ネットで取り上げられていたので、ご存じの方も多いだろう。
ロシアは戦争資金として金準備の71%を売却したが、売却はまだ終わっていない
2026年1月21日 11:03
ロシア政府は過去3年間で国家富裕基金(NWF)に保管されている国家金準備の4分の3近くを売却し、その収益を予算、国営銀行、大規模インフラプロジェクト、そしてウクライナで進行中の戦争の資金に充ててきた。
UNITED24より
簡単に説明すれば、ロシアが戦費の調達に苦戦しているという記事だ。
戦争も長引き4年も戦っている。そして、侵略する側のコストが掛かるのは自明な話。攻める側は守る側の3倍以上のコストがかかるといわれているが、ロシア側は年間1,370億ドル(約20兆円)の直接的な戦費を投じているとされる。
ロシア経済はいよいよ危険水域に
高騰している「金」で戦費調達だ
現在、金相場は上がり続けていて「安定資産」だと目されている。支那が相当買い込んでいるようだが、個人投資家たちもそこそこ手を出しているらしい。
ロシア財務省のデータによると、NWFのバランスシート上の金の量は2022年5月から2025年1月の間に554.9トンからわずか160.2トンへと71%減少した。
1月20日付のモスクワ・タイムズが報じた数字は、 国際制裁により伝統的な収入源が弱まる中、金が主なつなぎ資金となっていることを明らかにしている。
財務省は2023年と2024年のほぼ毎月、NWFの金を売却した。 2023年だけでも、同基金の保有量は196トン減少した。これは当初の総量の約3分の1に相当する。
UNITED24より
一方、ロシアは大量に売っていることが報じられた。
ところで、ここに出てくる「国家富裕基金(NWF)」なのだが、一体なにかといえば、ロシア政府の「国民のための長期貯蓄」を目的として設立された政府系の基金で、以下の目的があると説明される。
- 年金制度の維持: 最大の目的は、将来の年金受給者への支払いを保証すること。少子高齢化が進む将来に備えて、今のうちに資金をプールしておく「年金積立金」のような役割を果たす。
- 経済危機のバッファー: 石油や天然ガスの価格が急落するなど、予期せぬ経済危機が発生した際に、国家予算の急激な落ち込みを防ぐための「保険」や「安全弁」としての役割も担っている。
- 持続可能な開発投資: ロシア経済の持続的な成長に資するような、大規模で採算の取れる長期プロジェクトへの投資も目的の一つ。
ところが、これを戦費調達のために使っちゃったという話になる。
ロシアはダイヤモンド産出量は世界の1/3、金の産出量も年間300tと世界2位~3位という割と貴重な埋蔵資産を持った国家である。だが、これをお金に変えるのは難しい。何故なら、侵略戦争を始めたことで西側諸国から経済制裁を喰らっているからだ。
石炭や石油、天然ガスも掘れるのだが、これも大っぴらには売れない。ある程度は支那が引き受けてくれるし、インドやヨーロッパの一部の国も購入してくれはするが、期待したほど利益が得られない。
そんなわけで、使うべきではなかったNWFを溶かしてなんとかしているのだが、その残りも160.2t程度。3年で7割消えたというのだから、先はそう長くはなかろう。
今の金の高騰ぶりからかんがえると、効率の良い方法かもしれないが。
食いつぶした年金資金
それよりも、NWFが無くなっちゃったことのほうが問題である。
2024年にはそのペースが加速し、さらに171トンの減少が見られました。2024年半ばには新たに72.4トンの金が購入されましたが、その大部分はすぐに転売されました。
~~略~~
2026年度予算には、付加価値税(VAT)の引き上げや中小企業への課税強化といった新たな歳入対策が含まれており、政府は財政赤字を3兆8000億ルーブルに削減することを目標としている。
UNITED24より
あの手この手で戦費の調達を画策しているようだが、圧倒的に資金を溶かすスピードのほうが早いらしい。そして、使ってしまったためにNWFは残り少ない。
NWFは、厳密には年金専用基金ではないが、将来世代の社会保障を支える性格を持つ点で、事実上の年金準備金に近い。
この話は他人事ではない。日本でも、将来世代の資金を「今」使おうとする議論が繰り返されてきた。
日本の新興政党「中革連」は、年金を運用して運用益を消費税減税に使おう(正確にはGPIFの海外運用益を使う)などという話をしたとか、それはデマだとかいう話が出ていたが、埋蔵金を掘り起こそうという発想の旧民主党と一緒である。「生活者ファースト」を掲げているが、生活者を食い物にする気満々だというオチがついた。
ロシアの場合は、NWFそのものに手を付けてしまったので更に酷い話。
ロシアとしては、ウクライナを我が物として、巨大な炭鉱、鉄鋼施設、肥沃な農地、そして広大な海洋資源を開発することで、その輸出収益によって戦費を相殺していくくらいしか手がない。実際に、マリウポリなど占領地の開発を始めているという話もあるので、ある程度は回収できる可能性はある。
他に、海外にある凍結資産も約3,000億ドルほどあるので、取り戻すことができれば足しにはなるだろう。
ロシア戦時経済はいつまでも続けられない
