共産主義者の発想かと思ったら、実際にはそれほど単純な話ではなかった。
マムダニ市長市営スーパー計画 肉や生鮮食品を30%割引で提供へ
7/28(火) 13:47配信
ニューヨーク、ニューヨーク州、7月28日 (AP) ー ニューヨーク市のゾーラン・マムダニ市長が市営スーパーマーケットの立ち上げを計画していることについて、批判派からは民主的社会主義者による市内の「共産主義的なパンの配給列」への第一歩だとして酷評の声が上がっていた。
Yahoo!NEWSより
この「市営スーパーマーケット構想」が、かなりぶっ飛んだものだったので、紹介しようと思う。
思想的な問題ではなく、この計画の整合性が怪しいという話だ。市場経済における「価格」という仕組みそのものを揺るがす、大規模な社会実験になってしまう可能性すらあるスバラシイ政策なのである。
価格メカニズムの破壊
市営スーパーマーケットの正体
このニューヨーク市長の座に収まったマムダニ氏が計画する市営スーパーマーケット(以下、「マムダニ式市営スーパー」とする)だが、記事を読んでも一体何が目的なのかサッパリ伝わってこない。
マムダニ氏の説明によれば、ニューヨーク市は全米でも生活費が高い都市の一つであり、食品価格の高騰に苦しむ市民に対して、生鮮食品や肉などを通常より30%安く提供する計画がマムダニ式市営スーパーの実態だという。
しかし市長は27日、市営店舗に対する異なるビジョンを提示し、全米で最も生活費が高い都市の一つであるニューヨークでの食料品価格高騰を相殺する手段として、生鮮食品や肉、その他多くの主要食料品を30%割引で提供すると発表した。
Yahoo!NEWSより
記者会見の発言などを見ても、その「3割引き」の構想であることは疑いがない。
しかし、ここで最初の疑問が生じる。
「30%引き」とは、一体何から30%引きなのだろうか?
市場経済では、商品の価格は単純に店が決めている数字ではない。
需要と供給、仕入れ価格、人件費、物流費、店舗維持費など、無数の要素が反映された結果として価格が形成される。
つまり、「通常価格」が存在するからこそ、「そこから30%引き」という表現が成立する。
しかし、マムダニ式市営スーパーが税金によって価格を下げ、その価格によって周辺の市場そのものを変えてしまった場合、その「通常価格」は一体どこに存在するのだろうか。
30%引きという奇妙な数字
マムダニ式市営スーパーでは、行政が店舗用物件を提供し、家賃や固定資産税などを負担することで価格を下げる計画だという。
市は店舗の日常業務を担当する民間事業者の選定プロセスを開始した。当局者らによると、行政が店舗用物件を提供し、家賃や固定資産税を負担するという。
Yahoo!NEWSより
確かに、店舗運営に必要なコストを行政が負担すれば、販売価格を下げることはできる。
尤も、それでも足りない場合は税金で補填する計画となっているらしい。
市は建設費と内装費を納税者の税金で負担するため、これらの店舗は民間企業のような初期投資費用を負担する必要がありません。また、利益を上げられずに倒産する他の企業とは異なり、これらの店舗の財政的な不足分は市が吸収します。つまり、最終的に損失を負担するのはニューヨーク市の納税者です。
forbesより
利益があげられなくとも、低価格を維持するということのようだね。
さらに問題なのは、インフレが続く状況との整合性である。
仕入れ価格、人件費、物流費が上昇しても「30%引き」という目標を維持するなら、その差額は拡大し続ける。
値上げという市場の調整機能を使えない以上、赤字は行政負担として積み上がっていくハズだ。
市場価格を壊した後に残るもの
さらに深刻なのは、周辺の民間スーパーへの影響である。
ニューヨーク市内には約1万3000軒のボデガ(小規模食料品店)が存在する。しかし、食品小売はもともと薄利であり、店舗によっては厳しい条件の中で営業している。
