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イタリア経済復活のための予算修正案にECBは強硬に反対

北欧ニュース
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現イタリア首相のメローニ氏はなかなか大胆なことを言うね。

ECB、イタリアの金準備巡る予算修正案を批判 中銀独立性に懸念

2025年12月9日午前 10:56

欧州中央銀行(ECB)は8日、イタリアに対し、同国中央銀行の金準備は国民のものであるとする来年度予算修正案を再考するよう要請し、そうした動きは中銀の独立性を損なう恐れがあると警告した。

ロイターより

ECBの懸念は分かるんだけど、イタリアにしてみればチャンスと見ているんだよね。

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EU加盟国の憂鬱

ECBの呑めないイタリアの政策

この話は、EUという巨大経済圏が破綻しようとしている、というところから見ていかねばならないだろう。

欧州中央銀行(ECB)は、EUの金融を取り仕切る組織。通貨統一してしまったのだからEUの中央銀行はECBだけで良いじゃないの?と思うのだが、現実は各国にも中央銀行が設置されている。

しかし各国中央銀行には通貨発行権はなく、通貨政策はECBに集中し、各国中央銀行は実務部隊+国家金融システムの安定を担う存在に変質している。

従って、メローニ政権の目指す「同国中央銀行の金準備は国民のものであるとする来年度予算修正案」はとても受け容れられないのである。何故なら、このメローニ政権の方向性はECBの弱体化に他ならず、その他の国にも影響するため、ECBは制度全体の防衛として反対せざるを得ないのだ。

ニュースを単純化すると、そんな話なのだ。

イタリアのジレンマ

現状、メローニ政権になってから、イタリア経済は割と順調に回復している。かつて、巨大債務を抱えて破綻寸前になっていたイタリアは、奇跡の回復を魅せていると言って良いだろう。

イタリア、財政目標超える成果で好循環に入ると評価=IMF幹部

2025年10月20日午前 10:54

国際通貨基金(IMF)のアルフレッド・カマー欧州局長はイタリアの財政運営について、赤字削減の目標を超える成果を上げて好循環に入りつつあると評価した。それでもイタリアは成長を加速するための構造改革が必要だと指摘した。

イタリアの財政赤字は昨年、国内総生産(GDP)に対する比率が3.4%となり、2021年の8.9%から低下した。財政赤字の対GDP比は26年には2.9%に下がる見通しだ。

ロイターより

にもかかわらず、イタリアの経済成長率は芳しくない。

だが、イタリアの経済成長率は23年以降、0.7%近辺と低調にとどまっており、財政赤字の削減にもかかわらず公的債務の対GDP比は137%程度に若干上昇している。

ロイター「イタリア、財政目標超える成果で~」より

イタリアの労働環境が抱える問題は様々あって、構造改革を断行しなければより大きな成長には繋がらないという構図になっている。

そこで、イタリア中央銀行が保有する金準備を「イタリア国民の物である」と定義することで、イタリアに対する経済的信用を付加して、財政不可をかけても市場に不安を与えないという戦術を編み出したわけだ。

メローニ氏の当初訴えていた脱EUは、イギリスが苦慮している以上の茨の道に繋がるために選択することが困難。一方で、現状維持してはこれ以上の経済回復に道筋が付けられないという状態になっている。

中央銀行の独立性

ところで、イタリア中央銀行が保有している金準備は、EUとして通貨統一する以前から蓄えられた物が原資になっている。1946年の初のバランスシートに「1.8トンの金」が記載されており、そこから数十年にわたり買い入れや国際協定による移転などで増加してきた。

その後も1970年代〜1990年代にかけて売買・移転があったが、最終的に1999年のユーロ導入直前の調整で現行の約 2,452トンという水準に落ち着いている。

すなわち、イタリアにとってイタリア中央銀行にある金準備はイタリア国民の物であり、法的所有権はイタリア中銀だが、政策運用の最終権限はECBにあるという“捻れた構造”になっている。

だから、ECBにしてみればEU域内にある金準備はすべてEUの経済安定に用いるための資産なので、「勝手に使われては困る」というシロモノ。イタリア国民が築き上げた資産であろうと、それは昔の話という立場である。

