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インドネシア高速鉄道に関わる誤解を招く記事

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インドネシアニュース
この記事は約8分で読めます。

インドネシアの高速鉄道が不振である、という話はこのブログでも触れたことがあるのだが、こういう記事は良くないなぁ。

「インドネシアは日本の新幹線を選ぶべきだった」と言う人が知らない、中国高速鉄道が東南アジアで苦戦する本当の理由

2026年6月2日 11:01

中国・習近平国家主席の「一帯一路」構想もあって建設された東南アジア高速鉄道が、相次ぎ失敗の様相を呈している。中国側も現地政府も、何を間違えたのか?日本が世界に誇る東海道新幹線の凄みを分析しながら、東南アジアの移動需要、そして中国主導で苦戦する本当の理由に迫る。

ダイヤモンドオンラインより

記事を書くに当たって「本当の理由」とか、煽りを付けがちではあるんだけど、それが見当違いだった場合はどうしたらいいんだろうか。

「そういう意見もある」と飲み込むには、少々問題があると思うんだ。

所々に見られる事実誤認

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日本の入札失敗事案

過去にこんな記事を書いている。

インドネシア高速鉄道財務悪化
これも追記で済ませる程度の話なんだけど、まあ、簡単に触れておきたい。インドネシア高速鉄道、開業2年で財務悪化…中国主導の整備が響き「債務は時限爆弾になる」2025/09/29 08:00インドネシアで2023年10月に開業した高速鉄道が、早…

話を整理すると、こんな感じの内容である。

  1. 建設費が大幅に膨張した 当初は約43~55億ドル規模と見積もられていたものの、実際には約73億ドル規模まで膨張。土地収用問題、環境問題、新型コロナ禍などによる工期遅延が重なり、事業収支を圧迫した。
  2. コスト削減のために路線計画を縮小した 当初案ではジャカルタ中心部のガンビル駅まで乗り入れる構想でしたが、実際には東ジャカルタのハリム駅発着となり、路線長も短縮された。
  3. 駅立地が悪く、ドア・ツー・ドア時間が短縮されない リム駅はジャカルタ中心部から離れており、さらに終点のテガルアール駅もバンドン中心部から距離があるので、不便な鉄道になってしまっている
  4. 利用者数・収益が想定に届かない 開業後は利用客は増えているが、運賃が比較的高い、利便性が十分でない、建設費が膨らみ過ぎた、という事情から収益性が悪化
  5. 本来の採算前提だった延伸が止まっている この路線は元々、ジャカルタ-スラバヤまで延伸して初めて本格的な需要が見込める構想だったが、現状ではジャカルタ-バンドン区間のみで止まっている

できるだけ客観的に観測できる事実だけを集めたつもりだが、諸氏はあくまで参考意見だという辺りに留めておいて欲しい。

この話はそもそものスタート時点で、かなり怪しい事案であった。

インドネシアの高速鉄道の計画は、事前に日本が5年の歳月をかけて調査を行い、見積もりを作っている。

ところが、いざ受注という段階になって、突然「入札方式に切り替える」と、支那との競争入札になり、更に途中で「予算に合わないから」といって中速鉄道計画にするという話になり、最終入札ではなぜか高速鉄道計画として入札が行われている。

不透明な入札経緯を辿った印象は強いよね。

「速いだけでは意味がない」のか

とまあ、そういう整理をしているだけに、冒頭のダイヤモンドオンラインの記事には違和感を強く感じた。

こうして59年に着工、64年に開業した東海道新幹線。ところが、当初から人気だったわけではない。開業日10月1日の第1列車「ひかり1号」の乗車率は2等で8割、1等で5割にとどまっていた。なぜか?

当時は特急・超特急は文字通り「特別」な急行列車であり、富裕層が優先的に乗るものという意識が強かったからだ。

これを変えたのが、70年の大阪万博、そして国鉄による「ディスカバー・ジャパン」キャンペーンだ。国内旅行需要が飛躍的に上昇し、東海道新幹線は16両編成という超大編成と高速性能を活かして輸送力向上に大きく貢献。新幹線は広く国民の移動手段として定着した。

ダイヤモンドオンラインより

……先ずここだ。

前提として、東海道新幹線は、東京オリンピック開催に合わせて開通している。そして、開業当時から非常に多数の乗客を乗せている。

第1列車の乗車率が低かったのは事実のようだが、これは切符の一般販売が行われなかったことと、早朝6時00分発で時間が早すぎたこと、何より時速200km以上の速度が出るという不安感があったなどの影響があったからだとされている。

実際には、10日後に開催された東京オリンピックの期間は当然のこと、それを待たずして後発列車から大盛況だった。

また、大阪万博の時には列車の編成数を12両から16両に増やすということも行われている。

したがって、第1列車の乗車率だけを取り上げて「当初から人気だったわけではない」と論じるのは、かなり印象操作的である。その後の大阪万博を需要創出の契機として位置付けるのも歴史的経緯と整合しない。