特に貧困地域では、土地代、人件費だけでなく、万引き対策などの追加コストも経営を圧迫する。
NYで急増する組織的万引き 小売業者に迫られる自衛策
2022年9月28日 11:00
米ニューヨーク市で万引きが急増している。大量の商品を盗み、それを路上やネット商取引で売りさばく組織的犯罪の増加が特に目立っている。大規模盗難は経営にも響くとあって、小売店は商品の陳列棚に鍵を掛けるなどの防御策を講じるが、市民の間では犯罪増への不安も拡大、生活の質の低下を懸念する声が上がっている。
日本経済新聞より
この話、改正保釈法を採用したことで、盗んだ金額が1,000ドル以下の場合は軽罪扱いで、逮捕されてもその日のうちに保釈されるようなお手軽な状態になったと言われ、ここから万引きの急増が確認されたと言われている。
民間企業であれば、この事態の解決方法として
- 商品価格を見直す
- サービスを縮小する
- 店舗を閉鎖する
という判断をした。
しかし、マムダニ式市営スーパー政策目的として「市民に安い食品を提供する」と掲げてしまえば、赤字だから閉店するという判断は政治的に難しくなる。
もし税金によってマムダニ式市営スーパーが低価格販売を続け、その結果として周辺の民間店が撤退した場合、一体何が残るのだろうか。
ブロンクス店の苦境
マムダニ式市営スーパーの1号店はブロンクスにオープンする計画らしく、ここの状況は最初からあまり宜しくない。
来年店舗がオープン予定のハンツポイント地区は、1970年代にサウスブロンクスを大きく変貌させた経済投資の撤退の影響に今も苦しんでいる。同地区は貧困率が著しく高く、住民の約36%が貧困状態にあるのに対し、市全体の貧困率は18%にとどまっている。
世界最大級の食品流通センターが近隣地域にあるにもかかわらず、市長はサウスブロンクスのその地区の世帯の77%が生活必需品の購入に苦労していると推定している。マムダニ市長の事務所によると、ハンツポイントの敷地から4分の1マイル以内には、フルサービスのスーパーマーケットはコンペア・フーズ・スーパーマーケット1軒しかない。
timeより
需要はあるのに供給が不足している状況だというのだ。こんな場所にマムダニ式市営スーパーが誕生したとすると、ただでさえ経営に苦しんでいる既存のスーパーは壊滅的なダメージを受けかねない。
何故なら、潜在需要があるにもかかわらず、既存の1店舗の他に店舗が増えない事実は何らかの阻害要因があることを意味している。これの一因となっているのが前述の万引きの話で、近年は少なくなりつつあるようだが、それでも経営が厳しくなる原因となっている。
そうだとすると、格安の食品スーパーが登場することで、今あるスーパーは経営難に陥る可能性は高そうだ。
「30%引き」の比較対象が消える
ここで、さらに奇妙な問題が発生する。
競争相手が存在している間は、市営スーパーの商品が本当に安いのか比較できる。
しかし、周辺のスーパーが撤退し、市営スーパーだけが残った場合、「30%引き」という数字の基準は失われる。実際にブロンクスではすでに1店舗しかなく、その可能性は濃厚だ。
そうすると、比較する市場価格が存在しなくなり、その時点でマムダニ式市営スーパーは本当に3割引の安値で売っているのか?という疑問が生じ、安値感がなくなってしまう。にもかかわらず、市の税金はどんどん浪費されてしまうのである。
さらに問題なのは、この試みが初めてではないという点である。
アメリカでは過去にも自治体が食品販売事業に乗り出した例が存在する。しかし、確認できる範囲では、市営スーパーとして継続的な運営に成功した事例は確認できない。
多くは採算上の問題などから撤退しているようだ。
値下げ競争が始まれば、マムダニ氏はもしかしたら勝利宣言をだすかもしれないが、そんな経営状態は長くは続かないだろう。何しろ、ニューヨーク市の家賃は上がり続けているのだし、インフレも続いている。