イタリア中央銀行であるBank of Italyも今やECBのイタリア支局的な立ち位置なので、コレに逆らえない。しかし、イタリア政府が立法によって金準備を国民の資産だと定義づければ、事実上それに手を付けた格好になる。

万が一、手が付けられればECBの信用が揺らぐ結果になるというジレンマになるし、そういった金準備はイタリアだけの話ではない。世界4位の金準備をイタリア中央銀行に保有するイタリアにとっては歯痒い限りだが、ECBの論理からすると勝手に使われては困る。それは中央銀行の独立性を毀損することになるから、というわけだ。

冒頭の「中銀の独立性を損なう恐れ」とは、そういう意味なのである。

まとめ

ECBにしてみれば、中央銀行の独立性はユーロという通貨の信用そのものだ。ひとつの国が「自国の都合」で資産を動かす前例を作れば、ユーロ圏全体の信認が揺らぎかねない。だから、イタリアに手綱を握らせるわけにはいかない。

一方のイタリアにすれば、いま成長の芽が出ているこの瞬間に財政支出というアクセルを踏みたい。しかし、ユーロという枠組みが邪魔をする。そこで、金準備を「国民のもの」と位置づけ、信用力を自力で回復する裏技を使おうとしているわけだ。

すなわち、この問題は 「中銀の独立性」という金融秩序の論理 と、 「成長を取り戻したい国家」という政治・経済の論理 の衝突である。

脱EUは不可能、現状維持でも未来はない。だからメローニ政権は、EU秩序の限界を突く危うい綱渡りを選んだ。

──「イタリアの金は誰のものか?」 という一見単純な問いに、EU統合の矛盾が凝縮されているのである。

戦闘機開発のパートナーである日本にとって、イタリア経済の復活はむしろ追い風だ。だからこそ、注意深く今後の動向を見守りたい。

コメント

  1. 砂漠の男 より:

    産経新聞によると、メローニ首相が来年1月半ば頃の訪日で日程調整中だそう。
    彼女はジャパニメ・ファンで、来日したら高市総理と女子会するらしいですね?知らんけど

    12/03付けでイタリアの政治世論調査が公開されていたので目を通してみたところ、
    メローニ首相の支持率42%、メローニ政権の支持率40%、与党「イタリア同胞」の支持率28%、
    イタリア国民の69%はイタリア経済の状況に否定的で、31%が肯定的。70%は政策が間違って
    いると考えており、正しいと考えているのは30%だけ、などなど。
    https://www.ipsos.com/it-it/sondaggi-politici-oggi

    イタリアは国内に「南北問題」を抱えていて、”地域ごと”に政情が異なり、難しい国です。
    加えて、EU内にも政策には国別に温度差があり、”ブリュッセルの連中”には反感が根強い。
    いつもこんな調子なので、ストレス溜まるでしょうね。

    • 木霊 木霊 より:

      日本で女子会ですか。
      それは良いですね。

      メローニ政権が本当にやりたい改革は、今の状況だと難しいのでその経済評価も仕方がないでしょう。
      客観的に見ると頑張っているように見えるんですけどね。

  2. 軍事オタクより より:

    イタリアは元々分裂してた国柄なのでそうかもしれませんね
    イタリアはローマ時代が一番良かったかもしれませんね
    現在では経済も何かピンと来ないし
    観光が頼りなのかもしれませんね

    • 木霊 木霊 より:

      南部と北部で経済的な最適解も随分と違いますから、地域に会わせた政策をやるのもなかなか難しい。
      南部は貧しく農業や観光業が中心の経済です。
      北部は工業やファッションの中心地で経済的にも比較的裕福。
      方向性が違うので、画一的な政策を打てるわけでもない。舵取りは難しそうですよ。

  3. 七面鳥 より:

    こんにちは。

    イタ公は、G-CAPにジャガイモ呼び込むとか言いだしよりましたので。
    そんなに金回り苦しいのか、って思ってました。

    イタリア自体はEU内ではわりかし好き(≒許せる)方なのですが、G-CAPにドイツは絶対に阻止で。
    ※「今度はイタリア抜きで」ではなく「今度はドイツ抜きで」が政界だと思ってるので。

    • 木霊 木霊 より:

      こんにちは。

      ドイツはねぇ……。
      話が拗れる原因になるので、ドイツとかフランスとか口を出させてはいけないところは隔離でお願いしたいですね。