ちょっと、なかなか洒落にならないニュースだな。
「1号輸出」UAE原発収益率、赤字転換…工期遅延によるコスト増加のせい
2025年8月19日 6時02分
韓国の初の海外原発輸出成功事例として記録されたアラブ首長国連邦(UAE)バラカ原発事業が赤字に転換された。
聯合ニュースより
これはUAE原発の関連記事で、「輸出成功事例」の看板が揺らいでいるという話となる。
- UAE原発輸出事業にて、事業収益が赤字に転落
- 営業運転開始予定の遅延と、未だ最終清算作業に入れない謎
- 他国への原発輸出事業への波及も懸念
赤字の噂が絶えないUAE原発受注
UAEバラカ原発の受注
バラカ原発に関しては、このブログでもこんな形で紹介している。
味わい深い内容なので読んで頂きたいところではあるが、手軽に纏めておこう。
1. プロジェクトの概要
- 受注時期・規模:2009年、韓国企業連合(KEPCO、現代建設、サムスンC&T、斗山重工など)がUAEのバラカ原発(4基、総額約400億ドル)を受注
- 目的:原子炉の建設・運営を通じ、韓国の原子力技術を海外で実証
- 競争状況:日本・アメリカ連合、フランスEDF連合を抑えて受注。提示価格は競合の半額程度とされる
2. 技術・設計背景
- 原子炉の由来:米国System80 → System80+を基にAPR-1400を設計
- 国内実績の不足:2009年受注時点で、APR-1400は韓国国内で1基も稼働しておらず、海外受注の段階では実績がない状態
- 安全性問題の事例:新古里3号機(APR-1400)ではガス漏れ事故で3名死亡、安全管理や警報機の不備が判明
3. 建設上のリスク
- 亀裂・施工不良:
- 3号機格納建物でコンクリート内グリス漏れが発見され、亀裂の可能性が指摘
- 工期遅延や建設費用増加
- 品質管理問題:
- 国内で電源ケーブルの品質保証偽装事件発覚、関連部品導入の疑いあり
- UAEの現場で安全管理体制の脆弱性が浮き彫りに
4. 契約・政治的背景
- 大統領主導のセールス:
- 李明博政権の「経済外交」の一環で積極的にセールス
- 受注の際、格安価格や裏合意(毒素条項)の噂があり、後に事実と判明。財務・政治リスクが内包
- 毒素条項は、「工期遅れに伴う遅延損害金の設定」「韓国軍の自動介入プログラム」「経営権は10年」「法律紛争はアブダビ裁判所でUAE法に基づいて裁かれる」など
5. 教訓・示唆
- 海外受注前に国内実績の不足がある場合、建設リスク・安全管理リスクが顕在化する可能性が高い
- 価格競争や政治主導の受注は、長期的な収益性や安全性に影響を与える
- 契約条件や現場管理体制の不備が、追加費用や法的紛争を招くことがある
こんな感じに雑にまとめてしまったが、この中で今回問題となったのは「受注金額」と「工期遅れに伴う遅延損害金の設定」である。
赤字が明らかに
さて、こういった条件で受注した結果、どうなったかなんだけど。
号機 | 建設開始(着工) | 営業運転開始 | 備考 |
---|---|---|---|
1号機 | 2012年7月 | 2021年4月(商業運転) | 当初計画は2017年稼働予定 → 約4年遅延 |
2号機 | 2013年5月 | 2022年3月(商業運転) | 約4年遅延 |
3号機 | 2014年9月 | 2023年2月(商業運転) | 約3年遅延 |
4号機 | 2015年7月 | 2024年3月(商業運転) | 約3年遅延 |
建設自体は完了して、何れも営業運転が開始されている。なんだけど、あまり順調だったとは言い難い。
19日、連合ニュースが韓戦の今年上半期の財務諸表を分析した結果、バラカ原発事業が大部分を占める「UAE原発事業など」項目の累積損益は349億ウォンの赤字を記録した。累積利回りは-0.2%に落ちた。 UAE原発事業の累積損益が赤字を記録したのは今回が初めてだ。
この事業の累積損益は2023年末4千350億ウォンから昨年末722億ウォンに急減した後、今年上半期に赤字に戻った。累積利回りも2023年末の2.0%から2024年末の0.3%に下がった後、結局マイナスに落ちた。
聯合ニュース「「1号輸出」UAE原発収益率~」より
工期が遅れれば赤字になるのも仕方がない面はあるんだけど、遅れが大きかった1号機は、燃料装荷・試運転の段階で不具合があり、完成から運転開始まで大きく遅れている。
平均で3~4年も遅延すれば、そりゃねぇ。
だけど、記事の中で最も気になったのはここ。
2021年1号機を皮切りに昨年4号機まで順次商業運転に入り、現在発注先と主契約者の韓電が総合竣工を宣言するための最終精算作業を進行中だ。
聯合ニュース「「1号輸出」UAE原発収益率~」より
まて、最終清算作業が未だだと?
