偶にはちょっと毛色の違う記事にも触れておくか。
本日取り上げたのは、米軍の海上ドローンの計画について。自動車の自動運転だってそう簡単ではないので、自由度の高い海上はさらに難しいよね。
米軍の海上ドローン計画、試験中に事故相次ぐ 中国念頭に開発
2025年8月21日午前 9:46
米海軍が開発を進める自律型海上ドローン(無人艇)が困難に直面している。カリフォルニア沖で先月行った航行テストで1隻が別の無人艇に衝突・沈没していたことが、ロイターが入手した動画で分かった。
ロイターより
「ウクライナ辺りは既に攻撃に使っているじゃないか!」と指摘される方もいると思うし、記事にも少し触れられているが、全くステージが違う話なのだ。
だから、ウクライナの方が優れているのかというと、ソレもちょっと違うと思う。
省人化が優先課題
自動化するのには多数の課題がある
海上ドローンの難しさ、というのは船を操船した経験のある方だと分かるのだろうか?
事情に詳しい関係者によると、どちらの事故もソフトウエアの不具合と人為的ミスに起因しているという。
ロイター「米軍の海上ドローン計画~」より
ロイターはこんな感じの説明しかしていないね。
分かる範囲で少し整理しよう。
海象条件は過酷
- 海は風・波・潮流の変動が激しく、センサーや航行制御にとっては「常に揺さぶられる不安定環境」。
- 波や反射でセンサーが誤認識しやすい。
通信の制約
- リモートで操船する場合には、波による電波反射などの悪影響に加え、水平線を越える通信は、衛星通信に頼るしかない。
- ジャミング(電波妨害)やハッキングのリスクも高く、有人艦のように即応的な判断を下せない。
自律航行が難しい
- センサー誤作動が起きやすい環境なので、障害物認識が難しい。
- 小型で軽量のドローンは、荒天で転覆し易い。
- 民間船との衝突回避(COLREGS: 国際海上衝突予防規則)を守るためのAI判断も複雑。
大雑把に言うと、「自律航行」「通信」「耐環境性」の3点が課題となっている。
基本的に、外洋に出るために耐波性を要求される船舶は大きさや重さが要求されることになり、ウクライナが使っているような内海の沿岸に特化したようなドローンとは要求される性能が違うのだ。
外洋に出れば3~5m程度の波は割と珍しくなく、荒天時には10mを超える波が来ることもある。米軍が要求しているスペックはかなり無理があるんだよね。
自立型艦隊の構築
ここで、アメリカ軍の構想について言及しておこう。
一方、米国は人間の指揮なしで集団で移動できる自律型艦隊の構築を目指している。1隻当たり数百万ドルと高額で、より野心的な取り組みと言える。
ロイター「米軍の海上ドローン計画~」より
……アメリカの考えることは壮大だな。「できることからやろう」という発想ではなく、「偉大なアメリカは全てを可能にする!」とか、意味の分からない発想なんだろうなぁ。
ただまあ、アメリカのこの自律型艦隊の構築というのは、今日明日に成功すべきだとかそういう話でもない。
アメリカ海軍の“無人艦”横須賀に現る! その名も「幽霊艦隊」 一体どう戦うのか
2023.09.27
2023年9月21日(木)、神奈川県にあるアメリカ海軍横須賀基地にて、1隻の艦艇が報道陣に向けて公開されました。一見するとただの小型船に見えますが、実はこれこそが、現在アメリカ海軍において試験が進められている、最新鋭の無人水上艦(USV)「レンジャー」です。
乗り物ニュースより
こちらの記事は別の計画に基づくものなのだが、基本方針は無人の随伴艦を作ろうということのようだ。
この計画がもうちょっと整理できれば、アーセナル・シップというのも視野に入れられる可能性はあるね。
米軍高官らは、ウクライナ戦争における海上ドローンの影響力の大きさを踏まえ、中国による台湾侵攻の可能性を阻止するには、自律型の空中・海上ドローン群が必要だと繰り返し強調している。台湾も独自の海上ドローン隊の整備を始めている。
ロイター「米軍の海上ドローン計画~」より
まあ、現実はそんなに簡単ではないんだけれども。
現実的には、機雷を率いて航行する感じの構想に落ち着きそうな気もするけど、自立航行というのは案外難しそうなんだよね。
追記
コメントをいただいて少し反省。
複数の計画があって、それを同列にしてはわかりにくいし、僕自身もよくわかっていない部分もあったので、一度整理してみることにした。
カテゴリー | 装置名・構想 | 主な用途・特徴 |
---|---|---|
無人水上艇(USV) | Sea Hunter | 長距離自律航行、潜水艦追尾用 |
Sea Hawk / Mariner / Ranger | 実証実験・中型無人ボート | |
Fleet-class USV | 小型・汎用輸送/曳航艇 | |
MASC | コンテナ式ミサイル搭載可能なUSV | |
MUSV/LUSV統合 | 中大型USVの統合開発 | |
無人水中艇(UUV) | Orca | 超大型ミッションUUV |
Manta Ray, Ghost Shark等 | 高ステルス・長耐久UUV | |
Knifefish | 掃海用小型UUV | |
