トランプ氏の「放言」は留まることを知らないが、しかしNATO脱退の話は前から言っていたことではあるんだよね。だから、アメリカのNATO脱退というのは然程新鮮な話ではない。
対ウクライナ支援、削減も NATO脱退可能性、否定せず―トランプ氏
2024年12月09日06時53分配信
トランプ次期米大統領は8日公開されたNBCテレビのインタビューで、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの支援について、削減する意向を示した。また、来年1月20日の大統領就任前に戦争を終わらせたいとの従来の主張を繰り返した。
時事通信より
アメリカのNATO脱退は、事実上のEUにおける安全保障体制の崩壊を意味するわけで、アメリカとしても痛し痒しという部分はある。
安全保障体制の再構築
役割を終えた?NATO
北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty Organization : NATO)が設立されたのは1949年4月4日のこと。
アメリカが参加しての集団安全保障体制は、ソビエト連邦の脅威に対抗する為に構築されており、基本的には東西冷戦の時代に西側の結束力を高める意図で作られている。
そういう意味では、ソ連は崩壊し東西冷戦も終結した今となってはNATOの在り方を見直すという時期に来ていると言って良いだろう。
そして、トランプ氏の主張はこうだ。
第1次政権で脱退を検討したとされる北大西洋条約機構(NATO)に関し、残留するかを問われると「彼ら(欧州の同盟国)は自分たちの(軍事支出の)請求書を支払わなければならない。彼らが払うのなら、もちろん(残る)」と述べた。脱退の可能性を否定せず、欧州に軍事支出の増加を求めた格好だ。
時事通信「対ウクライナ支援、削減も」より
トランプ氏にとっては、EU諸国がアメリカの軍事をあてにして自国の軍事費を削りに削っているという点が気に入らない。イギリス辺りはまだ防衛費を注ぎ込んでそれなりの軍隊を維持しているが、ドイツなどはもうグダグダである。
NATOの前提は「相互安全保障」であるはずなのに、ウクライナでの戦争で明らかになったのは、それぞれの国のエゴ剥き出しでヨーロッパで足並みを揃えることすら難しいという状況であった。
トランプ氏が異を唱えるのも無理のない話であると思う。
世界の警察
この話の発端は、実のところトランプ氏ではなくて、オバマ氏であったと思う。
オバマ氏「米国は世界の警察官でない」 紛争抑止に軸足
2024年8月22日 5:48
オバマ元米大統領は20日、地元である中西部イリノイ州シカゴで開催中の民主党全国大会で演説し「我々は世界の警察官であるべきではない」と表明した。 紛争の抑止や平和の仲介などを通じて「善のための力になることはできる」と述べた。
2013年当時に米国の大統領だったオバマ氏は「米国は世界の警察官ではない」と語った。
日本経済新聞より
長らく「世界の警察」を自認してきたアメリカだが、世界のあちらこちらの紛争に首を突っ込み過ぎて、巨額の軍事費を積み上げる状況になった。
しかし、その結果、世界のあちらこちらで生じる戦争が止められたかというと、そうではなかった。どこの地域でも泥沼の戦いが繰り広げられただけである。
一方で、近年、アメリカによる影響力が低下した事によって何が起こったのかと言えば、ロシアの台頭である。
ロシアの「アフリカ部隊」 ――ワグネル後の新たな展開と課題
2023年6月の民間軍事会社ワグネルによるモスクワ郊外での反乱からおよそ一年後の2024年7月28日、マリ北部でワグネルの残党50名以上が反政府組織の襲撃を受け死亡した[1]。ワグネルは創立者プリゴジンの指揮下でシリア・ウクライナからアフリカへ版図を広げ、軍事支援から情報操作、選挙介入、鉱石採掘、そして飲食産業までと多岐に活動を展開してきた[2]。このハイブリッド戦の代表的な存在は、プリゴジン亡き後アフリカでどのように変革してきたのか。そしてそれは今後のアフリカの情勢にどのような影響を及ぼしていくのか。本稿は2023年後半以降の情報をもとにロシアのアフリカ介入の今後を読み解く。
笹川平和財団のサイトより
