勇ましいことを言っていたトランプ氏だが、随分と引き下げた印象だね。
【詳しく】米中貿易協議 双方が追加関税115%引き下げで合意
2025年5月12日 21時50分
アメリカと中国の両政府はスイスで行われていた貿易協議の結果、現在、相互に課している追加関税について115%引き下げることで合意したと明らかにしました。
NHKニュースより
相互に課している追加関税を115%引き下げた、と。つまり、アメリカは145% → 30%、支那は125% → 10%になったわけだ。
勝ったのは誰だったのか
高率関税路線は概ね現実路線に
あー、感覚が麻痺していたけれども、30%の関税って他国と比べてちょっと高い程度に落ち着いたというわけだ。

現実的な路線に落ち着いたという見方も出来るけれども、トランプ氏はディールをした、支那は「勝利した」という結果を引き出したと見ることも出来る。
冷静に考えると30%の関税も割と高めなんだけども、そこは支那としても飲み込むしかないのかも知れない。
対中関税「80%が正しそうだ」 トランプ米大統領、引き下げを示唆
2025年5月9日 22時29分
トランプ米大統領は9日、自身のSNSに「中国には関税80%が正しそうだ」と投稿した。米国は10、11の両日、スイスで中国側と関税をめぐる協議に臨む予定。交渉次第では、現在の計145%の対中追加関税を80%程度にまで引き下げる準備があることを示唆したものとみられる。
朝日新聞より
関税交渉前に80%が適切と煽るようなことを言っておいて、結局、30%に落ち着いたというのは、交渉の過程を見る限りはアメリカが大きく譲ったように見える。
実際、支那は「アメリカと交渉をして勝利をもぎ取った」という宣伝を国内でしているようで、習近平氏のメンツが保たれたと言えそうだ。
印象的勝利
例えば、環球時報ではこんな紹介をしている。
スイス協議の結果は予想を上回るもので、国際社会は米中両国による同時かつ大幅な関税引き下げを歓迎した
2025/05/13
「国際社会は12日、ジュネーブで行われた中国と米国のハイレベル経済貿易協議の実質的な進展を温かく歓迎した。 中国と米国が同日発表した共同声明によると、双方は2025年5月14日までに、二国間の関税水準を大幅に引き下げる措置を取ることで合意した。米国は中国に課している関税の合計91%を撤廃し、中国側もこれに対応して91%の対抗関税を撤廃した。米国は24%の「相互関税」の実施を停止し、中国側もこれに対応して24%の対抗関税の実施を停止した。 24%の対抗関税 シンガポールの『Lianhe Zaobao』によると、中国とアメリカは同時に115%の対抗関税を取り消し、停止する。 さらに双方は、中国、米国、または合意された第三国で持ち回りで定期的または不定期に行われる中米経済貿易協議のメカニズムを確立することでも合意した。
~~略~~
AFP通信が12月12日に引用した業界筋は、今回の成果は特に北京にとって成功だったとコメントしている。「中国は、米国の高関税の脅威に対して妥協することなく毅然とした態度で臨み、最終的に(米国に)関税を大幅に引き下げさせることに成功した」。
環球時報より
「我、勝利せり」といった様相のアナウンスである。スゴイネ。
習主席の強硬姿勢、劇的な関税引き下げもたらす-米政権が譲歩
2025年5月13日 4:43 JST 更新日時 2025年5月13日 10:38 JST
中国の習近平国家主席は関税問題でトランプ米大統領に対して一歩も引かない姿勢を貫き、好結果を得た。
Bloombergより
Bloombergも似た感じで報道しているね。
別件で似たような記事を朝日新聞が書いていて、ちょっと興味深い。
スピード交渉で米が日本に求める「象徴的勝利」 関税撤回は困難か
2025年5月2日 17時12分
米ワシントンで1日にあった2度目の日米関税協議は、日本側の想定を大幅に超える130分に及んだ。トランプ米政権が対日交渉にかける意気込みの強さがうかがえるが、米側が得たいのは「象徴的な勝利」だ。赤沢亮正経済再生相も「6月合意」に向けた期待を語るが、スピード交渉の対価として日本が得られるものは――。
朝日新聞より
この記事の要旨は、アメリカが対日交渉で「勝利を印象づける結果」を欲しているというものだ。
米戦略国際問題研究所(CSIS)のシニア・アドバイザー、クリスティ・ゴベラ氏は「トランプ政権は、日本との協定を成立させ、それを早期の勝利として主張したがっている」とみる。グリア氏も「数週間以内にいくつかの初期の合意を発表する」と意気込む。
朝日新聞「スピード交渉で米が日本に求める「象徴的勝利」」より
果たしてそうだろうか?
