追記
文章が冗長になる懸念があったので、草稿の段階で書いていたものをカットしてしまったけれど、潜水艦用に搭載可能なほど小型の原子炉を開発するという点については、別のメリットも存在する。
マイクロ炉という選択肢
トラックに搭載可能な大きさ
現在、三菱重工が検討しているマイクロ炉だが、これがトラックに搭載できる程度には小さいらしい。
マイクロ炉に関してはこちらの記事でも言及したね。
日本でSMR( Small Modular Reactors:小型モジュール炉)の開発をすべきだという話を書いているのだけれど、紹介した技術はどちらかと言うとマイクロ炉に属する技術である。

こんな感じの写真を紹介しているが、このモジュールは実はトラックに搭載できる程度の大きさで計画されているのである。

三菱重工は、このマイクロ炉の計画は「防災用」として紹介している。
現状はまだ「提案」に過ぎないけれども、こういった防災技術の開発は非常にニーズが高い。
防災用であれば
このマイクロ炉、カーボンフリーな約300kWeの電源と、約1MWtの熱源と説明されているので、原子力潜水艦に搭載するにはかなり非力ではある。
例えば、S6G(ロサンゼルス級原子力潜水艦に搭載)であれば約160 MWtの出力があるので、しかしそれ故に小型化が可能なので、トレーラーに搭載可能である。
そして、防災用に開発するのであれば、SMRの開発で一番ネックになっているコストの問題をある程度無視できる。もちろん、安いに越したことはないんだけど。
軍事転用も可能
で、この規模の原子炉が実現可能になると、駆逐艦などに搭載するというのも視野に入ってくる。
日本が開発して、一定の目処がついたと言われているレールガンだが、電源の問題はあるんだよね。
そこそこ高圧電流を必要とするので、コンデンサーは必要なんだろうけれど、原子炉の利点はかなり長期間連続運転が可能なので安定的な電源として期待ができる。
そういえば、自民党総裁選挙では高市氏がSMR開発に言及していたね。日本は原子炉の開発という面で、事故の記憶によって忌避感がある。だが、そろそろ次の時代に進まねばならないと思う。
原子炉の安全利用という点には、今後もっと力を入れていって良いと思う。
追記2
なるほどこういうカラクリが。

