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支那は安値販売のEVを取り締まる方針

中華人民共和国ニュース
この記事は約12分で読めます。

この話、ちょっと面白いのでもう少し掘ってみよう。

中古車うたった安値販売廃止すべきと中国国営紙、当局の監督強化訴え

2025年6月10日午後 5:39

中国共産党の機関紙、人民日報は、在庫処分のために新車を中古車として大幅値引きして販売する商慣行を廃止すべきだと指摘し、関係当局に監督強化などの対応を求めた。

ロイターより

昨日触れたニュースではあるんだけど、何か面白い話が出ている。

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政策失敗の犠牲

市場が飽和

先ずは、こちらの記事を。

ここでは「走行距離ゼロ」の「中古車」が出回っているニュースに触れて、その理屈を、販売代理店がメーカーからの値下げ攻勢に苦慮して破綻したことなどに触れ、「早く売らないとEVの二次電池が劣化するから」という理由付けをしたわけだ。

ただ、その理屈は、よく考えたらメーカーが「売れないからストックヤードに積み上げる」のを嫌がったケースであれば説明になるのだが、販売代理店はそんな話にならないなと思い返した。

ちょっと考えが浅かったことを、お詫びしたい。前々からヒントはでていたのに、考慮しなかったのがそもそも、ダメなのだ。

恐らくこのカラクリには、こういった話があるのだと思う。

中国、乗用車買い替えの補助金制度更新-ハイブリッド車やEV対象

2025年1月8日 15:11 JST

中国は、電気自動車(EV)やハイブリッド車など燃費効率の高い車の販売下支えに向け、車の買い替えに最高2万元(約43万円)の補助金を支給する制度を更新した。

Bloombergより

この記事で説明する補助金制度は、車両を購入した者に対して出されるもので、この補助金制度に影響を受けたのが日本の自動車メーカーであったようだ。複数のメーカーが支那に生産工場を作ってEVを販売しようとしているが、これが売れない。

その結果、ニッサンやホンダなどはかなり赤字を出したようだね。もちろんニッサンやホンダの不振はそれだけじゃないけれども。

補助金と過剰生産

支那のEV市場は「巨大なマーケットだ」という認識で、各メーカーが鎬を削っていたけれども、支那の市場の特徴として、「これはイケる」となると、猫も杓子も参入する結果になる。

中国EVの過剰生産問題とテスラの中国戦略

2024年05月08日

中国では自動車の生産過剰状態が続く一方、中国政府が巨額の補助金を通じて安い価格で自動車を海外にダンピング輸出をしている、との批判を欧米諸国は急速に強めている。

上海のコンサルティング会社オートモビリティと中国乗用車協会(CPCA)によると、中国には現在、年間4,000万台を生産する能力があるが、国内での販売台数はその半分の2,200万台前後にとどまっているという。そして、中国の自動車輸出はわずか3年の間に5倍近くに増え、2023年には約500万台に達している。

未来創発ラボのサイトより

支那の指導部が積極的にEVの開発を支援したこともあるのだが、補助金を注ぎ込んだ手厚い体制を構築した結果、生産過剰に陥った。

米国のシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)は、中国政府はEVやPHVなどを含む新エネルギー車産業を支援するために2009~22年に総額約1,730億ドルの補助金を支出したと試算している。

未来創発ラボのサイトより

この補助金に群がったメーカーは、今や非常に苦労させられることになっている。そして、そんなことはもう数年前から分かっていた話でもある。このままEV生産量が伸びれば、支那国内での販売は頭打ちになる。

img

何しろ、2023年までに新車販売に占めるEV(PHEVを含む)の割合は全体の38%に上っていて、2024年には40.9%に達したとされている。2025年には5割弱になるのではないかと予想されている。