トランプ氏が強硬姿勢を見せて交渉をするタイプの人物である事は広く知られているが、表面的な勝利を熱望するタイプのようには感じられない。確かに、成果を針小棒大に喧伝するきらいはあるが、どちらかというと「実を取るタイプ」のように思う。
支那との貿易交渉についても、トランプ氏が大きく譲歩したように見えるのだが……、現実的に飲み込むことの出来るラインで支那にとってはかなり負荷の高い関税率が設定されたように見える。
高率関税の維持は現実的ではない
そもそも、145%の関税率は事実上の貿易禁止にあたるような措置だといえる。支那側の設定した125%も似たようなモノだ。
そして、設定した側の国の国民の負担になるというのが現状なのだ。
ザックリした説明をすると、関税を高くする場合に得られるメリットは、自国の「同質の製品」の価格交渉力が上がるというものだ。
例えば、アメリカ企業Aは125円の商品を製造しているが、支那企業Bは輸送コストなど利益を加味しても100円でアメリカに輸出ができる状態であったとする。国民は同質の商品であれば安い方に手を伸ばすハズだ。だがここに30%の関税を課すと、支那企業Bは130円で売り出さねばならず、アメリカ企業Aの売り上げが伸びるということになる。実際の計算はもう少し複雑のようだが、話を簡単にしたいので。
で、この事例の場合で売り上げが伸びる理由は相対的にアメリカ企業Aの製品の方が安くなるからなのだが、しかしアメリカ企業Aの製品生産能力が低い場合には、需要と供給のバランスの問題で価格上昇を招くことも。
アメリカと支那との関係で言えば、支那が作るモノをアメリカは同じ価格帯で作れないし、アメリカで作るモノを支那では作れない。そうすると、両国の国民は単純に関税分だけ高くなった商品を買わざる得ないことになる。
トランプ大統領は12日、習主席と今週末にも話す可能性があるとし、中国との関係は「完全にリセットされた」と述べた。また自動車、鉄鋼、アルミニウムなどの分野別関税は今回の合意には含まれていないことを明らかにした。
ベッセント氏はCNBCに対し、米国は全面的なデカップリング(経済的分断)を目指していないが、鉄鋼や医薬品、半導体といった戦略上重要な分野の保護を望んでいると語った。
Bloomberg「習主席の強硬姿勢、劇的な関税引き下げもたらす」より
相変わらず口先だけで周囲をかき回すトランプ氏の発言はさておき、ベッセント氏の指摘通りにアメリカとしては経済的分断を目指してはいない。ただし、自国の経済を支那にメチャクチャにされているので、それを是正したいというのが本来の狙いなのである。
トランプ氏の今回のこの交渉、支那の勝利という印象で終わってしまうと、失敗要素の方が強い様には思うのだけれど、最低限の実の部分は確保できそうなので完全失敗とも言えないだろう。
支那の貿易にトドメを刺すのは目的ではない
それと、トランプ氏としても支那経済の息の根を即時止めることは目指していない印象である。だが、どうやら想定よりも大きな影響がでていたのか、割とスピード感重視で交渉妥結に持ち込んだ。
中国の貿易統計によりますと、4月のアメリカへの輸出額はドル換算で去年の同じ月と比べて21%のマイナスとなり、大幅に減少しました。アメリカのトランプ政権が4月に、中国への追加関税を145%に引き上げたことで、アメリカへの出荷の停止が相次ぐなどしたためです。
また、中国がアメリカへの追加関税を125%としたことでアメリカからの輸入額も去年の同じ月と比べて13.8%減りました。
~~略~~
中国の4月の製造業の景況感を示す指数は3月から大幅に悪化し、景気のよしあしを判断する節目となる「50」を3か月ぶりに下回りました。輸出の停滞を受けて企業の生産や新規の受注が減少したためで、企業の間で慎重な姿勢が急速に強まっています。