アメリカの失敗は、各国への民主主義の押しつけであった。「郷に入れば郷に従え」という格言のある日本とは違って、「民主主義は素晴らしい」「民主主義になれば平和になる」とばかりに各国政府に働きかけた。
それは、社会主義に蝕まれた国々を憂慮したという側面があったとは思うが、やり過ぎてしまって受け入れられない国も結構な数に上っている。中東やアフリカなども、「ありがた迷惑」だと思っている節がある。
「アラブの春」の失敗
その象徴的な話が、アラブの春(2010年~2012年)である。チュニジアで始まった「ジャスミン革命」(2010年12月18日~)は、アラブ諸国にあっという間に波及するのだが、この民主化運動の後押しをしたのが西欧諸国である。
そして、中東各国で民主化を叫ぶ反政府勢力が跋扈するようになり、国家の不安定化が加速した。
その結果、アラブの冬と呼ばれる、権威主義体制や絶対君主制への回帰、内戦状態への突入、イスラーム過激派の活動を活発化などを招くことになる。
こうしたアラブの春からアラブの冬という流れになったことについて、西欧諸国の干渉があったがために、体制側も反体制側も、「アイツらが悪い」と一斉に批判するようになった。
ここに付け込んだのがロシアであり、支那である。
スーダンや中央アフリカ、マリなどでワグネルと共に進出していた鉱石採掘などのプリゴジン関連会社とその利権はアフリカ部隊の資金源として国防省の管轄下に入ったようである[5]。しかし実際にアフリカ部隊の活動を統括することになったのは国防省ではなく、GRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)で、特に海外潜入や暗殺などの機密工作を行うアンドレイ・アヴェリャノフ少将の「29155部隊」の指揮下に入ったと考えられている[6]。さらに非軍事作戦、すなわちプロパガンダなど情報操作活動はFSB(ロシア連邦保安庁)、そして親ロシア世論を誘導するための文化戦略はSVR(ロシア対外情報庁)が担当するという三分割体制になっているようだ[7]。他にプリゴジンが関わっていた不動産、ケータリング、投資ビジネスなどの企業資産はロシア国内の競争者によって既に搾取されたと言われている。
笹川平和財団のサイトより
とはいえ、ここにある様にどちらかというとロシアの政府からの指示というよりは、別働隊の民間軍事組織として結成されたワグネルのような組織が、勝手に暗躍していた実態があって、金さえ支払えば何でもやるような組織があちらこちらに顔利きをしていたというような話でもある。
支那の方は人民解放軍の別働隊が動いていたらしいのだけれど、似たような事をやっていた可能性は高い。
中国、アフリカで軍事拠点拡大 米国とせめぎ合い激化
2021/12/22 06:00
「世界最大」の海軍を持つ中国が、世界全域に人民解放軍の軍事拠点を拡大しようとしている-。少なくとも米政府はそうした脅威を感じており、米中のせめぎ合いが激化しつつある。新冷戦の一断面だ。
目下、中国の主要ターゲットはアフリカである。
米国防総省が11月に発表した中国の軍事動向に関する年次報告書はケニア、セーシェル、タンザニア、アンゴラのアフリカ諸国4カ国を含む13カ国を名指しして、中国が「人民解放軍基地や兵站施設」の開設を検討していると指摘した。またナミビアについては、すでに中国がそうした計画を打診していると推測した。これらの国々は大半が中国と良好な関係を築いている発展途上国で、巨大経済圏構想「一帯一路」の沿線や要衝に位置する。
産経新聞より
結果論ではあるが、支那の一帯一路戦略に組み込まれた、勢力拡大がアフリカへの大きな資金援助に繋がった。
つまり、西欧諸国にやり方の拙さが、ロシアや支那の勢力拡大に繋がった可能性は否定できない。
西欧諸国は善意だけでなく、自らの権益拡大を目指したところが反感を買ったという側面もある。何しろ、アフリカはかつてヨーロッパ諸国の植民地であった時代があったのだ。当然、「またアイツらは」という感情を引き起こすことにも繋がるのである。
豪腕トランプ氏の大鉈が振るわれる
NATOは、悪しき馴れ合いが残ってる。トランプ氏はそこが気に入らないのだ。
