偶にはカナダのニュースでも取り扱おう。
カナダの産業大臣、F-35メーカーに経済的利益を追求
投稿日: 2025年10月14日 午後4時31分
連邦産業大臣は、カナダ政府が計画しているF-35戦闘機88機の購入を進めるのであれば、米国に本拠を置くロッキード・マーティン社に対し、カナダでより多くの経済的利益を提供するよう圧力をかけている。
CBCニュースより
最強の第5世代戦闘機として宣伝されているアメリカ製F-35戦闘機だが、運用するには相応のコストを支払う必要があることと、アメリカの紐付きになるリスクがついて回ることになる。
価格高騰の懸念
運用コストが高い!
ただ、カナダとしては地政学的にアメリカに依存する関係は避けられないし、F-35戦闘機の運用コストは今更の話である。どちらかというと政治的思惑が強かったものと理解した方が良いだろう。
カナダ、米国製戦闘機購入見直しへ カーニー氏「安保多角化を」
2025年3月18日午前 8:09 GMT+92025年3月18日更新
カナダのカーニー新首相は17日、米国からの戦闘機購入契約に代わる可能性を模索していることを明らかにした。カナダが安全保障を米国に依存し過ぎていることに懸念を示した。
カナダは、米防衛大手ロッキード・マーチンからF─35戦闘機88機を購入する190億カナダドル(約132億9000万米ドル)相当の契約を結んでいるが、カーニー氏は就任後すぐに見直しを指示した。
ロイターより
今年の3月のニュースなのだが、カナダ首相のカーニー氏は首相就任後すぐに、戦闘機購入契約の見直しに言及した。「F-35A戦闘機、本当に必要なの?」と。
カーニー氏は訪英中に記者団に「われわれの安全保障関係が米国に集中し過ぎているのは明らかだ。多角化しなければならない」と語り、カナダが国防予算の約80%を米国の兵器に費やしていると指摘した。
カナダは2023年にF─35契約に調印。26年に第1号機の引き渡しを見込んでいる。
ロイター「カナダ、米国製戦闘機購入見直しへ~」より
確かに、ちょっと高すぎるんだよね、運用コストが。むしろこれを放置したことの方が不思議である。

購入した後も維持が大変らしいし。
バージョンがネック
日本も多数のF-35A戦闘機の採用を決めたが、運用コストの高さに頭を抱えることになっている。
カナダにとってF-35の価格が上昇し続ける中で、アメリカ製戦闘機の継続使用が決定された。6月、カレン・ホーガン会計検査院長は、カナダのF-35購入コストが既に190億ドルから277億ドルに跳ね上がったという報告書を発表した。ホーガン氏はさらに、同機の完全運用能力を実現するにはさらに55億ドルが必要になると付け加えた。
ウィリアムズ氏やさまざまな防衛アナリストは、米国が 同機のソフトウェアのアップグレードや交換部品を全面的に管理することになるため、F-35はカナダにとって戦略的な脆弱性となると警告している。
OTTAWA CITIZENより
特に、アップデートしていくことが前提という考え方の戦闘機であることが、困ったもので、ブロック4になってようやくデータリンクシステムの強化が進むと言われているんだけれど、現在最新バージョンはブロック3Fで、ブロック4Aにするのにかなり手を入れる必要があるとされている。
現状、ブロック3系列からブロック4系列にバージョンアップするにはエンジン交換が必須だとされ、そのエンジンは完成していない。
P&W F135が現行のエンジンだが、ブリードエアー抜き取り問題など技術的に解決しなければならない課題が沢山あって、エンジンの更新は必須ではないか?とされている。現時点ではP&W F135のままECU(エンジン・コア・アップグレード)の更新の方針らしいけれども、それで問題が解決するかはよく分かっていない。
このような事情があるため、今購入するとお高いF-35戦闘機を買う結果になりかねない。
グリペンEは人気者
で、対抗馬として出てきたのがグリペンEなんだが。
メラニー・ジョリー産業大臣は、ラジオ・カナダのフランス語番組「Les coulisses du pouvoir」のインタビューで、そうでなければ、カナダ政府はF-35の機数を減らし、スウェーデンのサーブ社製のグリペンE戦闘機の第2機隊の取得を進める可能性があると述べた。サーブ社は、カナダ国内でのグリペンの組立を申し出ている。
CBCニュース「カナダの産業大臣、F-35メーカーに経済的利益を追求~」より