これはこれから赤字膨らむ可能性があるってことなんだけど、そもそも商用運転は最後になった4号機も2024年3月に開始できているのに、1年以上経過した今に至ってもまだ何か問題があるのだろうか?
追加費用を巡って訴訟に発展
んで、当然、工期遅れで追加費用が発生すれば、その負担を巡った争いも出てくる。
このプロセスで追加で発生した費用を巡り、親会社である韓国電力公社(KEPCO)と子会社の韓国水力原子力(KHNP)が異例の法的紛争を繰り広げている。
試運転に相当する運営支援業務(OSS)を担当した韓国水力原子力は、発注者であるUAEと韓国電力の責任による工期遅延と追加作業指示により、10億ドル(約1兆4,000億円)の追加費用が発生したと主張し、これを精算するよう求める「クレーム」を韓国電力に提起した。5月にはロンドン国際仲裁裁判所(LCIA)に対し、韓国電力に対して10億ドルの追加工事代金の精算を求める仲裁申請も提出した。
一方、韓国電力は「チーム・コリア」の立場から、UAEに対して追加で発生した工事費の回収を優先すべきだと主張し、両者は意見の相違を埋めることができなかった。
聯合ニュース「「1号輸出」UAE原発収益率~」より
あれ、このニュースは何処かで見たような。
ああ、そういえば5月に記事にしていたよ。
この訴訟、記事に紹介したんだけど、韓国企業同士の争いながら毒素状況の影響でドバイ国際金融センター・ロンドン国際仲裁裁判所(DIFC-LCIA)への仲裁請求となった。
恐らくは、韓国電力が被ることになるんだろうな、と予想。そのうち、韓国民の税金が投入される結果になるということだ。
韓国水力原子力公社(韓水原)が主張する追加工事費を発注元から回収できず、韓国電力公社(韓電)が大部分を負担することになれば、バラカ原子力発電所の累積損失規模はさらに拡大する可能性がある。
現在、韓国電力は韓国水力原子力が主張する1兆4千億ウォンの追加工事費のうち、10%程度に相当する1千700億ウォン程度を債務として計上し、財務諸表に反映させています。
ただし、韓国電力は損失が確定したわけではなく、発注元から追加費用を回収する努力を続けると強調しています。
聯合ニュース「「1号輸出」UAE原発収益率~」より
追加費用を、UAEに負担しろというつもりらしいけれど、流石に無理があるよね。何かUAE側が無理を言ったのだろうか?工事遅延の理由の殆どは韓国側に問題があったように思うが。
そして、開示はされていないんだけど、恐らくは遅延損害金の支払いが何処かに発生するハズなんだけど、今回の記事ではそれに関しては言及がない。運用利益あたりと相殺したのだろうか。
例え赤字になったとしても
で、この記事で不安になった箇所はもう1つ。
韓国電力公社(KEPCO)は、たとえ赤字事業となったとしても、韓国原子力発電所の輸出基盤を築いた事業である点、国内原子力発電所産業に大量の仕事を供給した点など、総合的に評価されるべきだという立場を示しています。
韓国電力は「UAE原子力発電所事業の成果は、建設事業と投資事業が一体となった経済性に加え、国内企業の経済的波及効果、韓・UAE両国の交流協力範囲の拡大など、有形・無形の価値に関する判断が総合的に行われるべきだ」と強調した。
また、「UAE原子力発電所建設事業だけでなく、投資事業にも参加し、今後の60年間の運営期間における電力販売配当収益を確保する予定であるため、建設事業だけで収益性を評価することは不適切だ」と述べた。
聯合ニュース「「1号輸出」UAE原発収益率~」より
うーん、韓国電力公社(KEPCO)赤字事業になることは確実視している感じが出ている。
「有形・無形の価値に関する判断」を口にした韓国電力もかなり弱気。
そして、「今後の60年間の運営期間における電力販売配当収益を確保」って、既に嘘だよという話が出ているよね。確か、10年で一旦見直すという話だったよ?
というわけで、UAE原発の受注は他国への原発輸出の足がかりになれば意味があるよね、ってな話だった訳なんだけど、次のプロジェクトとなったチェコ原発の話も結構怪しい。
この話は未だ分かっていないことも多いのだけれど、かなりディスカウントした感じなので、儲けが出るのかどうか。
まあ、韓国の事情だから良いんだけども、早いとこ最終清算作業が終わるといいね?
