面白いニュースを引っかけたので、これを軸に少し解説を加えていきたい。
川崎重と独タウルス社、技術協力を検討 巡航ミサイルのエンジンで=関係者
2025年10月17日午後 4:26 GMT+92025年10月17日更新
川崎重工業とドイツの防衛企業タウルス・システムズが、巡航ミサイル向けのエンジン技術で協力を検討していることが分かった。事情を知る複数の関係者が明らかにした。タウルスが川崎重工の技術に関心を寄せており、日本とドイツの共同開発に発展する可能性がある。タウルスの巡航ミサイルを巡っては、ドイツがウクライナに供与する議論がたびたび浮上している。
ロイターより
タイトルで「非米政策」と無理矢理の造語を使ったが、要はアメリカ一極集中からのリスク分散をするという意味だと理解して欲しい。
欧州では、アメリカ製装備への依存が安全保障リスクと化しつつある。その象徴が、今回の川崎重工とタウルス・システムズ社の技術協力構想だ。
アメリカの兵器に依存するリスク
タウルス・ミサイル
先ずは、タウルスミサイルというものが一体どんなものなのかを少し解説。

KEPD350「タウルス」空対地長距離巡航ミサイルは、戦闘機から地上目標を攻撃するための巡航ミサイルである。その射程距離は500kmを超えるとされており、強化されたバンカーの攻撃もできる。
ドイツで開発されたミサイルだが、ドイツの他にスペインや韓国での採用がある。
で、現行のタウルス巡航ミサイルは、アメリカ製の小型ターボファンエンジン(Williams F107系)を搭載している。小型で高出力、そして長距離を飛行可能な小型ターボファンエンジンは、巡航ミサイルの心臓部なのだ。
その心臓部の、供給も制裁もワシントンの機嫌ひとつで左右される構造だ。
ドイツがあえて日本に声をかけたのは、その構造を変えたいからだろう。要は「アメリカ抜きでも動ける部品供給体制」を探しているわけだ。これは単なる企業ニュースではない。欧州が防衛産業の「米国依存リスク」を真剣に意識し始めた証左である。
米国リスクの顕在化──タウルスの“心臓”を握るのは誰か
これまで、欧州の安全保障は完全にNATOありきの構造であり、つまりアメリカにかなりの部分を依存する構造であった。
ところが、ウクライナ侵略戦争の勃発と、トランプ氏の再登板によって、ドイツは懸念を深めるに至る。その象徴的な話がこちら。
「F35戦闘機にキルスイッチ」 導入予定のドイツで懸念「米側の判断で機能停止できる」
2025/3/10 11:37
ウクライナ問題を巡り米トランプ政権と欧州諸国が対立する中、ドイツが米から来年導入を予定しているF35戦闘機に、米側の判断で機能を停止できる「キルスイッチ」が仕掛けられるのではないかとの懸念がドイツ国内で出ている。欧州メディアが報じた。
産経新聞より
この話は取るに足らない噂と一蹴する話だったのだが、現実問題として考えるとこの話は無視できない問題なのだ。

ドイツ紙もこんな評価をしている。
独紙ビルトは8日、「キルスイッチは単なる噂ではない。しかし、それを使わなくても、ミッションシステムで簡単に飛行機を地上にとどめさせられる」「米がウクライナに対して行ったのと同じことをF35に行う可能性があるなら、契約のキャンセルを検討すべきだ」とする専門家のコメントを伝えた。
産経新聞「F35戦闘機にキルスイッチ」より
アメリカとしては、信用問題に関わるのでキルスイッチなど存在しないと否定するしかないわけだが、しかしトランプ氏の機嫌1つでF-35A戦闘機の運用に不都合が生じる可能性は常にある。
つまり、アメリカの輸出管理一つで、部品供給が止まり、兵器の運用も輸出も制限される可能性があるのだ。
実際、タウルスのウクライナ供与問題では、ベルリンが「エンジン供給の許可を得る必要がある」とアメリカの顔色を伺う事態となった。その結果、「米国技術に依存しない欧州兵器開発」の機運が高まりつつある。
そしてその一例が、日本という信頼できる非米国パートナーとの技術協力というわけだ。
日本が選ばれた理由──政治的安定と技術的信頼
川崎重工は現在、日本軍向けに開発中の長距離対艦ミサイルを推進する新型小型ターボファンエンジンの試験を行っていることが分かっている。しかも軍需転用を含めた品質管理は極めて厳格で、機密保持にもそれなりに信頼がある。
要するに、日本は「信用できるが野心的すぎない」相手なのだ。ドイツが望むのは、政治的にも技術的にもリスクの少ない協力先──まさに日本である。ドイツが日本に声をかけてくるのは異例ではあるが、「それなりに悪くない相手」と思われる程度には日本の技術力は評価されているという意味でもある。
皮肉な話だが、アメリカがシェアを盾にとった強権的な兵器戦略を展開している間に、欧州は日本を信頼できる開発仲間の候補として理解し始めたという構図だ。
F-3とGCAP──もう一つの「アメリカ抜き」
この流れを俯瞰すると、日本の防衛技術協力は確実に多極化している。
F-3の後継機開発(現在のGCAP:Global Combat Air Programme)では、イギリスとイタリアが主要パートナー。アメリカのF-35計画とは異なる構想の下で、日本は独自の戦闘機ビジョンを欧州と共有している。
興味深いのは、イギリスが島国であり、イタリアが地政学的に「半島国家」であるということ。海に囲まれ、外からの圧力を意識せざるを得ない国々が、日本と組む──これは単なる兵器開発以上の意味を持つ。
海という境界を共有する国々が、同じく「自立的防衛」を模索する──そこに地政学的共鳴がある。
そして、非米政策とまでは言えない動きだが、準同盟国となったオーストラリアへの護衛艦の供給も見逃せない。
アメリカのシステムを多数採用しているため、アメリカの許可ありきという点があるのだが、それでも日本の防衛戦略としては見過ごすことのできない動きといえる。
地理と政治の共鳴が、技術協力の根にあるという点では、GCAPの話と同じだしね。
小型ターボファンの未来──ドローンにも通じる推進技術
また、ミサイルのエンジン技術は、今後のドローン開発にも直結する。既に川崎重工はヘリコプター型の無人機の開発を進めていて、無人飛行させるノウハウを蓄積しつつある。