なので、ここの認識は違うのだろうと思う。

このように、ただ速く移動するためではなく、(1)混雑している区間に新たな路線を設けて供給を改善、(2)さらなる移動需要を生み出す、ことが新幹線をはじめとする高速鉄道の意義といえるだろう。

ダイヤモンドオンラインより

この指摘は間違っていないと思うが、前提としている事案がそもそも違う疑いが強い。

LCCと比較する愚

更に意味が分からないのは次の節である。

もうお分かりだろう、高速・大量・長距離の移動需要を作りあげた交通手段の違いを考えれば、東南アジアの高速鉄道が「失敗」といっても過言ではない理由は明確だ。

LCCに慣れた東南アジア諸国の人々にとって、高速鉄道という新たな選択肢はハードルが高い。よっぽど、市街地の近くから出発できるとか、余計な手続きが不要だとか、車内が快適で魅力ですよ、などと明確な差別化が必要になる。

ダイヤモンドオンラインより

お分かりにならねぇよ!!

そもそも、LCC(ローコストキャリア、格安航空)と高速鉄道は競合する部分こそあるものの、強みが全く異なる交通機関だ。

高速鉄道の強みは、市街地同士を大量かつ定期的に結ぶ点にあり、航空機の代替として評価するだけでは本質を見誤る。

LCCであろうと航空機を使う場合には、どうしても空港が必要であり、ある程度の広さを確保するひつようのある空港は、郊外に作らねばならない。つまり、アクセスにどうしても制約ができるのである。

ところが、鉄道の駅は街中に作ることが可能である。

インドネシア高速鉄道の最大の失敗は、土地収用問題を解決出来なくて郊外に始発駅を作ったことである。

実際に、日本の見積もりでは始発駅はマンガライ駅が有力候補であった。しかし、実際にはハリムに駅が作られた。

こちらの資料は、実際に日本が調査を行った際に、ジャカルタの駅(始発駅)として何処が一番適切かを検討した時の資料の総合評価の表だ。

事前調査の結果から言えば、ドゥクアタス駅案が最も有力。ハリム駅は一番評価が低かったのだが、評価の高かったドゥクアタス駅案は、用地買収の困難さから却下された。

それは仕方がないにしても、最低評価のハリム駅を選んだ辺り、コストを優先して利便性を捨ててしまった側面は否めない。

手荷物検査と仕様

次に、駅舎の手荷物・身体検査の話。

確かに、ダイヤモンドオンラインの記事が指摘するような、手荷物検査方式を選んだのは、インドネシアの治安事情を考えると仕方のない側面はあったかもしれないが……。

中国の高速鉄道は大半の駅が郊外にあり、駅舎に入るには手荷物・身体検査が必要で、出発間際までホームに入れず待合スペースで待機する。中国が建設に関わったラオス、インドネシアもこのスタイルだ。

ダイヤモンドオンラインより

ジャカルターバンドン高速鉄道の営業距離は現時点で142.8kmしかない。その程度の距離で、手荷物検査方式採用というのが、そもそもの間違いといえよう。

そうすると、「日本案だったら成功したかも」というのは短絡的に過ぎる部分はあり、失敗分析は詳細に行う必要があるものの、このダイヤモンドオンラインの記事もかなり雑だと言わざるを得ない。

動力方式に関する指摘

そういう意味では、この辺りの言及も意味不明だ。

少し専門的になるがお伝えしたいのが、日本の新幹線は全ての列車が独立した線路を走行する形式だ。山岳が続くうえに大量の都市間輸送が必要な、日本の国情に特化している。そのため、他国では台湾などごく一部を除き、過剰な設備になりがちだ。

この、「過剰になりがち」問題は新幹線だけでなく、日本の国際協力における問題点のひとつとして指摘されている。「現地化」しないと、結局はうまくいかない。

つまりインドネシア高速鉄道の敗因は、現地の事情を十分に考慮することよりも、中国の高速鉄道に近い乗り方や過剰性能の車両・システムをそのまま移植したことにあるのではないだろうか。

ダイヤモンドオンラインより

インドネシアは山岳地帯を幾つか超えねばならず、「山岳路線(30‰の連続上り勾配など)」が約33kmにわたって存在し、動力方式に関して言えば日本の方が有利という観測もあった。それを一般化して「日本が過剰品質」とするのは、違うのだろうと感じた。

気になって調べたら、支那案もCR400AF型電車をベースにした改良車両なので、動力分散方式を採用していて、新幹線とは同じ方式であった。文脈的に違う方式を採用したのかと思い込んでいたので、お詫びして訂正したい(実際、支那では一部路線で動力集中方式を採用しているので、そちらの方が低コストで導入できる)。

そうすると、動力方式に関しては日本も支那も「現時の事情を十分に考慮」し、「過剰性能の車両・システムをそのまま移植した」という批判は的外れではないか。

「少し専門的」と言いつつ、もうちょっと詳細に検討しては如何だろうか。

中速新幹線?

