凄いなぁ。正直、カナダのその判断にどんな合理性があるのか見えてこない。
焦点:カナダ、トランプ関税後の新貿易秩序に布石 中国などと協定加速
2026年1月21日午後 1:37
カナダのカーニー首相は、中国との関係強化などを通じ、新しい世界の貿易秩序構築を主導しようとしている。米国との長年にわたる関係が、トランプ米大統領の関税措置によって変調を来したためだ。しかし、カナダは米国への経済依存度がなお圧倒的に大きいという点が、こうした取り組みの足かせになっている。
ロイターより
カナダが、アメリカ依存の国家体制を続けてきたことは有名で、近年その姿勢を転換しようとしていたことも知られていると思う。
そこへトランプ氏の高関税政策。これにぶち切れたカナダは、アメリカと決別しようとしている……、そこまでは理解できる。
しかし、その代替先として「支那依存」を選ぶという判断は、構造的に見てかなり無理がある。
方針変更でブレるカナダ
「同盟国以外」という条件で支那に近づく
「防衛依存」や「姿勢転換」の話は、日本に対しても批判としては刺さる。
これまでのカナダは、
- 防衛 → アメリカに丸投げ
- 経済 → アメリカ市場前提
- 外交 → 「善良な中堅国」「橋渡し役」
こうした構図は、ある意味で韓国の外交姿勢とも似ている。
韓国は半島国家という地政学的制約から、中国と距離を取り切れない事情がある。経済的にも安全保障的にも、だ。
一方で、カナダはアメリカと陸続きであり、経済・安全保障の両面で米国との関係を完全に断つことは不可能だ。だが、流石にちょっと行きすぎていたので、方針を転換すべきだとなった。
カーニー氏は欧州の同盟国以外に貿易相手を広げる動きを加速させ、先週中国との関税引き下げに合意し、その他の国との協定締結も推進中だ。背景には、トランプ氏の対外政策がますます攻撃的かつ予測不能になっているという切迫した事情がある。
ロイター「焦点:カナダ、トランプ関税後の~」より
確かに、トランプ氏の関税政策で一喜一憂させられるのは疲れるし、方針が定まりにくい。
ただし、その政策意図自体は極めて単純だ。要は「アメリカにとって得か損か」、それだけである。だから、ディールのルールさえ間違えなければ交渉可能な相手だ。
一方で、これまでの外交常識が通用しなくなったため、付き合いにくい相手になったのも事実。そういう意味で、アメリカと距離を置く政策を選んだのは理解できるんだけど、じゃあ支那と手を結ぶかというと、その判断には首を傾げざるを得ない。
勘違いするカナダ
そして、なかなか香ばしい発言がこちら。
カナダのアナンド外相もドーハでロイターのインタビューに応じ「このような変動期において、カナダは前に出て主導的役割を果たす。われわれはこの役割を支援してくれる国を確実に話し合いの場に呼ぶことにする」と語った。
ロイター「焦点:カナダ、トランプ関税後の~」より
カナダが、「前に出て主導的役割を果たす」ねぇ。
しかしその結果、支那との関係を深めるというのは、どうなのよ。そして、その関係を深める決断をした結果、EVの輸入制限緩和をする決断をしたらしい。
……カナダでEV?
その判断は大丈夫なの?EVの特性から、寒冷地ではメリットが薄いし、何よりインフラ整備に巨額の費用を用意する必要がある。支那で過剰生産の結果余っているEVを買い取るのと、その製造工場を誘致したところで、どれだけ意味があるのやら。
カナダの中国製EV輸入緩和、「後悔することになる」と米高官
2026年1月17日午後 2:06
カナダが中国製の電気自動車(EV)の輸入について制限を緩和する協定を結んだことに対し、トランプ米政権の高官らは16日、強い懸念を表明した。ダフィー運輸長官は「カナダは、中国車を自国市場に持ち込んだことを確実に後悔するだろう」と述べ、これらの車両を米国市場に入れることはないとの考えを示した。
ロイターより
アメリカから「ばっかじゃねーの!」(約意)と、言われても仕方がない。だが、カナダにとっては喉から手が出るほどに、自動車が欲しいと言うことかもしれない。
カン室長はこの日、ユーチューブチャンネル「キム·オジュンの謙遜は大変だ」に出演し「カナダでは『私たちは車が必要だ。 韓国の現代自動車も一緒にしてくれる?という要求がある」とし、「前回、カナダの産業部長官が私を訪ねてきて、そのような要求をしている」と述べた。 それと共に「(産業部長官が)『ドイツはフォルクスワーゲンがまたやるつもりがあったが』、このように話して競争をつけること」と述べた。
カン室長は「カナダの要求は『我が国にも自動車工場があってほしい。 韓国は自動車を作るじゃないか」とし「(潜水艦受注)競争自体がそのような局面に拡大しており、60兆ウォンにもなる武器を(カナダが)買うのに自動車工場を建ててくれ(と要求すること)」と付け加えた。
毎日経済より
潜水艦受注のオプションとして、自動車工場を要求したという話もまことしやかに言われる始末である。
依存は危険
もっとも、カナダの判断を全面的に否定するのは少し違うとも思う。