この規模は、世界で販売されるEVの3分の2を占めると言われていて、EV先進国といって差し支えないだろう。

ただし、EVの販売戦略的には、「ガソリン車に取って代わる!」というところから、EVが敵だという格好になってしまって、EVであれば売れる時代は終わってしまった。

数字のマジック

しかし、こういった問題が発覚する前は、支那国内では「作れば作っただけ売れる」という状況を示していた。

車種生産台数(前年比)販売台数(前年比)
BEV約94.3万台(+29.7%)約90.8万台(+29.3%)
PHV約62.3万台(+79.7%)約60.4万台(+86.8%)

生産台数に対して販売台数はバランスしていて、2024年時点においても非常に良い市場であるという印象を与えていた。

自動車販売台数速報 中国 2024年 - 自動車産業ポータル マークラインズ
2024年の中国新車販売は前年比4.5%増の3,143.6万台。中国汽車工業協会(CAAM)は1月13日、2024年12月および2024年通年の中国の自動車生産・販売(輸出を含む工場出荷台数、以下同じ)データを発表した。CAAMの分析による...

この辺りの分析もそのような数字を示していた。

だが、蓋を開けてみたら、過剰生産で安値攻勢になり、走行距離ゼロの車が中古車市場に出回ることになっていたのである。

そうすると、この話は支那の政策の失敗ということが大きく絡んでくるのだと解く方が分かり易い。

つまり、EV推進のために補助金制度として中央からも地方からも1台あたり100万円程度の補助金がそれぞれ出ており、それは特定の技術レベルをクリアしたものに対してメーカーに出されるという類いの補助金であった。

完成車をナンバー登録まで行えば補助金が支給されるため、補助金目当てでナンバー登録までやってしまい、そこからナンバー付き在庫として市場に出回ると言うような事態を引き起こす。

で、こんな感じで作るだけ作って放置される事案が散見されることになる。

しかしこうしたニュースは出ていても、一部のメーカーの失敗であって支那の新車市場は旺盛であって、ガンガン自動車が作られガンガン売られているという数字が作られたわけだ。

しかし、こういった状況は2019年頃から見られる構図で、「新しいEVがどんどん出るから」という説明がなされていたが、実態は違ったわけだ。

まるでEVの墓場、中国都市部に大量の廃棄車両-急成長の負の遺産
中国浙江省の省都、杭州の郊外にある古びた小さな寺院からは、膨大な数の電気自動車(EV)が雑草やゴミの中に放置されている光景が一面に見渡せる。それはまるでEVの墓場のようだ。

そして、それは世界的有名メーカーとなったBYDも例外じゃなかったというのが、冒頭のニュースに象徴される最近の一連のニュースなのだ。

問題は、ガンガン補助金を入れてEV販売を促進しながら、実は「そんな美味い話はなかった」ということなんだろうと思う。

ただ、メーカーとしても補助金は欲しいし、投資して貰うために「良い印象を作る必要」があった。「BYDなら大丈夫だろう」という企業イメージが必要であり、国家戦略の成功イメージが必要だった。

もはや回復不能なダメージ

そんなわけで、「EVの値下げ競争やっている、大変だね」というレベルの話ではなくて、もう「蟲毒」の世界に突入している可能性は高い。

商務省は見解を発表していないが、人民日報は、販売実績かさ上げに向けた「偽装された価格引き下げ」を自動車業界「退化」の顕著な例と非難し、「厳しい規制措置」で市場秩序を回復すべきと主張した。

ロイター「中古車うたった安値販売廃止すべき」より

しかし、「厳しい規制措置」をしたところで壊れた市場に何かしたところで、根本的な解決にならないのである。

製造工場の製造能力を落とすわけにも行かないし、補助金を貰って更に進化しないことにはEVが売れない。

「何かに似ている」とは思わないだろうか?