さて、現状、戦時経済と呼ばれる軍事に製造力のリソースの殆どを突っ込むことで、一時的なブースト効果を得られている状況が続いている。
しかし経済制裁は続いているし、輸出にも苦労していることを考えると、もはや引き返せるポイントは超えていると見ていいだろう。
何より、人的リソースの枯渇が非常に大きな問題なのだ。
軍事的犠牲者数(詳細な情報源の推定については脚注を参照)
Russia Mattersより
- ロシア:元CIA長官ウィリアム・バーンズが2026年1月にフィナンシャルタイムズに語ったところによると、死傷者は110万人。行方不明者は84,568人 。
- ウクライナ:ドナルド・トランプ大統領の2024年12月の推計によると、死傷者40万人。行方不明者3万 5千人。
死者・行方不明者は概ね120万人にも登る。この他に、70万人前後はロシアから出国して今もロシアに帰ってはいない人がいるとされ、負傷者など加味すると200万人程度は減っていると考えられる。労働力が200万人も減ってしまうと、深刻な人手不足に陥る。
ロシアの総人口1.4億人のうち、労働人口は7,200万人程度とされているのだけれど、失業率は2.5%程度ということらしい。つまり、労働力が枯渇して人手が不足しているため失業率が低いという深刻な状況なのである。
加えて、軍事産業の方に人手が取られているため、民生品の生産が追いつかない。つまり需要に対して供給が極めて低い状況。そうすると、深刻なインフレに陥るのだが。
その辺りのからくりは、過去にコラムなどで触れている。
どうやら、価格統制や闇市の登場によって市場価格はあまりインフレ状態になっているわけではないようだ。ただし、付加価値税(VIT)を22%に引き上げ行うことや、関税の影響もあって価格上昇が見られる。ここへ来ていよいよ影響が押さえきれなくなっているようだ。
困ったことにこの話、解決方法がない。そもそも戦争を始めた結果、経済がもとに戻るわけではない。何しろ、若者が死んでしまっているのだ。また、NWFも使ってしまったので、これも補填しなければならない。仮にウクライナを手に入れたとしても、再開発には莫大な費用がかかるわけだ。
支那は支援したくない
当然、「戦後復興する為」に、何処かから費用を調達しなければならないのだけれど、お金を貸してくれるような心当たりは支那くらいしかない。
対ロ制裁の影響受けたくない 中国外相
2022年3月15日 17:02
中国の王毅外相は15日、ウクライナに侵攻したロシアへの支援をやめるよう求める圧力が高まる中、西側諸国による対ロシア制裁の影響を受けたくないとの考えを示した。国営メディアが伝えた。
AFPより
しかし、表向きは支那はロシアへの支援を渋って見せている。
中国に秋波送るロシアと実利優先に徹する習近平/「国際収支の天井」を抱えたロシアの哀しい現実/中国は「ディール」に徹する構え
2025/11/12 6:20
ロシアのミハイル・ミシュスチン首相は11月3日、中国の浙江省杭州市を訪問し、李強首相との間で、30回目となる定例会談を行った。翌4日には北京市で習近平国家主席と会談したが、両日とも話題の中心となったのは、両国間での経済協力の深化だったようだ。もっとも、正確にはロシアが中国に“秋波を送った”というところだ。
東洋経済より
実際、ロシアに支援していれば、国際社会からそれを理由に経済制裁を受けかねない。だから、表向きは絶対に支援をしないという姿勢は貫く必要がある。一方で裏では支援をしていることは明らかなのだが、本音では支援したくはない。
何故ならば、資金回収の見込みが絶望的だからだ。
しかし一方で、支援しないわけにも行かない。何故なら、公表はされていないが年間約2,500億ドル(約39兆円)にも上る多額の支援をしていると言われている。尤もすべてが債権として積み上がっているのではなく、ロシアからの輸出品などで相殺する部分があるので、多少は減額されているはずだが巨額には違いない。
つまり、支援を止めてロシアが破綻するようなことがあれば債権回収は絶望的である。そして、ロシアは既に人民元の経済圏に取り込まれているので、支那の国内にある巨財不良債権の一部とも言え、回収不能となることで自らの経済もドミノ倒し的に破綻の引き金を引きかねない。
まとめ
ロシアはナラティブ(物語)を正当化するためにウクライナ侵攻を始め、もはや引き返せる状況にない。そして、経済が傷んでしまったために継戦能力にも疑問が出始めた。
戦時経済による一時的な景気の底上げは、人的資源の枯渇と生産力の歪みという形で確実にツケを残している。 若年労働力の喪失、民生産業の空洞化、インフレ圧力、そして年金原資の消失——どれも戦争が終わった後に帳消しにはならない。
そういえば、こんな笑えないニュースが流れたことがあったが……。

プーチン氏が指導者で無くなった段階で、恐らくは彼は死を以て戦争責任を取らされる。なので、「寿命を」と言われると笑えないのである。その点、習近平氏も似たような立場だね。
もはやロシアと支那は運命共同体なので、どちらかの指導者の死が両方の国家の崩壊の引き金を引きかねない。そういう意味で、ロシアの状況にも目が話せない状況である。




コメント