オーストリアの話題がコメントに出ていて、調べようとしたらえらく苦労した。情報を集めようにもあまり日本語でニュースになっていないんだよね。
オーストリア大統領、21~25日に来日 大阪・関西万博も訪問
2025/5/14 16:01
政府は14日、オーストリアのファンデアベレン大統領が21~25日の日程で来日すると発表した。滞在中、天皇陛下との会見や石破茂首相との会談を予定。
産経新聞より
調べたら、万博絡みで日本にオーストリア大統領がお見えになるというニュースがあった程度だ。どうやら、政治的な話もする模様。果たして、どんな話し合いが持たれるのだろうか。
立ち位置はロシア寄り
旧ソ連とナチス・ドイツに蹂躙された国
そもそも、日本人にとってオーストリアはあまり関わりのある国とは言えない。チェコ、スロバキア、ハンガリー、スロベニアと、旧ソ連の衛星国が並ぶ中で、やや大きめなドイツの隣国である。オーストリアもドイツ軍に侵攻されたのにソ連軍に侵攻され、戦後はアメリカ、イギリス、フランス、ソ連の連合国によって分割占領され、共同管理下に置かれる悲運を辿る。
で、1955年にようやく占領から独立。

あとは、首都がウィーンで音楽の街としても知られ、国家としては共和制を採用している位の情報しかない。いや、600年以上続いたハプスブルク家の支配のことも忘れてはならない。
で、政治的立ち位置は社会民主主義的な匂いの強い国家ではある。共和制だけれどね。
オーストリア、天然ガスを発見す
さて、ここからが本題である。コメントにも頂いたが、オーストリアが天然ガスを発見したという報道があった。
オーストリアで今世紀最大量となる天然ガスを発見
2023.07.31 12:00
ロシアとの緊張が高まり、欧州のエネルギー安全保障への懸念が高まる中、オーストリアの総合エネルギー企業OMVは28日、過去40年間で、そして間違いなく今世紀に入って最大量の天然ガスの発見といううれしい驚きをもたらした。
同社はオーストリア・ニーダーエスターライヒ州のビッタウ・ティーフ2a試掘井で良好な結果が得られたと発表した。予備評価では、可採資源量は約48テラワット時、石油換算で2800万バレルとされている。
Forbesより
実のところ、オーストリアはロシアからの天然ガス輸入に依存(2021年で8割依存)しており、トラブルにより訴訟にまで発展している。
OMV、オーストリアの契約をめぐりガスプロムとの法廷闘争に勝利、4800万ユーロの賠償金を獲得
2月4日 22:16
オーストリアのOMVは、ガスプロム・エクスポートとの新たなガス供給契約をめぐる法廷闘争に勝利したと発表した。今回はオーストリアの契約であり、1月初旬にストックホルム商工会議所(SCC)でドイツに有利な判決が下されたことを受けてのものだ。また、4800万ユーロの賠償金も支払われたと付け加えた。一方、契約自体は2024年12月中旬に終了した。
OMVは2024年度財務報告書の中で、「2025年1月3日、ストックホルム商工会議所はオーストリア供給契約に関する仲裁手続きにおいてOMVに有利な判決を下し、ガスプロム・エクスポートLLCによるOMVへの賠償を認めました。この有利な判決を受け、オーストリアガス供給契約に基づく負債の一部相殺による財務的影響は、当該利益がもはや偶発的なものではなくなったため、2025年度のその他の営業収益に4,800万ユーロ計上されました」と述べています。
TASS通信より
ソースがタス通信というのが怪しいところだが、このニュースではロシアからオーストリアへの新たなガス供給契約が2024年12月に終了、法廷闘争でガスプロムにOMVが勝利、というようなことが言及されている。
EUからも脱ロシアがせっつかれていたので、これ自体は問題がないのだが、記事によればOMVとガスプロムとの契約は2040年終了の予定のものが未だ継続中であるようだ。