小規模食料品店の売上げが落ちれば、直ぐに運転資金が尽きて撤退を余儀なくされるのだ。ブロンクスの事情なども勘案すれば、こうした事態は本当に笑い事ではないのだ。
そして、撤退できないマムダニ式市営スーパーは、血税を垂れ流し続けながら維持されていくことになる。
膨らむ不満
一方で、このマムダニ式市営スーパーの実現によって、ニューヨーク市民全員に3割引の食品が行き渡るような計画のように聞こえるのだが、どうにもそうではないらしい。
マムダニ市長、市営食料品店の最初の設置場所としてラ・マルケタ地区を選定したと発表
2026年4月14日
ニューヨーク– 本日、ゾーラン・クワメ・マムダニ市長、ジュリー・スー副市長、およびニューヨーク市経済開発公社(NYCEDC)は、ラ・マルケタが市の公営食料品店プログラムの最初の設置場所として選定されたことを発表した。
イーストハーレムに建設される9,000平方フィートの店舗は、一から建設され、2029年までにオープンする予定です。市営の食料品店としては初の店舗が、2027年後半にオープンする見込みです。マムダニ市政は、市長の任期満了までに各区に1店舗ずつオープンする計画です。
NYCより
敷地面積が9,000平方フィートということなので、約280坪/約930平米程度の広さだということになる。日本で言うと、一般的な都市部の食品スーパーの売り場面積が400坪程度なので、マムダニ式市営スーパーはこれより一回り小さい感じの売り場面積になる。
これがニューヨーク全体で5店舗の計画だが、今のところは2店舗の敷地が確保された状態なんだとか。
ニューヨーク市の人口は約800万人である。市内に5店舗という規模では、「ニューヨーク市民が30%安い食料品を買える」という構想とはかけ離れた計画と言わざるを得ない。
まとめ
冒頭で紹介したように、批判派はこの計画を「共産主義的なパンの配給列への第一歩」と表現した。政治的な批判なので、深い意味はないかもしれないが、これが単なる比喩表現では済まなくなる可能性がある。
つまり、マムダニ式市営スーパーが近隣の小規模食料品店を撤退刺せてしまうと、供給がままならなくなり、それこそ配給制度を採用しなければ生活必需品を市民に届けられなくなるリスクすらあるのだ。
何処までの影響があるかは不明だが、マムダニ氏は少なくとも市民の不満を募らせるような愚かな社会実験をしようとしているのではないか。



コメント
ブロンクスとくにサウスブロンクスというと、ジョン・カーペンター「要塞警察」の舞台すな。町そのものが荒廃し警察署閉鎖の晩に、ストリートギャングの襲撃で人質を署長と死刑囚が手を組んで庇うちう。
ウォルダー・ヒル「ウォーリァーズ」もブロンクスを無数のストリートギャングに追われるストリートギャングの物語。つまり昭和の頃のここいらはどんでもなく荒廃してましてね。
最初期の落合信彦「アメリカの狂気と悲劇」で、有名写真家とブロンクスのストリートギャングを撮影しとるすが、中のブロンクスの光景はゾンビ映画がはだしで逃げ出すガチさでした。
周辺のスーパー潰して、そのうち撤退して、食料品が手にはいらなくなり、
元のブロンクスに戻るのでね?と。
いっそ隔離地区にして「ニューヨーク1997」でも狙ってるか?🤣
ちなみにニューヨーク1997の主役はメタルギアソリッドのスネークのモデルすね。
>周辺のスーパー潰して、そのうち撤退して、食料品が手にはいらなくなり..
同じ展開を予想しました。フードスタンプの配給なら分かりますが、NY市が直営食料品店で
割引販売など民業妨害も甚だしい。
NY市は全米でも生活コストの高い街です。そこに生活苦の人びとが大勢いるのはなぜか?
彼らがノースダコタやモンタナに引っ越せば、それなりの暮らしができるのですが。