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朝日新聞社説「スパイ防止法」論のどこが破綻しているのか

政治
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朝日新聞が衆院選の投票日前に合わせて出した社説だが、内容を精査すると、立法事実の扱いとして首を傾げざるを得ない部分が散見される。

(社説)衆院選 スパイ防止法 権利侵害を懸念する

2026年2月5日 5時00分

高市首相は衆院解散を表明した記者会見で、「国論を二分するような大胆な政策」に挑むと述べ、スパイ防止法の制定を含むインテリジェンス(情報収集・分析)機能の強化を柱のひとつにあげた。

朝日新聞より

社説全体を通じて、スパイ防止法や国家情報機関の設立そのものに強い忌避感を感じた。ただ、僕の先入観が邪魔をしている可能性もあるので、丁寧に検討した方が良さそうだね。

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論理飛躍はしていないか?

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社説の概要と立法事実の認定

そんなわけで、中身を読んでいこう。

社説の内容について、朝日新聞は以下の論点を挙げている。

  1. 衆院選の争点として取り上げられている
  2. スパイ防止法制定の必要性と懸念
  3. 権利侵害への懸念
  4. 「白紙委任」の問題点
  5. バランスある議論の必要性

並べてみると、一見論理的には見える。ただし、中身を読んでみるとやっぱり何か違和感を感じるのである。

一般的に、立法事実があるかどうかは以下のような認定を経て行われる。

  1. 社会的事実(現に起きていること)の認定
  2. 法的空白・制度不全の事実の認定
  3. 法的受益の存在の認定
  4. 不利益・制約との比較衡量の推定
  5. 立法による改善可能性(因果関係)の想定

以下、これに沿って見ていこう。

社会的事実の検討

小難しい言葉ではあるが、要は法律を必要とする「問題」が「本当に存在するのか?」という視点である。

社説ではここの認定が極めて甘い。

日本が「スパイ天国」との見方は、石破前政権が否定している。それでも法制化が必要だというなら、具体的な根拠が明示されねばならない。

朝日新聞「(社説)衆院選 スパイ防止法~」より

一応、この部分について産経新聞ではこう伝えている。

政府は15日、日本について「『各国の諜報活動が非常にしやすいスパイ天国であり、スパイ活動は事実上野放しで抑止力が全くない国家である』とは考えていない」とする答弁書を閣議決定した。その理由として「情報収集・分析体制の充実強化、違法行為の取り締まりの徹底などに取り組んでいる」ためとした。れいわ新選組の山本太郎代表の質問主意書に対する回答。

産経新聞より

石破政権のレトリックを、朝日新聞は意図的に曲解している構図が分かると思う。

「日本はスパイ天国なのか?」という質問に、「抑止力が皆無ではない」「取り締まりもしている」「だからスパイ天国ではない」という三段論法で答えている。だが、この論法は杜撰だよね。

こちらの記事では、公安の監視対象が実際にスパイ行為の疑いをかけられ、ロシア国籍の30代の男と、元社員の30代の男が不正競争防止法違反(営業秘密の開示)の疑いで書類送検された事実を伝えている。

ソースは朝日新聞なんだが?

ロシア元職員がスパイの疑いをかけられて公安の監視対象に入っていた事実は、そのままスパイの存在の証拠となる。

公安警察は、国際テロや過激派と並んで、外国勢力による諜報活動を想定した情報収集・内偵を任務とする組織である。

そして、今回のケースはどう考えてもスパイ活動を疑っていた、という話である。

そうすると、これ1つとってもスパイが実在して、不利益を被っている事実は確認できる。他にも幾つも事案はあるのだけれど、列記しても仕方がないので。

法的空白・制度不全の事実

今年の1月20日に朝日新聞が報じたこの事件を題材にすると、本件は「不正競争防止法違反(営業秘密の開示)」が問われている。

ここで、日本にはスパイ防止の観点からは、以下の法律が存在することは示しておく。

  • 特定秘密保護法:特定秘密に指定された情報を保護する法律
  • 自衛隊法第59条:自衛隊員の秘密保持について規定
  • 日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法:特別防衛秘密に指定された情報を保護する法律
  • 不正競争防止法:企業の「営業秘密」を不正に取得・使用・開示する行為を罰する法律
  • 経済安全保障推進法:基幹インフラの安全性確保や特定重要技術の非公開特許制度などを通じ、経済的側面から国家の安全を保護する法律
  • 外国為替及び外国貿易法:軍事転用可能な機密技術の海外流出を規制し、違反した際の罰則を定めた法律
  • 刑法:建造物侵入罪、公務員職務上の秘密漏洩罪、窃盗罪など
  • 入管法:不法入国や在留資格外活動の取り締まりを通じて、不審な人物の活動を制限する法律
  • 国家公務員法第100条: 職員は職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならないと定められている
  • 地方公務員法第34条:地方自治体の職員に対しても守秘義務を課しており、地域インフラや住民情報などの流出を抑止