で、それとは別に天然ガスの発掘が成功したとのこと。
同社は、英石油・ガス大手BPとの液化天然ガス(LNG)の長期的な供給契約を結んだその日に、今回の発見を認めた。両社は共同声明で、2026年から10年間、年間最大100万トンのLNGを供給する売買契約の締結を発表した。本契約に基づき、BPはOMVにLNGを供給し、OMVが再ガス化能力を有するオランダ・ロッテルダムのゲートLNGターミナル、または欧州の他のターミナルを通じてLNGを受け入れ、再ガス化する。
Forbesより
なんかタイミングが良すぎるような気もするが、欧州の顧客への安定供給を支えることが出来るとかで、これ自体は朗報なのだろうと思う。
黒海での天然ガス開発
で、それとは別に海底ガス田も見つけたのだとか。
OMVペトロムとロムガス、黒海での天然ガス開発で生産井の掘削開始
2025年03月31日
オーストリアのエネルギー大手OMVのルーマニア子会社OMVペトロムと、ルーマニア国営石油会社ロムガスは3月25日、黒海のルーマニア沖160キロに位置するネプチューン深海(Neptun Deep)で、天然ガス田ペリカンサウスとドミノの開発・採掘に向けた掘削作業を開始したと発表した。
ネプチューン深海開発計画では、ペリカンサウスガス田に4本、ドミノガス田に6本、計10本の生産井を設置する予定で、フル生産時にはルーマニアの天然ガス生産に年間約80億立方メートルを供給する見込みだ。
JETROより
オーストリア企業OMV、ノルウェー沖で天然ガスを発見
2024.08.27 10:30
オーストリアの総合エネルギー企業OMVは23日、ノルウェー沖で大規模な天然ガスを発見したと発表した。
同社はノルウェー海に位置するハイドン・モン鉱区の掘削を完了した。それにより、同鉱区の天然ガスの可採埋蔵量は、石油換算で最大1億4000万バレルに上ることが分かった。同鉱区はノルウェー本土から西に300キロ、水深1064メートルに位置する。同鉱区から約65キロの距離には既存のアースタ・ハンスティーン・ガス田があり、ポラーレド・パイプラインも通っている。また、OMVがすでに出資している産業ハブも整備されていることから、生産したガスを市場に出すことも想定される。
Forbesより
随分と手広く天然ガス採掘をやっているようで。次々と発見しているのは驚異的ではあるが、どうやら国家プロジェクトで天然ガス開発を進めているようで、それなりの資金投入はしているようだ。
これは、鼻息も荒くなるね。
ただこうした天然ガス田の開発に完全に成功したとしても、オーストリア国内の自給率を最大で2割程度しか賄うことができないと見積もられている。現在、オーストリア国内で産出する天然ガスは国内需要の1割程度。国内ガス田(Wittau Tief)の発見によって5割増産することが可能で、海底ガス田の開発に成功すれば更に積み増しは出来そうだという目算になっている。
海底ガス田に関しては複数の国の企業との共同案件なので、オーストリアの自給率にどの程度貢献できるかは不明。多くても需要の5%程度ではないかといわれていて、そうすると概ね2割が国産化出来る可能性があるという話になっている。
もちろん、国産の天然ガスがあるかないかでは大きく違う。輸入価格にも影響するしね。
極右政党除く連立政権
さて、このような状況にあって、今年の3月にはオーストリアの政権の交代が行われるに至る。
オーストリア 極右政党除く3政党で政権発足へ
2025年2月28日 7時56分
ヨーロッパ中部のオーストリアでは、去年9月の議会選挙で極右政党が第一党となり、新政権の枠組みを決める連立協議が難航してきましたが、27日、極右政党を除く3つの政党が政権を発足させることで合意したと発表しました。
オーストリアでは去年9月の議会下院の選挙で、1950年代にナチスの元党員によって設立され、移民や難民に排他的な姿勢を掲げる極右政党の自由党が第一党となりました。