支那に接近することで、アメリカに対して「代替選択肢がある」と示し、交渉上のカードを増やそうとする発想自体は、理屈としては理解できる。問題は、それが「牽制」として機能するか、それとも「新たな依存の入口」になるかの見極めを誤っている点だ。
支那は交渉カードとして扱える相手ではなく、関係を深めた瞬間に主導権を握ろうとする国家である。カナダが支那よりもデカい国ならカードになるが、そうではないことが問題なんだよ。
そもそも、話のスタートは「アメリカへの過度な経済依存を是正したい」という点だったはずだ。
ところが、蓋を開けてみると、アメリカ依存を嫌った結果として、別の依存を深める方向に舵を切っているように見える。
カーニー氏は、向こう10年で米国向け以外の輸出を倍にすると約束しているが、この目標達成にはカナダが現在2番目に大きな貿易相手の中国へ過度に依存するしかなくなる、というのが複数の専門家やエコノミストの見方だ。
法律事務所マクミランのパートナー兼国際貿易共同責任者、ウィリアム・ペルラン氏は「極めて慎重になるべきだ。中国とあまりに急速に(経済を)結びつければ、カナダ経済の長期的な安定性を巡って複数の問題も生まれる」と警告した。
ペルラン氏によると、中国の製造業は一夜にしてカナダ市場をあらゆる商品で埋め尽くす力があるという。
ロイター「焦点:カナダ、トランプ関税後の~」より
そりゃ、専門家も「危ないんじゃないの」と言われるでしょうに。
カナダの主な貿易相手国(2020年〜2024年傾向)
- 輸出 (Export):
- 米国 (約76-77%)
- 中国 (約4-5%)
- 英国 (約2-4%)
- 日本 (約2%)
- 輸入 (Import):
- 米国 (約49-51%)
- 中国 (約12-14%)
- メキシコ (約5-6%)
- ドイツ (約3%)
- 日本 (約2%)
こうした数字を見ると、「2位の比率を高める」という発想に走りたくなるのも分からなくはない。だが、それはあまりに短絡的だ。
アメリカ依存を嫌って中国依存に移行するのであれば、それは「脱依存」ではなく、単なる「依存先の付け替え」に過ぎない。
特に、アメリカと支那との関係は極めて危うい時期である。そこを敢えて支那との関係を深めることは、アメリカ依存を下げると共に別のリスクを背負い込む可能性がでてくる。アメリカへの牽制になる可能性はあるが、牽制球というよりは危険球になりはしないか。
CPTPPの構成国
ここで改めて確認しておくべきなのが、カナダがCPTPPの構成国であるという点だ。
確かに、アメリカとの貿易協定(USMCA)はもはや破綻寸前で、トランプ氏によって「アメリカにとってうま味がないので改訂しろ」と迫られている状況にある。
メキシコ政府、USMCAの見直し合意に向け、協定の維持を強調
2026年01月23日
メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領は1月14日の早朝記者会見において、トランプ米大統領が米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に否定的な発言をしたことに対して、「USMCAを最も支持しているのは、米国の企業家だ。両国は非常に緊密に統合されているからであり、両国は非常に多くの生産拠点を有し、自動車だけでなく、非常に多くの分野にまたがっている」とし、米国との貿易関係およびUSMCAは今後も継続すると確信していると述べた。メキシコ政府は、USMCAの見直しに関し、一貫して協定の維持を強調しており、北米圏の協調・連携強化を支持する立場を示している。
JETROより
USMCAの見直しに関して、メキシコは抵抗しているけど、カナダはディールの材料として支那と手を結んだという構図になっている。
ヤバい相手にヤバい相手をぶつけようって腹なんだろうけど、カナダにそれができるのかどうか。
CPTPPを利用して、無関税の恩恵を受ける貿易を増やす方が得策なんじゃないのかな。
にもかかわらず、あえて支那との二国間関係を前面に出すのは、CPTPPという枠組みの信頼性そのものを毀損しかねない。
まとめ
ロイターの報道内容はやや恣意的な部分もあって、カナダの本当の狙いは過度なアメリカ依存を止めたいということなんだと思う。
ただ、断片的に見える情報から、どうにも選択が浅慮に過ぎるのではないかという気がしてならない。だって、ヨーロッパ諸国にしてもオーストラリアにしても、支那との関係を深めた結果、とんでもない失敗をしているんだが。
最近のアメリカの動向、特にトランプ氏の発言を見るに付け不安になったのは理解できるが、その選択で中国に寄りかかるのは悪手のように思う。これがCPTPPのバックドア的な立ち位置にならないよう、日本政府としても釘を刺しに行くべきだろう。



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