NHKニュースより
ただし、相当なインパクトを与えてしまったようで、短期的な落ち込みが発生。これが支那経済にどの程度の悪影響を与えるかは分からないが、景況感の悪化は厳しいと思う。
90日間の期限付きとはいえ、大幅緩和の報道が出れば市場は過敏に反応しそうだね。
現時点では、報道されるほどトランプ氏の負け、習近平氏の勝ちではなかったというのが、僕の正直な感想である。そして、想定したよりもトランプ氏が妥協した印象は強かった。とはいえ、90日後に55%になることを考えると市場の反応は微妙な感じになるかもね。
追記
…。
レアアースの急所突いた中国 「巨大な勝利」の裏に毛沢東の持久戦論
2025年5月14日 5:00
「素晴らしい。多くの人の予想を超えた成果だ。中国にとって巨大な勝利だ」。米中両政府が12日、相互に課した追加関税の引き下げで合意したと発表すると、中国共産党系メディア、環球時報の元編集長、胡錫進氏は同日、中国のSNS「微博(ウェイボ)」で喝采の声を上げた。
日本経済新聞より
その評価でいいんだ、環球時報の元編集長としては。
勝ったという事実を手に入れて、貿易ではやや苦戦しつつも輸出が続けられる。宣伝をすることで市場にもプラスの評価を受けるということなら、戦略的にはアリ寄りの判断なのかね。
コメント
数字だけ見たら・・・
昔の秋葉原、関西の値段表示と、客と店員さんのやり取りみたいな感じに見えますね。
わりと安い値段表示されてるのに「これいくら?」と聞いたら電卓出してきてさらに安くなるっていう。(笑)
もしくは、やりたくない案件の見積書とか。
(やんわりと「他所でやってね」という意味を加えた金額になっている)
ただ、貿易に関しては仰る通りで、自国にある産業が必要十分であれば、その産業を守ることも出来ようもんだけど、なければ価格が上がるだけで終わるし、それだけで育つとも思えない。
雇用と製品(サービスや見合った性能とか含む)また、原材料、流通に関してすべて考慮しないといけませんからね。
いずれにしてもアピール目的での極端なことはよくないってことですね。
トランプさんは好きそうですが。
まあ、昔から米国は「自分の正義が世界の正義」って押し付けるきらいがあるので、トランプさんだけの責任でもありませんけど。
こんにちは。
これ、実はギリギリの所で支那が損する程度の税率は維持されてるとか何とか。
楽韓さんその他の斜め読みで、ちゃんとは理解してないですが……
「取って付けた贅肉(税率)を斬らせて、骨に毒(不況)を注入」的な事だと、個人的にはやったぜベイビーなんですが……
習近平の勝ちねぇ……30%で?😂
家計と一緒にしちゃアレだけど、俺ら庶民も消費税が30%なったら死にますね。
大量生産物にかける関税としても、かなり高関税と思いますが。
それで「勝利」だというシナ人の脳が解らない。さすがは白髪三千丈の国だけある。
Weiboから流れてきた議論を横目で眺めていたのですが、「今回合意は小休止にすぎず、
このあと後半戦があるから糠喜びするな。むしろ90日後の合意期限切れまで、
米国は我が国(支那)を揺さぶり続けるだろう」という話が面白かったですね。
揺さぶるネタとしては、支那に買われた土地の奪還とか、支那資本企業の上場廃止とか、
支那留学生VISAの引締めとか、いろいろありますからね。
ほほー。微博は翻訳ソフトが鬱陶しくて最近は見てませんが……なるほど。
シナ側にも、かなり冷徹に観察している人がおるのだなと。まあ政策あらば(人民は)対策あり…の国ですから、国の言うなりになるとロクでもなくなる事を賢い人は知ってる国ですからね。
とはいえ砂漠の男様のコメを読むと、
キンペー万歳な押し付けに対する異論を、もうキンペー政権が根こそぎ潰す事はてきなくなって来ているように思えました。