NHKニュースより
実に意味がわからないのだが、多数の票を獲得した自由党が第一党となったが、大統領は第二党に連立協議をしろと命じて、自由党を除く3党連立での政権が誕生。
こうした中、国民党は自由党を除く連立政権に向けて再び協議し、選挙からおよそ5か月が過ぎた27日、中道左派の社会民主党など3つの政党で政権を発足させることで合意したと発表しました。
NHKニュース「オーストリア 極右政党除く3政党で政権発足へ」より
日本でいうと、自由民主党を除いた、立憲、国民、維新、公明あたりが手を組んで与党になった感じなのか。意味がわからないな。
オーストリア自由党は29,2%の得票で第一党になったが、ナチスの元党員によって設立されたという理由で忌避されたらしい。

選挙直後から、政権樹立は難しいとは言われていたから、その可能性はあるんだろうとは思っていたけれど、まさかねぇ。
第2党に転落してしまったオーストリア国民党は中道右派で、第3党に転落した社会民主党は中道左派、ここに第4党になったネオス党も中道左派に位置づけられる政党のようだ。
政党名 | 獲得議席数 | 得票率 | 前回比(議席数) |
---|---|---|---|
自由党(FPÖ) | 57 | 28.8% | +26 |
国民党(ÖVP) | 51 | 26.3% | -20 |
社会民主党(SPÖ) | 41 | 21.1% | +1 |
新オーストリア・リベラルフォーラム(NEOS) | 18 | 9.1% | +3 |
緑の党(Die Grünen) | 16 | 8.2% | -10 |
議席数差があまりなかったので、2位から4位まで手を組んだら1位の政党よりも議席数が多くなったというのは分かるんだけど、オーストリア国民はよくこれで納得したな。ネオス党以外は全て連立で政権担当した経験があるので、運営はやれるんだろうけれども意見は対立しそうだよね。
オーストリアは支那と距離が近い
さて、そんな情勢の中で気になるのはロシアと支那との話だ。
これまでオーストリアは割とロシア寄りの立ち位置で政権運営がなされてきたようなのだけれど、流石にウクライナ侵攻以降はロシア寄りの立場を取るわけにはいかなくなった模様。ただ、支那とは距離が近いままなんだよね。
中国:オーストリアとイノベーション協力に関する会談
2021年5月31日、王志剛中国科学技術部部長はレオノーレ・ゲベッスラー・オーストリア気候変動・環境・エネルギー・交通・イノベーション・技術相とビデオ会談を行い、両国首脳の共通認識、科学技術イノベーション計画、中国とオーストリアの科学技術イノベーション協力の実施等の議題をめぐって突っ込んだ意見交換を行った。
王部長は、近年の中国とオーストリアの科学技術イノベーション協力は持続して深化しており、一連の成果も達成し、中国とオーストリアの友好的な戦略的パートナーシップ関係が深まった旨、強調した。また、今後、中国とオーストリアの両国は炭素中立の目標達成に向けて、多方面において高度に戦略的な連携を推進しており、科学技術イノベーション協力の可能性は大きい旨、発言した。さらに、両国は、中国とオーストリアの外交関係樹立50周年を契機として、コミュニケーションと協力を強化し、新型コロナウイルスや気候変動等の世界的課題に共同で対応し、ポストパンデミックの時代において、両国および世界の経済の復興を推進するために科学技術による貢献を果たすよう希望する、と述べた。
研究開発戦略センターのサイトより
日本の外務省の調査(オーストリアの民間機関に委託して調査)によると、東アジアでの最も重要なパートナーはとの質問に対し、「日本」と回答したのが23%であったのに対し、「中国」と回答したのが56%だったとか。
支那が積極的にオーストリアに進出しているからね。