そう、ここで規制を厳しくするとどうなるかというと、不動産開発の失敗と同じ結果になるのである。二次電池とEV、そして自動運転までが一繋ぎになって続いているけれども、もはやその根元は腐っている。

人民日報は、中古車とうたった安値販売の弊害を列挙。「メーカーにとっては短期的に在庫圧縮につながるものの、利益率を下げ、損失を増やし、製品の品質や技術革新への投資を妨げる」とし、「消費者は、価格面ではお得に見えても、初回購入者特典の喪失、バッテリーの劣化の可能性、転売時の大幅な価値低下などのリスクを抱えることになる」と指摘した。

電気自動車(EV)メーカーについては「データ崇拝」や販売台数競争から脱却し、品質と技術革新に注力する必要があると指摘した。特定の自動車メーカーの名前は挙げていない。

ロイター「中古車うたった安値販売廃止すべき」より

もう、どうしようもなくなって、ウクライナ戦線に輸出されるのではないか?という懸念すらあるんだよね、この話。

前線でバイクを使うくらいなら、放置されているEV使った方がマシまである。え?電力が足りない?その辺りは化石燃料燃やして賄ったら?

……冗談だけれども。

ただ、これに巻き込まれる日本車メーカーはたまったものではないと思う。ニッサンは戦略を大きく誤ったけれども、ホンダもかなり危ないよ。

日本市場を狙う理由

しかしそうやって考えてみると、以前に書いた記事はかなり危うい点を含む気がする。

BYDが何故、日本の軽自動車市場を狙っているのか?といえば、おそらくはもはや支那において価格競争をやって高値でEVを売る戦略が破綻しているからであり、一方で日本のEV市場がかなり低調で軽自動車の売り上げはそこそこ好調だという状況。序でに、普通車市場では戦っていける目処がたたないという状況だからなのだと思う。

日本に販売する軽自動車に対して支那が補助金を出すのかは不明だが、とにかく売りたいということで安値で勝負すれば売れる可能性は高い。それが利益に繋がるかは良く分からないが……。

追記

コメント頂いて、表現が良くなかったなーという部分があったので少し説明を。

拡大が見込まれる車載電池リサイクル市場、中国企業が相次いで参入

2024年12月20日

中国ではここ数年、新エネルギー車(NEV、注1)シフトの加速に伴い、NEV保有台数が急増している。中国公安部交通管理局によると、中国におけるNEVの保有台数は2018年末の261万台から、2023年末には7.8倍の2,041万台へと大幅に増加した。2024年に入ってからさらに加速し、NEVの保有台数は6月末に2,472万台となり、自動車保有台数全体の7.2%を占めた(図参照)。電気のみを使って走るBEVの保有台数は1,813万台でNEVの73.4%を占めた。

NEVの生産に必要不可欠な部品である車載電池は、劣化する消耗品であるため、使用推奨期限が定められている。中国では2016年から、乗用車向け車載電池の品質保証は新車登録日から8年間、もしくは走行距離が12万キロまでという基準を設けている。

JETROより

ここで記載されている車載電池の品質保証は新車登録日から8年、もしくは走行距離が12万キロということになっている。

これ、EVの補助金を手に入れるために新車登録したナンバー付き在庫が出回るという話と関連してくる。なにしろ、新車で買ったにもかかわらず新車登録は既にされているのだから、タイムラグが長くなれば長くなるほど損をした気になる。つまり、在庫で抱える期間が長い方が色々と都合の悪いことが増えてしまう。

EVの性能の大半は二次電池に寄与するので、その品質保証の期間というのはかなり重要な指標なんだよね。

「二次電池が劣化するから」とお野菜の鮮度が悪くなるから早く売りたいという印象の表現を使ってしまったことは、お詫びしておきたい。が、早く売りたい事情があるというのは事実なのである。だからこそ、中古車にしてしまった方が分かり易く都合が良いのだ。

追記2

これ、新しい記事にしようと思ったけど、結経、BYDをくさすような話になるなら、追記で良いかと。

自虐が過ぎる……。

民間企業の活力が示す中国経済の潜在力

2025年6月11日 12:00

習近平総書記が2月17日、民間企業座談会に出席し、重要な講和を行った。講話の中で「新時代の新しい道程において民間経済の発展の前途は洋々と広がり、大いに期待できる」と述べ「広範な民間企業と民間企業家が活躍する絶好の機会が到来した」と強調した。