そして、最後の結びもちょっと意味が分からない。

こうした在来線を改良して時速130km~250km程度の運転を目指す手法は、日本では「中速新幹線」と呼ばれる。現在、北海道の札幌~旭川間などで検討されている。

在来線の改良で済む程度なのでスピードアップには限界がある。しかし繰り返すが、東南アジア諸国は、東京~大阪間のような500km超移動はすでにLCCの牙城だ。ここを切り崩そうと考えるほうが無茶だ。

~~略~~

日本がもし再び、鉄道の輸出に商機を見いだすなら、現地事情に合わせた整備を進めていくことが求められるといえるだろう。

ダイヤモンドオンラインより

この話、実際にインドネシアで検討されて、日本は一度お断りしている。インドネシア政府が白紙撤回したという体をとっているが、この話は日本側もかなり消極的で、実質的なお断り案件であった。

日本が調査、ジャワ島鉄道「準高速化」空しい結末 インドネシア政府が白紙化、中国絡む「民活」へ

2023/08/16 04:30

7月下旬、インドネシア政府は日本が調査を行ってきたジャワ島の在来線鉄道、北幹線のジャカルタ―スラバヤ間のスピードアップを図る「ジャワ北幹線鉄道準高速化事業」について、国家戦略プロジェクトから削除する方針を表明した。

東洋経済より

まあ、高速鉄道計画の入札失敗で日本側が慎重になるのは仕方があるまい。そして、インドネシアとしても高速鉄道の方を活かした方がメリットがあると判断した事案なのだろう。

そういう事実があるのに、「中速鉄道がいい」といわれても説得力はないな。

まとめ

インドネシア高速鉄道「ウーシュ」の問題は、債務超過問題だけではなくて、これに纏わる汚職問題も調査が始まったようで、受注時の不透明感も含めて、これから問題視されていくかもしれない。

だから、インドネシアの鉄道計画がそもそも杜撰だったというまとめであれば「そうなんだろうね」と同意はできるし、支那の典型的な債務の罠の形とはちょっと違うんだという整理もある程度は同意できる。

つまり、ウーシュの話は「日本の新幹線を選ぶべきだった」という単純な話ではない。しかし、「東南アジアでは高速鉄道が根付かないから失敗した」という説明もまた単純化に過ぎるだろう。

コメント

  1. 山童 より:

    今回の記事は中高生に読ませたい。
    報道機関がどのように読者・視聴者を誘導しようとするか。

    それを見破るにはどのように嘘を切り崩してゆくか?。

    その妥当な部分がどこで、

    歪曲された部位は、どのように歪めているのか?

    というメディア報道に「騙されない読み方」の良きテキストなってます!!

    素晴らしきは、木霊様は相手を全否定しないこと。

    相手の主張に対して、その意見全てを
    唾棄するような書き方はしない。
    ここ大事な事ですが、なかなかプロの執筆者にも(木霊様もプロだけど)なかなか出来ない人が多い。

    そして、その指摘の稚拙さが、見当違いな方向に飛び火して、本来の検討すべき事がなおざりにされる。
     そして事案は形骸化する!

    これは木霊様の御人柄ゆえのものとなるけるど、もう一つ。

    普通、この手の文章は、
    「重箱の隅をつつく」感じがするが、
    本記事にはそれが欠片もない!

    これは相手や、その意見の背景にある意思を、悪意あるものでない限りにおいて「尊重する」という木霊様のフェア意識によるものか大きい!!

    実は人は感情で生きていて、それかなかなか難しいのですね。

    あ、鉄道の事も書かなきゃ!
    地図みたけど、そりゃダメだわ!
    都心から離れた30年前は半ば農村だった地域やん!
    大量の人を都心にアクセスさせる。
    それによって郊外にベッドタウンを造成して、都市の過集中を避ける。
    これ戦後の日本の私鉄が実現させてきた事で終着駅が郊外じゃ、
    意味をなさない!
    ちなみに新幹線の停車する駅なのに、
    寂れてしまってる駅はけっこうあり、
    それは当確地域の人工密集地や、実質的な繁華街から駅が離れてるから。
    たった数百メートルの差で、新幹線停車駅が寂れて荒廃する。
    その例に似てますな。

  2. 匿名 より:

    ダイヤモンドオンラインの専門系の記事は、大概素人相手にろくに調べもせずに書いたコタツ記事が多いですよね。
    自分も自動車系の専門で働いて居ますが、諸々間違えている事が多いので呆れますね…。
    鉄道に関しても、詳しくない一般人を騙す為の記事、ですねこれ…。このレベルで良いなら自分も書けちゃうのでは?と勘違いしてしまいます。