追記
対策は終わってますか?
バラカ原発に関しては、過去にも韓国側が色々やらかしているので、ここいらで一度整理しておくのが良いかもしれない。
<バラカ原発のリスク整理表>
区分 | リスク要因 | 内容 |
---|---|---|
短期的リスク | 建設品質不良 | コンクリート空洞、グリース漏れなど施工不良による安全性低下。 |
偽証明書部品の混入 | 韓国国内で発覚した不正部品事件が輸出案件にも波及。再検証・交換の必要性。 | |
安全審査の遅延 | FANRが提出資料の不備を指摘。外部電源喪失・複合事象の分析不足が露呈。 | |
運転員不足 | UAE国内に経験者ゼロ。国際基準に合致する訓練とシミュレーションが必須。 | |
長期的リスク | 運用文化の不一致 | 韓国国内での事故隠蔽体質(古里1号機停電隠蔽など)に基づく不信。運用の透明性不足懸念。 |
保守・更新対応 | 長期運用で部品調達や検査体制が韓国依存となり、持続性に疑問。 | |
廃棄物管理 | 使用済み燃料・放射性廃棄物処理体制が未確立。長期保管リスクが残存。 | |
地政学的リスク | 中東唯一の原発として、テロ・軍事攻撃・地域紛争時の標的化リスク。 | |
国際的な懸念 | カタールなど近隣諸国からの安全性抗議。IAEA監視下でも地域不安を惹起。 |
短期的リスクに関しては、恐らくこれまでに解消した話だろうと思われる(未確認)のだけれど、長期的リスクに関しては、今のところ解消できてはいないと思う。
短期的リスクを整理する
で、短期的リスクのところに整理した「建設品質不良」「偽証明書部品の混入」の2つの項目が、当時の韓国を揺るがした事件でもあった。
順番が逆にはなるが、先ずは証明書偽装について。
韓国古里3・4号機原発の冷却装置部品も偽造品
2012.12.06 08:26
霊光・蔚珍原発に続いて古里原発3・4号機にも安全と直結する部品の一部が偽造品であることが明らかになった。原発設備冷却用の海水を循環させる冷却海水ポンプの部品が偽造品で、これが故障する場合、原発が突然停止する危険もある。
中央日報より
韓国、原発の書類偽造2200件超
2013年10月10日 19:02
韓国政府は10日、原発部品の性能証明書偽造が5月に発覚したのを受けて、建設中も含めた全原発の書類を調査した結果、2287件で偽造を発見したと発表した。
日本経済新聞より
これが中々の大事件で、通常原子力発電所に使われる部品は特注品が多く、性能証明書が付けられているケースが多い。重要な部分には特別な強度や耐久性、或いは性能を発揮する部品が使われるんだけど、これが偽造であったことが発覚。
そして、実際に部品が正規品ではなく偽造品であったケースもあって、悪いことにバラカ原発に輸出したAPR-1400型原子炉と同型の原子炉でも見つかった。そして、実際に、バラカ原発にニセ部品を輸出してしまっていたんだよね。
国内原発「偽造部品」摘発メーカーUAE建設原発に同じ部品の配信
入力2014.08.29 09:29 修正2014.08.29 11:41
国内で偽造部品を納品して摘発された業者がアラブ首長国連邦(UAE)で建設中のバラカの原子力発電所にも部品を納品したことが確認された。これらの企業の中には、アラブ首長国連邦の原発の参照モデルである新古里原発3・4号機(各140万㎾級)に偽造部品を納品したところもあった。
Daumより
このおかげで、既に2012年より建設の始まっていたバラカ原発1号機の部品について全品チェックし直すなどということになってしまう。
そしてもう1つが「建設品質不良」の問題だ。
新古里3・4号機をモデルにしたUAE原発でも、格納建屋壁に「すき間」
登録:2018-10-17 09:14 修正:2018-10-17 09:52
韓国国内の原子力発電所のいたる所で、放射線流出を防ぐ防護壁の役割を果たす原子炉格納建屋の壁の内側に空隙(すき間)があることが明らかになり、原発の安全に対する不安が高まっている中、韓国電力コンソーシアムがアラブ首長国連邦(UAE)で建設している「バラカ」原発1~4号機の格納建屋にも空隙が見つかり、補修工事が行われていると明らかになった。最近建設された国内の原発も調査すべきだという指摘が出ている。
ハンギョレより
韓国が建設したUAE原発に“亀裂”可能性…UAE側“調査中”
登録:2018-12-16 22:48 修正:2018-12-17 11:16
アラブ首長国連邦(UAE)で韓国が建設中のパラカ原子力発電所3号機格納建物に“亀裂”がある可能性が提起された。コンクリート壁内に注入した潤滑油のグリスが、壁の外側にできた空隙から漏れ出ているのが発見された。不良施工問題で、工事期間の遅延と建設費用の増加が予想される。
ハンギョレより
この「隙間」に関しては、韓国国内の多くの原発で見つかっていて、バラカ原発でも1~4号機全て見つかった。一方でグリス漏れの方はバラカ原発3号機で確認されちゃった。
韓国の施工技術は本当に大丈夫なの?と、UAEが疑心暗鬼になるのも無理はない。この結果、UAEの原子力規制庁(FANR)は、韓国側が提出した設計・建設の申請書に対し、非常に細かい安全審査をするに至った。
で、「安全審査遅延」というようなことに。1号機の建設が長引いた背景にはこんな話があったようだね。そして、2~4号機の建設も1号機建設開始と間を置かずして開始したことが、裏目になって次々と同じ問題として発覚。結果、平均で3~4年の遅延ということに繋がったわけだ。
長期的リスクを整理する?