REMUSシリーズ | 多用途中・小型UUV |
アメリカ軍が計画しているものはこんな感じに整理されるようだ。
冒頭のロイターの記事にあるのは、どうやら「Sea Hawk / Mariner / Ranger」のカテゴリーに含まれる中型無人ボートのようだ。
一方、乗り物ニュースにある「幽霊艦隊」は、「MUSV/LUSV統合」と整理される計画に含まれるもののようで。
つまり複数の水上ドローン計画が並走している状況。アメリカ軍はざっくり省人化を目指して色々やっているみたいなんだけど、本文でのまとめはどちらかというと小型な水上ドローンに特にあてはまる話。大型の話はまたちょっと話が違ってくる可能性はある。
コメント
ドイツの軍事AIスタートアップHelsingがSAABと共同でグリペンE戦闘機にAIパイロット「Centaur」を搭載し試験飛行
ドイツでヘルシング うっ、頭が
SR-71を空母にぶっ刺すのですね、分かります(違
横合いから失礼しました。
※AIパイロットが『セントール(チェンタウロ/ケンタウロス)』って……
ヘルシングはいいぞぉ(謎
とまあ、冗談はさておき、SAABと共同でAIパイロットをねぇ。
ちょっと期待しちゃいますね。名前が「少佐」だったら嫌だなと、思いつつ。
こめんなさい。米軍の目指しているモノが良くワカラなくて話の全貌がよくわかりませんm(..)m
ウクライナが戦果を挙げてるUSVは以下リンクのようなもので
https://forbesjapan.com/articles/detail/80785/
https://forum.j-n.co.jp/narrative/7408/
要するに小型の対空ミサイルと対地対艦ミサイル積んで、衛星やUCAVの上空監視と情報とリンクさせることで、ロシアの黒海艦隊の牽制には成功し、ウクライナの黒海経由の穀物貿易はストップしていない。
なかなか素晴らしい「戦術」勝利で、台湾海峡・シーレーンを考えるとわーくにも急務なことと感じますが。
今回の米軍USV。ロイターの写真ではサイズはウクライナUSVと余り変わらない超小型で、うん。内海(黒海)用と外海用の難しさの違いは判らんでもないですが。
>・1隻当たり数百万ドルと高額で(ロイター)
>・「幽霊艦隊」 (乗り物ニュース)
>・アーセナル・シップ(木霊さん論考?)
艦隊と言うからには「戦術」でなく「戦略」に近い兵器で「1隻当たり数百万ドル」は、高額どころか、安価すぎな気が?
で「戦略」級になった場合、無人・自立の意味は?
まあ、第6世代戦闘機で言うところのロイヤルウイングマンに近いもの
なら理解できんでもないですが
、
一方、ウクライナの戦訓におけるウクライナUSVは「場合によっては自爆」も視野に入る消耗前提の低コスト、「大量」だから「戦術的」にロシア黒海艦隊からの制海権保持が成立している訳で
「超高額(にならざるを得ない)な無人艦隊」
だとしたら何に使うのだろう?大いに疑問が…
失礼しました。
これは記事の書き方が悪かったですね。
色々と大きさや狙いの違うものを一緒に語ってしまったのと、混同している部分があるので。
一回整理して書いた方が良さそうなんですが、これがまたなかなか……。
こんにちは。
・洋上では、小型船は基本『真っ直ぐ進まない』。潮流に流され、波にはかたれ、風にあおられる。
・一定以上速度出すと、「波にはたかれ」が尋常でなくなる
・一定以下の速度だと「潮に流され」が尋常でなくなる
・大型船になれば改善するが、今度は小回りが利かない
自動化に向いているのは、実は空というオチが……(自動運転の車は、混在交通では……Weymoとかすごい頑張ってますが)
なので、無人船はむしろ潜水艇の方が色々向いているかも。
なので、ガンガレ!本邦のそっちの人達!
こんばんは。
空は自動化向きですかね?やや懐疑的なのですが。
僕自身、自由度が上がれば上がるほど厳しい状況になるので、陸上かつ舗装道路を走るのが一番マシなのでは?とは思っています。
自動化は、やることが多くなればなるほど大変ですよね。
そうすると、水上は……、荒れてない海ならマシなのかな?
空は、監視が出来ている限り、衝突コースに乗るのはかなり事前から察知出来ます。
※互いの高度、速度、ベクトルが判明している場合、運動性能は予測範囲内。
ただ、特に目視の場合、衝突コースに乗ってるのが分かったときには手遅れなんですが。
車や船ほど混在してない代わりに、速度が桁違いに速い(あと失速という他にはない物理現象がつきまとう)、という違いがありますね。
米軍は支那を意識して無人船開発をやっていますが、支那の方は台湾を意識して、
ついにプロトタイプのチルトローター機をつくり上げ、現在飛行試験中だそう。
https://www.youtube.com/watch?v=INmQmWTqtFw
ベルのMV-75というより、レオナルドのAW-609に酷似する形状とか。
大事なのは、機体の形状よりエンジン周りでしょうけど。
支那のほうが、いまでは米国より開発能力が高そうです。
こういうアイテムの開発速度は実に早いですね、アノ国。
モノになるかはよくわかりませんが、アノ速度と物量は恐怖すべきものがありますね。