日本がF-35戦闘機を選ぶときにも俎上に上がっていたグリペンE。ただ、すでにF-35A導入を決定しているのを蹴ってグリペンEを導入するのではなく、F-35Aも16機は導入することになっているため、実質的に混合運用をすることになる。それはメンテナンスの面から考えると非効率だという指摘もあるんだよね。
兵器の共通化という意味でも、少々問題があるからねぇ。
| 項目 | F-35A | グリペンE |
|---|---|---|
| 設計思想 | 第5世代ステルス戦闘機。高度なネットワーク中心の戦闘と、敵防空網の突破を想定。 | 第4.5世代非ステルス戦闘機。コスト効率、容易な整備性、および分散運用能力を重視。 |
| ステルス性能 | 非常に高い。機体形状、電波吸収材、ウェポンベイによる武装の内蔵によりRCSが大幅に低減されている。 | 低い。ステルス性は備えていない。小型の機体と高度な電子戦能力により、敵に探知されにくい工夫あり。 |
| センサー・アビオニクス | F-35が圧倒的に優位。APG-81 AESAレーダー、分散開口システム(DAS)など、複数のセンサー情報を統合する「センサーフュージョン」能力を持つ。 | グリペンEも非常に高度。アクティブ・フェーズドアレイ・レーダー(AESA)を搭載し、自動化された高度なデータリンクで状況認識能力を高める。 |
| 兵装 | ウェポンベイに内蔵可能。空対空ミサイル(AIM-120Dなど)、精密誘導弾などを内蔵し、ステルス性を維持したまま運用可能。外部にも武装を搭載可能。 | 外部に搭載。ミーティア空対空ミサイル、IRIS-T短距離ミサイルなど、最新の兵装を統合している。 |
| 運用柔軟性 | 限定的。大規模な空軍基地での運用が基本で、多くの支援設備が必要。 | 非常に高い。高速道路などの800メートルの短い滑走路でも離着陸が可能。小規模な地上要員で整備できるため、分散運用に適している。 |
| コスト | 取得・維持費ともに高額。特に高額な維持費が問題視されており、稼働率の低さにつながっている。 | 低コスト。F-35に比べて取得・維持費が大幅に低い。運用コストの低さが最大の強みの一つ。 |
| 戦術的役割 | 制空権の確保、敵防空網の制圧、精密攻撃。高度なネットワークとステルス性を活かし、敵に探知されることなく有利に戦闘を進める。 | 防空、迎撃、国土防衛。分散運用能力を活かし、広大な国土を安価に防衛する。有事の際には、F-35と連携して「ハイ・ロー・ミックス」戦略の一翼を担う。 |
運用コストが安い割り切った戦闘機であるグリペンEだが、カナダが運用できればかなりメリットはあるのだろう。ただ、本当にそのメリットを生かし切れるかはやや怪しい面はある。
この話はコストメリットを捨てて、戦略的にグリペンEをハイ&ローミックスのローの運用に位置づけるという割り切りであれば、納得できるのだが、コストメリットが出るかどうかはやや怪しい気がする。
まあ、カナダが導入してくれれば、このケースでどうなるのかが観測できるので、個人的には歓迎したいところ。



コメント
カナダはほかに深刻な国内問題を抱えていて-すべて前政権の仕業-、後継戦闘機選定は大した問題じゃないはずだけど、主に政治的駆け引きの所為でなかなか纏まらないでしょう。
最近インドネシアが支那製戦闘機J-10Cを購入するという報道が出てきた。グリペンはわからないが、J-10Cについては今後採用国が増えるかも。評判は良いらしい。
政権内部でもバタバタしている感じのカナダ、前政権が残した「負債」は結構大きいようですね。カナダの鳩山由紀夫は伊達じゃねー。
インドネシアが本当にJ-10系の戦闘機を購入するのかは謎ですが、あの国ならやりかねないのは事実でしょう。
J-10C戦闘機の「デキ」が良いのは本当のようですしね。インド国境でのアピールは結構効果があったのでは。
こんにちは。
グリペンはE型で、航続距離2500km(増槽無し)or4070km(増槽有り)、戦闘行動半径1300km。
F-2が増槽有りで4000kmの行動半径750海里(≒1350km)ですからほぼ同等。
F-35Aが機内燃料のみで約2200kmの半径1200kmですから、これもさほど変わらない。
グリペンは足が短いと言われてましたが、E型でかなり改良して来た感じですね。
とはいえ、いわゆる先進国は第五世代あるいは第六世代機に更新を考えているさなか、4.5世代機はどうなんでしょうね。
既にあるF-35、今のところ順調そうなGCAP、今のところダメそうなF-CASと次世代機の選択肢はありますが、どこにもいっちょ噛みしてないカナダの苦しいところですね……
防空要撃のみを考えるならアリか?見えない敵から超長距離対空ミサイルぶち込まれなければ……(それを防ぐにはAWACSも必要)
要するに、仮想敵をどこに置くかの問題ですが……仮想敵と国境を接していない(と言って良い)北米大陸ですから、そのあたりは多少ルーズに考えているのかもしれません。
※同じ理由で、しかしアメリカは遠征先を考えての次世代機でもありますから、遠征しない前提ならカナダは防御だけ考えれば良いわけで。グリペンでICBMは防げませんが……
こんにちは。
グリペンEは評価は高いんですが、実際に購入に漕ぎ着けるところまで行く国は少ないんですよね。
そもそも戦闘機に高いステルス性を持たせる必要性はあまりなくって、むしろ戦闘機以外のセンサーノードとして機能する無人機が随伴してくれれば用を足すわけです。
正直、第5世代機、第6世代機って、戦闘機として飛ばすには色々と問題が多いんですよね。そのあたりの解決はできるんでしょうか?エンジン2つあればブリードエアー抜き取り問題は緩和されるのかな?この辺りも含めてGCAPには期待したいところ。
一方でFCASは当面遅延しそうですな。
カナダはどうするんでしょうかね、興味深く見守りたいと思います。
戦闘機に限らず、最近の兵器は
『巨大な兵器システムの一部』
なんですよね。
戦闘機や戦車、軍艦といった『キャリアー』だけでなく、それらが搭載する弾丸に至るまで。
なので、新規購入にはシステムインテグレーションがつきまとう。
そっちのほうがきっと、コストも労力もかかるのでしょう。
その国にあった兵器の進化が必要ですから。
色々やってみるしかありません。
昨日、NATOがウクライナへグリペンを供与する協定が結ばれたという報道がありました。
なにはともあれ、サーブ社良かったですねぇ。グリペンが戦場で実績を積めば、また評価も変わりそうです。カナダの機種選考にも影響するかも。
あのニュース、サーブ社的には良かったと思います。
ただ、ウクライナが購入できるのか?という点は甚だ。