また、ブルガリアのドロナミクス社との戦略的パートナーシップを締結という話もあって、ドローンに対してかなり積極的な姿勢を見せている。

小型ターボファンエンジンのノウハウ蓄積は、長距離・長航続・高効率の推進システムは、無人機でも決定的なアドバンテージに繋がるはずだ。
よって、独防衛企業タウルス・システムズとのタウルスミサイルを巡る協業は、将来的に日本が「ドローン推進技術のサプライヤー」として立ち位置を築く布石になるかもしれない。
つまり、これは未来の主導権争いの入り口となる。
高市政権の技術戦略──“脱・下請け”国家への転換
折しも、本日は高市新総裁の誕生の日となる予定である。
そして、高市新政権が掲げる政策の柱の一つに、「新技術分野への重点投資」がある。
AIや宇宙、防衛関連技術を含む“国家基幹技術”を官民連携で育成するという方針は、川崎重工やIHIのような企業にとって絶好の追い風だ。
例えば、防衛装備庁が主導する無人航空機の国産化、人工知能を活用したミッション自動化、次世代エンジン燃焼研究など、これまで“縛られていた領域”に国家が正面から投資する構図が整いつつある。
つまり、今回のタウルス協力のような動きは、政権が進める“自立型技術国家”への流れとも重なっている。
戦後長らく、日本は武器に関しては輸入するだけの国家だったが、これからは積極的に海外展開して販売できる国家になることが可能なのだ。そのためには、高市氏には武器輸出三原則の見直しなども積極的にやってもらわねばならない。
まとめ──脱アメリカの時代、日本は「信頼の中軸」になれるか
ドイツがアメリカ製エンジンから離れ、日本と組む。
イギリスとイタリアがアメリカを外して、日本と戦闘機を作る。
これらはけっして偶然などではない。
防衛産業の新しい潮流──「非米依存の西側ネットワーク」が静かに動き始めている。その中心に日本がいるとすれば、それは「技術力」というより、「信頼」という資産の力であり、戦略的な防衛力の強化に他ならない。
コメント
こんにちは。
>ドイツの他にスペインや韓国での採用がある
ここ重要かもですね。国民感情的に次は無いぞと。
>供給も制裁もワシントンの機嫌ひとつ
マッコイ爺さん「口金さえ合えば何でも良いんだよ」
>準同盟国となったオーストラリアへの護衛艦の供給
NZも改もがみ級を欲しがってるとか……
※NZに改もがみ級はお高すぎるので、現役のもがみ級を里子に出して、うみじはその空きを改もがみ級で埋めるのが良策、とあちこちで言われてますね。
>日本は「信頼の中軸」になれるか
昨日発足した高市内閣が、長期安定政権になれるか、それを引き継ぐのは誰か、そのあたりが非常に重要ですね。
※その意味で小泉防衛相はちょっと驚きましたが、『総指揮権は総理』『予算は自由にならない』『国内出動は自治体要請があってから』等々、大臣が勝手に出来る部分が極端に少ないという意味でよく考えられた配置である、という意見に頷くものであります。
こんばんは。
タウルスのエンジンに手をつけるというのは面白いですね。
是非とも進めて欲しい。
ニュージーランド海軍の話は、別記事で軽く触れましたよ。頑張って欲しいですね。