一方で、長期的リスクの方だけども、短期的リスクには全て対応する細かい修正が行われたと仮定(商用運転に至ったということは、少なくとも安全性を確保できるに至る確信を得られたという意味だろう)して、この対応が適切だったのか?も含めて、ある程度は影響する話。
そして、「地政学的リスク」ってヤツが割と厄介だね。
韓UAE軍事協定は合わせて6件…李明博政権時代の4件の「機密指定」めぐる議論も
登録:2018-01-05 01:56 修正:2018-01-05 09:08
昨年末、イム・ジョンソク大統領秘書室長の突然のアラブ首長国連邦(UAE)訪問で、韓国とアラブ首長国連邦間の軍事協力内容が改めて注目されている。政府は公式確認を避けているが、これまで韓国とアラブ首長国連邦間の間で署名された国防協力関連の文書は、公開協定1件と非公開約定及び了解覚書(MOU)5件であることが、3日に確認された。特に非公開の秘密文書は、2010年アーク部隊のアラブ首長国連邦への派兵を控えて締結されたことが明らかになり、当初から議論の火種を抱いていた。
ハンギョレより
色々とやらかしてしまった過去の大統領の宿題を韓国軍が背負っている感じだね。
いやもう、長期的リスクに関しては整理しても仕方がないので、「やっちゃったね」としか。
コメント
過去記事を参照していて、韓国側がバラカ原発の契約後に、日立へ技術協力を要請して断られたとか、原発の防衛部隊を現地に常駐させたとか、ムンムンの首席秘書官がUAEに出張したら帰国後に解任されたとか、いろいろ懐かしく思い出されて、朝から笑いがこぼれた。
バラカ原発の”ささいな”故障は、1つ2つではなかったような気がするけど、これまでよく維持してこれたなーというのがいまの率直な感想。(ソノウチ爆発スルンジャナイカトカ考エテナンカイナカッタヨ。)
バラカ原発建設は、将来韓国が核技術を手に入れるための一里塚でもあり、軍も絡んでいるので、どんなに赤字を出しても、とりあえず救済はされるんじゃないですか。
バラカ原発の話はキチンと纏めておいた方が良いんですが、毒素条項もそこそこ誇張されて報道された部分もありましたから。答え合わせ用に一度何処かでやっておきます。
「些細な故障」も、列挙しておく必要がありますよね。
どうして、未だに検収が出ないのかな?というあたり、気になりますね。
見守っていきたいと思っています。
こんにちは。
イ・ミョンバク(あ、こいつもミョンミョンだ)政権時代のツケですね。
当時から「裏取引あるんじゃね?」とか「採算取れないんじゃね?」とか言われてましたが、答え合わせのフェイズに(やっと)入りましたか。
警備員(≒韓国軍)の費用だけで足が出るんじゃないかって思いますけど、まあ、「やっただけでも価値が有るニダ!」って思ってるんなら、良いんじゃないですかね?
お前(韓国)の中ではな。ってやつで。
※技術的朝鮮プロジェクトで何かを達成した結果の赤字ならともかく、商業プロジェクトで赤出したらそれは失敗以外の何者でも無い。
こんにちは。
色々なツケは、支払わされることになりそうなので、追記で少しだけ整理をしようと思ったら、結構混乱してしまいました。
纏めるのも結構大変ですね。