AFPより

何かの間違いかと思ったのだが、記事は本日のAFPなんだけど、習近平氏が座談会に参加したのは2月17日のこと。

それにしても、よくもまあこんなことを言えたものである。

中国経済が質の高い発展の段階に突入する中、民間企業は科学技術イノベーション、グリーン発展、デジタル経済などの分野で、さらに大きな役割を果たすことになるだろう。

オーストラリアのビジネス専門誌「オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー(AFR)」のウェブサイトは「中国には情熱あふれるリスク投資家と賢明な若手経営者が絶えない。中国の経済改革の初期に持っていた楽観的な雰囲気や高揚感や活気が今でも普遍的に存在している」と指摘した。

中国の民間企業は改革開放の偉大な歴史と共に発展してきた。開放的で包容的な土壌が、民間企業の開放的で協力的な特性を育んだ。中国の民間企業は積極的に海外に進出し、海外企業との協力関係を拡大している。

人工知能から越境Eコマース、ハイエンド製造業からクリーンエネルギーまで、世界中の消費者に、より多くの選択肢を提供し、グローバル化の過程で常に国際競争力を高め、より大きな成長空間を獲得し、世界的なサプライチェーンとバリューチェーンにおける地位を向上させ続けている。

国際経済のアナリストたちは、中国の次世代の民間企業家を「生まれながらのグローバル企業家」と評している。その民間企業家たちは、中国国内市場の巨大なスケールを利用して早期に「規模の経済」を掌握し、その後に海外に進出し、そして国際市場にもまた迅速に参入できていると指摘する。

AFPより

将来性があるから投資してくれってことみたいだけれど、説得力がない。

中国への直接投資、過去最大の流出超-貿易戦争でさらに悪化の可能性

2025年2月15日 3:28 JST

中国への直接投資は2024年に過去最大の流出超となった。米国との貿易戦争が再開されたことで、資金流出は今後も続く可能性がある。

国家外為管理局(SAFE)が公表した昨年の対中直接投資(FDI)は1680億ドル(約25兆6000億円)の流出超。1990年にさかのぼる同データで最大となった。対中直接投資は21年には過去最大の3440億ドルを記録したが、ここ数年落ち込んでいる。

海外企業が資金を引き揚げる一方、中国企業は急激なペースで資金を海外に移している。中国勢の海外投資額は1730億ドルに上ったが、海外からの対中投資額は45億ドルと1992年以来の低水準にとどまった。

Bloombergより

だって、2月15日にはこんな数字が公表されて、支那への投資が低調であるというのが対外的に明らかになっている。

そりゃ、トランプ氏のあの大立ち回りが影響していたから覿面なんだろうけど、ここで「民間企業、頼むよ」といっても説得力がない。にもかかわらず、「最大の成長エンジンだ」等という意味不明な発言があったとか。

それで?安値のEV取り締まってEVが値上がりしたら、庶民が買えなくなって売り上げが落ちましたってなるのでは。

コメント

  1. 七面鳥 より:

    こんにちは。

    >早く売らないとEVの二次電池が劣化する

    ……そんな生鮮食品みたいな電池を売られても……

    • 木霊 木霊 より:

      こんにちは。

      いや、二次電池の「劣化」はあくまで僕の憶測寄りですから。
      ただ、制度的に劣化のリスクがあるという話は……、ちょっと追記で書いておきます。

      • 七面鳥 より:

        帳簿の上では、不良在庫は損失ですから、そりゃ早く売っちゃいたいですよね。
        赤字積み上げるよりは、安値で叩き売った方が傷が小さいなら。
        そういう事なんでしょうけれど。

        それとは別に、中華パチモンバッテリーが速く劣化したり、初期性能が全然出てなかったりするのは、カメラその他で互換バッテリ買う貧乏人(私だ)あるあるでもあります(笑)

        • 木霊 木霊 より:

          パチモンバッテリーは、予備として持っておくには便利ですから(いいわけ)。
          初期性能が出ないのもあるあるですね……。