これらの法律でカバーできない範囲があるかどうか?の議論は確かに必要だが、例えば国の研究機関に属した研究者が情報を抜いた場合、取り締まりの対象から外れてしまう。

例えば過去のこの記事で取り上げた事案。

結果的には不正競争防止法違反に問われたようだが、「フッ素化合物の合成に関わる先端技術」が盗み出された時点では罪には問われず、実際に損害が発生したことが認定されたときに初めて罪に問うことができる。

つまり、日本からの情報は盗み放題で、他国で製品化されて日本に損害が生じて初めて対応できるという困った構図になっているのだ。

本来であれば、こういったスパイ行為そのものを抑止する力が必要なのだけれど。

法的受益の存在

こういった事案を考えると、日本から特定の情報が盗み出された時点で損害が推定されるにも関わらず、適切な法律が存在しないという事実がある認定ができ、スパイ防止法ができれば法的受益者というのは日本国民だと言うことになる。

当然、法的受益は存在すると認定できる。

不利益・制約との比較衡量

この辺りは面倒くさいロジックが関わるのだけれど、法律ができるとどんな不利益があるのか?という話。良く持ち出されがちな、手垢の付いた手法だね。

だが、スパイの摘発や情報収集を名目に、市民のプライバシーが侵害されたり、表現や報道の自由が制約されたりする懸念がぬぐえない。

朝日新聞「(社説)衆院選 スパイ防止法~」より

確かに国民のプライバシーは蔑ろにされるべきものではないが、ここは公共の福祉とのバランスで見なければならないところ、そこを無視しちゃうのが朝日新聞らしいと言うか何というか。

報道の自由も無制限では無いんだけどね。

立法による改善可能性(因果関係)

スパイ活動を疑わせる事案が複数確認されており、これはもはや否定できない話であることは既に指摘した通り。だから、現行法では対応に限界がある。

こういった状況なので、当然、スパイ防止法ができればそれに応じた法律の適用が可能となる。その結果、現行法では困難な段階での介入が可能となるので、一定の抑止効果は期待できる。

そして、プライバシーに関しては公益とのバランスで調整され、国益を害する情報流出に関して取り締まるケースには、この反論は当たらないことになる。

白紙委任となるのか?

さて、朝日新聞による主張の核となる前段はこれまで論じてきたように潰れているのだが、後段の「選挙戦で問われていない」という部分についてはどうだろうか。

自由な社会を守るための組織が、かえってその基盤を危うくするようでは困る。首相はスパイ防止法について、選挙遊説では触れていない。国民の審判を仰ぐというが、その前提条件が満たされていないというほかない。

朝日新聞「(社説)衆院選 スパイ防止法~」より

選挙遊説で触れていないから、国民に信を問うていないというロジックらしいけれど、これって、冒頭の部分と矛盾しない?

冒頭、「スパイ防止法の制定を含むインテリジェンス(情報収集・分析)機能の強化を柱のひとつにあげた」と、自分で書いておいて、国民の審判を仰いでいないという判断は如何なものか。

普通に考えれば、高市政権がやりたいことという選挙の柱を掲げた以上は、今回の選挙で問うている内容であると理解すべきではないか。

法整備と運用の議論は別

そして、一番やってはいけないことは、法整備の必要性と運用の危険性を混ぜて議論していることである。

推進の与野党は、日本国内でロビー活動や広報などを行う「外国代理人」の登録を義務づけ、影響工作を可視化する法案も検討している。ただ、定義があいまいなら、恣意的な運用のおそれがある。

朝日新聞「(社説)衆院選 スパイ防止法~」より

恣意的な運用ねぇ。

法整備の必要性は認めつつ、恣意的な運用が危ない。だから法整備は駄目というのは論理的に破綻しているのでは。

まとめ

本社説は、立法事実の整理を避けたまま、運用上の懸念のみを前面に出している。そのため、政策論としては説得力を欠く内容になっている。

このことを選挙戦の最中で、投票日目前に当ててきたという事実を踏まえると、朝日新聞の狙いが透けて見える。

スパイ防止法を巡る是非は、本来、冷静な事実認定と制度設計の議論によって判断されるべきなのに、そこを自ら崩していくスタンスである。

選挙の推移を見て焦りのあまり、報道機関としての矜持を忘れてしまったのだろうか?

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