トランプ氏は、ロシアのウクライナ侵攻を「(就任前に)できることなら終わらせたいと思っている」と強調。対ウクライナ支援を削減するかを問われ、「恐らく」と答えた。
インタビューは6日にニューヨークで行われた。トランプ氏は翌日にフランス・パリを訪問し、ウクライナのゼレンスキー大統領らと会談した。
時事通信「対ウクライナ支援、削減も」より
トランプ氏は、アメリカの利益になることには頑張る積もりであるようだが、無駄に金を垂れ流すことを嫌っている。だから、ウクライナの戦争も妥当なところで打ち切るという姿勢が滲み出ているのである。
合理的ではあるが、ウクライナが何処で妥協できるか?が、ポイントになるのだと思う。
また、トランプ氏は、NATO=北大西洋条約機構に加盟し続けるか問われたのに対し「各国がきちんと支払いをして、われわれを公平に扱っていると思えればとどまる」と述べて、加盟国が十分な軍事費を負担していることが前提になるという認識を示しました。
NHKニュー「トランプ次期大統領 ウクライナ支援縮小に言及 “早期終戦を”」より
同じような話で、NATOに関してもアメリカばかりが損をする体制になっていては困るというのがトランプ氏の考えで、ヨーロッパ諸国はもっと防衛費を負担しろ、という事を以前から言っている。実際に、「GDP比2%以上にしろ」というのがトランプ氏の主張ではあるのだが、これは数字がそこに届くという意味よりも、アメリカ経済に貢献しろという意味に捉えるべきだろう。
トランプ氏は良くも悪くもビジネスマンなのだから。
そうすると、ヨーロッパ諸国としてもしっかりと団結して防衛体制を構築し、自分の身は自分で守る位のことが出来る状況にしていくべきという話になっていくはずだ。日本だってヒトゴトではない。
それが出来ないのであれば、NATO体制は崩壊するだろう。プーチン氏もニッコリだな。
最後に、やや蛇足気味になるが、トランプ氏とゼレンシキー氏の会談を実現したのは、フランスのマクロン氏の尽力あってのことである。「風見鶏」とこのブログで揶揄するマクロン氏ではあるが、これに関してはGJと言わざるを得ない。八方美人は時には役に立つこともあるんだね。
コメント
トランプ氏は大統領選の支持者集会で「1/20までにウクライナ戦争を終わらせる」と明言していました。すでにそのつもりで動いているようです。
噂では、次期副大統領ヴァンス氏が提言する「ウクライナ被占領地の“放棄”」が終戦交渉の最有力案らしいです。トランプ氏の有力な後継者といわれるヴァンス氏に得点させる意向もあるかもしれませんね。それだけにウクライナは、交渉妥結までクルスク州で粘る必要がありそうですし、逆にロシアは北朝鮮軍を肉盾にして早期に奪回したいでしょう。
先にトランプ氏が、GDP2%国防費を実行しなければNATOを脱退すると発言したとき、NATO主要諸国は即座に反応しました。あのときは笑っちゃいましたが、おそらく今度もNATOを締めつけながら、ウクライナ戦争終結のためNATOに協力させるつもりなんでしょう。
トランプ氏、有言実行の実績がありますから怖いですよね。
そして「何を言うか分からない」「言ったことは大抵実行する」というのは、外交カードとしてもかなり有効に機能しているのが面白い。
さて、本当にトランプ氏はウクライナ戦争の片付けをすることができるんでしょうかね。可能性は低くないと思います。
こんにちは。
・「金にならないからNATOから米軍が引く」話は、本邦にも無関係とは……本邦は米製兵器であふれてますが、GCAPなど欧州その他と手を組む事もこれから増えるでしょうから。まあ、「思いやり予算」があるウチは大丈夫かもですが。
・それにつけても、世界はトランプ氏中心に激動の気配を見せているというのに、本邦の「だらし内閣」ときたら……「週刊弾劾臨時国会」よりはマシですが、四次元殺法コンビ曰く。
「良い子の諸君!
上を見るのは大いに結構だがキリが無いぞ!
かといって下を見ると今度はアトが無いぞ! 」
こんにちは。
そうはいっても、トランプ氏、かつて日本に対して「もっと費用負担をしろ」「もっと兵器を買え」と迫ってきた実績があります。
当時はトップが安倍氏でしたから、上手いこと切り返したのですけれども、石破氏は怒りを買うだけのような。