として捉えておくべきだろう。

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