貿易規模 | 2023年の両国間の貿易総額は約125.5億米ドルに達し、中国はオーストリアにとってアジア最大、世界第2位の貿易相手国 |
---|---|
主要輸出入品目 | ・オーストリアから中国への輸出:機械・機器(17.6億ドル)、電気機器(7.5億ドル)、自動車(5.8億ドル)、医薬品(4.1億ドル)など。 ・中国からオーストリアへの輸出:電気機器(17.9億ドル)、機械類(9.8億ドル)、自動車(3億ドル)、有機化学品(2.7億ドル)など。 |
投資動向 | ・オーストリア企業の中国進出:約650社が中国に進出し、900以上の拠点を展開。直接投資額は63億ユーロを超え、24,000人以上を雇用 ・中国企業のオーストリア進出:約50社が主にウィーンを拠点に30億ユーロ以上を投資し、3,000人以上を雇用 |
ざっと纏めてみたが、なんというか「ズッポシ」という感じの依存関係にある。
日本との関係はアジアでは第2位で、総額約48.6億米ドル程度。そりゃまあ、支那第一!と答えるのも当たり前だよね。
尤も、この関係が今後も続けられるのかというと、支那経済が左前になっているので怪しい限りなんだけれども。
はい、そろそろ冒頭のニュースに戻っていきたいと思うが、こういった状況下でオーストリアの大統領の日本訪問がどんな意味を持っているのかは、なんとなく感触が掴めたと思う。
日本としてはオーストリアとの関係強化に旨みがあるかどうかがキモなんだけど、ヨーロッパ進出への足がかりとして支那に重要視された感じとはまた違う立ち位置になるだろうと思う。なんとなく連携強化しても良さげではあるんだけど、今回の政権はリベラル色が強い。
相手も探りを入れている状況だし、日本としても様子見をしながらで良さそうかなーというのが、僕の感想だ。
コメント
オーストリアねぇ……チョビ髭の国ですが。
総統閣下の出生国なのだから「侵攻」には当たらないだろう……と想うたですが。
チョビ髭閣下、オーストリア・ハンガリー合同帝国(ハプスブルク家)の兵士でなく、わざわざドイツ帝国(プロイセン)から出陣してます。
てことは、よほと母国が嫌だったのか、そのせいで母国に復讐したのか?
しかし……神聖ローマ帝国の末裔なのに、のんか影が薄い国すね。
ちなみにハプスブルク家の皇統をつぐ方は、オーストリアでなくドイツの方に、
連邦議員としておられる(おられた)はすです。ハンガリーと組んで、もう一回
立憲君主国家としてやり直せば良いのに。
立憲君主制度は良いすよ。日本もブリカスもタイランドも。安定した国は多い!
そういえば、ちょび髭生産国でしたね。
ドイツとも親和性の高い国ですが、どうしても左寄りなんですよね。
プロイセン王国に戻ればいいのに。え?違う?
いやまあ、他国のことだからなんとも言えませんが、しかしヨーロッパの一部はもうちょっと結束して強くなってもいいと思うんですよね。EUでは弱々しすぎて。
こんにちは。
最初、オーストコリア国の話かと思ったらオーストリアでした。
で、オーストリアというと、真っ先に怒れるセルビアの若い衆がカチ込んで……って悪い記憶が出てくるのがダメなミリオタの常ですね。
※日本で同じ事やってくれるなよ。
中国に全プッシュしている欧州各国は、最近の中国の経済情勢に気が気じゃないでしょうけれど、だからこその天然ガスで盛り返しだ!ババーン!なのかも……とか邪推してしまいます。
ていうか、欧州って、先進国イメージ先行で、内情は充分にグダグダのゴチャゴチャの三流国揃いなんですよね……
こんにちは。
実際のところ、オーストラリアも似たような課題は抱えているんですがね。
それはさておき、セルビアの若い衆みたいな話は確かに勘弁願いたいですが、残念なことにネオナチのような組織が暗躍していることを考えると、案外笑えない現実がありそうですよ。そして、口ばっかりで実際には弱腰の政府と。
何か、第二次世界大戦前夜のような光景になってきたと感じるのは気のせいでしょうかね。