航空万能論さまのところで言及があったが、この話はどうやら記者の誘導尋問の要素が含まれたらしく、やや偏向報道気味の話らしい。
つまり、防衛省としては原子力推進機関までは想定していないけど、排除はしないよーと。
まあそうだろうねぇ。でも、研究はやっておいて無駄にはならないと思うんだけど。
JSF氏がポストしていたが、原子力推進機関を手に入れるということは、まさに戦略を変えるってことを意味する。それが必要かは検討しておくといいだろうね。
追記3
コメントでコストのことを言及される方がいたので、その辺りザックリ纏めておこう。
とはいえ、この数字はそれほど信用できるものではなので、あくまで、「こんな感じ」という理解でお願いしたい。
そうりゅう型 vs バージニア級 運用コスト比較
項目 | そうりゅう型潜水艦(日本) | バージニア級原潜(アメリカ) |
---|---|---|
建造費 | 約 600〜700 億円(リチウム型は約 800 億円と推測) | 約 3,000〜4,000 億円(最新Block Vは5,000億円超) |
基準排水量 | 約 2,900 t(潜航時 4,200 t) | 約 7,800 t(潜航時 10,000 t級) |
乗員数 | 約 65名 | 約 130名 |
燃料コスト | ディーゼル+AIP燃料 → 年間 数億円規模 | 核燃料 → ほぼゼロ(炉心は25年以上持続) |
人件費 | 65名 × 高度要員だが比較的少数 → 年間数十億円 | 130名 × 核専門士官を含む → 年間100億円超 |
整備コスト(年平均) | 約 30〜50 億円 | 約 200〜400 億円 |
ライフサイクル(30年) | 運用+整備+退役で 約 2,000〜3,000 億円 | 運用+整備+廃炉で 約 1兆円超 |
能力面 | – 数週間の潜航(AIP/リチウムで無補給巡航)- 作戦範囲は日本周辺〜西太平洋中心 | – 数か月連続潜航- 世界中で作戦可能(速力・航続力無制限) |
年間運用コスト総額(推定)
- そうりゅう型(日本):50〜100 億円/年
- バージニア級(米国):300〜600 億円/年
- アスチュート級(英国):300〜450 億円/年
なかなかお高い。参考までにイギリス海軍のアスチュート級も用意したが、バージニア級より低コストとはいえ、やはり高い。
アメリカ海軍にとって戦略上必要な潜水艦なので、無駄だとは言えないが日本に必要なの?という疑問が出てくるのは当然だろう。
そうりゅう型 vs リュビ級(Rubis) 運用比較
「そうりゅう型 vs バージニア級」では、艦の規模・任務・国防ドクトリンが違いすぎるので、比較が直感的には分かりづらい。
そこで、仏海軍の原子力潜水艦を比較例に用意した。
項目 | そうりゅう型(日本・SSK) | リュビ級(仏・SSN) |
---|---|---|
就役年 | 2009〜(最新型はリチウム搭載) | 1983〜(後継はシュフラン級) |
基準排水量 | 約 2,900 t(潜航時 4,200 t) | 約 2,600 t(潜航時 2,700〜3,000 t) |
全長 | 約 84 m | 約 73 m |
乗員数 | 約 65名 | 約 70名 |
建造費(当時) | 約 600〜700 億円 | 約 1,000〜1,200 億円(1980年代換算、現代価格換算で2,000億円超) |
燃料コスト | 軽油+AIP → 年間数億円 | 核燃料 → ほぼゼロ(炉心寿命20年以上) |
整備コスト | 年間 30〜50 億円 | 年間 150〜250 億円(原子炉管理を含む) |
人件費 | 年間数十億円 | 年間 70〜100 億円(核専門要員含む) |
年間運用コスト合計 | 50〜100 億円 | 200〜350 億円 |
作戦能力 | – AIPで数週間潜航可能- 作戦範囲は西太平洋中心 | – 無制限潜航- 世界規模で作戦可能(ただし速力は原潜の中では控えめ) |
- リュビ級のように そうりゅう型と同クラスの大きさで原潜を持った場合でも、年間コストは約2〜3倍に跳ね上がる。
- つまり「サイズの差」ではなく、原子炉そのものの維持とインフラが高コストの本質 だと理解できる。
とまあ、規模のサイズダウンを行うと費用も控えめになる。ただし、能力が低下するのがネックで、高速航行を目指すのであればこの方式はあまり望ましくない。動力方式が原子力タービン・エレクトリック方式という方式を採用しているんだよね。つまり、原子炉で電力を生み出して、電動機でスクリューを回すやり方だ。
この方式の弱点は静粛化の面では有利だが、システムの複雑化を招くので、他国では利用例が無い。改良されたシュフラン級原子力潜水艦は資料が十分ではないので比較できなかったが、更に高コストになっている。
コメント
原子力潜水艦って
「長期間遠洋に潜り続けて、敵国から核を撃たれた時に報復として核を撃つための移動式サイロ」
としての「対核抑止力」な役割が第一だと思うのですが、セットの核ミサイルを持たない日本にとってどれだけ意味があるかというのも思うのですよ
通常任務運用だと、静音性に欠けるというデメリットの方が大きくて、
「通常型の数を増やす以外に手段がない」という気がしないでもないのですが
なので、自国で運用するなら核ミサイルも作らなきゃ(もしくは買わなきゃ)あかんだろ的な…
そうでないのなら、同盟国に「箱」を作る変わりに、有事の時に撃ってもらう第二第三の核の傘を増やすというのであればありとも思うのですが
ご指摘の部分は分かるのですが、誤解もあるようですね。
1,対核抑止力
日本の潜水艦運用のドクトリンは、待ち伏せ攻撃でした。これは今でも通常動力型潜水艦の優位性があって、日本の独自技術として発達した優れた部分でもあります。
これを捨て去るというわけではなく、これからも磨いていくべきでしょう。
ただし、原子炉で駆動するというメリットの高速航行・長時間潜航は、シーレーン防衛のためには必要性が高まっていて、核抑止力的な立ち位置だけが原子力潜水艦に求められるものではないと思います。だから、核ミサイルまでは必要ないだろうと思ってはいます。
とはいえ、リソースをどこまで割けるのか?という問題点はありますから、そこはまあ「検討」で留めた理由でもあると思います。
ここではあくまで駆動力として使えるような研究開発をして欲しいという所に留めています。
2,騒音について
静粛性に関しては、今の原子力潜水艦は飛躍的に向上しているようです。少なくとも「ウルサイ」というのは過去の話のようですね。
冷却に関しても最新のS8G(オハイオ級原子力潜水艦に搭載)は、自然循環により最大出力までのかなりの部分で冷却材循環ポンプを使用せずに運転できるよう設計されています。日本がそこまでの静粛性を実現した潜水艦用原子炉を手に入れることができるかは不透明ではありますが、高温ガス炉の技術などはかなり有用っぽい(冷却を考えると本当にそうなのかは疑問もありますが)ので、研究開発まではやって損はないと思います。
中国の新型原潜が静粛性が向上したのはロシアが技術を売った可能性がある
武器輸出の見返りに色々貰ったのでしょうね。
イギリスは原子力潜水艦にお金かけ過ぎてその他の装備がスカスカになったと聞きます。
運用コストは凄まじいですよ
運用コストに関しては参考になる数字を紹介しました。
こんにちは。
誘導尋問気味の回答だとしても。
それを隠れ蓑に、VLS搭載潜水艦の開発と戦力化を粛々と進めてほしいところです。
※韓国に先を越されたのは断腸の思い、韓国にそれが必要か、使い物になるのか云々の議論はさておいて。
こんにちは。
VLS搭載艦は次の次くらいに登場しそうですね。